SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume3 No.1

Section A : Scientific Research Report

Cuをドープしたトポロジカル絶縁体CuxBi2Se3の結晶構造
Crystal Structure of Cu-doped Topological Insulator CuxBi2Se3

DOI:10.18957/rr.3.1.17
2011B4500 / BL15XU

茂筑 高士a, 土屋 佳則a, 鈴木 悠介b, 藤井 宏樹a, 松下 能孝a, 坂田 修身a, 田中 雅彦a, 勝矢 良雄a

Takashi Mochikua, Yoshinori Tsuchiyaa, Yusuke Suzukib, Hiroki Fujiia, Yoshitaka Matsushitaa, Osami Sakataa, Masahiko Tanakaa, Yoshio Katsuyaa

a(独)物質・材料研究機構, b筑波大学

aNational Institute for Materials Science, bUniversity of Tsukuba



Abstract

 バルクとしては絶縁体であるが、表面のみが金属状態を有するトポロジカル絶縁体Bi2Se3にCuをドープすると、約3 Kにおいて超伝導が発現する。ドープされたCuはBi2Se3層間に挿入されると考えられているが、Cuがどのサイトを占有するかを解析した報告はない。本課題では、粉末放射光X線回折により結晶構造解析を行い、Cuが占有するサイトを調べることを目的とした。その結果、CuがBi2Se3層間に挿入されるが、Cu仕込み量xが0.15以上になるとそれだけでは説明できない振る舞いが見られた。


キーワード: トポロジカル絶縁体、Bi2Se3、超伝導、粉末X線回折


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背景と研究目的:

 トポロジカル絶縁体とは、エネルギーギャップを持つバルク絶縁体であるにもかかわらず、バクルエッジ(3次元の場合は表面)にギャップレスのスピン偏極した金属状態が発現している物質である。従来の絶縁体、半導体及び金属という分類には当てはまらない新しい物質としてその基礎物性が注目されるとともに、表面状態を利用したスピントロニクスや量子コンピューターへの応用が期待されている。そのトポロジカル絶縁体の1つであるBi2Se3にCuをドープすると、約3 Kの超伝導転移温度(Tc)を持つ超伝導体になることが報告された[1]。ドープされたCuはBi2Se3層間に挿入されると考えられているが、Cuが占有するサイトを解析した報告はない。超伝導発現のメカニズムを検討する上で、まずは正確な結晶構造を把握することが求められる。本課題では、Cuドープ量(仕込み量)xを変えたいくつかのCuxBi2Se3試料の粉末放射光X線回折データを収集して、結晶構造解析を行い、ドープされたCuが占有するサイトを決定し、超伝導との関連を検討することを目的とした。


実験:

 CuxBi2Se3試料はCu、Bi及びSeを原料として溶融法により育成され、育成されたインゴットより劈開して切り出したものを測定に使用した。切り出した試料については、誘導結合プラズマ発光分析(ICP-OES)により組成の定量分析、SQUIDによる磁化測定及びホール効果測定を行った。それらの結果を図1に示す。x = 0.15までは仕込み通りCuが試料に入っていて、それ以上仕込み量を増やしてもCuは入らない。また、xが0.10以上の試料において超伝導が発現し、Tcにはあまりx依存性は見られず、超伝導体積分率もxにかかわらず5%程度である。一方、ホール測定より見積もったキャリア濃度nには、Tcとの相関は見られず、xが0.15より大きくなるとキャリア濃度nが減少している。粉末X線回折データは、切り出した試料を粉末にして、BL15XUの高分解能粉末X線回折装置(波長0.63019 Å)により測定した後、リートベルト法により結晶構造を精密化し、最大エントロピー法により電子密度分布を解析した。その際使用した構造モデル(六方晶、空間群R-3m)を表1に示す[2]。また、解析に使用したコンピュータープログラムはRIETAN-FPである[3]。測定された回折データは構造モデルから計算されたデータとよくフィットしており、各試料のリートベルト解析のR因子はRwp = 1〜2%であった。



図1. 超伝導転移温度Tc及びキャリア濃度nのCu仕込み量x依存性(a)、

  Cu仕込み量xと分析により求めたCu量(b)。


表1. CuxBi2Se3の構造モデル。



図2. 最大エントロピー法により解析した電子密度分布(a, b)及び結晶構造(c)。



図3. 格子定数及び原子間距離のCu仕込み量x依存性。


結果および考察:

 図2に最大エントロピー法による電子密度分布の解析結果を示す。x = 0.08の分布を見ると、原子座標(0, 0, 1/2)の位置にx = 0には見られない高い密度の領域が見られ、この位置にCuが挿入されている可能性が高い。したがって、リートベルト解析の構造モデルではCuを3bサイト(0, 0,1/2)に置いている。Cuの席占有率と熱振動パラメーターとは相関が非常に強いため、Cuの席占有率を決定することは難しく、それぞれCu仕込み量x、1.0 Å2に固定している。図3にリートベルト解析によって得られた格子定数及び原子間距離のCu仕込み量x依存性を示す。xが増加しても格子定数aはあまり変化しないが、格子定数cx = 0.15まで増加し、その後減少する。格子定数cの値は、x = 0及びx = 0.12ともに先行研究[1]と比較すると短く、その原因は不明である。Bi-Cu間距離にも格子定数cと同様の傾向が見られ、x = 0.15を境界に変化が異なる。x = 0.15まではCuがBi2Se3層間に挿入されてBi-Cu間距離が増加すると考えられる。

 一方、x = 0.15を超えるとBi-Cu間距離は短くなり、分析値ではCu量は変わらないはずであるが、Bi2Se3層間に挿入されたCuがあたかも減少しているような振る舞いが見られる。また、蒸気圧の高いSeを含むため、試料中のSeが欠損している可能性があるが、熱振動パラメーターには欠損を示唆するような異常な値を示さないので、欠損があったとしても非常にわずかであると予想される。Bi2Se3においては、Bi2Se3層間に挿入されたCuが超伝導を発現する1つの要因となってはいるが、Cu仕込み量x、結晶構造、超伝導転移温度Tc及びキャリア濃度nとの間に相関は見られない。


今後の課題:

 x ≥ 0.15では、Bi-Cu間距離に単にBi2Se3層間にCuが挿入されることだけでは説明できない振る舞いが見られたので、今後その要因を検討していく予定である。


参考文献:

[1] Y. S. Hor, A. J. William, J. G. Checkelsky, P. Roushan, J. Seo, Q. Xu, H. W. Zandbergen, A. Yazdani,N. P. Ong, R. J. Cava, Phys. Rev. Lett. 104, 057001 (2010).

[2] H. Lind, S. Lidin, Solid State Sci. 5, 47 (2003).

[3] F. Izumi, K. Momma, Solid State Phenom. 130, 15 (2007).



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(Received: August 19, 2014; Early edition: October 31, 2014; Accepted: January 16, 2015; Published: February 10, 2015)