Volume3(2015)
SPring-8 Section A: Scientific Research Report
a京都大学 医学研究科, b名古屋大学 理学研究科, c京都産業大学 総合生命科学部
a Department of Cell Biology, Graduate School of Medicine, Kyoto University, b Division of Biological Science, Graduate School of Science, Nagoya University, c Department of Molecular Bioscience, Faculty of Life Sciences, Kyoto Sangyo University
- Abstract
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多くのAAA+プロテアーゼはリング構造を形成し、その中心の孔に基質ポリペプチド鎖をATP依存的に通して内部のプロテアーゼ活性部位に送り込むと考えられている(pore & chamberモデル)。その機能を発現するためにはATP加水分解に伴う構造変化が重要であることが知られているが、各反応ステップにおける詳細な分子機構の情報は未熟である。我々は膜結合型AAA+プロテアーゼFtsHのAAA+ドメインの構造変化に着目してX線結晶構造解析を行い、ATP加水分解中間体構造を決定した。構造情報からヌクレオチドの結合状態や構造変化を明らかにし、ATP依存的に構造変化することを原子分解能で明らかにした。
キーワード: AAA+プロテアーゼ、ATP加水分解、蛋白質の品質管理
a大学共同利用機関法人自然科学研究機構 国立天文台, b(公財)高輝度光科学研究センター
aNAOJ, bJASRI
- Abstract
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単一の微小粒子に対する赤外線分光測定を試みた。測定の背景には、赤外分光スペクトルと粒子形状の相関を得る目的がある。本プロジェクトでは微小粒子サイズを1ミクロンオーダーとし、粒子組成にシリケイト(SiO2)を選んだ。測定波長帯は5ミクロンから25ミクロンである。本測定によりSiO2の9ミクロン帯にある吸収フィーチャーの一部観測に成功した。しかし、1ミクロンサイズの単一粒子に対しては、吸収フィーチャーの詳細を取得できるほどの信号強度は得られていない。詳細なフィーチャーの測定のためにはサンプルへの照射光輝度を高める必要がある。
キーワード: 赤外線分光、高空間分解、微粒子
aJapan Atomic Energy Agency, Sayo, Hyogo, 679-5148 Japan,
bRIKEN, Sayo, Hyogo 679-5148 Japan,
cJapan Synchrotron Radiation Research Institute, Sayo, Hyogo, 679-5198 Japan,
dJapan Atomic Energy Agency, Kashiwa, Chiba, 277-0871 Japan,
eJapan Atomic Energy Agency, Naka, Ibaraki, 319-1195 Japan
- Abstract
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We investigated acoustic phonons of PrFeAsO1-y precisely to select between two different models: the in-plane soft and clipped. These predict different contamination of the longitudinal phonon by transverse one. We could reduce the contamination with improved Q resolution, but the data quality was insufficient.Based on Q dependence slightly better agreement was found with the in-plane soft model.
Keywords: iron-based superconductor, inelastic x-ray scattering, acoustic phonon
九州大学 薬学研究院
Graduate School of Pharmaceutical Sciences, Kyushu University
- Abstract
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大腸菌においては紫外線照射などで生じるDNA損傷後、DNAの修復系が作動する。修復後、蛋白質複合体プライモソームが形成され、プライモソームを起点としてDNA複製が再開始されると考えられている。本研究ではプライモソームの一つの因子であるDnaT、PriCの機能解明を目指し立体構造をX線結晶構造解析により明らかにすることを目的として実験を行った。
キーワード: Primosome、DnaT、PriC
a九州大学 先導物質化学研究所, bJST ERATO高原ソフト界面プロジェクト
aInstitute for Materials Chemistry and Engineering, Kyushu University, bJapan Science and Technology Agency (JST), Exploratory Research for Advanced Technology (ERATO), Takahara Soft Interfaces Project
- Abstract
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結晶性バイオベースポリマーであるポリ乳酸(PLA)の溶媒蒸発下における結晶構造形成過程を、SPring-8 BL40B2の微小角入射X線散乱/回折(GISAXS/GIWAXD)測定により明らかとした。この目的のため、その場観測用のステージを新たに開発し、溶媒揮発過程における散乱/回折プロファイルを経時取得に成功した。詳細な解析の結果、溶媒分散状態から固化過程において、PLA薄膜中の結晶サイズは増大してはおらず、時間と共に同程度の結晶核と微結晶の数が増加していることが明らかとなった。
キーワード: 結晶性高分子、ポリ乳酸、微小角入射X線小角散乱/広角回折、溶媒揮発過程、その場観測
a九州大学 先導物質化学研究所, bJST ERATO高原ソフト界面プロジェクト
aInstitute for Materials Chemistry and Engineering, Kyushu University, bJapan Science and Technology Agency (JST), Exploratory Research for Advanced Technology (ERATO), Takahara Soft Interfaces Project
- Abstract
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高分子電解質ブラシ/水界面の分子鎖凝集構造をX線反射率測定による評価を試みた。測定のための溶液セルを試作した。陽イオン性、陰イオン性の高分子電解質ブラシに比べて、それらの共重合体を用いた場合には界面粗さが増大したが、塩水溶液中ではその差は小さかった。高分子鎖内の静電相互作用、また水溶液中の塩によるその遮蔽効果による高分子電解質ブラシ分子鎖形態の変化を、X線反射率測定によって適切に評価できる可能性を示した。
キーワード: 高分子電解質ブラシ、分子鎖形態、X線反射率測定、高分子電解質ブラシ/水界面
a岡山大学, b大阪大学, c(公財)高輝度光科学研究センター
aOkayama University, bOsaka University, cJASRI
- Abstract
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Fe-Ni-Sメルトの密度をX線吸収密度測定法から約6 GPaまでの圧力で求めた。トモグラフィ用高圧プレスを用いた高温高圧X線マイクロCT測定から、X線の吸収率と試料長を測定してランベルト・ベールの法則から密度を決定した。測定したFe56Ni6S38組成メルトの密度をVinetの状態方程式で解析した結果、等温体積弾性率KTが26±3 GPaと求まった。
キーワード: 密度,液体,高圧,X線マイクロCT
a岡山大学, b大阪大学, c(公財)高輝度光科学研究センター
aOkayama University, bOsaka University, cJASRI
- Abstract
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かんらん石中のFe-Ni-Sメルトの平衡組織の観察を目的として、トモグラフィ用高圧プレスを用いた高温高圧 ’その場’ X線CT測定を行った。高圧プレスの揺動などの高温高圧CT測定の本質に関わる課題の洗い出しと対策を行った。しかしながら、圧力媒体からの散乱X線の影響により透過像から再構成したCTイメージが不鮮明になったため、当初の目的とした高分解能の三次元組織を観察できなかった。
キーワード: X線マイクロCT,高圧,惑星核,マントル
a大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構, b(公財)高輝度光科学研究センター, c(独)日本原子力研究開発機構
aKEK, bJASRI, cJAEA
- Abstract
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イリジウム(Ir)193(核励起準位:73.04 keV、半減期:6 ns)は、“軌道電子遷移による原子核励起” (NEET)が観測可能な核種である。金197ではNEETによる原子核励起が観測されるだけでなく、核励起が観測され始める入射X線エネルギーより高い側で励起事象数にXAFSと似た微細構造が観測される。今回の実験では、イリジウム193を含む厚さが均一な金属箔(厚さ50 µm)を試料として使用することと、できるかぎり統計精度を改善して測定することでイリジウム193のNEET微細構造の観測を試みた。
キーワード: NEET、イリジウム193、アバランシェダイオード検出器
a京都大学大学院薬学研究科構造生物薬学分野, b東京大学大学院理学系研究科化学専攻生物有機化学研究室
aDepartment of Structural Biology, Graduate School of Pharmaceutical Sciences, Kyoto University, bDepartment of Chemistry, Graduate School of Science, The University of Tokyo
- Abstract
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MsbAはABCトランスポータースーパーファミリーに属するタンパク質であり、Lipopolysaccharideの前駆体であるLipidAを細胞内膜の脂質二重層の内葉側から外葉側に輸送するフリッパーゼとしての機能を持つ。本研究では、Esherichia coli 由来MsbA(EcMsbA)の高分解能立体構造解析の実現を目指して各種結晶の調製とX線回折実験を行った。
キーワード: ABCトランスポーター、MsbA、X線結晶構造解析
a兵庫県立大学, b(公財)高輝度光科学研究センター, c(独)物質・材料研究機構
aUniversity of Hyogo, bJASRI, cNIMS/SPring-8
- Abstract
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表面が広く平坦な基板結晶と別の基板結晶上に薄膜単結晶をエピタキシャル成長させた試料について、放射光X線マイクロビームを用いたすれすれ入射X線回折実験を行い、基板結晶表面および薄膜単結晶からの回折X線強度を測定した。基板結晶は表面サイズ1.10×0.99 mm2、表面の凹凸0.15 μmであり、エピタキシャル結晶は表面サイズ0.64×0.45 mm2、表面の凹凸1.0 μm、膜厚は1.4 μmであった。測定した積分反射強度についてLp補正と吸収補正を行い|Fo|2を求め、結晶構造から計算した|Fc|2と比較してR(F2)を求めた。基板結晶ではR(F2)=0.04~0.10、薄膜結晶ではR(F2)>0.53であった。しかし、薄膜結晶について適切に測定された反射のみではR(F2)=0.03~0.10であり、広く平坦な結晶では表面層の単結晶構造解析が可能であることが示された。
キーワード: 単結晶X線構造解析、薄膜結晶、結晶表面、金属錯体、エピタキシャル結晶
a京都大学化学研究所, b関西大学化学生命工学部生命・生物工学科
aInstitute for Chemical Research, Kyoto University, bDepartment of Life Science and Biotechnology, Faculty of Chemistry, Materials and Bioengineering, Kansai University
- Abstract
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γ-レゾルシン酸代謝に係る遺伝子群由来で機能不明なGraEタンパク質の立体構造-機能解析を行うため、Native結晶の4 Å分解能の回折強度データおよびセレノメチオニン置換体結晶に対し3波長で6 Å分解能の回折強度データを収集し、両結晶の空間群をP21212と決定した。分子置換法および多波長異常分散法による構造解析を試みたが、結晶の回折能が低く放射線損傷が大きいために、データ分解能が不十分で未だ妥当な解が得られず、解析続行中である。
キーワード: X線結晶構造解析、γ-レゾルシン酸代謝、根粒菌、GraEタンパク質
京都大学大学院工学研究科材料工学専攻
Kyoto University
- Abstract
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La2Ni7を室温付近で水素化を行った場合、圧力-組成等温線(PCT曲線)には3段階のプラトーが観察されるが、水素化の各段階における構造変化についてはいまだ不明な点が多い。本研究ではPCT曲線の各プラトーまで水素を吸蔵放出させた後に得られるLa2Ni7水素化物の結晶構造をSPring-8の放射光粉末X線回折を用いて調査した。30°Cおよび80°C第1プラトーまで水素吸蔵放出後に観察される水素化物と、第2,第3プラトーまで水素吸蔵放出後に観察される水素化物はいずれも斜方晶の対称性を有しているが、異なる結晶構造を持つことが明らかとなった。
キーワード: 水素吸蔵合金、粉末X線回折、リートベルト解析
a新潟大学自然科学研究科, b新潟大学超域学術院, c新潟大学工学部
a Graduate School of Science & Technology, Niigata University, b Center for Transdisciplinary Research, Niigata University, c Faculty of Engineering, Niigata University
- Abstract
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放射光を用いた粉末X線回折で、紫外線励起で青色発光するLi(Sr, Mg)PO4:Eu2+蛍光体の結晶構造解析を行った。リートベルト法による分析により、Mgを固溶させたLi(Sr, Mg)PO4:Eu2+蛍光体は、低温相のorthorhombic生成領域の合成温度900℃であったにも関わらず、高温相のhexagonalの結晶構造であったことが確認された。
キーワード: 蛍光体、リートベルト解析、リン酸塩
a大阪大学医学系研究科心臓血管外科学
b(公財)高輝度光科学研究センター
aDepartment of Cardiovascular Surgery, Osaka University Graduate School of Medicine
bJASRI.
- Abstract
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iPS細胞の腫瘍解析を目指して、マウス全身の高分解能三次元CT撮影を行った。マウスは安楽死後凍結して保存し、室温に戻した後に撮影を行った。ピクセルサイズは15ミクロンである。BL20B2の幅広いビームと広い撮像範囲を持つ高分解能X線検出器を用いれば、マウスの全身撮影も比較的容易であることが示された。また、X線の屈折を用いた内臓撮影の可能性が示された。
キーワード: iPS cell, computed tomography
a京都大学原子炉実験所, b神戸大学大学院理学研究科, c京都大学化学研究所
aResearch Reactor Institute, Kyoto University, bGraduate School of Science, Kobe University, cInstitute for Chemical Research, Kyoto University,
- Abstract
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アミロイド線維は、タンパク質のミスフォールディングにより形成されるタンパク質の超分子集合体であり、アミロイドーシスをはじめとする疾病に関わる立体構造として高い関心を集めている。本研究では、モデルタンパク質であるインスリンに注目し、小角X線散乱を用いてアミロイド線維構造の形成過程におけるタンパク質の集合機構の解明を試みた。塩濃度依存的に観察される2種類の異なる形成経路をそれぞれ解析した結果、両経路ともに初期段階での規則だった集合体形成を観測することができ、アミロイド線維形成初期イベントに関する新しい知見を得ることができた。
キーワード: タンパク質会合、アミロイド線維、小角X線散乱、中間体
(公財)高輝度光科学研究センター
JASRI
- Abstract
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微小な法科学試料を、高輝度赤外放射光と通常実験室光源を用い、それぞれ分光スペクトルを測定した。試料サイズと測定領域が小さいほど、赤外放射光の高輝度性が優位に働き、S/N比が高く、吸収度の飽和現象が起こらないスペクトルを得られた。このことから赤外放射光の有用性が確かめられた。
キーワード: 法科学試料、赤外顕微分光、微量分析
a(独)日本原子力研究開発機構, b東北大学
aJapan Atomic Energy Agency, bTohoku University
- Abstract
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高濃度の水素を含む液体金属を探査するため、高温高圧下の水素流体中でチタン水素化物TiH2のX線回折その場観察実験を行った。試料を約5 GPaまで加圧し水素源とともに加熱したところ、一度だけ融体が観測されたが、同様の実験を複数回行っても融解は再現しなかった。再現性のない理由が不明であるため、これらの結果からTiH2の融解や液体の構造を議論することは困難と判断した。
キーワード: 水素化物、高温、高圧、融解、液体金属
a東北大学電気通信研究所, b独立行政法人日本原子力研究開発機構
aResearch Institute of Electrical Communications of the Tohoku University, bJapan Atomic Energy Agency
- Abstract
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酸素雰囲気下におけるSi基板上3C-SiC薄膜のグラフェン化過程の時間発展を明らかにするために、極微量酸素雰囲気下におけるSi(111)基板上3C-SiC(111)薄膜表面上グラフェン化過程をリアルタイムX線光電子分光(XPS)により測定した。その結果、微量酸素添加による3C-SiC薄膜上グラフェン化は、SiC結合の解離過程に律速されている可能性が高いことが明らかになった。また、酸素添加アニールが3C-SiC(111)基板以外でも有効かを明らかにするためにSi(100)基板上3C-SiC(100)薄膜に対しても同じく酸素微量添加下でグラフェン形成を試み、グラフェン形成を確認すると共に、形成薄膜の角度分解XPS評価を行った。
キーワード: グラフェン、SiC、角度分解X線光電子分光
a名古屋大学工学研究科、 b名古屋大学シンクロトロン光研究センター、 c分子科学研究所極端紫外光研究施設、 d大阪大学理学部、 e大阪大学大学院生命機能研究科、 f韓国DGIST
aGraduated School of Engineering, Nagoya University, bNagoya University Synchrotron radiation Research Center, Nagoya University, cUVSOR Facility, Institute for Molecular Science, dDepartment of Physics, Graduate School of Science, Osaka University, eGraduate School of Frontier Bioscience, Osaka University, fDepartment of Emerging Materials Science, DGIST
- Abstract
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希土類カルコゲナイド系は電荷密度波状態を示す典型系として知られている。今回我々は半導体的な物性を示すGdTe2における本質的な電子状態を明らかにすることを目的として高分解能軟X線角度分解光電子分光(SX-ARPES)を行った。その結果、Γ点近傍におけるホール面を形成するバンド分散を観測することに成功した。観測されたバンドはフェルミ準位近傍において強度が抑制されることから、フェルミ面ネスティングによる電荷密度波ギャップを伴う状態に帰結されると考えられる。また、バンド構造のバルク敏感性に伴う違いから、VUV-ARPESにおいて観測される金属的なバンド分散が表面バンドに由来する可能性が示唆される。
キーワード: 希土類カルコゲナイド、軟X線3次元角度分解光電子分光、電荷密度波 (CDW)
(独) 物質・材料研究機構
National Institute for Material Science
- Abstract
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シリコン(Si)を含む負極(Si系負極)において、1度充電すると次の放電以降の電池容量が減少するいわゆる不可逆容量の問題があり、その原因と解決策を探るため、放射光を用いた分析手法として粉末X線回折(XRD、課題番号2011B4511)および硬X線光電子分光(HAXPES、課題番号2011B4605)の適用試験を行った。その結果、XRD実験では初回充電でSi系負極中のSiナノ結晶が破壊される状況を捉え、HAXPES実験ではSi中にリチウム(Li)が侵入し化学状態が変化している可能性を観測した。
キーワード: シリコン負極、リチウムイオン電池、粉末X線回折、硬X線光電子分光
味の素株式会社 aイノベーション研究所, bバイオファイン研究所
aInstitute for Innovation, bResearch Institute for Bioscience Products & Fine Chem, Ajinomoto Co., Inc.
- Abstract
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L-フェニルアラニンの水和物結晶の粉末結晶構造解析を実施した。粉末回折データはSPring-8のBL32B2で収集した。結晶の空間群はP21、格子定数はa= 13.79(1) Å、b= 5.427(8) Å、c= 12.13(2) Å、β=100.078(3)°であった。非対称単位中には2個のL-フェニルアラニン分子と1個の水分子が含まれ、疎水性の層と親水性の層が交互にa軸方向に重なり合う構造をとっていた。
キーワード: L-アミノ酸、L-フェニルアラニン、水和物結晶、ab initio粉末結晶構造解析
江崎グリコ株式会社 健康科学研究所
Institute of Health Sciences, Ezaki Glico Co., Ltd.
- Abstract
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フッ化物のハイドロキシアパタイト (HAp) への浸透度によって、歯の再石灰化後の耐酸性や硬さなどが変わる。取り込まれたフッ素の組成および定量ができれば、むし歯予防に有効な研究手法となる。本研究では、リン酸化オリゴ糖カルシウム (POs-Ca) をモデルとして、カルシウム種によってフッ素の浸透度がどのように変わるかをフッ素K吸収端に対するX線吸収微細構造(XAFS) を利用して解析し、フッ素取り込みが既存HApではなく、新たな結晶回復で起こること、通常のカルシウムよりもフッ素取り込みがスムーズに進むことが示唆された。
キーワード: 歯、再石灰化、フッ素、XAFS
a神戸赤十字病院, b(公財)高輝度光科学研究センター
aJapanese Red Cross Kobe Hospital, bJASRI
- Abstract
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BL43IR赤外分光ビームラインにおいて、ヒト大動脈壁病理標本のFTIRマッピングを行った。5ミクロンピッチで40 × 60点の二次元吸収分光マップを作成することができた。3300 cm-1付近の吸収ピークの強度は、大動脈壁中膜に存在するエラスチンの弾性板と構造的に一致する分布を示したが、この結果の解釈については、今後の検討が必要である。
キーワード: 大動脈、弾性板、FTIR
大阪大学
Osaka University
- Abstract
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本研究では、全身性微振動(WBV)と副甲状腺ホルモン(PTH)断続的投与の骨修復促進に対する相乗効果について、卵巣摘除による骨粗鬆症発症マウスおよび健常マウスの脛骨に作製したドリル欠損部を対象に、3次元CTによる形態解析,放射光赤外顕微分光による材料特性解析およびナノインデンテーション試験による力学特性解析による実験的検討を行った。その結果、WBVとPTHの併用は再生骨のネットワーク形態に相乗的に作用することが示唆された。一方、再生骨の材料特性および力学特性への効果は認められなかった。
キーワード: 骨再生,全身性微振動,副甲状腺ホルモン,マイクロCT,放射光赤外顕微分光,ナノインデンテーション試験
a京都大学原子炉実験所, bカンサス大学化学科, c京都大学大学院理学研究科
aResearch Reactor Institute, Kyoto University, bDepartment of Chemistry, The University of Kansas, cGraduate School of Science, Kyoto University
- Abstract
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ビルトイン型キノン補酵素依存性酵素であるアミンオキシダーゼ,リジルオキシダーゼは,活性中心のトーパキノン(DPQ)やリシンチロシルキノン(LTQ)を利用して生体内リジン末端アミノ基の酸化的脱アミノ化反応を触媒する.本研究では,特に不明な点が多いLTQの生合成機構について構造生物学的な知見を得ることを目指し,アミンオキシターゼ部位特異的変異体−ベンジルアミン複合体の結晶回折実験を行った.
キーワード: ビルトイン型キノン補酵素依存性酵素,リシルチロシルキノン,結晶構造解析
東京大学物性研究所
Institute for Solid State Physics of the University of Tokyo
- Abstract
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巨大岩石型惑星深部に存在するMgSiO3やCaSiO3の存在様式を理解するためにチタン酸塩をアナログに高圧高温実験を行った。FeTiO3を出発物質にして、約85 GPa、2500 Kまでにイルメナイト相(約0-20 GPa)、ペロブスカイト相(約20-30 GPa)、CaTi2O4型Fe2TiO4相 + OI型TiO2相(約30-44 GPa、高温側)、ウスタイト型FeO相 + OI型TiO2相(約30-44 GPa、低温側)、ウスタイト型FeO相 + 斜方晶系FeTi3O7相(約44 GPa以上)が出現し、さらに約170 GPa、2000 K以上の条件で新たな相が出現することが判明した。
キーワード: FeTiO3、スーパーアース、高圧相転移
a Paul-Drude-Institut für Festkörperelektronik, Hausvogteiplatz 5-7, 10117 Berlin, Germany
b Nanoelectronics Research Institute, AIST, Tsukuba Central 4, Higashi 1-1-1 Tsukuba, Ibaraki 305-8562, Japan
- Abstract
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Ge2Sb2Te5 (GST) thin films were grown epitaxially on (001)- and (111)-oriented substrates with control of the growth surface temperature obtained by in-situ quadrupole mass spectrometry (QMS). X-ray absorption near edge spectra (XANES) obtained on samples prepared on different substrate orientations and with different surface temperature were compared. The results show that the Ge2Sb2Te5 layers grown on (111) surfaces show a more pronounced rhombohedral distortion as compared to layers grown on (001)-oriented surfaces.
Keywords: GST, XANES, MBE
東京大学物性研究所
Institute for Solid State Physics, The University of Tokyo
- Abstract
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SiC(000-1)表面上のエピタキシャルグラフェンの界面構造を原子レベルで明らかにするために、BL13XUの超高真空表面X線回折計を用いて、3×3及び√3×√3-R30˚界面構造のその場表面X線回折実験を行った。高品質の試料を製作することができなかったため分数次反射を観察できなかったが、鏡面反射ロッドにおいては界面構造からの寄与が観察され、構造解析によって積層方向の構造情報を得ることができた。2つの界面構造とも界面に付加原子層があり、この界面層とグラフェン第一層は強く相互作用していることが示唆された。
キーワード: グラフェン、SiC、表面X線回折、界面構造
a(独)物質・材料研究機構, b筑波大学
aNational Institute for Materials Science, bUniversity of Tsukuba
- Abstract
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バルクとしては絶縁体であるが、表面のみが金属状態を有するトポロジカル絶縁体Bi2Se3にCuをドープすると、約3 Kにおいて超伝導が発現する。ドープされたCuはBi2Se3層間に挿入されると考えられているが、Cuがどのサイトを占有するかを解析した報告はない。本課題では、粉末放射光X線回折により結晶構造解析を行い、Cuが占有するサイトを調べることを目的とした。その結果、CuがBi2Se3層間に挿入されるが、Cu仕込み量xが0.15以上になるとそれだけでは説明できない振る舞いが見られた。
キーワード: トポロジカル絶縁体、Bi2Se3、超伝導、粉末X線回折
SPring-8 Section B: Industrial Application Report
a技術研究組合 次世代パワーエレクトロニクス研究開発機構, b(独)産業技術総合研究所
aR&D Partnership for Future Power Electronics Technology, bNational Institute of Advanced Industrial Science and Technology.
- Abstract
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窒化処理を行った後のSiO2/SiC界面に取り込まれた窒素原子の化学状態を軟X線光電子分光法により解析した。窒化処理を行った試料においては、HFエッチングにより酸化膜を完全に除去した状態においても窒素原子はSiC表面に残存しており、Si 2pスペクトルのショルダー部分の形状が変化していることが見出された。これはSiC表面においてSi-C3N結合が形成されていることに起因すると考えられる。SiC基板の最表面には窒化処理により導入された多くの窒素原子が結合していることが示唆される。
キーワード: SXPES、SiC、酸化膜、窒化処理
aクラシエホームプロダクツ(株), b(公財)高輝度光科学研究センター
aKracie Home Products, Ltd., bJASRI
- Abstract
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効率的に毛髪用製剤を開発するためには、毛髪内部へ製剤成分の浸透性を直接的にかつ簡便に解析することが重要となる。本研究においては顕微IRを用いて毛髪内部に局在する物質を直接解析し、適用した製剤の物質浸透性及び局在部位を確認する事を目的とした。その結果今回、毛髪内部へのシロキサン化合物の微細な局在分布情報が明らかになってきた。
キーワード: 顕微IR、化粧品、毛髪
aAGC セイミケミカル(株)品質保証部, b(公財)高輝度光科学研究センター
aQuality assurance Div., AGC Seimi chemical Co., Ltd., bSPring-8, JASRI
- Abstract
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固体酸化物型燃料電池(SOFC)の空気極材料は低温化、安定性においてもっとも重要な課題を抱えている。それらの課題解決には遷移金属の価数、更にはそれらの熱力学的な考察が重要であることが知られている。しかし、空気極材料は複数の遷移金属を含み古典的な熱天秤や滴定によって価数を求めることができない。そこで本課題では中温作動型SOFC空気極材料として利用されている(La0.6Sr0.4)(Co0.2Fe0.8)O3-δ (LSCF)、低温作動型として期待される(Ba0.5Sr0.5)(Co0.8Fe0.2)O3-δ (BSCF)のCo、Fe-K吸収端について様々な温度、酸素分圧でin situ X線吸収スペクトル(XASF)を測定することでCo、Feの価数、熱力学パラメータを議論した。Co、Feの部分モルエンタルピー、部分モルエントロピーからCo価数の方がFe価数より増加しやすいことが分かった。
キーワード: 燃料電池、ペロブスカイト型遷移金属酸化物、価数、XAFS
(公財)高輝度光科学研究センター
JASRI
- Abstract
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X線トポグラフィによるシリコン単結晶の観察において転位像を強調するために、回折角度をロッキングカーブの中央の角度からわずかにずらしてX線トポグラフ像を測定した。単に試料をわずかにずらすだけでは、試料内の方位分布により回折条件を満たす領域が狭いため、回折角度を走査しながらデジタルカメラを用いてX線トポグラフィを測定し、画像処理を行うことで方位分布を補正した。その結果、試料の広い範囲において転位像を強調することができた。
キーワード: X線トポグラフィ、シリコン単結晶、転位
a新日鐵住金ステンレス(株), b(公財)高輝度光科学研究センター
aNippon Steel & Sumikin Stainless Steel Corporation, bJASRI
- Abstract
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HAXPES分析により、16%Cr-0.3%Sn鋼板の大気環境下で形成された不働態皮膜を分析し、微量Snの化学状態に関する情報を抽出した。本実験では、O,Fe,Crの影響を受けず光電子の検出感度が大きいSn 2p3/2の光電子スペクルを採取した。Sn 2p3/2の光電子スペクトルは3929~3931 eVにかけて広がりを持って検出された。これより、Snは、不働態皮膜中において金属Snに加えて、SnO2酸化物の化学状態で存在している可能性が高いと推察される。また、大気環境下においてCrを主体とする酸化皮膜が成長し、不働態皮膜中でのSn酸化物(SnO2)の生成も進行しつつあることが分かった。
キーワード: ステンレス、Sn、不働態皮膜、HAXPES
a(株)三菱化学科学技術研究センター, b(公財)高輝度光科学研究センター
aMitsubishi Chemical Group Science and Technology Research Center, bJASRI
- Abstract
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白色LEDランプ用黄色蛍光体RE3Al5O12:Ce(RE=Y, Lu)の発光中心Ceイオンの価数および周辺の局所構造の19 Kから室温までの温度依存性をX線吸収微細構造(XAFS)測定により調べた。本報告では、Y3Al5O12:Ce系における発光中心のCe局所構造の違いをデバイワーラー因子によって認めることができず、その局所構造とCe3+発光の温度特性との関係性を検討することは難しかった。
キーワード: 白色LED、蛍光体、温度消光、XAFS、YAG:Ce、デバイワーラー因子
株式会社日本触媒
NIPPON SHOKUBAI CO., LTD.
- Abstract
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HAXPESを用いて、有機無機ハイブリッドLEDの劣化前後の有機層の変化をS 1sの測定により明らかにした。劣化後、有機バルク層を起源とする2474 eV近傍のピークが大きく減少しており、バルク中の有機層の一部が化学的に大きく変化していることを示唆する結果となった。
キーワード: 有機EL、酸化モリブデン、有機無機界面
(株)ミルボン
Milbon Co., Ltd.
- Abstract
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人毛の縮毛矯正において酸化剤の代わりにS-カルボキシメチル-3-アラニルジスルフィドケラチン(CMADK)を用いた際の毛髪内部構造に及ぼす影響についてマイクロビーム小角X線散乱測定を行い評価した。分子量3,000程度のCMADKを用い加熱処理を行った場合、通常の縮毛矯正と同程度の縮毛矯正効果が得られた。分子量50,000程度のものを用いた場合、若しくは加熱処理を行わなかった場合、矯正効果は得られなかった。矯正効果が得られた毛髪では内部の中間径フィラメント間の間隔が増加していたことから、浸透したCMADKが加熱によってタンパク質間に橋かけすることで形状を変形、維持していると推測された。
キーワード: 毛髪繊維、ジスルフィド結合、マイクロビーム小角X線散乱
a住友金属工業株式会社, b(公財)高輝度光科学研究センター
aSumitomo Metal Industries, Ltd., bJASRI
- Abstract
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構造用鋼材の強度特性の制御因子としての組織形態に関する知見を得るため、複相組織を有する鋼材中の応力ミクロ分布測定を行った。制御された外力を印加しながら、マイクロビーム化された白色X線を試料に照射し回折データを得た。いくつかの外力印加条件での測定を行い解析することで、結晶粒ごとの局所的な弾性歪みを評価することができた。今後、組織形状や比率などの異なる試料での測定を行い比較することで、強度特性と組織因子の定量的理解が期待できる。
キーワード: 鉄鋼材料、構造用鋼、白色X線、波長分散型XRD、ミクロ歪み分布測定
a(株)ノリタケカンパニーリミテド, b九州大学
aNORITAKE CO., LIMITED, bKyusyu university
- Abstract
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固体酸化物形燃料電池(SOFC)に用いるAg触媒を複合化した酸素イオン伝導材料LaSrTiFeO3系材料について、作動条件(高温かつ酸化還元雰囲気下)での材料挙動を、in-situ XAFS法で解析した。高温還元雰囲気下では、Feに近接する酸素が欠損する挙動が現れるが、Ag触媒を複合化しない材料と同等の傾向であり、一方、複合化したAg触媒には大きな価数変化がないことから、Ag触媒を複合化していない材料と比較して、耐久性は同等であり低下しないことが明らかとなった。
キーワード: 酸素イオン伝導材料、SOFC、ペロブスカイト酸化物、XAFS
a北里大学理学部, b(公財)高輝度光科学研究センター
aSchool Sci., Kitasato Univ., bJASRI
- Abstract
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水和物結晶の疑似多形間の転移現象の観測では、室温における湿度条件に依存した転移よりも、高温・高水蒸気圧条件下での脱水転移の方が結晶性の保持が良好である、もしくは、各状態の分離が良好となる系が見いだされている。BL19B2の粉末回折装置に付属する湿度制御装置と高温吹付装置を併用して、温度および水蒸気圧同時制御下での測定を行い、本測定法の利用価値を検証した。今後の利用展開が期待される。
キーワード: 粉末X線回折、水和物結晶、疑似多形、in-situ温湿度変化
あいち産業科学技術総合センター
Aichi Center for Industry and Science Technology
- Abstract
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各種触媒材料への応用を目的とし、液中プラズマ法により合成した銀ナノ粒子溶液をXAFS(XANES)により測定した。その結果、水溶液中の銀ナノ粒子の化学状態は、NH4OH水溶液中では Ag2O、NH4NO3水溶液中ではAg+(aq)、NaNO3水溶液あるいは水中では銀ナノ粒子の状態である、すなわち水溶液の種類により異なることが明らかになった。一般にこれらの銀ナノ粒子を触媒として使用するにはこれらの水溶液を基板上に噴霧・乾燥して析出させ、固体状態で利用するが、この固体状態における触媒性能(酸化還元電位変化、⊿V)は、プラズマ処理後の水溶液中の銀の化学状態がAg2OまたはAg+(aq)の状態、すなわち、酸化状態であること及びこれが固体状態になった時、価数が 0価の銀ナノ粒子であるときに、大きくなることが明らかになった。
キーワード: 銀ナノ粒子、液中プラズマ、XAFS、XANES
a日立化成工業(株), b山形大学
aHitachi Chemical Co., Ltd., bYamagata University
- Abstract
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炭素被覆コバルト粒子/エポキシ樹脂複合材料の極小角X線散乱測定を行い、複合体中の炭素被覆コバルト粒子の凝集状態を評価した。異なる濃度の複合体試料を測定し、それぞれの散乱プロファイルを比較した結果、炭素被覆コバルト粒子の大きさに相当するピークと凝集体の大きさに相当するピークが出現することが分かった。そして、試料中の炭素被覆コバルト粒子の濃度の変化に伴って凝集状態に変化が生じることを確認した。
キーワード: 極小角X線散乱、SEM、コアシェル粒子、複合材料、凝集状態評価
住友電気工業株式会社
Sumitomo Electric Industries, Ltd
- Abstract
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微量のフッ素を添加したシリカガラスは、紫外領域の透明性に優れているが、レーザー照射によって透過率が低下することがある。この原因解明のためにフッ素の化学状態変化に着目して調査した。その結果、レーザー照射前後での系統的なフッ素の化学状態変化を見出すことはできなかった。
キーワード: a-SiO2:F、ドーパント、透過率
a(株)ノリタケカンパニーリミテド, b九州大学
aNORITAKE CO., LIMITED, bKyusyu university
- Abstract
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自動車排ガス浄化用助触媒として開発しているコアシェル構造を有するセリアジルコニアについて、600~800°Cかつ酸化還元雰囲気での材料挙動を、In-situ XAFSで解析した。表面にCeを濃化したセリアジルコニアでは中心部のジルコニア粒子径が小さくなるほど上記条件下においては低温酸化還元雰囲気でのCe価数変動が大きいことが明らかになった。コアシェル構造のセリアジルコニア材の排ガス浄化特性の一部が明らかになった。
キーワード: 自動車触媒、助触媒、セリアジルコニア、XAFS
(株)ノリタケカンパニーリミテド
NORITAKE CO., LIMITED
- Abstract
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固体高分子形燃料電池(PEFC)用のNiコアPtシェル触媒の加湿状態および還元状態でのin-situ XAFS解析を行った。Pt LⅢ吸収端の測定では、400°C以上の温度域でコアシェル構造が崩れ、合金化することが判明した。また、Ni K吸収端の測定では、酸化還元状態がはっきりとわかり、それが触媒劣化に起因しているものと推察できた。
キーワード: PEFC、コアシェル触媒、耐久性、in-situ XAFS
a京都大学, b大阪産業大学, cコージェント・エンバイロンメンタル, d(公財)高輝度光科学研究センター
aKyoto University, bOsaka Sangyo University, cCogent Environmental Ltd., dJASRI
- Abstract
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ボルタンメトリ法による水質分析は、As, Cd, Hg, Se, Pb等の定量下限がICP-質量分析のそれに近く、かつ装置が安価・携帯型かつ低維持費というメリットがある。一方、同法による測定では、環境試料の測定前後で測定感度やバックグラウンド電流が変化するなどの事象が測定誤差のもととなっている。その背景にはボルタンメトリ法に使用する作用電極の表面状態の動的な変化があると考え、転換電子収量XAFSを適用して検討を行った。電極表面に形成された金の膜厚は1-100 nmの範囲と推定されるがS/N比の十分なスペクトルを得ることができた。膜厚の変化がX線吸収スペクトルのジャンプ高さに反映されていると見られた。一方、XAFSスペクトルから見る限り電極上の金は金属状態で、ボルタンメトリ測定時の測定感度に影響を及ぼす金の塩化物や硫化物の形成は本法では検出できなかった。
キーワード: ボルタンメトリ法、水質分析、電極表面、転換電子収量法、XAFS
神戸大学大学院工学研究科
Kobe University.
- Abstract
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回折コントラストイメージを用いた結晶3Dマッピング法は、結晶の位置や形状,結晶方位などの組織観察を可能とする。本研究は、SPring-8において結晶3Dマッピング法を開発し本疲労損傷やクリープ損傷などを定量的に評価する手法を構築することを目的とする。本課題実験では、電動アクチュエータを用いた引張試験機を作製し、測定ステージ上で引張および繰返し負荷を与えながら撮影を行うことで、結晶3Dマッピング法による結晶の塑性ひずみの評価への適用性について検討を行った。引張負荷を変化させながら弾性域および塑性域の変形下における結晶マッピングを試みた結果、連続的に結晶の変化を観察することができた。さらに回折スポットが現れる角度範囲Δωdiffに着目すると塑性変形下では引張負荷が大きくなるほど各結晶におけるΔωdiffが大きくなることが分かり、これらの情報を用いて結晶ごとの塑性ひずみや損傷程度を評価することが可能になるものと考えられる。
キーワード: Diffraction contrast image, 3D grain mapping, Steel, Crystal structure analysis
(独)産業技術総合研究所 グリーン・ナノエレクトロニクスセンター
Collaborative Research Team Green Nanoelectronics Center, AIST
- Abstract
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我々はグラフェンのチャネル材料としての高いポテンシャルに着目し、次世代CMOSチャネル候補として大面積基板上での成長技術やFETトランジスタ作製プロセス開発を行ってきた。今回、原子層堆積法や電子ビーム蒸着法などの異なる方式で作製した絶縁膜とグラフェンの界面電子状態を硬X線光電子分光により調べることで、現在想定し得るゲート絶縁膜候補材料とグラフェン界面での電子状態から絶縁膜としての適性の検討を行った。その結果、グラフェン直上にはSiO2やAl酸化膜を絶縁膜として堆積することが望ましく、その上に別途High-k等の絶縁膜を堆積すれば良いことがわかった。今後さらなる検討を行い、グラフェンFET作製プロセスの最適化を推し進める予定である。
キーワード: 硬X線光電子分光、グラフェン、CMOS
a住友電気工業(株), b(公財)高輝度光科学研究センター
aSumitomo Electric Industries, Ltd., bJASRI
- Abstract
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窒化ガリウム系電子デバイス(GaN-HEMT)において、表面保護膜とGaNとの界面状態の評価を目的として、マイクロビームX線を入射した斜出射XAFS法による評価を実施した。GaN表面をO2プラズマ処理し、その表面に窒化膜(SiN)を堆積したサンプルで、SiN堆積直後のものと、それを高温アニール処理したものを比較したところ、SiN堆積直後にはGaN表面にGa2O3が存在するが、高温アニール処理によってこの酸化物層が金属状Gaに変化していることが確認できた。これは、過去に同じサンプルで行った硬X線光電子分光(HAXPES)評価と同じ結果である。
また、GaN-HEMTのエピ構造において、周辺に何もない状態と比べ、金属電極に挟まれた領域ではGaN表面状態が変化しているらしいことが確認できた。この表面状態の変化は、SiNがGaNに及ぼす応力による結晶歪みの違いによるものと推定している。
キーワード: 窒化ガリウム系電子デバイス、GaN-HEMT、斜出射XAFS、表面状態
a住友金属工業株式会社, b(公財)高輝度光科学研究センター
aSumitomo Metal Industries, Ltd., bJASRI
- Abstract
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構造用鋼材の強度特性の制御因子としての組織形態に関する知見を得るため、複相組織を有する鋼材中の応力ミクロ分布測定を行った。制御された外力を印加しながら、マイクロビーム化された白色X線を試料に照射し回折データを得た。いくつかの外力印加条件での測定を行い、解析することで、結晶粒ごとの局所的な弾性歪みを評価することができた。得られた結果は。今後、組織形状制御技術に反映させ、材料設計に活用する。
キーワード: 鉄鋼材料、構造用鋼、白色X線、波長分散型XRD、ミクロ歪み分布測定
(株)大林組
Obayashi. Co. Ltd.
- Abstract
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海水で練り混ぜたセメント(海水系セメント)に対し、硝酸アンモニウム溶液浸漬によるCa溶脱前後の内部組織変化についてX線CTによる観察を行った。その結果、海水系セメント材料にシリカフュームを混和することによって、可溶性の水酸化カルシウムが難溶性のカルシウムシリケート化合物に変質し、Caの溶脱を防ぐ効果のあることが分かった。また、海水を混ぜていないセメントおよび海水系セメントに特殊混和材を混ぜたセメントと比較することにより、海水の添加がカルシウムシリケート化合物の変質を抑える傾向にあること、特殊混和材の使用は、その変質抑制の効果を高めることが分かった。これによって、海水を用いたセメントの溶出劣化程度は、通常のセメントに比べて低くなることを確認した。
キーワード: 海水系セメント、X線CT、溶脱観察
a大阪産業大学, b大阪大学, c(公財)高輝度光科学研究センター
aOsaka Sangyo University, bOsaka University, cJASRI
- Abstract
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鋳鉄では、晶出するグラファイトの形態が力学的性質に及ぼす影響が大きく、様々な研究が行われてきた。本研究では、グラファイトの晶出過程を詳細に直接観察することによって、その形成過程を明らにすることを目的とする。観察はイメージングのビームラインであるBL20XUで実施した。10×10×0.1 mmの試料を真空チャンバー内で溶解し、一定速度で冷却する場合の凝固過程を記録した。亜共晶組成の場合、初晶オーステナイトのデンドライトに続き、粒状グラファイトが晶出した後、共晶組織が成長した。一方、過共晶の場合、初晶のグラファイトが成長し、オーステナイトのデンドライトが先行して晶出した後、粒状グラファイトおよび共晶組織がほぼ同時に晶出した。
キーワード: イメージング、鋳鉄、凝固
a新日鐵住金(株) 技術開発本部, b神戸大学大学院工学研究科
aNippon Steel & Sumitomo Metal Corporation, bKobe University
- Abstract
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転動疲労は表面内部の介在物からき裂が発生・進展するため、介在物寸法や基地組織の高強度化などの転動疲労メカニズムにおける影響を直接的な観察に基づいて検討したものはほとんどない。そこで本課題実験ではSPring-8の放射光を用いたCTイメージングと新たに開発した小型転動疲労試験機を用いて、同一試験片について転動疲労き裂進展挙動を直接観察することを試みた。また、人工欠陥を導入した試験片に対して、開発した転動試験機を用いて、人工欠陥からの転動疲労き裂観察を行うことで、その場観察スキームの構築を行った。その結果、繰返し数に対するき裂発生および進展挙動を得ることが可能となった。さらに試験片形状を改良することにより、実際の介在物においても同一試験片を用いた転動疲労過程の観察が可能であることが明らかとなった。
キーワード: Rolling Fatigue(転動疲労), CT Imaging(CTイメージング), High-strength Steels(高強度鋼)
JSR株式会社
JSR Corporation
- Abstract
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固体高分子型燃料電池用の高分子電解質の相分離構造に関する基礎データを得るため、温度および湿度を制御した条件で高分子電解質膜の小角X線散乱(SAXS)および超小角X線散乱(USAXS)測定を行った。フッ素系および炭化水素系の高分子電解質膜において、親水部および疎水部の周期構造に由来するピーク位置・形状に違いが見られたほか、湿度の上昇に伴い親水部のコントラスト増大およびクラスター間距離増大に起因するピークの変動が観察された。
キーワード: 燃料電池,高分子電解質,フィルム,小角X線散乱,超小角X線散乱
(株)大林組
Obayashi. Co. Ltd.
- Abstract
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反応性を向上させたフライアッシュ(焼却飛灰)を用いた低アルカリ性セメントの初期の水和物生成過程を追うことを目的として、練混ぜ直後から30時間経過後までのX線回折データの取得を行った。高分解能な回折データが得られたため、セメント中の未水和鉱物や、フライアッシュ中のムライト、さらに、水和生成物に含有されると考えられているジェナイトの存在を確認するなど、鉱物種の特定に本測定法が有効であることが示された。しかし、活性度を向上させたフライアッシュは反応性が若干向上するものの、全体として変化に乏しい結果となった。定量標準として添加した酸化亜鉛(ZnO)が凝結遅延を起こしたと考えられた。標準化のための混和材料や、試料保持装置などに改善の余地があることが分かった。
キーワード: 低アルカリ性セメント、X線回折、時分割観察
aタカラベルモント株式会社, b(公財)名古屋産業科学研究所
aTakara Belmont Corporation, bNagoya Industrial Science Research Institute
- Abstract
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本研究はクセのある毛髪をクセのない理想の髪へ近づけるために必要な要件を導出することを目的とし、小角X線散乱を用いてクセのない毛髪とクセのある毛髪の内部構造における特徴の抽出を行った。クセのない毛髪とクセのある毛髪の両方で、毛髪の中心部はIF-IF(中間径フィラメント)間の距離が短く、毛髪の外周部は長いという傾向が得られた。この結果に基づいて日本人のクセ毛の程度に応じた縮毛矯正方法の導出につなげたい。
キーワード: 毛髪、クセ毛、中間径フィラメント
aコーセル(株), b富山県工業技術センター, c(公財)高輝度光科学研究センター, d富山県立大学
aCosel Co., Ltd., bToyama Industrial Technology Center, cJASRI, dToyama Prefectural University
- Abstract
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SPring-8における放射光光源を利用したX線マイクロCT装置(SP-μCT)を用い、フリップチップのSn-Ag-Cu鉛フリーはんだ接合部を対象として、デジタル画像相関法による、ひずみ分布の非破壊計測の可能性について検証を行った。ひずみ計測の前段階として、変位ベクトルの粗探索を行った結果、Ag3Sn相のような特徴点の周囲では、比較的高い精度で、ひずみ計測を行うことができる見通しが得られた。今後、追加の実験を行うことでマイクロ接合部における新たな信頼性手法の開発が期待できる。
キーワード: フリップチップ、鉛フリーはんだ、ひずみ計測、非破壊評価、熱疲労損傷
(株)ノリタケカンパニーリミテド
NORITAKE CO., LIMITED
- Abstract
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固体酸化物形燃料電池(SOFC)電極に用いる酸素イオン伝導材料La0.6Sr0.4Ti0.3Fe0.7O3-δおよびLa0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8O3-δをメカノケミカル処理による複合化にて飛躍的に発電性能が向上することが分かっている。この材料について、作動条件(高温かつ酸化および還元雰囲気)での材料挙動を、in-situ XAFSで解析した。メカノケミカル処理による粒子の価数変化、配位状態の変化などが懸念されたが、材料が不安定な高温還元雰囲気になっても、FeおよびCoに近接する酸素が欠損する挙動が現れるが、メカノケミカル処理の有無では大きな変化がないことが明らかなり、電極の耐久性にも影響しないことが期待される。
キーワード: 酸素イオン伝導材料、SOFC、燃料電池
aダイハツ工業(株), b(独)日本原子力研究開発機構
aDAIHATSU MOTOR CO., LTD., bJAEA
- Abstract
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アニオン交換膜形燃料電池に用いられるカソード触媒の構造を明確にするために、X線吸収微細構造(XAFS)測定に取り組んでいる。現在注目しているキレート触媒は中心金属が配位子に配位されており、その組み合わせにより性能を大幅に変化させる。今回は新たに作製した二元金属(FeCo)キレート触媒におけるin-situ測定を行い、酸素還元反応のメカニズムの解明を試みた。その結果、FeCoキレート触媒は金属が合金化し、配位した構造が少ないことが分かった。活性評価の結果と照らし合わせると、キレート構造の維持が活性向上に寄与するといった結論を得た。
キーワード: 燃料電池、アニオン交換膜形、非白金カソード触媒、in-situ XAFS
a(株)本田技術研究所 四輪R&Dセンター, b独立行政法人日本原子力研究開発機構
aHonda R&D Co., Ltd. Automobile R&D Center, bJapan Atomic Energy Agency
- Abstract
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本研究では1000 MPa超級のハイテン材をアーク溶接した継手の内部3次元応力分布測定を行った。溶接前後及び、熱量・素材が異なる条件で溶接した場合の溶接端部、ルート部での残留応力を測定し、溶接部遅れ破壊との関係を明らかにすることが目的であり、有限要素法で算出した結果と実験値との比較を実施した。実測値と有限要素法より得られた値とでは乖離があった。
キーワード: 高強度鋼、歪みスキャンニング法、アーク溶接、応力分布測定
a(株)東芝, b沖縄工業高等専門学校, c(公財)高輝度光科学研究センター, d大阪大学, e富士重工業(株), fNASA - Johnson Space Center
aToshiba Corporation, bOkinawa National College of Technology, cJASRI, dOsaka University, eFuji Heavy Industries Ltd, fNASA - Johnson Space Center
- Abstract
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アルミニウム合金A6061-T6の摩擦攪拌接合(FSW)継手試験片に曲げ疲労によりき裂を導入し、その形状をラミノグラフィにより可視化した。更に、ビームライン脇に仮設した曲げ疲労試験機を使用してき裂を進展させ、その様子を非破壊で観察した。FSWの使用が期待される大型の板状構造物の場合にはCTの適用は困難を伴うが、ラミノグラフィの適用は原理的に可能であり、微細な疲労き裂やその進展を非破壊で観察することができた。また、FSW組織に特有と思われるき裂の屈曲などの現象を確認した。
キーワード: 摩擦攪拌接合,アルミニウム合金,疲労,き裂進展,ラミノグラフィ
住友化学株式会社
Sumitomo Chemical Co., Ltd.
- Abstract
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固体高分子形燃料電池用のカソード極触媒として、非白金系の酸化物触媒が注目されている。ジルコニウムなどの酸化物触媒では酸素欠損部が活性点と考えられており、それらに対する合成条件や粒子サイズなどの影響について調べることを目的として、SPring-8の高輝度マイクロビームX線を用いたμ-XAFSによる解析を実施した。粒子径が2 μm程度までの酸化ジルコニウム一粒子について、ZrのXANESスペクトルから結晶系の違いを解析することが可能であることが分かった。
キーワード: ジルコニウム酸化物、固体高分子形燃料電池、PEFC、μ-XAFS
aカンロ(株), b(公財)高輝度光科学研究センター
aKanro. Co. Ltd., bJASRI
- Abstract
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菓子のグミキャンディーやゼリーには「噛み応え」という食感を付与する為にゲル化剤であるゼラチンが使用されている。このゼラチンが構築するゲル構造に関してX線小角散乱(SAXS)測定を行い、その濃度及び糖質依存性について解析した。ゼラチンの濃度上昇と共に相関長は短くなり、より密なゲル構造が構築されていると解釈された。また添加する糖質の分子量が大きいほどゲル化速度が遅いという経験則と整合した測定結果が得られた。
キーワード: ゼラチン、ゲル、構造、糖質
横浜ゴム株式会社
THE YOKOHAMA RUBBER CO.,LTD.
- Abstract
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タイヤ中のスチールコードとゴムを接着させることで強固な複合体となり耐久性が維持される。金属接着用ゴムには硫黄Sが多く含まれており、ゴム中の架橋およびゴムと金属の結合の役割をする。しかし、Sと銅Cu、亜鉛Znの反応や構造についての詳細は分かっていない。そこで、ゴム中に平均10 µm径のブラス(真鍮)粉末を練りこんだ後、加硫(加熱)処理して、加硫時間または老化条件ごとにCuおよびZnの化学状態をXAFS測定にて解析した。加硫することでブラス表面においてCuの硫化反応が進行し、湿熱老化によりさらに化学状態が変化することが分かった。Znについては、存在比率が低くブラス粉末中のZnも透過したと考えられるため、金属Znとの明確な違いや接着前後の変化は把握できなかった。今回の測定により、金属接着ゴム中のCuの化学状態を把握することができた。
キーワード: タイヤ、ゴム、接着、ブラス、銅、亜鉛、XAFS
a(株)アイテック, b東北大学金属材料研究所附属研究施設関西センター, c大阪府立大学
aITEC Co. Ltd., bKansai Center for Industrial Materials Research, Institute for Materials Research, Tohoku Univeristy, cOsaka Prefecture University
- Abstract
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単分散金属ナノ粒子の合成および大量生産を目的として、連続式超臨界水熱合成装置にて合成したニッケル微粒子について、XAFS測定により局所構造解析を行ったところ、ニッケル金属微粒子が得られており、酸化が進行していることが確認された。今後は酸化を抑制可能なニッケル金属微粒子の製造を最適化検討して1%未満の酸化を目指す。
キーワード: ニッケル、ナノ粒子、XAFS、超臨界水熱合成
日本ゼオン株式会社
ZEON CORPORATION
- Abstract
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高応力・高復元性に優れるエラスティックフィルム用SIS(スチレン-イソプレンブロックコポリマー)の開発に向けた基礎情報を得るため、極小角・小角X線散乱法(USAXS・SAXS)を用いた構造解析を行った。このSISのミクロ相分離構造は、サイズの異なる大小の球状スチレンドメインがランダムに分布する構造であることがわかった。さらに、プロセッシング条件により変化する球状ドメインの分布とサイズが、このSISの機械物性に影響を及ぼすことがわかった。
キーワード: 熱可塑性エラストマー、SAXS、USAXS、延伸
a第一稀元素化学工業(株), b日本パーカライジング株式会社, c秋田大学
aDaiichi Kigenso Kagaku Kogyo. Co., Ltd., bNihon Parkerizing. Co., Ltd., cAkita University
- Abstract
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グリコール酸、酒石酸、シュウ酸、クエン酸、リン酸、EDTAおよびエチドロン酸を加えた炭酸ジルコニウムアンモニウム水溶液のZr-K吸収端EXAFS解析を行った。エチドロン酸、EDTAおよびリン酸を加えた場合に、添加剤濃度増加に伴うEXAFS振動およびフーリエ変換スペクトルの変動が確認された。これは、添加剤による配位子置換反応に起因すると考えられる。これらの添加剤のなかで、特にエチドロン酸はジルコニウムの構造を変える効果が大きいことがわかった。
キーワード: 金属表面処理、クロムフリー、炭酸ジルコニウムアンモニウム(AZC)、溶存構造、EXAFS解析
a(株)デンソー, b東北大学, c(公財)高輝度光科学研究センター
aDENSO CORPORATION, bTohoku University, cJASRI
- Abstract
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自動車用高効率モーター用磁石としてL10型FeNi磁石の合成を試みている。結晶構造と磁気特性の相関を調べることで高性能なL10型FeNi磁石合成の指針を得ることを目指した。Fe-K吸収端近傍の異常散乱を利用したX線による構造解析の結果から、比較的保磁力が高い試料はL10構造の約3倍に相当する周期の超構造が存在していることが見出された。
キーワード: L10型FeNi、X線回折、異常散乱、3倍周期
ガラスに分散したYAG:Ce蛍光体中のCeのXAFS解析
XAFS Analysis of Chemical State of Ce in YAG-Phosphor Dispersed in Glass
旭硝子㈱ 中央研究所
Research Centre, Asahi Glass Co. Ltd.
- Abstract
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YAG:Ce蛍光体をガラス中に分散する高温プロセスで発光素子の効率が悪化する現象が確認されるため、その原因をCe価数およびCe近傍の局所構造から理解する目的でXAFS測定を行い、XANES評価とEXAFS解析を実施した。蛍光体とガラスを800°Cで焼成した場合にはXANESスペクトルでCe4+のピークが出現し、吸収端エネルギーでも0.3 eVのシフトが見られるなど、一部のCe価数が3価から4価に変化していることが示唆された。また、EXAFS解析において第2配位以降のピークが消失しており、YAG:CeのCe近傍の結晶構造が乱れていた。
キーワード: ガラス、YAG:Ce蛍光体、XANES、EXAFS
a(株)日立製作所日立研究所, b(公財)高輝度光科学研究センター
aHitachi, Ltd., Hitachi Research Laboratory, bJASRI
- Abstract
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V2O5-MxOy(M=P, Te, Pb, Ba)二元系ガラスや、これにAg2O、Sb2O3、WO3などを添加した三元系ガラスの構造解析を目的として、V元素周囲の局所構造をSPring-8/BL14B2のXAFS測定装置にて評価した。V-K吸収端の低エネルギー側に現れるプリエッジのピーク強度より、TeO2やPbOを添加したガラスではV2O5結晶の5配位と比較して配位数が減少している可能性が示唆された。また、Ag2O、Sb2O3、WO3の添加はいずれもプリエッジのピーク強度を増加させることから、配位数もしくは対称性に影響を与えることが分かった。
キーワード: V系ガラス、ガラス構造解析、XAFS、XANES
住友ベークライト株式会社
SUMITOMO BAKELITE CO., LTD.
- Abstract
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金属ナノ粒子はプリンテッドエレクトロニクスにおける微細配線用の材料として注目されているが、ナノ粒子塗布後の焼結条件によって配線の電気抵抗率が顕著に変化することがこれまでの検討で確認されている。本課題では、焼結条件が金属ナノ粒子の化学状態に及ぼす影響についてXAFS測定により評価した。その結果、銅の価数状態が大気雰囲気下焼結では2価,窒素雰囲気下焼結では1価になっていることが明らかとなった。
キーワード: XAF,金属ナノ粒子,銅
横浜ゴム株式会社
THE YOKOHAMA RUBBER CO.,LTD.
- Abstract
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タイヤ中のブラスとゴムの接着性向上のために添加しているCo塩化合物の役割を解明するためにX線吸収微細構造(XAFS)測定により分析を行った。ゴム中の加硫前後のCo塩化合物のCoの化学状態を測定することができた。加硫前後でCo-OからCo-Sに変化することを確認した。加硫時のCoの化学的挙動はCo塩の種類が変わっても、同様であることが分かった。
キーワード: タイヤ、ゴム、接着、ブラス、コバルト、硫黄、XAFS
a岡山大学, bDOWAエフテック(株), c(公財)高輝度光科学研究センター
aOkayama Univ., bDOWA F-Tec Co. Ltd., cJASRI
- Abstract
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化学物質規制の強化に伴い、不純物レベルの微量な化学物資についても、近年、その安全性の確認が迫られている。本研究では、蛍光XAFS測定により、フェライト磁石中に含まれる微量不純物金属元素の化学形態を解明することで、その安全性の評価を行っている。その手始めとして、フェライト中に存在するNi不純物の蛍光XAFS測定を行い、Niが六方晶フェライト格子中のFeサイトに置換固溶していることを明らかにした。
キーワード: フェライト磁石、化学状態分析、微量不純物元素、蛍光XAFS
(株)大林組
Obayashi. Co. Ltd.
- Abstract
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大深度地下に建設が検討されている放射性廃棄物処分場には、坑道の安定性確保などの目的でセメント系材料の使用も検討されている。本実験では、セメント系材料や、これに触れて高アルカリ性溶液となった地下水の、坑道周辺の母岩である花崗岩に及ぼす影響の把握のため、セメント系材料に接触させた状態で、高アルカリ性溶液への浸漬試験を行った花崗岩の浸漬前後について、CT像と局所X線回折を行い、アルカリ作用により65日間の浸漬において、構成鉱物の変質が起きることを見出した。
キーワード: 放射性廃棄物処分場,花崗岩変質,透過像,X線回折
(株)DNPファインケミカル
DNP Fine Chemicals Co., Ltd.
- Abstract
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顔料が分散媒中に安定に分散されているインクにおいては、顔料近傍に分散剤などが存在し、顔料と界面領域を形成していることが予想される。このことを検証するため、顔料の表面処理状態、分散剤の化学組成、分散剤の分子構造を変えた超微細顔料分散インクについてX線小角散乱測定を実施した。結果、顔料の表面状態及び分散剤の種類により、散乱プロファイルの明確な差が見出された。また、分散安定化されたインクでは、粒子間干渉に由来する散乱強度の構造因子に大きな顔料濃度依存性があり、インクの分散状態を知る手がかりとなる知見が得られた。
キーワード: 界面領域、顔料分散状態、顔料粒径、顔料処理
明治大学
Meiji Univ.
- Abstract
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本課題では、プラズマ酸化膜のプロセス条件の最適化のため、BL46XUのビームラインでX線反射率測定法を実施し、膜密度や界面ラフネスといった物理的特性の評価を行った。測定結果より、RF電圧や成膜時のO2流量を大きくすることで、膜密度は低くなり、界面は粗くなるということが明らかとなった。今回の測定により、プラズマ酸化条件の最適化に一歩前進したと考えられる。
キーワード: プラズマ酸化、X線反射率測定、膜密度、界面ラフネス
a東京理科大学, bスプリングエイトサービス(株), c東京大学, d(公財)高輝度光科学研究センター
aTokyo University of Science, bSPring-8 Service Co., Ltd., cUniversity of Tokyo and dJASRI
- Abstract
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我々はこれまで、ナトリウム(Na)イオン電池用ハードカーボン負極において、結着剤としてカルボキシメチルセルロース(CMC)を用いることにより、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)を使用した場合よりも電池特性が大きく向上することを見出してきた[1]。本研究では、難黒鉛化性炭素(ハードカーボン)負極上に生成する被膜について、BL46XUにおける硬X線光電子分光(HAXPES)測定でこれまで主に利用されて来た8 keVよりも、更に1.5倍以上高いエネルギーを持つ14 keVの硬X線を励起光として用い、結着剤による被膜成分の違いを表面から更に深い領域にかけて詳細に調査した。今回得られた14 keV励起HAXPESの結果と、別途測定した8 keV励起HAXPESおよび実験室X線源(Mg Kα線:約1.3 keV)を用いた軟X線光電子分光法(SOXPES)の結果を比較することにより、PVdFを結着剤として用いた場合はPVdFや添加剤FECが分解し、CMCを用いることにより電解質NaPF6の分解が顕著に抑制されることが確認できた。
キーワード: ナトリウム(Na)イオン電池、ハードカーボン、硬X線光電子分光法
a東京工業大学, b北海道大学, c室蘭工業大学, d関西電力(株), e群馬工業高等専門学校, f新日鐵住金(株), gJFEスチール(株)
aTokyo Institute of Technology, bHokkaido University, cMuroran Institute of Technology, dKansai Electric Power, eGunma National College of Technology, fNippon Steel & Sumitomo Metal Corporation, gJFE Steel Corporation.
- Abstract
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異なるCr,Al濃度を含有するFe-Cr-Al合金を用いて、初期遷移酸化皮膜からアルミナ皮膜への遷移挙動を構造解析により検討し、アルミナ皮膜形成におよぼす合金中のCrおよびAlの影響を調査した。すべての合金上には、昇温中にFeリッチな初期酸化皮膜(Fe,Cr,Al)2O3が形成した。その後、Crの選択酸化により初期酸化膜はCrリッチになり、次いで、Al2O3が形成した。このAl2O3形成までの酸化皮膜の変化は連続的な変化であった。この連続的な構造変化は、合金中のCrおよびAl濃度に依存した。
キーワード: In-situ測定、高温X線回折、高温酸化、アルミナスケール
a住ベリサーチ(株), b住友ベークライト(株)
aS.B. RESEARCH CO., LTD, bSUMITOMO BAKELITE CO., LTD.
- Abstract
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有機-無機複合材料において無機材料の表面を改質することで、様々な特性を付与することができる。その例として、エポキシ樹脂-アルミナ複合材料の熱伝導性は、アルミナ表面を不飽和脂肪酸によって修飾することで向上することがある。これは、表面修飾によってエポキシ樹脂の高次構造が変化したためと推定される。本研究では、不飽和脂肪酸がエポキシ樹脂の高次構造に与える影響について、放射光すれすれ入射広角X線回折(GI-WAXD)による解析を行った。不飽和脂肪酸の修飾量とエポキシ樹脂塗膜の構造の関係性の検証を行ったが、エポキシ樹脂の濡れ性が少量の不飽和脂肪酸修飾により変化することはわかったが、修飾状態とエポキシ樹脂の構造の関係を評価するには至らなかった。
キーワード: すれすれ入射X線回折、表面修飾、熱伝導
a大阪大学, b(公財)高輝度光科学研究センター
aOsaka University, bJASRI/SPring-8
- Abstract
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Eu添加GaN(GaN:Eu)による赤色発光ダイオードの高輝度化を目的として、高濃度Eu添加とEuイオン周辺局所構造の制御技術の確立を目指している。新規有機Eu原料EuCppm2を用いてEu,O共添加GaNを作製した場合、表面に明らかな析出物が観察されない場合であっても、O共添加しない場合と同様、XANESスペクトルにEuを含む表面析出物の存在を示す高い強度のホワイトラインピークが現れていた。試料を塩酸エッチングすることで、ホワイトライン強度の減少が観察され、標準試料としているEu(DPM)3により作製したGaN:Euとほぼ同じXANESスペクトルが得られた。また、成長中断を行うことでNH3ガスによるEuを含む析出物の除去を試みたものの、Eu-N-O化合物の形成が促進されることを示唆する結果が得られ、逆効果であることがわかった。
キーワード: ユウロピウム、窒化ガリウム、赤色発光デバイス、XAFS
住友ベークライト(株)
SUMITOMO BAKELITE CO., LTD.
- Abstract
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X線回折法による半導体パッケージ用封止樹脂/金属界面の残留応力評価について検討した。本研究では封止樹脂を銅箔上に成形したものをモデル材とし、sin2ψ法による評価を行った。また、有限要素法による応力シミュレーションによりX線回折法で得られた結果の妥当性を検証した結果、応力モードが圧縮応力である点および応力値のオーダーが良い一致を示したことより、本評価手法が有効であることを確認した。
キーワード: 残留応力解析、sin2ψ法、半導体パッケージ
a(株)デンソー, b東北大学, c(公財)高輝度光科学研究センター
aDENSO CORPORATION, bTohoku Univ., cJASRI
- Abstract
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自動車用高効率モーター用磁石としてL10型FeNi磁石の合成を試みている。これまで前駆体の塩化物を還元する手法を検討してきたが、Niリッチな合金しか得られず、保磁力が頭打ちとなっていた。そこで還元パラメータを詳細に制御できる可能性がある溶融塩中電気化学還元法の検討を開始した。今回、カソード電位並びに間欠電解を行った際の電析合金の違いについて調べた結果、Ni電極基準で-0.45~-0.5 Vにおいて単相あるいは連続相の生成から複相の偏析へと電析形態が変化することが分かった。また、間欠電解の緩和時間にFeの再酸化あるいはNiとの置換反応が起こって、Niリッチ化する可能性が示唆された。
キーワード: L10-FeNi、還元、電気化学、溶融塩、Fe組成
JSR株式会社
JSR Corporation
- Abstract
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低燃費タイヤに使われる末端機能化スチレン・ブタジエンゴム(末端機能化SBR)の基礎データを得るため、加硫ゴムシートを延伸させて小角X線散乱(SAXS)および超小角X線散乱(USAXS)を測定し、補強剤として使用されるシリカまたはカーボンブラックの凝集状態や階層構造の変形挙動を観察した。SBR末端への官能基導入の有無に係らず、延伸させると異方的な二次元散乱像が得られた。そして、その異方性はSBR種に依存し、重合体末端と補強剤表面との相互作用の強さが、変形時の凝集状態や階層構造に大きく影響を及ぼすことが観察された。
キーワード: 合成ゴム、末端機能化SBR、シリカ、カーボンブラック、小角X線散乱
a旭化成建材㈱, b旭化成㈱, c千葉大学
aASAHI KASEI CONSTRUCTION MATERIALS CO., bASAHI KASEI. CO. LTD., cCHIBA UNIV.
- Abstract
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軽量気泡コンクリート(ALC)の主成分であるトバモライト(tobermorite 化学組成:5CaO・6SiO2・5H2O)の量と質は、その性能と密接な関係にあり、その反応過程を制御したALCの改良研究が、日本および欧州で活発になされている。我々は、今まで、トバモライトに結晶化するC-S-Hゲルと結晶化しないC-S-Hゲルの違いをSi-NMRで解析してきた。一方、今回、トバモライトに変化する際に影響を与えるCa2+イオンの作用を解明するために、結晶化特性の異なるC-S-Hゲルで、150°Cから190°Cまでの各温度でのCa2+イオンの化学状態の変化をXAFSで調べた。その結果、それらのXANESとEXAFSに定性的な違いが認められたが、トバモライトへの結晶化との関係を明らかにすることはできなかった。
キーワード: カルシウムシリケートハイドレイト、C-S-H、水熱反応、トバモライト、XAFS
a(株)デンソー, b東北大学, c(公財)高輝度光科学研究センター
aDENSO CORPORATION, bTohoku Univ., cJASRI
- Abstract
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レアアースフリー磁石として期待されるL10型FeNi合金の人工合成に取り組んでいる。これまでに前駆体の塩化物を還元する手法を検討してきたが、組成がニッケル(Ni)リッチになってしまう問題があった。そこで、組成が制御された不規則なA1型FeNi合金を窒化‐脱窒化することで規則化する新たな手法を提案して取り組んでいる。今回、これら2つの合成法で得られた合金の結晶構造の比較を試みた。従来法では非常に多くのスピネル型フェライトが存在するのに対して、新手法では不純物が少ないことが分かった。両者には共通する不明な回折線が複数見られたが、物質を特定できなかった。
キーワード: レアアースフリー、磁石、L10、FeNi、規則化、窒化、脱窒化
FDKトワイセル株式会社
FDK TWICELL Co., Ltd.
- Abstract
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ニッケル水素電池に使用されているA2B7型金属間化合物が主相である超格子水素吸蔵合金の結晶構造の同定を行った。その結果、電池の充放電サイクル寿命改善に著しい効果を示したNiの一部をAlで置換した超格子水素吸蔵合金は、AlがAB5ユニットに優先的に存在することが明らかになった。この結果は、Alの置換がAB5相の格子サイズを広げ、AB2相とのミスマッチを小さくすることから、より安定な水素吸蔵放出が可能になり、電池の充放電サイクル寿命が著しく改善された理由と考えられる。
キーワード: ニッケル水素電池、水素吸蔵合金、粉末X線回折、リートベルト解析
a兵庫県立大学, b兵庫県立工業技術センター, c冨士色素(株), d(公財)高輝度光科学研究センター
aUniversity of Hyogo, bHyogo Prefectural Institute of Technology, cFuji-Pigment.Co.Ltd., dJASRI
- Abstract
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ランタンシリケート(LSO,組成La9.333+xSi6O26+1.5x)は燃料電池用新規電解質として応用が期待されるが、イオン伝導性向上のためにxの値を高める必要があり、その場合に化学的に著しく不安定となることが問題である。我々は、極微量の鉄添加が材料の安定性を飛躍的に向上させることを見出した。本課題では、0.99{La10(Si5.8Al0.2)O26.9}-0.01(FeOγ)をベース組成とする、鉄を極微量添加したLSOに対し、XAFSによる鉄の状態解析を実施した。その結果、添加された極微量の鉄はLSO類似のLa-Si-Fe-Oアパタイト相を形成するのではないかと推察された。
キーワード: 固体酸化物形燃料電池、微量元素、XAFS
横浜ゴム株式会社
THE YOKOHAMA RUBBER CO., LTD.
- Abstract
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タイヤ中のスチールコードとゴムを接着させることで強固な複合体となり耐久性が維持される。金属接着用ゴムには硫黄が多く含まれており、ゴム中の架橋およびゴムと金属の結合の役割をする。これまで金属側からのXAFS測定を行ってきたが、今回は硫黄に着目し、軟X線XAFS測定より加硫前後、老化前後の硫黄の環境情報を測定した。ゴムシートに硫黄粉末を練りこんだ後、加硫(加熱)処理して、加硫前後の硫黄の化学状態をXAFS測定にて解析した。また、加硫後のゴムシートを空気中で熱老化させて、老化前後の硫黄の化学状態を同様に解析した。硫化物標準試料と対比することで硫黄の結合状態等を推定した。今回の測定により、金属接着ゴム中の硫黄の化学状態を把握することができた。
キーワード: タイヤ、ゴム、接着、ブラス、硫黄、軟X線XAFS
(株)ノリタケカンパニーリミテド
Noritake Co., Limited
- Abstract
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固体酸化物形燃料電池(SOFC)に用いるLaSrTiFeO3-δ系材料について、酸化雰囲気と還元雰囲気での材料挙動をXAFSで解析した。260°C以上で、Fe K-edgeのエネルギーシフト量が酸化雰囲気と還元雰囲気で顕著に異なることが分かった。Fe K-edgeにおけるXANESスペクトルから得られるエネルギーシフト量と、熱膨張率との間には比例関係があり、両者に強い相関性があることが示唆された。Fe系ペロブスカイトの熱膨張挙動は酸化雰囲気と還元雰囲気で、Fe元素に強く依存することがわかった。
キーワード: SOFC、ペロブスカイト型酸化物、還元膨張
横浜ゴム株式会社
THE YOKOHAMA RUBBER CO., LTD.
- Abstract
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ゴム製品の品質・生産性の向上を目的として、加硫時に生じるゴム内部での発泡の起源を解明すべく、X線イメージングによる加硫中のゴム内部での発泡過程のリアルタイム観察を行った。その結果、発泡は分解能0.554 μmの画像上では起点となるような特異な像がない状態から、10~数10 μmの気泡が発生する事で始まっている事を見出した。
キーワード: ゴム、発泡、X線イメージング
a(株) 日立製作所 日立研究所, b(公財) 高輝度光科学研究センター
aHitachi Ltd., Hitachi Research Lab., bJASRI
- Abstract
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次世代リチウムイオン電池の開発には、リチウムイオンの挿入脱離反応を三次元で可視化する評価法が要望されている。そこで、二次元XAS (X-ray Absorption Spectroscopy)、および不完全CT法を応用した三次元XASによる遷移金属の価数分布の可視化計測法を検討した。二次元XASからLiFePO4正極断面において、リチウムイオンが正極から負極に移動する充電では、Al集電体に比べて正極のセパレータ側でリチウムイオン移動が進行しているのが判明した。LiFePO4正極の三次元像の構築には成功したが、不完全CT法では、電極断面のFe価数分布の識別が困難であることが判明した。
キーワード: リチウムイオン電池、反応分布、XAS、三次元、不完全CT
キヤノン株式会社
Canon Inc.
- Abstract
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走査型X線位相顕微CTにより電気抵抗が異なるフィラー分散樹脂中のフィラー分散状態の可視化について検討を行った。その結果、X線の位相情報を用いた断層像の再構成によりフィラーの分布の可視化を実現することができた。更に三次元再構成像から粗大凝集体の分布および量を抽出した結果、電気抵抗の高い試料ほど粗大凝集体の割合が高くなっていることを確認することができた。しかしながら今回検討した試料において、より詳細な情報抽出を実施するためには、試料のX線によるダメージを軽減させる方法を考える、もしくは更なる解析方法の工夫等の必要があることが分かった。
キーワード: ナノコンポジット材料、走査型X線位相顕微CT
a奈良県立橿原考古学研究所, b(独)国立文化財機構奈良文化財研究所
aArchaeological Institute of Kashihara, Nara-pref., bNara National Research Institute for Cultural Properties
- Abstract
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遺跡発掘により発見される出土品はその素材を問わず、地下埋蔵中に土壌成分や水分など周辺環境からの影響により劣化・腐朽・腐食作用を受けている。とりわけ、出土染織文化財は劣化・腐朽の影響を受けやすく、その遺存状態は千差万別である。本研究は、SPring-8におけるXRD測定を応用し、千数百年に及ぶ地下埋蔵環境中に鉱物化した染織文化財の変化の過程を解明することを目的とした。出土資料と鉱物化を模した資料、そして繊維に染織材料として利用されうる鉱物顔料の一種を用いて、粉末X線回折測定を行った。
キーワード: 出土染織文化財、粉末X線回折、鉱物化過程
a(株)豊田中央研究所, b(公財)高輝度光科学研究センター
aToyota Central R&D Labs., Inc., bJASRI
- Abstract
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異種材料の接合体である機械部品やデバイスでは、熱疲労などの損傷は内部で発生する場合が多い。高度な信頼性評価には部品形状のまま内部形態を非破壊計測できるラミノグラフィが有用である。そこで高輝度放射光でデバイス実装構造を計測した結果、数μmの分解能でモールド樹脂部の内部界面に発生する微小き裂の3次元形状を可視化できた。
キーワード: デバイス、信頼性評価、イメージング、ラミノグラフィ
a大阪大学, b(公財)高輝度光科学研究センター
aOsaka University, bJASRI/SPring-8
- Abstract
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Eu添加GaNによる赤色発光ダイオードの高輝度化を目的として、高濃度Eu添加とEuイオン周辺局所構造の制御技術の確立を目指している。有機Eu原料EuCppm2を用いて作製したEu添加GaNでは、高濃度にEuを添加するために原料の供給量を増加させるとEuを含む析出物が試料表面にて観察された。これらのEuを含む表面析出物は、熱リン酸や塩酸により取り除くことができた。また、Euを含む表面析出物を取り除くことで、Eu(DPM)3を用いて作製したEu添加GaNと同様なXANESスペクトルが得られたものの、ホワイトラインピーク強度は若干大きく、異なる構造も含まれていることが示された。
キーワード: ユウロピウム、窒化ガリウム、赤色発光デバイス、XAFS
a徳島文理大学, b(公財)高輝度光科学研究センター
aTokushima Bunri University, bJASRI
- Abstract
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Eu付活蛍光体について、X線励起可視発光(XEOL)検出によるXAFS測定を試みた。可視蛍光の測定系を立ち上げて、Eu-LIII端近傍でのX線励起によりXEOLスペクトルが測定できることを確認した。XEOLスペクトルとX線吸収との関係について試料形態(厚み)依存性を調べ、10 μmオーダーの薄い試料であればX線吸収を反映するスペクトルが得られることを確認した。
キーワード: 蛍光体、Eu2+、XAFS、XEOL
a旭化成㈱, b旭化成建材㈱
aASAHI KASEI. CO. LTD., bASAHI KASEI CONSTRUCTION MATERIALS CO.
- Abstract
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軽量気泡コンクリート(ALC)の主成分であるトバモライト(tobermorite 化学組成:5CaO・6SiO2・5H2O)の量と質は、その性能と密接な関係にあり、その反応過程を制御したALCの改良研究が、日本および欧州で活発になされている。そのような中で、我々はフライアッシュ(火力発電所から排出される石炭灰)など低結晶質シリカ源の利用検討を行っている。今回は、通常トバモライトを生成しない微結晶シリカを使い、その系に水酸化リチウム(LiOH)を添加し、昇温速度を変えてトバモライト生成への影響を調べた。今回の実験で、Li添加のトバモライト生成への効果は再確認されたが、昇温速度の影響は小さいことが分かった。
キーワード: 水熱反応、トバモライト、低結晶質シリカ、軽量気泡コンクリート、
水酸化リチウム、フライアッシュ
X線回折による溶融塩電解FeNi粒子の構造評価
Evaluation of FeNi Particles Electrolyzed in Melted Salt by X-ray Diffraction
a(株)デンソー, b東北大学, c(公財)高輝度光科学研究センター
aDENSO CORPORATION, bTohoku Univ., cJASRI
- Abstract
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自動車用高効率モーター用磁石としてL10型FeNi磁石の合成を試みている。これまで塩化物前駆体の固相低温還元法を検討してきたが、Niリッチな合金しか得られず、保磁力が頭打ちとなっていた。そこで今回還元パラメータを詳細に制御できる可能性がある溶融塩中電気化学還元法の検討を開始した。今回、その第一段階として還元条件の異なる試料の結晶構造と保磁力の関係を調べた。その結果、これまでの固相低温還元の場合と同様にFe組成と保磁力の相関が示唆された。
キーワード: L10型FeNi、還元、電気化学、溶融塩、Fe組成
XAFSによるカルシウムシリケート水和物の硬化プロセスの研究
A Study on Solidification Process of Calcium Silicate Hydrates by XAFS
a旭化成建材(株), b旭化成(株), c千葉大学
aASAHI KASEI CONSTRUCTION MATERIALS CO., bASAHI KASEI. CO. LTD., cCHIBA UNIVERSITY
- Abstract
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軽量気泡コンクリート(ALC)の主成分であるトバモライト(tobermorite 化学組成:5CaO・6SiO2・5H2O)の量と質は、その性能と密接な関係にあり、その反応過程を制御したALCの改良研究が、日本および欧州で活発になされている。今まで、トバモライトに結晶するC-S-Hゲルと結晶化しないC-S-Hゲルの違いをSi-NMRで解析してきた。一方、今回、それらのC-S-Hゲルの違いをCa-XAFS法で調べた。その結果、それらのXANESのホワイトライン近傍の構造が異なっており、トバモライトとも異なっていた。また、SIL5の方がEXAFSの動径構造関数の第1近接ピークが大きいことがわかった。
キーワード: カルシウムシリケートハイドレート、C-S-H、水熱反応、トバモライト、XAFS
株式会社村田製作所
Murata Manufacturing. Co., Ltd.
- Abstract
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我々は、無鉛圧電セラミック材料(1-x){(Na,K)1-yLiy}NbO3-xBaZrO3 (x=0.035~0.075, y=0.00~0.06)の圧電特性に関して結晶構造変化との関係を研究している。本申請課題では、次に示す2つの組成領域(x,y)=(0.035, 0.06)および(0.075, 0.06)に関し圧電定数d33が大きくなる理由について調査した。
その結果、本材料はPb(Zr,Ti)O3セラミック材料のような結晶相境界(以下、MPB)領域を有しており、結晶系は斜方晶と正方晶の混晶構造である。加えて格子軸比は限りなく1に近いことから、電場印加に対するドメイン回転を増加させているものと推察した。
キーワード: Lead-free Piezoelectric、MPB、(Na,K)NbO3、X-ray diffraction、Rietveld method
ダイハツ工業株式会社
DAIHATSU MOTOR CO., LTD.
- Abstract
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自動車メタリック塗装の明度や彩度に影響を及ぼすアルミフレークの配向メカニズムを明らかにするため、今後計画しているin-situイメージング観察の予備試験として観察条件、観察手法を検討した。実験ハッチ外から遠隔操作で塗装し、その過程をin-situ二次元イメージング観察した結果、アルミフレークの配向挙動を観察することに成功した。またCTによるアルミフレークの立体的な配向の様子を観察することにも成功した。
キーワード: メタリック塗装、イメージング、アルミフレーク配向
a旭化成㈱, b旭化成建材㈱
aASAHI KASEI. CO. LTD., bASAHI KASEI CONSTRUCTION MATERIALS CO.
- Abstract
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軽量気泡コンクリート(ALC)の主成分であるトバモライト(tobermorite 化学組成:5CaO・6SiO2・5H2O)の量と質は、その性能と密接な関係にあり、その反応過程を制御したALCの改良研究が、日本および欧州で活発になされている。そのような中で、我々はフライアッシュ(火力発電所から排出される石炭灰)など低結晶質シリカ源の利用検討を行っている。今回は、通常トバモライトを生成しない微結晶シリカ源を使い、その系に石膏を4wt.%添加し、合成温度を下げてトバモライト生成への影響を調べた。今回、合成温度が低くてもトバモライト生成が認められた。また、低温(180°C)ではゾノトライト(Xono)の生成が抑制されることがわかった。
キーワード: 水熱反応、トバモライト、低結晶質シリカ、軽量気泡コンクリート、
石膏、低温合成
a京都大学, b(独)石油天然ガス・金属鉱物資源機構, c早稲田大学/JAXA, d(公財)高輝度光科学研究センター
aKyoto University, bJOGMEC, cWaseda University/JAXA, dJASRI
- Abstract
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石油増進回収技術の開発には、油-鉱物、水-鉱物の界面における水分子および油分子の集積、吸着現象の解明が必要である。本研究では鉱物に雲母を、油にシクロヘキサンを採用し、BL46XUにおいて20 keVの入射X線エネルギーでX線CTR散乱法の測定を行った。その結果、X線入射光強度を落とさず測定した場合、雲母基板にX線による損傷が確認された。測定後、損傷個所に対してラマンイメージング測定を実施し、ラマンシフトが240 cm-1から305 cm-1の範囲に見られる鉱物由来のピークの重心位置をマッピングしたところ、色中心の発生が示唆された。一方、入射強度を1/10にすると明確な損傷は見られず、同ビームラインでのX線CTR散乱法測定では入射X線エネルギーを20 keVとした場合、入射光強度を1/10にすればよいことが分かった。
キーワード: 油-鉱物界面、石油増進回収、X線CTR散乱法、マイカ、色中心
Section C : Technical Report
a(公財)高輝度光科学研究センター・利用研究促進部門・分光物性Iグループ、b同・構造物性Ⅰグループ
aSpectroscopy GroupⅠ, Research & Utilization Division, JASRI, bMaterials Structure GroupⅠ, Research & Utilization Division, JASRI
- Abstract
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ビームラインBL01B1(XAFS)は、偏向電磁石を光源としたビームラインで、広いエネルギー領域(3.8-113 keV)に渡り、様々な環境下にある実試料に対して、in-situ時間分解計測など多様な計測手法を用いたXAFS実験に使用されている。本稿では、BL01B1の現在の利用状況と、近年実施した高度化研究開発について報告する。
キーワード:高温in-situ XAFS、高エネルギー蛍光法XAFS、透過法顕微XAFS
a(公財)高輝度光科学研究センター・利用研究促進部門・構造物性Iグループ、b同・ナノテクノロジー利用研究推進グループ
aMaterials Structure Group I, Research & Utilization Division, JASRI, bNanotechnology Research Promotion Group, Research & Utilization Division, JASRI
- Abstract
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BL02B1は偏光電磁石を光源としたビームラインで、主として単結晶試料による結晶構造解析を目的とした研究のために建設された。現在、精密構造解析を主軸とする物質構造と物性との相関を明らかにする研究が展開されている。
キーワード:極低温、時間分解、CCD検出器
(公財)高輝度光科学研究センター・利用研究促進部門・構造物性Iグループ
Materials Structure GroupⅠ, Research & Utilization Division, JASRI
- Abstract
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BL02B2は偏光電磁石を光源としたビームラインで、主として粉末試料による結晶構造解析を目的とした研究のために建設された。現在、粉末回折実験により、相転移、構造変化、リートベルト解析、精密構造解析など物質構造と物性との相関を明らかにする研究が展開されている。
キーワード:ハイスループット
(公財)高輝度光科学研究センター・利用研究促進部門・構造物性Ⅰグループ
Materials Structure GroupⅠ, Research & Utilization Division, JASRI
- Abstract
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BL04B1は偏向電磁石を光源としたビームラインで、主として白色X線を用いた高温高圧条件下のX線回折実験とX線ラジオグラフィー実験に使用されている。2013年度は、X線ラジオグラフィー拡大光学系の整備および高感度高分解能sCMOSカメラの導入などの高度化を行った。本高度化によって、X線ラジオグラフィー画像を用いた試料の微小変形の検出が可能となり、高圧鉱物の弾性波速度測定、アコースティック・エミッション実験や非弾性測定の高精度化が可能となる。
キーワード:歪測定、非弾性測定、超音波
(公財)高輝度光科学研究センター・利用研究促進部門・構造物性Ⅰグループ
Materials Structure GroupⅠ, Research & Utilization Division, JASRI
- Abstract
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BL04B2は偏向電磁石を光源としたビームラインで、SPring-8の特徴の一つである37 keV以上の高エネルギーX線を用いた回折・散乱実験が行われている。2013年度における主な高度化は、オフラインにおけるガス浮遊炉の整備、低温液体実験用音波型浮遊装置の整備、高スループットCdTe3連装検出器システムの整備である。
キーワード:高エネルギーX線回折、X線Pair Distribution Function(PDF)解析
(公財)高輝度光科学研究センター・利用研究促進部門・構造物性Ⅱグループ
Materials Structure GroupⅡ, Research & Utilization Division, JASRI
- Abstract
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高エネルギー非弾性散乱ビームライン(BL08W)は、SPring-8唯一のウィグラーを光源とし、直線偏光または楕円偏光の100~300 keVの高エネルギーX線を使用することができるビームラインである。主な利用研究は高エネルギー非弾性散乱(コンプトン散乱)測定による物性研究であり、他にも高エネルギーX線を利用した蛍光X線分析、X線回折測定、X線CT測定や、高エネルギーX線用光学素子や検出器の開発・評価実験に利用されている。また、X線コンプトン散乱を用いた物体内部の構造変化や化学反応分布の分析手法の開発が進められている。2013年度における主な高度化は屈折レンズの開発である。
キーワード:高エネルギーX線、コンプトン散乱、屈折レンズ
(公財)高輝度光科学研究センター・利用研究促進部門・構造物性Ⅱグループ
Materials Structure GroupⅡ, Research & Utilization Division, JASRI
- Abstract
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BL09XUは周期長32 mmのアンジュレータを有するSPring-8標準のX線ビームラインである。主な利用研究として、核共鳴非弾性散乱を利用しての物質のダイナミクスの研究や放射光を利用したメスバウアー分光が挙げられる。放射光でのメスバウアー分光は特に極端条件下での測定や全反射による薄膜測定、メスバウアー線源に適当な核種がない場合などに威力を発揮している。2014年度からは核共鳴散乱実験に加えて、硬X線光電子分光の利用が可能となる予定である。2013年度までに行った主な高度化は、57Fe核共鳴振動分光法用の高分解能モノクロメータのバックアップの製作・評価である。
キーワード:高分解能モノクロメータ、核共鳴非弾性散乱、核共鳴振動分光法、動力学的回折理論
(公財)高輝度光科学研究センター・利用研究促進部門・構造物性Iグループ
Materials Structure GroupⅠ, Research & Utilization Division, JASRI
- Abstract
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BL10XU高圧構造物性ステーションは、高強度・高指向性の放射光X線を利用した高エネルギーX線回折法とダイヤモンドアンビルセル高圧装置を組み合わせることにより、超高圧下での精密結晶構造解析が実施されている。主な供用研究分野は、高圧構造物性科学・材料科学および地球科学である。高圧・低温/高温により誘起される現象は多種多様な様相を呈しており、単体元素や新奇化合物に至る幅広い物質で発現する多彩で複雑な構造相転移や物性が研究されている。また地球・惑星深部状態を模擬した高温高圧条件における核・マントル物質の構造状態や相平衡関係、密度変化に関する研究も行われている。2013年度においては、1)分光結晶の変更と液体窒素循環冷却システムの導入およびマルチ結晶分光器への改造、2)高エネルギーX線マイクロビーム生成・評価試験、3)高圧X線回折・放射光57Feメスバウアー吸収分光複合同時測定システムの高度化が行われた。
キーワード:液体窒素冷却シリコン二結晶分光器、マルチ結晶切り替え、高エネルギーX線マイクロビーム、放射光57Feメスバウアー吸収分光法
a(公財)高輝度光科学研究センター・利用研究促進部門・構造物性Iグループ、
b同・ナノテクノロジー利用研究推進グループ
aMaterials Structure GroupⅠ, Research & Utilization Division, JASRI, bNanotechnology Research Promotion Group, Research & Utilization Division, JASRI
- Abstract
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BL13XUは、X線の回折・散乱現象を利用して、固体表面や埋もれた界面の構造、そこに生成する低次元物質・ナノ物質の構造を原子レベルで評価・解析できる標準アンジュレータを光源とする共用ビームラインである。研究対象は、有機、無機にかかわらず結晶表面や界面が多くを占めるが、いずれの場合も非常に微弱な回折・散乱信号を高精度で検出する必要があり、ここに高輝度というアンジュレータ放射光の特長が生かされている。よく規定された金属、半導体結晶のみならず、酸化物結晶、有機結晶、触媒の表面層やその上に成長した薄膜構造を調べる利用者も増している。また、デバイス材料の局所歪み等をマイクロビームで計測する技術も利用できる。近年における主な高度化は、非対称分光結晶を利用した高フラックス光学系の構築、フィードバックシステムによる利用ビームの位置安定化、マイクロビーム回折装置の高度化である。
キーワード:非対称分光結晶、高フラックス光学系、ビーム位置安定化、屈折レンズ集光光学系、マイクロビーム回折用検出器
(公財)高輝度光科学研究センター・産業利用推進室・産業利用支援グループ
Industrial User Support Group, Industrial Application Division, JASRI
- Abstract
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BL14B2では透過法、蛍光法、電子収量法などの測定技術により粉末から薄膜など様々な試料形態および広いエネルギー領域(3.8 ~ 72 keV)により広範な元素(Ca-K ~ W-K吸収端)に対応し、簡便で高能率なXAFS測定を目指して研究支援および機器開発を行っている。その一環としてユーザーがSPring-8に来所しなくても実験を行うことが可能となる遠隔XAFS測定のための環境整備を行った。
キーワード:BL14B2、XAFS、遠隔XAFS測定
(公財)高輝度光科学研究センター・利用研究促進部門・応用分光物性グループ
Hard X-ray Spectroscopy Group, Research & Utilization Division, JASRI
- Abstract
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BL17SU軟X線ビームライン(理研・物理科学ビームラインⅢ)のAcステーションには、分光型光電子・低エネルギー電子顕微鏡(Spectroscopic PhotoEmission and Low Energy Electron Microscope: SPELEEM)が設置されている。光電子顕微鏡は表面から放出された光電子の空間分布を数10 nmの空間分解能で直接可視化できる電子顕微鏡の一種である。BL17SUの高輝度軟X線とSPELEEMの高い空間分解能を組み合わせることで、試料の微細構造、組成分布、電子状態、磁区構造を取得することができるため、これまでレアメタルフリー磁性材料から、グラフェンエレクトロニクス、あるいは惑星科学の分野まで、幅広い分野で活用されている。本稿では、SPELEEMの基本原理について述べた後に、最近行った主な高度化について紹介する。
キーワード:光電子顕微鏡、軟X線イメージング、局所電子状態解析、磁区マッピング
(公財)高輝度光科学研究センター・産業利用推進室・産業利用支援グループ
Industrial User Support Group, Industrial Application Division, JASRI
- Abstract
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BL19B2は産業界による放射光利用を目的としており、産業界の多様なニーズに対応するため、イメージング装置、多軸回折計装置、粉末回折装置及び小角散乱装置といった複数の装置が設置されている。イメージング装置では測定時間短縮のために測定方法を改良し、多軸回折計では信号強度増加のために小角散乱用に導入したシリンドリカルミラーを本装置にも適用した。粉末回折装置では測定代行用の試料を安全に運搬するために搬送バッグを整備し、小角散乱装置では散乱強度が微弱な試料でも評価できるようにバックグラウンド強度を低減した。
キーワード:産業利用、イメージング、回折、小角散乱
(公財)高輝度光科学研究センター・利用研究促進部門・バイオ・ソフトマテリアルグループ
Bio- and Soft-materials Group, Research & Utilization Division, JASRI
- Abstract
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BL20XUはハイブリッドタイプの水平偏光真空封止アンジュレータを光源としたビームラインで、主としてX線顕微イメージング実験や、極小角散乱実験に使用されている。2013年度における主な高度化は、X線取り出し窓の改良とXRD-CT装置の開発である。
キーワード:X線取り出し窓、SiN、マイクロビーム、XRD(X-Ray Diffraction)、CT(Computed Tomography)
(公財)高輝度光科学研究センター・利用研究促進部門・バイオ・ソフトマテリアルグループ
Bio- and Soft-materials Group, Research & Utilization Division, JASRI
- Abstract
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BL20B2は偏向電磁石を光源としたビームラインで光源からエンドステーションまで215 mの長さを持つ中尺ビームラインである。このビームラインは主に吸収コントラスト法や位相コントラスト法を利用したX線イメージング実験に使用されている。また大型光学素子の評価や大面積トポグラフィーなどの実験も可能である。
キーワード:X線イメージング・吸収・位相
a(公財)高輝度光科学研究センター・利用研究促進部門・分光物性Ⅱグループ、b同・利用研究促進部門・応用分光物性グループ、c同・制御・情報部門・機器制御グループ、d同・光源・光学系部門・光学系グループ
aSpectroscopy GroupⅡ, Research & Utilization Division, JASRI, bHard X-ray Spectroscopy Group, Research & Utilization Division, JASRI, cEquipment Control Group, Controls and Computing Division, JASRI, dOptics Group, Light Source and Optics Division, JASRI
- Abstract
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BL25SUは、高速の円偏光スイッチングを実現するツインヘリカルアンジュレータを光源とする軟X線ビームラインである。建設当時、世界最高クラスのエネルギー分解能を特徴として、1998年の供用開始から軟X線吸収分光や光電子分光による固体物性研究で成果を挙げてきた。他に二次元光電子分光、X線磁気円二色性分光、光電子顕微鏡を利用した課題が実施され、2013年までに約350報の原著論文が出版された。一方、2012年度からスタートした文部科学省・元素戦略プロジェクト(研究拠点形成型)において、軟X線ナノビームを利用したピンポイント磁気解析が必須とされたことをはじめ、より先端的な研究ニーズに応えるために2013年末よりビームライン全体の大規模な改造を実施し、ナノおよびマイクロビームの利用基盤が整備された。本報告では、改造後のビームライン概要、および改造前に実施した計測技術開発について示す。
キーワード:円偏光軟X線、軟X線分光、電子・磁気状態
a(公財)高輝度光科学研究センター・利用研究促進部門・分光物性IIグループ, b同・応用分光物性グループ
aSpectroscopy GroupⅡ, Research & Utilization Division, JASRI, bHard X-ray Spectroscopy Group, Research & Utilization Division, JASRI
- Abstract
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BL27SU(軟X線光化学ビームライン)は、Si(111)結晶分光器を配して2.1〜3.3 keVの高エネルギー領域の軟X線を利用可能なBブランチと、回折格子型分光器を配して0.17〜2.2 keVの低エネルギー域の軟X線を利用可能なCブランチから構成されている。大気圧から超高真空までの幅広い試料環境に対応でき、吸収分光・光電子分光・発光分光法を組み合せた、多様な分光研究に利用されている。本稿では、BL27SUの現在の利用状況と、2013年度に実施した高度化研究開発について報告する。
キーワード:軟X線、広帯域化
a(公財)高輝度光科学研究センター・利用研究促進部門・バイオ・ソフトマテリアルグループ、b同・産業利用推進室・産業利用支援グループ、c同・利用研究促進部門・分光物性Iグループ
aBio- and Soft-materials Group, Research & Utilization Division, JASRI, bIndustrial User Support Group, Industrial Application Division, JASRI, cSpectroscopy GroupⅠ, Research & Utilization Division, JASRI
- Abstract
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BL28B2は標準的な偏向電磁石を光源としたビームラインで、薬効評価などのための小動物生体機能イメージング、マイクロビーム放射線治療の基礎研究、高エネルギー白色X線による回折とイメージング実験、時間分解エネルギー分散XAFS(DXAFS)測定、高温高圧実験など、広範な研究分野に対し様々な手法を用いた白色X線を利用する実験に利用されている。近年に実施した主な高度化は、マイクロビーム放射線治療の基礎研究に関して、装置全体の統合によるユーザーフレンドリー化、高エネルギー白色X線による回折とイメージング実験に関して、2012年からCT測定とXRD測定の両方の測定を行う装置の開発と改良、時間分解エネルギー分散XAFS(DXAFS)測定に関して、低エネルギー領域DXAFS計測の高度化などである。本稿では、BL28B2の現在の利用状況と、近年の高度化研究開発による利用研究の拡大について報告する。
キーワード:マイクロビーム放射線治療、ユーザーフレンドリー、X線回折手法XRD、CT測定、低エネルギー領域DXAFS
(公財)高輝度光科学研究センター・利用研究促進部門・構造物性Ⅱグループ
Materials Structure Group II, Research & Utilization Division, JASRI
- Abstract
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BL35XUは短周期リニアアンジュレータを光源としたビームラインで、主として高分解能非弾性X線散乱実験に使用されている。2013年度までに得られた主な高度化による成果は、これまでユーザー実験に供されなかった1 meV分解能測定の安定化、及び微弱フォノン励起の観測である。最終節では、インハウス課題の成果の中から、非弾性散乱分光器の高分解能化と鉄系超伝導体の試験研究について報告する。
キーワード:meV及びsub-meV分解能、X線光学、微弱フォノン励起の観測
(公財)高輝度光科学研究センター・利用研究促進部門・分光物性Iグループ
Spectroscopy GroupⅠ, Research & Utilization Division, JASRI
- Abstract
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ビームラインBL37XU(分光分析)は、直線型真空封止アンジュレータを光源としたビームラインであり、顕微分光分析法を主体とする実験に利用されている。2010年度に実施された「グリーン・ナノ放射光分析評価拠点の整備」により、高品質なナノ集光ビーム形成の実現を目的として、第3実験ハッチが新規に建設された。この第3実験ハッチには、「ナノビームX線蛍光分析装置」が整備され、ビームライン光学系も併せて高度化が行われた[1,2]。2013年度においては、広いエネルギー領域(4.5 ~ 113 keV)とX線集光素子の組み合わせにより、マイクロ/ナノビームを用いた分光分析手法を利用して、様々な実試料の分析が行われている。本稿では、BL37XUの現在の利用状況と、近年実施した高度化研究開発について報告する。
キーワード:走査型X線顕微鏡、蛍光X線分析、ビームライン延伸
(公財)高輝度光科学研究センター・利用研究促進部門・構造生物グループ
Structural Biology Group, Research & Utilization Division, JASRI
(現所属:同・タンパク質結晶解析推進室・タンパク質構造解析促進グループ)
(Current affiliation: Structure Analysis Promotion Group, Protein Crystal Analysis Division, JASRI)
- Abstract
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BL38B1は、結晶回折測定用に偏向電磁石を光源とした安定性の高いビームを提供できる。この高安定性を利用し、比較的回折能の高い結晶(50 µm3以上のサイズ)を対象として、凍結結晶からの回折データ収集の高速化・効率化のために、測定の自動化を進めてきた。それとともに、高精度データ測定のため、集光系の改良によるビームの微小化と高フラックス密度化を行ってきた。さらに、回折測定のみならず、機能解析に必要な多様な測定を可能とするため、オンライン顕微分光装置の高度化、新しい結晶マウント手法の開発を行っている。2013年度に実施した主な高度化は、試料位置でのX線照射位置の高精度化、オンライン顕微分光装置の高速化・安定化、装置の更新、周辺技術の開発と、湿度調整と水溶性ポリマーを使用した結晶マウント法の開発である。
キーワード:(高度化のキーワード1)HAG法、(高度化のキーワード2)顕微分光装置
a(公財)高輝度光科学研究センター・利用研究促進部門・分光物性Iグループ、b同・ナノテクノロジー利用研究推進グループ
aSpectroscopy GroupⅠ, Research & Utilization Division, JASRI, bNanotechnology Research Promotion Group, Research & Utilization Division, JASRI
- Abstract
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BL39XUは標準的な直線アンジュレータを光源としたビームラインで、主として偏光を用いたX線分光実験に使用されている。2013年度における主な高度化は、(1)高いX線透過率と耐圧を有する多結晶ダイヤモンド圧力セルの開発、(2)X線発光分光計測の高効率化、(3)ナノビーム走査型イメージング測定の開発、(4)デバイス素子の時間分解顕微XAFS測定に向けた要素技術開発である。
キーワード:高圧下X線分光、X線発光分光、X線ナノビーム、走査型イメージング
a(公財)高輝度光科学研究センター・利用研究促進部門・バイオソフトマテアリアルグループ、b同・利用研究促進部門・ナノテクノロジー利用研究推進グループ、c同・利用研究促進部門
aBio- and Soft-materials Group, Research & Utilization Division, JASRI, bNanotechnology Research Promotion Group, Research & Utilization Division, JASRI, cResearch & Utilization Division, JASRI
- Abstract
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高フラックスビームライン(BL40XU)はヘリカルアンジュレータを光源とし、分光器を用いずアンジュレータの基本波を準単色光として利用することで、標準的なアンジュレータビームラインに比較して輝度が1000倍程度高いX線の利用を可能にしたビームラインである。高時間分解能の時分割X線回折実験や、マイクロビームを利用した実験等が行われている。
キーワード:高輝度X線、高速時分割実験、マイクロビーム、ピンポイント構造計測
(公財)高輝度光科学研究センター・利用研究促進部門・バイオ・ソフトマテリアルグループ
Bio- and Soft-materials Group, Research & Utilization Division, JASRI
- Abstract
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ビームラインBL40B2は偏向電磁石を光源とし、タンパク質、合成高分子、脂質、界面活性剤などのソフトマテリアルを対象としたX線小角散乱法が利用されている。計測できる構造はおよそ0.15 nmから400 nmの周期範囲で、試料から検出器までの距離およびX線波長を実験に合わせて適切に選択し利用できる。広角領域の散乱・回折測定を小角散乱法と組み合わせた同時計測や、微小角斜入射X線小角・広角散乱法による高分子薄膜等の解析も行われている。
キーワード:小角散乱法、スリットブレード
(公財)高輝度光科学研究センター・利用研究促進部門・構造生物グループ
Structural Biology Group, Research and Utilization Division, JASRI・
(現所属:a(公財)高輝度光科学研究センター・タンパク質結晶解析推進室 ・タンパク質構造解析促進グループ、b大阪薬科大学・薬学部)
(Current affiliation: aStructure Analysis Promotion Group, Protein Crystal Analysis Division, JASRI, bFaculty of Pharmaceutical Sciences, Osaka University of Pharmaceutical Sciences)
- Abstract
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BL41XUは、SPring-8標準真空封止アンジュレータを光源に持つタンパク質結晶構造解析ビームラインである。高フラックスビームを利用して回折データ測定を行えることから、主として膜タンパク質・超分子複合体など、良質な結晶を得ることが困難な高難度試料の構造決定に利用されている。2013年度は、冬期停止期間(2014年1~3月)を利用して光学系・回折計・検出器を入れ替える抜本的な高度化を実施した他、2013A、B期で運用した新しいピンホールコリメータシステムの導入、および、分光器液体窒素冷却システムの立ち上げを行った。
キーワード:高フラックスビーム、マイクロビーム、高速データ測定
(公財)高輝度光科学研究センター・利用研究促進部門・分光物性Ⅱグループ
Spectroscopy Group Ⅱ, Research & Utilization Division, JASRI
- Abstract
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BL43IRでは赤外放射光の高輝度性を活かし、通常実験室光源では達成できない、微小領域、微小試料の赤外顕微分光を行っている。このため、高空間分解顕微鏡、長作動距離顕微鏡、磁気光学顕微鏡の三種の赤外顕微鏡を備える。また、回折限界を超える空間分解能を得るために近接場顕微分光装置の開発を行っている。2013年度の高度化では、輸送光学系に起因する振動ノイズの除去と水溶液測定セルの整備に重点をおいた。このほか、赤外近接場分光装置の開発や円偏光利用のためのスタディも行った。
キーワード:赤外顕微分光、振動ノイズ、高空間分解
(公財)高輝度光科学研究センター・産業利用推進室・産業利用支援グループ
Industrial User Support Group, Industrial Application Division, JASRI
- Abstract
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BL46XUは産業界による放射光利用の促進を主な目的とする産業利用ビームラインであり、アンジュレータを光源とする高輝度X線を利用することができる。主に硬X線光電子分光(HAXPES)とX線回折・散乱を測定手法とした利用実験を提供している。BL46XUでは2012年度末にJASRI光源・光学系部門、制御・情報部門の協力の下、二結晶分光器の液体窒素冷却化と第2実験ハッチの増設を実施した。2013年度は二結晶分光器の立上げ調整、並びに、第2実験ハッチに設置した硬X線光電子分光装置の機器整備を中心に行った。
キーワード:X線回折、硬X線光電子分光、データベース、自動化
a(公財)高輝度光科学研究センター・利用研究促進部門・応用分光物性グループ、b同・バイオ・ソフトマテリアルグループ
aHard X-ray Spectroscopy Group, Research & Utilization Division, JASRI, bBio- and Soft-materials Group, Research & Utilization Division, JASRI
- Abstract
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BL47XUはSPring-8標準型の真空封止アンジュレータを光源としたビームラインで、主として結像顕微鏡を用いた高分解能イメージング実験と、硬X線光電子分光実験(HArd X-ray PhotoEmission Spectroscopy:HAXPES)に使用されている。結像顕微鏡では、500 nmを切る分解能の3次元CT撮影が定常的に行われている。HAXPESは、広角対物レンズを用いた角度分解深さ分析法やKBマイクロビームを用いた微小領域電子状態のイメージング計測も、利用研究可能である。また、高分解能X線画像検出器を用いた観察・フレネルゾーンプレート(FZP)を用いて形成した微小ビームを利用したX線回折実験や蛍光X線観察も実施可能である。
キーワード:X線顕微鏡、位相コントラスト、硬X線光電子分光、マイクロビーム、角度分解深さ分析
Section SACLA
a立命館大学, b京都大学
aRitsumeikan University, bKyoto University
- Abstract
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分子状酸素を光活性化する機能を持つ高分散担持バナジウム触媒を対象とし、XFEL光を利用した波長分散型XAFS(DXAFS)により固体触媒の光励起状態を観測することを試みた。SACLAでのDXAFS実験は均一系について報告されているが[1]、不均一固体試料での応用はまだなされていない。XFELでのDXAFS実験と不均一試料でのポンプ・プローブ実験について明らかになった課題を報告する。
キーワード: 光触媒、単分散バナジウム、波長分散型XAFS、ポンプ・プローブ法