SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume3 No.1

Section C : Technical Report

BL01B1(XAFS)の現状(2014)
Present Status of BL01B1 (2014)

DOI:10.18957/rr.3.1.95
2011B2100, 2012A1852, 2013B1902, 2013B1917 / BL01B1

新田 清文a、伊奈 稔哲a、加藤 和男a小原 真司b宇留賀 朋哉a

Kiyofumi Nittaa, Toshiaki Inaa, Kazuo Katoa, Shinji Koharab, Tomoya Urugaa

a(公財)高輝度光科学研究センター・利用研究促進部門・分光物性Iグループ、b同・構造物性Ⅰグループ

aSpectroscopy GroupⅠ, Research & Utilization Division, JASRI, bMaterials Structure GroupⅠ, Research & Utilization Division, JASRI

Abstract

 ビームラインBL01B1(XAFS)は、偏向電磁石を光源としたビームラインで、広いエネルギー領域(3.8-113 keV)に渡り、様々な環境下にある実試料に対して、in-situ時間分解計測など多様な計測手法を用いたXAFS実験に使用されている。本稿では、BL01B1の現在の利用状況と、近年実施した高度化研究開発について報告する。


キーワード:高温in-situ XAFS、高エネルギー蛍光法XAFS、透過法顕微XAFS


I.基本性能と実験装置

(詳細は、http://www.spring8.or.jp/wkg/BL01B1/instrument/lang/INS-0000000401/instrument_summary_viewを参照)

 光源は偏向電磁石である。分光器はSPring-8標準型の可変傾斜型二結晶分光器であり、Si(111)、Si(311)、Si(511)の各結晶面を真空破断することなく切り替えることにより、3.8 keVから113 keVまでの広いエネルギー領域をカバーしている。前置ミラーにより高エネルギー分解能化と高調波除去、後置ミラーにより垂直集光と高調波除去を行っている[1,2]


エネルギー領域 3.8 ~ 37 keV(Si 111), 7 ~ 72 keV(Si 311), 11 ~ 113 keV(Si 511)
エネルギー分解能 ΔE/E ~ 2 × 10-4 (Si 111), 4 × 10-5 (Si 311), 2 × 10-5 (Si 511)
フラックス 2 × 1011 phs/s(Si 111, E = 10 keV, 蓄積電流:100 mA)
ビームサイズ(半値全幅) 0.2 ~ 10 mm (水平) × 0.2 ~ 3 mm (垂直)

使用できる主な実験装置としては以下のものがある。

(1)透過法XAFS計測装置
(2)蛍光法XAFS計測装置(ライトル検出器、19素子Ge検出器)
(3)転換電子収量法XAFS計測装置
(4)2軸回折計、4 K冷凍機、電気炉、in-situガス雰囲気試料セル、ガス供給除害装置

図1に、光学系・実験ステーションレイアウトを示す。基本性能と実験装置に昨年度からの大きな変更はない。


図1 BL01B1全体レイアウト


Ⅱ.利用状況

 2013A期2013B期合わせて53課題が実施された。採択率は、2013A期、2013B期それぞれ、80%、61%であった。図2(a)に、課題種別の割合を示す。20%が萌芽的研究支援課題(萌芽課題)に利用されている(重点課題:重点グリーン/ライフ・イノベーション推進課題)。図2(b)に、研究分野別の割合を示す。触媒、材料物質、電池、デバイス、地球環境物質など幅広い研究分野に渡り実験が行われている。図2(c)に測定手法別の割合を示す。in-situ XAFS測定(in-situ測定)や極希薄・薄膜試料に対する蛍光XAFS測定(極希薄試料蛍光測定)の割合が高い。


(a)(b)(c)

図2 採択課題に対する(a)課題種別割合、(b)研究分野別割合、(c)計測手法別割合


Ⅲ.高度化の実施内容と成果

(1) キャピラリ封入試料に対する高温高精度in-situ XAFS測定法の構築

 試料セルとしてキャピラリを用いた高温in-situ XAFS計測を高精度に行うシステムを構築することを目的としてインハウス課題(2013B1902)を実施した(図3)。XAFS計測では、試料内のX線の透過距離を均一にすることが必要なため、試料セルのほとんどは入射X線に対し表面が平面形状をもつよう設計されている。そのため、キャピラリは従来XAFS計測に積極的には利用されてこなかった。しかしながら、粉末試料に対するin-situ実験の場合、キャピラリを用いると試料容器の設計が容易になり、XAFS計測が行いやすくなる場合が多い。本課題では、試料粉末のキャピラリへの充填方法、X線に対するキャピラリの位置調整方法、試料の過熱方法等についてスタディを行った。キャピラリの過熱には、ガス吹付型ヒーターを用いた。キャピラリの位置調整を行う自動ステージが昇温により熱ドリフトしないよう水冷ステージをキャピラリ支持台の下に設置した。テスト計測として、インジウム-スズ酸化物に対して120〜420℃の昇温過程でIn K端XAFS計測を行った。得られたXAFSスペクトルは昇温過程の局所構造変化を追跡するには十分な質であったが、k > 10 Å-1の領域のS/N比がペレット試料と比べると若干低かった。今後、試料充填方法の改良によるスペクトルの高質化および、同条件でのXRD/XAFS測定システムの構築を計画している。本高度化の進展により、これまで高温in-situ XAFS計測が困難であった粉末試料に対する利用が拡大することが期待される。また、同時XRD計測により、結晶部分に関する構造情報が得られるため、より高精度な構造モデル構築が期待される。


図3 キャピラリ試料に対する高温下XAFS計測装置


(2) 高エネルギー領域での蛍光法XAFS計測の高度化

 高エネルギー領域の蛍光XAFSスペクトルを高質化することを目的としてインハウス課題(2013B1917)を実施した。高エネルギー領域(20 keV以上)の蛍光法XAFS計測では、トムソン散乱に加えてコンプトン散乱の強度が大きく増大する。コンプトン散乱は、目的元素の蛍光X線に近いエネルギーをもつため、蛍光X線スペクトルにバックグラウンドとして混入し、XAFSスペクトルのS/B比を劣化させる。特に濃度が希薄な試料ほどそれが顕著である。そこで、19素子Ge検出器の配置を最適化することによりコンプトン散乱の影響を低減するスタディを行った。テスト測定は、(FePt)0.9Ag0.1C薄膜に対して斜入射配置Ag K端XAFS計測(25.5 keV付近)を行った(入射角:1°)。検出器と入射X線のなす角度を変えながら、エネルギースペクトルを計測した。理論から予想されるように、コンプトン散乱のピークエネルギーは低角度になるほど高エネルギー側にシフトし、目的元素の蛍光X線エネルギーから離れてバックグラウンドは低減した。

 一方、低角度になるほどトムソン散乱の強度は著しく増加し、目的元素の蛍光X線量の相対強度が減少した。両散乱の影響を総合的に考慮し、検出器と入射X線のなす角度として60°程度が適当と判断した(図4(a))。この配置で、更に試料薄膜からの回折の影響を低減するため、試料の面内回転(±2°)を行いながら計測を行ったところ、バックグラウンドが低く、回折線の影響のない高質なXAFSスペクトルの計測に成功した(図4(b),(c))[3]。本計測法は、薄膜試料のみでなく、ペレット等の形状の試料に対しても適用できる。今後、本計測手法により、従来よりも高い精度・信頼性をもつ構造・化学状態情報により、材料物質・デバイスの性質・機能発現のメカニズムが解明されると共に、新規開発に役立てられることが期待される。


図4 (a)XAFS計測装置配置。FePtAgC薄膜Ag K端XAFS、(b)入射X線と検出器のなす角:90°(試料面内回転なし)、(c)60°(試料面内回転あり)の時のスペクトル


(3) ビームプロファイルモニタを用いた透過型顕微XAFS計測システムの構築

 ミクロンオーダーの空間分解能をもつ透過型顕微XAFS計測システムの構築を目的としてインハウス課題(2011B2100、2012A1852)を実施した。検出器として、50倍の拡大率をもつX線可視化イメージングユニットと高速CMOS検出器を組み合わせたビームプロファイルモニタを用いて、X線エネルギーを変えながら試料からの透過X線像を計測することにより顕微XAFS像を計測するシステムを構築した(図5(a))。テスト測定は、燃料電池電極膜(MEA)内のPt触媒(Pt担持量:6 mg/cm2)に対して、Pt L3端XANES計測を行った(図5(b),(c))。高濃度試料の場合、計測時間30分程度で視野:260 µm、空間分解能:2 µmの2次元顕微XANESスペクトルを良好に計測できることが確認できた。本計測手法は、ビームプロファイルモニタの拡大率を変更することにより、例えば、視野:1 mm、空間分解能:10 µmの2次元顕微XANES計測も可能である。また、透過法が適用できる濃度をもつ試料であれば、in-situ測定にも利用することが可能である。今後、燃料電池・蓄電池など空間的に不均一に反応が起こるデバイス・材料物質に対して広く利用されることが期待される。


図5 (a)透過型顕微XAFS計測システム、(b)MEAの2次元Pt吸収像、(c)各点のPt L3端XANES(分解能:2 µm、計測時間:38 min)


参考文献

[1] T. Uruga, et al., Journal of Synchrotron Radiation, 6, 143 (1999).

[2] T. Uruga, et al., Journal of Physics: Conference Series, 190, 012041 (2009).

[3] B. S. D. Ch. S. Varaprasad, et al., Applied Physics Letters, 104, 222403 (2014).



ⒸJASRI


(Received: August 30, 2014; Early edition: December 25, 2014; Accepted: January 16, 2015; Published: February 10, 2015)