SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume3 No.2

SPring-8 Section B: Industrial Application Report

高温酸化により(Fe,Ni)-Cr-Al合金上に形成するクロミアからアルミナ皮膜への初期遷移挙動におよぼす合金中のCrおよびAlの影響
Effect of Cr and Al Content on the Transition of Cr2O3 to Al2O3 Scale Formed on (Fe,Ni)-Cr-Al Alloys during Early Stage of High-Temperature Oxidation in Air

DOI:10.18957/rr.3.2.579
2014A1550 / BL19B2

林 重成a, 米田 鈴枝b, 佐伯 功c, 京 将司d, 山内 啓e, 河内 礼文f, 土岐 隆太郎f, 水谷 映斗g

Shigenari Hayashia, Suzue Yonedab, Isao Saekic, Shoji Kyod, Akira Yamauchie, Norihumi Kochif, Ryutaro Tokif, Akito Mizutanig


a東京工業大学, b北海道大学, c室蘭工業大学, d関西電力(株), e群馬工業高等専門学校, f新日鐵住金(株), gJFEスチール(株)

aTokyo Institute of Technology, bHokkaido University, cMuroran Institute of Technology, dKansai Electric Power, eGunma National College of Technology, fNippon Steel & Sumitomo Metal Corporation, gJFE Steel Corporation.


Abstract

 異なるCr,Al濃度を含有するFe-Cr-Al合金を用いて、初期遷移酸化皮膜からアルミナ皮膜への遷移挙動を構造解析により検討し、アルミナ皮膜形成におよぼす合金中のCrおよびAlの影響を調査した。すべての合金上には、昇温中にFeリッチな初期酸化皮膜(Fe,Cr,Al)2O3が形成した。その後、Crの選択酸化により初期酸化膜はCrリッチになり、次いで、Al2O3が形成した。このAl2O3形成までの酸化皮膜の変化は連続的な変化であった。この連続的な構造変化は、合金中のCrおよびAl濃度に依存した。


キーワード: In-situ測定、高温X線回折、高温酸化、アルミナスケール


Download PDF (2.18 MB)

背景と研究目的:

 高温機器の稼働温度の上昇により1000℃以上でも優れた耐酸化性を有するアルミナ形成オーステナイト系耐熱合金の開発が求められている。オーステナイト系合金上へのアルミナ皮膜形成にはフェライト系よりもAlを高濃度で添加する必要があるが、靭性や加工性等の機械的特性確保のためAl添加量は制限され、アルミナ皮膜形成オーステナイト系耐熱合金の実用化が困難となっている。

 合金中へのCr添加は、アルミナ皮膜形成に必要な臨界Al濃度を低減することが広く知られている。このCrの効果はThird Element Effect(TEE)と言われており、酸化のごく初期に形成したクロミアが、合金表面の酸素分圧を低下させ、アルミナ皮膜形成を促進すると説明されている[1]。しかしながら、TEEはこれまで実験的に検証されておらず不明な点が多い。

 著者らがこれまでに行ったNi-Cr-Al合金のin-situ高温X線回折実験から、クロミアからアルミナへの遷移には、酸化初期に形成する遷移酸化皮膜の耐酸化性が強く影響することが示唆された[2]。Cr添加による臨界Al濃度低減機構のさらなる理解のためには、CrおよびAl添加量を広く系統的に変化させた合金を用いたIn-situ酸化実験により、初期酸化皮膜の構造と組成におよぼすこれら元素の影響を明らかにする必要がある。しかしながら、Ni-Cr-Al三元系のγ単相領域は狭く、Cr,Al濃度を広く変化させることが困難であった。

 そこで本測定では、異なるCr,Al濃度を含有するFe-Cr-Al合金上に形成する遷移酸化皮膜の構造および組成におよぼす合金組成の影響と、遷移酸化皮膜のアルミナ皮膜への遷移挙動を検討し、アルミナ皮膜形成におよぼす合金中のCrおよびAlの影響を明らかにすることを目的とした。


実験:

 本測定は、ビームラインBL19B2で実施し、X線のエネルギーは 12.4 keV(1.000 Å)を用いた。多軸ゴニオメーターに高温ステージ(ANTON PARR社製 DHS110)を組み合わせ、試料への入射角(入射光と試料面法線とのなす角度)α=78°、ビーム径550×450 µmで試料へ入射した。二次元検出器PLATUS300Kを中心角度2θ=24°で設置し、カメラ長を418.28 mmとして回折X線を二次元検出した。本測定申請時は、試料はすべてオーステナイト系合金としていたが、放射光測定前に行った予備酸化実験結果から、オーステナイト系合金では合金組成に依存して母相が二相合金となり、それが酸化挙動に強く影響することが明らかになったことから、合金中のCrおよびAlの影響を詳細に調査するためには、広い組成範囲で単相領域を有するフェライト系が適していると考え、測定試料として、10 mmϕのダブレット状(厚さ1 mm)のFe-(4,12,16,20,24)Cr-(5,6)AlおよびFe-20Cr-10Al合金の計11試料を用意した。試料は、大気中、室温から50℃/minで1000℃まで昇温し、その後最大1時間の等温酸化を行った。昇温を含む酸化中に形成する表面酸化皮膜からの回折信号を10秒毎に 3秒間測定した。


結果および考察:

 今回の測定では測定中に高温ステージが断線したため、11試料のうちFe-(4,12,16,20,24)Cr-6AlおよびFe-20Cr-10Alの6試料しか測定できなかった。

 酸化挙動は、合金のCrおよびAlの濃度に依存して3つの異なる挙動に分けられることがわかった。図1に、それぞれの挙動の代表例として、Fe-4Cr-6Al、Fe-24Cr-6AlおよびFe-20Cr-10Al合金の加熱時を含むin-situ X線回折パターンを示す。なお、昇温のごく初期の回折パターンをそれぞれ図中に拡大して示す。すべての合金上には昇温のごく初期に2θ=21°付近に初期酸化皮膜からの微弱なピークが検出された。いずれの合金に形成した初期酸化皮膜は、Fe2O3に近い面間隔を有するコランダム構造の(Fe,Cr,Al)2O3固溶体であった。



図1 Fe-4Cr-6Al, Fe-24Cr-6AlおよびFe-20Cr-10Al合金の高温X線回折パターン


 図2にこれら初期酸化皮膜とその後形成するAl2O3皮膜の面間隔の時間変化を示す。高Cr組成のFe-24Cr-6Al合金では昇温中にも関わらず初期酸化皮膜の面間隔は急激に低下し、Cr2O3の面間隔と近い値で一定となった。この初期酸化皮膜の面間隔の低下は、Feイオンと比較してイオン半径の小さなCrイオンが初期酸化皮膜中に固溶した、すなわち、昇温中にCrの選択酸化が生じたことを意味している。Crの選択酸化により初期酸化皮膜中のCr濃度が増加するため、合金表面の酸素分圧は低下する。したがって、この昇温期間中の酸素分圧の低下が、低Al合金上へのAl2O3皮膜の形成を促進したことが示唆される。低Cr組成のFe-4Cr-6Al合金では、Fe-24Cr-6Al合金で認められた初期酸化皮膜の面間隔の急激な低下は認められなかったが、昇温中に一定の値をとった。これは、この合金においてもCrの選択酸化が生じたためであると考えられる。したがって、合金表面の酸素分圧が低下し、その結果、その後Al2O3形成に至ったと言える。

 一方、高Al組成のFe-20Cr-10Al合金では、Fe-24Cr-6Al合金と同様に初期酸化皮膜の面間隔の急激な低下が認められた。しかし、Fe-24Cr-6Al合金とは異なりCr2O3の面間隔よりもさらに低下し、Al2O3の面間隔に近い値で一定となった。これは、合金中のAl濃度が高いため、合金表面へのAlの供給が多く、Alの選択酸化も生じ、CrリッチにはなるもののそのままAl2O3へと遷移したためであると考えられる。



図2 初期酸化皮膜およびAl2O3の面間隔の時間変化

(a)Fe-24Cr-6Al (b)Fe-4Cr-6Al (c)Fe-20Cr-10Al


まとめ:

今回の実験から、以下のことが明らかとなった。

・酸化初期に形成する初期酸化皮膜はFeリッチなコランダム型の(Fe,Cr,Al)2O3であり、その後Crリッチとなり、Al2O3が形成した。

・初期酸化皮膜からAl2O3形成までの構造変化は、すべての合金で連続的な変化であったが、この変化は合金中のCrおよびAl濃度に依存した。

・これまで提案されていたTEEのCr2O3形成による合金表面の酸素分圧低下ではなく、Crの選択酸化により連続的に酸素分圧が低下するため、Al2O3形成が促進されることがわかった。


今後の課題:

 Al2O3形成は、初期酸化皮膜から連続的に遷移することがわかったので、初期酸化皮膜が変わると移挙動がどう変化するのか、その遷移に合金組成はどう影響しているのかを調査し、種々の合金元素の影響を検討する。特にFe基の場合は、Fe2O3、Cr2O3およびAl2O3が同じ結晶構造を有しており、CrだけではなくFeもAl2O3の形成に強く影響していることが予想されるため、まずは、(Fe,Ni)-Cr-Al合金を用いてFeとCrの比を変化させ、FeとCrの影響を調査する。

 また、昇温速度を変化させ、Crリッチな酸化皮膜からAl2O3形成まで詳細な構造変化を観察し、それに対する合金組成の依存性を検討する。


謝辞:

本研究の一部は、公益財団法人JKA, Ring-Ringプロジェクト(研究補助)および、JST国家課題対応型研究開発推進事業(原子力システム研究開発事業)からの補助を受けた。


参考文献:

[1] C.Wagner, Corro. Sci., 5 (1965), 751.

[2] 林重成 他、平成25年度SPring-8重点産業化促進課題・一般課題(産業分野)実施報告書 (2013A), 2013A1824.



ⒸJASRI


(Received: January 23, 2015; Early edition: March 25, 2015; Accepted: June 29, 2015; Published: July 21, 2015)