SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume3 No.1

Section C : Technical Report

BL28B2(白色X線回折)の現状(2014)
Present Status of BL28B2 (2014)

DOI:10.18957/rr.3.1.207
2012A1793, 2013B1927 / BL28B2

梅谷 啓二a、梶原 堅太郎b加藤 和男c

Keiji Umetania, Kentaro Kajiwarab, Kazuo Katoc

a(公財)高輝度光科学研究センター・利用研究促進部門・バイオ・ソフトマテリアルグループ、b同・産業利用推進室・産業利用支援グループ、c同・利用研究促進部門・分光物性Iグループ

aBio- and Soft-materials Group, Research & Utilization Division, JASRI, bIndustrial User Support Group, Industrial Application Division, JASRI, cSpectroscopy GroupⅠ, Research & Utilization Division, JASRI

Abstract

 BL28B2は標準的な偏向電磁石を光源としたビームラインで、薬効評価などのための小動物生体機能イメージング、マイクロビーム放射線治療の基礎研究、高エネルギー白色X線による回折とイメージング実験、時間分解エネルギー分散XAFS(DXAFS)測定、高温高圧実験など、広範な研究分野に対し様々な手法を用いた白色X線を利用する実験に利用されている。近年に実施した主な高度化は、マイクロビーム放射線治療の基礎研究に関して、装置全体の統合によるユーザーフレンドリー化、高エネルギー白色X線による回折とイメージング実験に関して、2012年からCT測定とXRD測定の両方の測定を行う装置の開発と改良、時間分解エネルギー分散XAFS(DXAFS)測定に関して、低エネルギー領域DXAFS計測の高度化などである。本稿では、BL28B2の現在の利用状況と、近年の高度化研究開発による利用研究の拡大について報告する。


キーワード:マイクロビーム放射線治療、ユーザーフレンドリー、X線回折手法XRD、CT測定、低エネルギー領域DXAFS


I.基本性能と実験装置

(詳細は、http://www.spring8.or.jp/wkg/BL28B2/instrument/lang/INS-0000000505/instrument_summary_viewを参照)

 光源はSPring-8標準型の偏向電磁石であり、ベリリウム窓から出射される白色X線をそのままの形で利用することができる。

エネルギー領域 白色(> 5 keV ベリリウム窓での吸収による)
ビームサイズ 50 mm (水平) × 10 mm (鉛直)
(光源からの距離 44 m 地点において)

使用できる実験装置としては、主に以下のものがある。

(1)小動物生体機能イメージングおよびマイクロビーム放射線治療基礎研究の設備
(2)高エネルギー白色X線による回折とイメージング実験の設備
(3)時間分解エネルギー分散XAFS(DXAFS)測定の設備
(4)高温高圧実験の設備

図1に、実験ステーションレイアウトを示す。基本性能と実験装置に関して近年は大きな変更はないが、それぞれの研究分野ごとに設備の集約を進め実験効率の向上を進めてきた。図1の第一光学ハッチのMirrorと第二光学ハッチの最上流のDiffractometerは時間分解エネルギー分散XAFS(DXAFS)測定、その下流のMonochromator部分は小動物生体機能イメージングおよびマイクロビーム放射線治療基礎研究などの医学利用関係、最下流のDiffractometerは高エネルギー白色X線による回折とイメージング実験、第三光学ハッチは高温高圧実験に用いられている。


図1 実験ステーションのレイアウト


Ⅱ.利用状況

 2013A期2013B期合わせて、31課題が実施された。利用状況の内訳は、小動物生体機能イメージング及びマイクロビーム放射線治療基礎研究の関連が11課題で合計126シフト、高エネルギー白色X線による回折とイメージング実験の関連が16課題で合計159シフト、時間分解エネルギー分散XAFS(DXAFS)測定の関連が4課題で合計60シフト、高温高圧実験はこの期間には実施されなかった。なお、高エネルギー白色X線による回折とイメージング実験の関連には、産業利用課題が5課題で合計53シフト含まれていた。


Ⅲ.高度化の実施内容と成果

(1) マイクロビーム放射線治療の基礎研究

 放射線治療では、体外から体内の正常組織に囲まれた癌組織へ照射するため、正常組織への影響を最小限に抑え、癌組織へは最大限の損傷を与えることが重要である。一般の治療では、まずX線CTで癌組織を画像化し治療計画を立て、続いて治療装置の治療用放射線で撮影した照射野確認画像で照射範囲を確定し照射する。しかし、一般の治療用放射線で撮影する透過像はコントラストや解像度が低く、照射野照合を正確に実施することが難しい。

 このために2011年度の高度化において、実験動物を使った基礎研究のために、着目部位の辺縁部分が輪郭強調される屈折コントラスト法での鮮明な画像を撮影するシステムを開発し利用の拡大を進めた。マイクロビーム放射線治療の基礎研究では、厚さが25 μm程度で横幅が10 mm程度の白色X線のシート状ビームを使う。例えば、このシート状ビームを200 μm程度の間隔で縦に50ビーム並べると、横幅が10 mm程度で縦幅が10 mm程度の領域へ、すだれ状にビームが照射される。このような照射ならば通常の放射線治療に比べ、正常組織への影響が非常に小さいため副作用がほとんどなく癌治療が可能となると予想されている。この治療ビーム照射に先立つ照射野確認画像の撮影では、上下左右のスリットを広げた広いX線視野で行う。屈折コントラスト法では、被写体と画像検出器の間隔を長くする必要があるが、密着状態から6.5 mの距離まで設定でき、幅広い研究への利用が可能となっている。

 その後は、照射野確認画像撮影システムを使い易くしてユーザーフレンドリーなシステムとするための改良を続けてきた。従来はX線照射装置と画像撮影装置が個別の制御の後に連動する方式であり、非常に複雑で使用法の習得に時間を要したが、高度化を進め図2の実験装置全体を制御するウインドウに示すように、一つのウインドウで照射野確認画像撮影とマイクロビーム放射線治療の制御が可能となり、ユーザーフレンドリーなシステムを実現することができた。さらに、このウインドウの中でもユーザーは、左側の実験パラメータ設定のみの操作で実験が可能となっている。この結果、生体での白色X線イメージングにおいて幅広いユーザー利用が可能となった。


図2 マイクロビーム放射線治療の基礎研究のための実験装置全体の制御ウインドウ


(2) 高エネルギー白色X線による回折とイメージング実験

 BL28B2では白色X線マイクロビームを用いたエネルギー分散型の回折実験を行っている。このX線回折手法XRDとCT測定を組み合わせて、コンクリート材料の鉱物分布を評価するシステムを構築した(図3)。本手法は、まず、コンクリート試料の内部構造(き裂や骨材の分布など)をX線CTで観察する。次に再構成された試料の断面像中に、鉱物の相を同定する領域を決定し、最後にその領域をXRDで評価する。本手法の開発は2012年度から行っており、既にユーザーによる供用実験が開始されている。

・測定の高効率化

 回折実験におけるスリットサイズの最適化、CT測定とXRD測定の切り替えの自動化、試料搖動による測定精度の向上、および測定プログラムのユーザインターフェイスの改良を行った。本手法は、セメントやコンクリート業界における放射光ユーザーの拡大を目的としており、実験に不慣れな利用者でも容易に実施できるような環境を整備することができた。


図3 CT-XRD連成測定のレイアウト図と写真


(3) 時間分解エネルギー分散XAFS(DXAFS)測定

・低エネルギー領域でのDXAFS計測の高度化

 低エネルギー領域におけるDXAFSスペクトルの高質化を目的としてインハウス課題(2012A1793、2013B1927)を実施した。

 BL28B2のエネルギー分散型XAFS(DXAFS)計測システムでは、12 keVより低エネルギー領域でのDXAFS測定にはブラッグ型結晶分光器を使用している。ブラッグ型分光器では、測定エネルギーによって分光結晶の湾曲曲率を大きく変える必要があるため、湾曲量可変型の結晶湾曲機構を採用している。結晶の冷却には、結晶と冷却ブロックとの間に熱伝導体としてインジウム-ガリウム合金を挿入した間接水冷却機構が多くのDXAFS計測システムで採用されている。しかし、インジウム-ガリウム合金は侵食性が高く、その除去も困難など取り扱い上の問題がある。そこで、熱伝導体として銅粒子を用いた新しい間接冷却型結晶湾曲機構を開発した。本課題では、本冷却機構の冷却水流量の最適化を目的として、水流量がXAFSスペクトルに及ぼす影響についてスタディを行った。DXAFS計測はNi-K端(8.3 keV)にてNi箔に対して行った。得られたDXAFSスペクトルのホワイトラインのピーク強度の時間変化を図4に示す。冷却水の流量を1.8 L/minにすることにより、安定化することが確認された。今後、ホワイトラインのピーク強度変化が微弱な反応や構造変化における速度論的解析に活用されることが期待される。



図4 Ni箔のNi-K端(8.3 keV)DXAFSホワイトラインピーク強度の時間変化



ⒸJASRI


(Received: September 5, 2014; Early edition: November 28, 2014; Accepted: January 16, 2015; Published: February 10, 2015)