Volume4 No.1
Published 25-January 2016 / SPring-8 Document D2016-004
SPring-8 Section A: Scientific Research Report
a広島大学大学院理学研究科, b(公財)高輝度光科学研究センター, c(独)物質・材料研究機構,
d(独)日本原子力研究開発機構, e(独)産業技術総合研究所創エネルギー技術
aGrad. Sch. of Sci., Hiroshima Univ., bJASRI/SPring-8, cNIMS, dJAEA/SPring-8, eRIEF, AIST
- Abstract
-
C15型ラーベス相化合物GdFe2とYFe2をGPaオーダーの水素雰囲気下で加圧し、水素化による電子状態と磁気状態の変化をGd L2吸収端およびFe K吸収端のX線吸収分光法とX線磁気円二色性(XMCD)から調べた。高圧下の水素化により強磁性秩序が消失したことでXMCDの強度が減少し、さらに加圧すると再び強磁性秩序が出現してXMCDの強度が増加した。常圧下と高圧下の強磁性秩序におけるXMCDの強度を比較すると高圧下のXMCDの強度は常圧の1/10程度と小さい。このことから高圧下の強磁性秩序はFeと希土類原子間の電子軌道の混成が水素の占有によって弱まった電子状態であることが分かった。
キーワード: ラーベス相,金属水素化物,高圧力,X線吸収分光法,X線磁気円二色性
a岩手大学, bケンブリッジ大学, c(独)港湾空港技術研究所, d日本大学
aIwate University, bUniversity of Cambridge, cPort and Airport Research Institute, dNihon University
- Abstract
-
土は含水量によってその状態を大きく変化させ、それに伴って外力に対する抵抗性も変化する。土のこのような性質をコンシステンシー特性といい、土木分野では土構造物の建設から土砂災害にまで関係する工学的に重要な特性である。本研究では小角X線散乱法を用いることで含水量の変化に伴う粘土粒子の構造の変化を明らかにし、土のコンシステンシーメカニズムの解明を試みた。その結果、Na型スメクタイトのクニピアFおよびCa型スメクタイトのクニボンドはコンシステンシー限界時にその構造を大きく変化させることが明らかとなった。とくに、クニピアFは塑性体領域において層間距離を増加させ、層間距離10-15 nmまで層構造を保つことが確認された。
キーワード: 粘土鉱物,水分子,コンシステンシー特性,層間距離,配向性
a東京工業大学, b東京都市大学, c(公財)高輝度光科学研究センター
aTokyo Institute of Technology, bTokyo City University, cJASRI
- Abstract
-
Si中にドープされたBおよびAsの化学結合状態を軟X線光電子分光で観測し、電気的活性/不活性との対応づけ、構造の異なる不純物クラスターの存在を推測し、これらの濃度を求めた。Bドープについては、二種類のクラスター形成の濃度比のドーズおよび熱処理条件の依存性から、クラスター形成過程についてモデルを提案した。Asドープについては、電気的に活性なAs原子およびクラスター化したAsを検出し、それらの濃度プロファイルを明らかにした。
キーワード: 軟X線光電子分光、ナノデバイス、Si、不純物、クラスター
a大阪大学大学院工学研究科, b京都工芸繊維大学, c(公財)高輝度光科学研究センター
aOsaka University, bKyoto Institute of Technology, cJASRI
- Abstract
-
直径が10 nm前後の半導体ナノ粒子(量子ドット)は、サイズの減少と共にバンドギャップエネルギーが増大する量子サイズ効果や、常温での蛍光発光など特異な性質を有する。我々は、サイズに応じて光吸収波長が変化する量子ドットの特性を利用し、光による粒径制御法「サイズ選択光エッチング法」を開発した。硫化カドミウム(CdS),テルル化カドミウム(CdTe)ナノ粒子について、単色性の高いナノ粒子溶液を得ることに成功している[1-3]。透過型電子顕微鏡観察の結果は、CdS、CdTeの何れも光エッチング反応による粒径・粒径分布の減少を示しているが、反応途中の光学スペクトル変化や反応速度が両者で全く異なっている。CdSとCdTeナノ粒子の光エッチング反応過程の違いを明らかにすることによって、反応効率を改善したり、同手法を他の種類の半導体に適用したりする際に、非常に重要な知見が得られると期待される。
キーワード: 半導体ナノ粒子、サイズ選択光エッチング、小角X線散乱法
a国立大学法人東京大学大学院農学生命科学研究科, b(公財)高輝度光科学研究センター
aGraduate School of Agricultural and Life Sciences, The University of Tokyo, bJASRI
- Abstract
-
本研究は、古文書を構成する料紙に含まれる微量元素を高感度蛍光X線により分析すると共に、既にデータベース化されている地質図や希土類元素分布図との相関分析を行うことにより、各料紙の産地を推定することを目的とした。紙の主原料である楮、雁皮、三椏に加え、現代和紙や古和紙から主原料や産地の異なる200点近くの試料を選択し、測定を行った。紙の原料である、楮、雁皮、三椏から得られたスペクトルには違いが認められたため、本解析手法が、古文書の原料を特定するための手法として有効であることが示唆された。しかし、様々な産地で作製された紙から得られたスペクトルはあまりにも複雑で、今のところ明確な微量元素と産地との相関は得られておらず、更なるデータ収集と解析が必要である。
キーワード: 古文書、和紙、極微量元素分析、紙生産地、無機物添加剤
a横浜国立大学, b(公財)高輝度光科学研究センター
aYokohama National University, bJASRI
- Abstract
-
アガロース水溶液のゾル/ゲル相転移における電子運動量の密度分布の変化をコンプトン散乱測定を用いて測定した。相転移が可逆的であることを利用して、ゾル状態とゲル状態の差、磁場で分子を配向させたゲルと無配向ゲルの差を特徴的な温度で測定し、差分コンプトンプロファイルから相転移による架橋密度の変化を捉えた。ゲル化によって低運動量の電子密度が低下し、磁場配向による運動量密度の差は加熱により消失した。含水量の多い有機物であるアガロースゲルの架橋構造の変化をコンプトン散乱測定によって評価できる可能性を示唆した。
キーワード: コンプトン散乱、アガロースゲル、相転移
a住友電気工業(株), b大阪大学
aSumitomo Electric Industries Ltd., bOsaka Univ.
- Abstract
-
超高圧高温下の直接変換焼結により合成されたナノ多結晶ダイヤモンド(NPD)は、単結晶ダイヤモンド(SCD)を凌ぐ高い硬度、強度をもつため、超高圧発生用ダイヤモンドアンビルセル(DAC)用のアンビルとして非常に有用である。特に先端(キュレット)径が300 μm以上のNPDアンビルは、従来のSCDアンビルの2倍前後の超高圧を安定して発生できる。今回、ラテラルサポート型の側面テーパー付NPDアンビルを試作し、超高圧発生実験を実施したところ、アンビル底面の引っ張り応力が抑えられて、さらに到達発生圧力を向上できることがわかった。加えて、アンビル先端にべベルも付与することでSCDアンビルの3倍近い超高圧発生が可能であることを確認した。このラテラルサポート型アンビルによる超高圧の安定発生のためには、アンビルと超硬台座との接触部の形状や面精度を高度に保つことが重要である。
キーワード: nano-polycrystalline diamond、x-ray diffraction、diamond anvil、high pressure
aRIKEN CMSE, bSPring-8/JAEA, cRIKEN SPring-8, dSPring-8/JASRI, eUniv. Tokyo
- Abstract
-
Phonon dynamics of multiferroic Sr0.5Ba0.5Mn0.97Ti0.03O3 was investigated by means of inelastic x-rays cattering. We found that the mode which corresponds to the soft mode in the paraelectric materials becomes prominent below the antiferromagnetic phase transition temperature. On the other hand, the energies of transverse optical phonon modes remain almost constant upon the magnetic ordering. This suggests that dynamical fluctuation of electric dipole moments is crucial for a large spin-phonon coupling.
Keywords: inelastic x-ray scattering, multiferroics, phonon dynamics
(公財)高輝度光科学研究センター
JASRI, SPring-8
- Abstract
-
カルシウムイオンにより活性化したタガメおよびミカドガガンボの飛翔筋線維を急速にステップ伸長(振幅:筋線維長の1%;伸長時間:1 ms)したときの2次元X線回折像の時間変化を0.5 msの時間分解能で記録した。その結果、これらの昆虫の飛翔筋線維で伸長時に起こる構造変化は、すでに判明しているマルハナバチ飛翔筋線維の構造変化と基本的に同じであることが判明した。
キーワード: 高速時分割X線回折実験、昆虫飛翔筋、生物物理学
a大阪大学大学院理学研究科, b大阪大学微生物病研究所
aGraduate School of Science, Osaka University, bResearch Institute for Microbial Diseases, Osaka University
- Abstract
-
レジオネラの宿主内増殖に必須の蛋白質LubXはユビキチンリガーゼ様の機能をもち、初めて発見されたエフェクターをターゲットとするメタエフェクターである。本研究では、レジオネラの感染増殖機構の解明とLubXを標的とする薬剤開発につなげることを目的として、ユビキチンリガーゼ機能領域を含むフラグメントLubXΔC (Met1-Phe215)の結晶構造解析に取り組んだ。
キーワード: IVB型分泌装置、エフェクター、結晶構造解析
aNiels Bohr Institute, University of Copenhagen, Denmark
bCenter for Quantum Devices and Station Q Copenhagen, Niels Bohr Institute, University of Copenhagen, Denmark
cQuantum Beam Science Center, Japan Atomic Energy Agency, Sayo-cho, Hyogo 679-5148, Japan
- Abstract
-
In-situ monitoring of the crystal structure formation during growth of InAs and InAsSb based nanostructure arrays on patterned Si(111) substrates, was performed in a combined molecular beam epitaxy(MBE) growth and X-ray characterization experiment. An e-beam lithography defined mask etched into a SiO2 film grown on Si(111) substrates was used for the selective area growth. This method enables us to characterize the relative formation rates of the most common polytypic phases 3C (Zinc-blende) and 2H (Wurtzite) during growth, but also higher order sequences like 4H and 6H. Moreover, the effect of adding a small amount of Sb to the growth system was observed to have a direct impact on the growth mechanisms, as it induced a solid phase transition from the Wurtzite to the Zinc-blende crystal structure.
Keywords: Crystal growth, In-situ X-ray characterization, Molecular beam epitaxy
aOsaka University, bOkayama University, cTohoku University, dThe University of Tokyo, eJAEA
- Abstract
-
We have measured the density of liquid Fe98.3O1.7 in the P-T range of 1.4 - 6.1 GPa and 1950 - 2250 K using X-ray absorption method at BL22XU. Microprobe analysis of the recovered samples showed the reaction between the sample and BN spacer. After removing the BN contribution to the sample density, the estimated densities of liquid Fe-O increase from 6.71 to 7.08 g/cm3 with pressure at 2200 K.
Keywords: density, liquid Fe alloy, high pressure
兵庫県立大学
University of Hyogo
- Abstract
-
Al-Zn-Mg合金に予備時効を行い、様々なサイズのη’準安定相を析出させた試料に対し、巨大ひずみ加工の一種であるHPT加工を施し、準安定相の形状変化を小角散乱測定により調べた。その結果、予備時効60 ksの亜時効材ではひずみの増加により容易に加工誘起溶解したのに対し、予備時効2000 ksの過時効材では溶解しづらいことが分かった。このことから、巨大ひずみ加工中における加工誘起溶解は、転位が準安定相を切断したことによる界面増加に伴う界面エネルギーの増加によるものであると予想される。
キーワード: 小角散乱、巨大ひずみ加工、アルミニウム合金、準安定相
SPring-8 Section B: Industrial Application Report
住友電気工業株式会社
Sumitomo Electric Industries, Ltd.
- Abstract
-
固体酸化物形燃料電池向けアノード触媒の高活性化を行うため、NiFe合金触媒の還元特性を評価した。還元挙動の雰囲気組成と温度依存性より、400°C、10% H2-Heガスを評価条件として決定した。本条件においてアノード触媒として有望な材料の1つであるNiFe合金触媒の還元特性を評価した結果、NiFe合金触媒中のNiの還元速度はNi含有量が少ないほど速いこと、Feの還元速度はFe含有量が、50 wt.%から75 wt.%の組成が最も良好であることが示唆され、Ni、Feそれぞれの(組成比×還元率)の合計としての還元率での総合性能としてはNi含有量が多いほど触媒活性が高くなることが示唆された。
キーワード: 燃料電池、燃料極、触媒
aクラシエホームプロダクツ(株), b(公財)高輝度光科学研究センター
aKracie Home Products, Ltd., bJASRI
- Abstract
-
効率的に毛髪用製剤を開発するためには、毛髪内部へ製剤成分の浸透性を直接的にかつ簡便に解析することが重要となる。本研究においては顕微IRを用いて毛髪内部に局在する物質を直接解析し、適用した製剤の物質浸透性及び局在部位を確認する事を目的とした。その結果今回、製剤処理条件の違いに対応して、毛髪内部へのシロキサン化合物の局在分布状況に差異が生じていることが示唆された。
キーワード: 顕微IR、化粧品、毛髪
a横浜ゴム株式会社、b京都大学
aTHE YOKOHAMA RUBBER CO.,LTD., bKyoto University
- Abstract
-
タイヤ中のスチールコードとゴムにおける接着力は、形成される接着層の形態によって大きく変化する。特に耐熱老化や湿熱、温水老化処理後の接着層の形態変化は接着力低下に影響することが知られている。本研究では、加熱板内蔵恒湿槽を用いて黄銅板に形成された黄銅-ゴム接着層の湿熱劣化過程のリアルタイム計測を試み、老化処理に伴う接着層の結晶構造の変化を追跡することが可能となった。
キーワード: タイヤ、ゴム、接着、黄銅、微小角入射X線回折、湿熱劣化
a(公財)高輝度光科学研究センター, b(株)スプリングエイトサービス, cボン大学
aJASRI, bSPring-8 Service Co., Ltd., cUniversity of Bonn
- Abstract
-
産業利用ビームラインにおける粉末回折装置の検出器として導入を検討しているオンライン1次元検出器MYTHENを用いて、検出器が有する時分割測定機能を利用した結晶粒度評価法を開発し、その詳細な評価条件を検証した。その結果、結晶粒度の相対的な比較が可能となる最適な条件を見いだすことができた。
キーワード: 粉末回折、新装置開発、自動化、高効率化、高度化
a(国立研究開発法人)日本原子力研究開発機構, b(一般財団法人)総合科学研究機構
aJAEA, bCROSS
- Abstract
-
本研究では、フェライト/マルテンサイト鋼(PNS-FMS)とSUS316をレーザ溶接した際に発生する内部残留ひずみ分布を計測した。2種類のレーザ条件で作成された厚さ5 mm程度の試験片のひずみ分布を比較すると、PNC-FMSの溶接部の外側に非常に強い引張ひずみ、内部に弱い圧縮ひずみが表面から裏側まで発生し、SUS316の溶接部内部界面表面付近に圧縮ひずみが発生すること、また単位溶接長さあたりに投入されるレーザエネルギーを小さくすると各鉄鋼材におけるひずみ分布の範囲は狭くなるが、ひずみの絶対値は大きくなるという結果が得られた。
キーワード: 白色X線、異種材料接合、レーザ溶接、内部残留ひずみ分布
a群馬県立群馬産業技術センター, b(株)柴田合成, c豊橋技術科学大学, d九州大学
aGunma Industrial Technology Center, bShibata Gosei Co.,Ltd, cToyohashi University of Technology, dKyushu University
- Abstract
-
自動車等のプラスチック部品においては、メタリック樹脂を使用した成形では、形状の変化による高輝度粒子の乱れや、開口部後の樹脂の合流地点に発生するウェルドラインとは別の高輝度粒子同士の溝が発生する。この現象は、輝度感が失われるだけでなく、外観不良になるが、外観やワークの切断による断面観察だけでは高輝度粒子の配向を評価することは難しい。SPring-8のシンクロトロン放射によるX線CTにより高分解能な三次元データ化により、スキン層を含む表面から100 μm以内の範囲の高輝度粒子の配向と高輝度粒子同士の溝との相関を明らかにした。
キーワード: メタリック樹脂成形、高輝度粒子、イメージング
a星薬科大学, b(社)製剤機械技術学会
aHoshi University, bJapan Society of Pharmaceutical Machinery and Engineering
- Abstract
-
本研究では、医薬品インドメタシン製剤を投与した後のマウス皮膚組織について、組織中の医薬品インドメタシンの濃度分布をBL43IRにおいて、スペクトル・マッピングにより測定した。サンプル中の各座標でのスペクトルデータから医薬品インドメタシン投与後の組織中の薬物分布が評価可能であった。得られた医薬品インドメタシンのカルボニル基のスペクトルによる吸収帯の強度分布より、血管組織周辺部に医薬品インドメタシンが集積していることが明らかとなった。本研究の結果から、組織中で識別可能な赤外吸収ピークを持つ医薬品は、医薬品投与後の組織切片を経時的に測定することにより、組織中における医薬品の移行性が評価でき、蛍光プローブ等による標識なしに、医薬品の体内動態が評価可能であることがわかった。
キーワード: 医薬品製剤、組織中医薬品分子の濃度分布、赤外スペクトル・マッピング
日本メナード化粧品(株)総合研究所
Research Laboratories, Nippon Menard Cosmetic Co., Ltd.
- Abstract
-
化粧品の有効性を評価することを目的として、現在様々な試験が行われているが、特に真皮に関しては、コラーゲンゲルを用いた三次元培養系が用いられている。本課題では、より生体に近い培養環境の構築とその評価系の確立につながる情報を得る為に、皮膚組織およびコラーゲンゲルの極小角および小角X線散乱を測定した。その結果、皮膚組織においてコラーゲン線維の径や65 nmの周期に関する構造と思われる回折を捉える事ができた。コラーゲンゲルの回折プロファイルは皮膚組織とは異なるものであったが、対応していると思われる回折がいくつか得られた。また、コラーゲンゲル内のⅢ型コラーゲン比率の変化に伴いゲルの回折が変化することから、コラーゲンの組成によってコラーゲン線維構造が変化していると考えられた。
キーワード: コラーゲンゲル、皮膚、真皮コラーゲン
a花王株式会社, b(公財)高輝度光科学研究センター, c(公財)科学技術交流財団
aKao Corporation, bJASRI, cASTF
- Abstract
-
これまでに我々はSPring-8の高強度X線の利点を生かし、界面活性剤溶液浸漬後の短時間(数分〜1時間)での角層のソフトケラチン構造の変化に着目し、とくにq ≈ 6 nm−1近傍に見られるプロトフィブリル由来の散乱ピークについてX線散乱法を用いた解析検討を行ってきた。しかしながらさらに高次の構造であるミクロフィブリル構造(q ≈ 0.5–1 nm−1近傍)の観測には、X線散乱法では活性剤ミセルの散乱が妨害となる課題があった。そこで角層細胞内でのケラチン線維の配向を利用した積層角層シートでの2次元散乱解析により、ケラチン線維構造を評価する手法の検討を実施した。その結果、垂直・平行方向とも散乱プロファイルにミセル由来のピークは重畳しているが、ミセル由来ピークよりも垂直方向の角層構造由来のピークは十分に強く現れ、積層角層シートを利用した2次元散乱解析の有効性が示された。
キーワード: human stratum corneum, surfactant, X-ray scattering, soft keratin, fibril structure
(株)大林組
Obayashi. Co. Ltd.
- Abstract
-
大深度地下に建設が検討されている放射性廃棄物処分場には、坑道の安定性確保などの目的でセメント系材料の使用も検討されている。本実験では、セメント系材料に触れて高アルカリ性溶液となった地下水の坑道周辺の母岩である花崗岩に及ぼす影響の把握のため、花崗岩の浸漬試験を行い、また時分割で透過像と局所X線回折を行い、アルカリ作用により41時間程度の浸漬においても構成鉱物の変質が起きることを見出した。
キーワード: 放射性廃棄物処分場,セメント系材料,花崗岩変質,透過像,X線回折,
時分割測定
a旭化成株式会社, b旭化成ケミカルズ株式会社
aAsahi Kasei Corporation, bAsahi Kasei Chemicals Corporation
- Abstract
-
Mo-Bi系複合酸化物触媒の反応炉内での酸化還元に伴う現象の知見を得る為、反応ガス中でのin-situ XAFS測定を行った。Fe-K吸収端のXAFS測定から、酸化還元反応が等吸収点を伴う2成分間の反応であること、また、それ以上還元が進まない、安定なFeの還元状態が存在することが示唆された。この振る舞いは、モデル触媒系を用いた解析と同様の結果である。
キーワード: Mo-Bi系触媒、工業触媒、in-situ XAFS
日本メナード化粧品(株)総合研究所
Research Laboratories, Nippon Menard Cosmetic Co., Ltd.
- Abstract
-
化粧品の有効性を評価することを目的として利用されるコラーゲンゲルを用いた三次元培養系について、より生体に近い培養環境の構築とその評価系の確立につながる情報を得るために、皮膚組織およびコラーゲンゲルの極小角および小角X線散乱を測定した。その結果、細胞や遠心処理を用いてコラーゲンゲルを濃縮すると散乱強度の増加が認められた。しかし、皮膚組織と対応するような位置にピークが観察されるなどの顕著な波形の変化は見られなかった。また、固定した皮膚組織のうち、メタノール処理した組織では、X線散乱に変化が見られた。すなわち、水を抱えた生の状態の皮膚真皮組織には、メタノール処理により弱まる散乱と強まる散乱があることが分かった。したがって、生の皮膚組織についてX線散乱を測定すると、水環境に依存するような構造が見られると思われた。
キーワード: コラーゲンゲル、皮膚、真皮、線維芽細胞
a兵庫県立大学, b(株)UACJ
aUniversity of Hyogo, bUACJ Corporation
- Abstract
-
溶体化処理後の室温時効によりAl-Mg-Si合金中にはクラスター1が形成し、引き続いて行う170℃における人工時効処理中のβ”相の析出が阻害されることにより、時効硬化量を低下させることが知られている。本研究ではクラスター1の室温時効時間の変化を調べるため、軟X線XAFS測定を行った。その結果、室温時効時間の増加により徐々にSi原子周りの配位距離が減少し、Si価数が増加することが示唆された。しかしながら、16 days以上の長時間時効により、逆に配位距離が増加し、Si価数が減少することが示唆された。
キーワード: 自動車用構造材料、ナノクラスター、軟X線XAFS
a三重県警察本部科学捜査研究所, b京都大学大学院工学研究科都市環境工学専攻, c京都大学大学院地球環境学堂
aForensic Science Laboratory, Mie Prefectural Police H. Q.,
bDepartment of Environmental Engineering, Graduate School of Engineering, Kyoto University,
cDepartment of Global Ecology, Graduate School of Global Environmental Studies, Kyoto University
- Abstract
-
自動車窓ガラス試料について、XAFSによる鉄の存在状態分析によってメーカー判別が可能か検討した。A〜C社の製造時期が既知の自動車窓ガラスを試料とし、同一ロット内、さらに異なるロット間での存在状態を分析した。試料は蛍光法で測定した。XANES及びEXAFSの結果から、A社のセリウム添加のある試料はA社のセリウム添加のないもの及び他社のものに比べ還元状態であり、他の試料と判別することができると考えられた。
キーワード: 科学捜査、XAFS、自動車窓ガラス、メーカー推定、セリウム
a花王株式会社, b(公財)高輝度光科学研究センター, c(公財)科学技術交流財団
aKao Corporation, bJASRI, cASTF
- Abstract
-
これまでに我々はSPring-8の高強度X線の利点を生かし、界面活性剤溶液浸漬後の短時間(数分~1時間)での角層のソフトケラチン構造の変化に着目し、とくにq ≈ 6 nm−1近傍に見られるプロトフィブリル由来の散乱ピークについてX線散乱法を用いた解析検討を行ってきた。しかしながら、さらに高次の構造であるミクロフィブリル構造(q ≈ 1 nm−1近傍)の観測には、X線散乱法では界面活性剤ミセルの散乱が妨害となる課題があった。そこで角層細胞内でのケラチン線維の配向を利用した積層角層シートでの2次元散乱解析により、ケラチン線維構造を評価する手法の検討を実施した。その結果、垂直・平行方向とも散乱プロファイルにミセル由来のピークは重畳しているが、ミセル由来のピークよりも垂直方向の角層構造由来のピークは十分に強く現れ、積層角層シートを利用した2次元散乱解析の有効性が確認できた。とくに今回の検討では、実験手法の確立を目標とし、2014A期と異なるビームラインを用いて検出器などの光学系の異なる条件での比較実験を実施した。
キーワード: human stratum corneum, surfactant, X-ray scattering, soft keratin, fibril structure
株式会社村田製作所
Murata Manufacturing Co., Ltd.
- Abstract
-
BaTiO3誘電体セラミックスに添加された遷移金属の価数分析法として硬X線光電子分光(HAXPES:HArd X-ray PhotoElectron Spectroscopy)に注目し、価数の解析が可能な光電子スペクトルを取得するための測定条件を検討した。試料にカーボンコートを施し併せて電子線照射を行うことにより、試料表面の帯電が抑制され、変調がない光電子スペクトルが得られることがわかった。また硬X線に対しイオン化断面積が大きい1s準位を選定することにより、微量の遷移金属の光電子スペクトルの検出が可能であった。
キーワード: チタン酸バリウム、遷移金属、硬X線光電子分光
(株)住化分析センター
Sumika Chemical Analysis Service, Ltd.
- Abstract
-
リチウムイオン電池の過充電に伴うSEI(Solid Electrolyte Interface) 形成挙動の把握のため、硬X線光電子分光(HAXPES) を実施した。添加剤のない電解液で作製した電池電極では、充電・過充電に伴い有機溶媒および無機塩の分解成分が負極表面に堆積していく過程が観測された。一方、炭酸ビニレン(VC)や1,3-プロパンスルトンを電解液に添加した電池のSEIは、電解液の分解が抑制される傾向が示唆された。特に、1,3-プロパンスルトンを添加した試料では過充電時においても分解が抑制されている可能性が示唆された。
キーワード: リチウムイオン電池、SEI、過充電、硬X線光電子分光
a沖縄工業高等専門学校, b(公財)高輝度光科学研究センター, c大阪大学, d富士重工業(株), eNASA - Johnson Space Center
aOkinawa National College of Technology, bJASRI, cOsaka University, dFuji Heavy Industries Ltd, eNASA - Johnson Space Center
- Abstract
-
アルミニウム合金A6061-T6ならびにA2024-T3の異材摩擦攪拌接合(FSW)継手から平面曲げ疲労試験片を作成し、疲労き裂を導入した試験片を用意した。FSWの適用が期待される車両や航空構造部材などでは、き裂の発生を許容する損傷許容設計が適用されており、発生した疲労き裂の進展抑制が重要となる。そこで本研究ではレーザーピーニング(以下、LP)に注目した。疲労き裂先端にLPを施し、ビームライン脇に仮設した曲げ疲労試験機を使用してき裂を進展させるとともに、ラミノグラフィにより内部のき裂形状を逐次可視化することで、処理による疲労き裂進展 の抑制効果を調査した。ラミノグラフィによって、表面だけでなく試験片内部においてもき裂成長が抑制されること、さらにピーニング条件によって抑制効果が異なることを確認した。
キーワード: 摩擦攪拌接合,アルミニウム合金,疲労,き裂進展,ラミノグラフィ,レーザーピーニング
(株)ノリタケカンパニーリミテド
NORITAKE CO., LIMITED
- Abstract
-
固体酸化物形燃料電池(SOFC)電極に用いる酸素イオン伝導材料としてLnBaCo2O5+δ(Ln=Pr,Gd,Nd)が期待されており、低温作動化と高性能化を実現している。この材料について、作動条件での材料挙動を、in-situ XRDで解析した。作動温度までの昇降温時には相転移を伴う不連続な体積変化は確認されず、SOFC電極として使用した際、ヒートサイクルに対する信頼性へ影響しないことが期待される。
キーワード: ペロブスカイト型酸化物、in-situ XRD、燃料電池
a京都大学, b(独)石油天然ガス・金属鉱物資源機構, c早稲田大学/JAXA, d(公財)高輝度光科学研究センター
aKyoto University, bJOGMEC, cWaseda University/JAXA, dJASRI
- Abstract
-
石油増進回収技術の開発には、油-鉱物、水-鉱物の界面における水分子および油分子の集積、吸着現象の解明が必要である。本研究では白雲母に対する純粋シクロヘキサンと水飽和シクロヘキサンの吸着構造の違いを調べるためBL19B2において20 keVの入射X線エネルギーでX線CTR散乱法の測定を行った。今回、雲母基板を強固に固定する工夫を行うとともに、X線による照射損傷の影響を軽減するため、多軸回折計のXYステージを用いて照射位置を移動させる工夫を行った結果、L = 2.1–13.9の範囲で良好なCTR信号を測定することができた。また、水飽和シクロヘキサンの場合、水が雲母表面に吸着して油-鉱物界面の吸着構造が変化することが確認できた。さらに、純粋シクロヘキサンの場合に対する界面近傍の電子密度分布を解析した結果、シクロヘキサンの吸着層が確認できた。
キーワード: 油-鉱物界面、石油増進回収、X線CTR散乱法、白雲母
SPring-8 Section C: Technical Report
(公財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門・バイオソフトマテリアルグループ
Bio-and- Soft-materials Group, Research & Utilization Division, JASRI
- Abstract
-
BL40XUにおいて、直径約5 µmのX線ビームを用いて回折トモグラフィー実験を行った。試料としてはヒト毛髪を使用した。試料は垂直に置き、水平位置を5 µmずつ変えながら、各位置で試料を回転して9度ごとに回折パターンを記録し、回折強度を定量することにより、毛髪の断面におけるケラチンと脂質の分布を可視化することが可能であった。本手法においては、試料の放射線損傷の回避が最大の課題である。
キーワード: X線回折トモグラフィー、毛髪、ケラチン、脂質