SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume3 No.1

Section A : Scientific Research Report

チタン酸塩化合物の高圧高温相転移
High Pressure and Temperature Phase Transition of Titanate

DOI:10.18957/rr.3.1.6
2011B1449 / BL10XU

浜根 大輔

Daisuke Hamane

東京大学物性研究所

Institute for Solid State Physics of the University of Tokyo



Abstract

 巨大岩石型惑星深部に存在するMgSiO3やCaSiO3の存在様式を理解するためにチタン酸塩をアナログに高圧高温実験を行った。FeTiO3を出発物質にして、約85 GPa、2500 Kまでにイルメナイト相(約0-20 GPa)、ペロブスカイト相(約20-30 GPa)、CaTi2O4型Fe2TiO4相 + OI型TiO2相(約30-44 GPa、高温側)、ウスタイト型FeO相 + OI型TiO2相(約30-44 GPa、低温側)、ウスタイト型FeO相 + 斜方晶系FeTi3O7相(約44 GPa以上)が出現し、さらに約170 GPa、2000 K以上の条件で新たな相が出現することが判明した。


キーワード: FeTiO3、スーパーアース、高圧相転移


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背景と研究目的:

 近年までの高圧地球科学の最大の研究目的は、地球深部の構造とそれに対応する鉱物構成を解き明かすことにあった。そしてその目的を達するべく行われた技術開発と研究の成果として、地球の核マントル境界条件におけるポストペロブスカイト相の発見[1]、地球中心核の実験的再現[2]など重要な結果が相次いで報告されるようになる。そしてこれらの結果を受けて地球深部の描像はほぼ明らかとなり、地球と同様な岩石質な惑星の深部を理解するための基礎が整ったといえる。そして、最近では天体観測技術のめまぐるしい進歩を得て、地球と同様に岩石質でありながらも地球の数倍以上の質量を持つ巨大な惑星(スーパーアース)の存在が観測・報告されるようになってきており、その内部構造の理解にも科学的な関心が向けられている[3]。スーパーアースにおける内部環境は地球を遙かにしのぐ圧力・温度条件であり、その深部構造や鉱物構成を議論するには、地球深部の研究で得られた成果を基にして、数百万気圧(GPa)・数千ケルビン(K)における珪酸塩物質の存在様式をまずは理解する必要がある。

 地球深部で最も主要な珪酸塩物質であるMgSiO3は下部マントル条件でペロブスカイト相として存在し、最下部マントル(D”層)ではCaIrO3型のポストペロブスカイト相へ相転移する。そして、スーパーアース深部のような超高圧条件においてはさらなる高密度相への相転移が期待されるが、実験的に再現可能な圧力には限界がある。そのため本研究では、MgSiO3と同様に高圧条件でペロブスカイト相をもつがMgSiO3よりも低い圧力で相転移するチタン酸塩物質に着目し、その相転移から超高圧下におけるMgSiO3の存在様式を理解する試みを進めており、徐々に成果が得られてきている[4]。その一環として本研究課題では、高圧下でのチタン酸塩、特にFeTiO3の存在様式を検討した。


実験:

 イルメナイト構造のFeTiO3を出発物質とし、それを数十μmのディスク状に圧縮した。圧縮した出発物質を同じくディスク状に圧縮したNaClで挟み込み、仮押したレニウムガスケットに空けた約30 μmの穴にそれらを封入した。内径100 μm、外径300 μmのベベル付きダイヤモンドアンビルを対向に配置した対称型ダイヤモンドアンビルセル(以下、DAC)内に、試料が封入されているレニウムガスケットを設置し、荷重をかけて試料室内に高圧力を発生させた。また、ファイバーレーザーを、ダイヤモンドを通して両側から試料に照射することで、試料中のFeをレーザー吸収体として高温を発生させた。

 放射光X線回折実験はSPring-8のBL10XUにおいて行われた。イメージングプレートおよびCCDを利用して、高圧下その場のX線回折パターンを取得した。30 keVに単色化されたX線(波長0.414 Å)を約15 μmにしぼり試料に照射した。得られた二次元X線回折パターンはIPAnalyzerを用いて一次元化した[5]。実験中の圧力は試料と同封されたNaClの格子体積から状態方程式を用いて決定した[6]


結果および考察:

 DAC内に封入された試料を室温で高圧まで加圧した後に、ファイバーレーザーにて高温を発生させ、約85 GPa、2500 Kまでの条件にて生成相を得た。X線回折パターンは加熱前・中・後で取得し、この圧力・温度までにFeTiO3には以下の(分解)相が出現することが明らかとなった(図1):イルメナイト相(約0-20 GPa)、ペロブスカイト相(約20-30 GPa)、CaTi2O4型Fe2TiO4相 + OI型TiO2相(約30-44 GPa、高温側)、ウスタイト型FeO相 + OI型TiO2相(約30-44 GPa、低温側)、ウスタイト型FeO相 + 斜方晶系FeTi3O7相(約44 GPa以上)。



図1. FeTiO3の高圧高温相関係。Ilm、イルメナイト相; Pv、ペロブスカイト相; CT、CaTi2O4型Fe2TiO4相; OI、OI型TiO2相; WP、ウスタイト型FeO相; OP、斜方晶系FeTi3O7相。約170 GPa、3000 Kで新規相が見いだされた。


 さらなるFeTiO3の存在様式を模索するために、引き続き高圧高温実験を行った。DAC内に封入された試料を室温下で約166 GPaまで加圧し、X線回折パターンを測定した(図2a)。2θ = 9.5-10.5°の領域においてほぼ非晶質を示すブロードな回折ピークが確認されたほか、試料と同時に封入したNaClのB2型を示す回折ピークが観察された。また、ガスケットに使用したRe(レニウム)に由来する回折ピークもわずかに観察された。この試料に対してファイバーレーザーを両サイドから照射して約2000 Kで加熱を行ったが、加熱中および加熱後のX線回折パターンはわずかに新しい回折ピークを示したが、全体的にはブロードのままであった。

 次にこの試料に対し再度ファイバーレーザーを照射し、約3000 Kで加熱を行った。約3000 Kでの加熱中に測定したX線回折パターンからはブロードなピークは消え、結晶相を示す鋭い回折ピークが成長した。加熱中のX線回折パターンは室温に戻した試料からのX線回折パターンと相違はなく、生成相には室温-高温での対称性の変化が無いことを示している。図2bに172 GPa・3000 K加熱後、室温条件において観察したX線回折パターンおよび生成相のd値を示す。この生成相は80 GPa以下までに確認されている高圧高温相、近年発見されたFe2P型TiO2[7]や各種FeO高圧相、ならびに理論予測されているABO3型化合物のポスト-ポストペロブスカイト構造[8]のいずれにも該当しない新規相であった。新規相を単相と仮定すると斜方晶系で指数付けができ、a =12.513(7) Å、b = 7.392(4) Å、c = 2.216(2) Å、V = 207.9(2) Å3を得た。

 続いて新規相を常圧・室温まで回収しX線回折パターンを取得したが、新規相由来のX線回折パターンは非常に弱く、またNaClとも重なっていたため、NaClを除去した後に再度X線回折パターンを取得した(図2c)。常圧へ回収された新規相の回折ピークは数が少なく対称性の絞り込みができなかったが、少なくとも立方晶、正方晶、六(三)方晶では極端に大きな格子を仮定しない限り指数付けはできない。いずれにしても、常圧室温へ回収された新規相のX線回折パターンは、高圧下のX線回折パターンを低角側へのシフトでは一致しないため、新規相は減圧時に相転移したとみなすことができる。



図2. FeTiO3のX線回折パターン。 166 GPa・加熱前の室温(a)、172 GPa・3000 K加熱後の室温(b)、高圧から常圧・室温へ回収しNaClを除去(c)。B2、NaCl-B2; Re、Rhenium。数字は新規相のd値(Å)を示す。


 FeTiO3系においてこれまでに見つかっている最も高密度な相は44 GPa以上で出現するウスタイト型FeO相 + 斜方晶系FeTi3O7相で(図1)、新規相はそれよりも高圧相なのでこの格子体積だとZ数は7以上と考えられる。低圧で出現する斜方晶系FeTi3O7相がFeO7、TiO8、TiO9の配位多面体が持つことから、新規相の結晶構造は同等以上の高配位多面体から構成されると考えられる。現在、結晶構造モデルを模索しているが、適切な結晶構造はまだ得られていない。

 スーパーアースに代表される巨大岩石型惑星深部でMgSiO3やCaSiO3は、Mg(Ca)O + SiO2へ分解すると理論予測されている[9]。一方でFeTiO3をアナログにした実験的研究では、2/3FeO +1/3FeTi3O7への分解のほうがFeO + TiO2よりも高密度になることをすでに明らかにしている[4]。その上で今回さらに高密度な相の存在が見いだされたことで、巨大惑星深部でMgSiO3やCaSiO3が取り得る新たな存在様式の可能性が示された。


今後の課題:

 FeTiO3を研究することで2/3FeO + 1/3FeTi3O7という様式があることや、それよりも高圧にさらに新たな相が出現することを示すことができた。FeTiO3をMgSiO3に代表されるようなABO3型化合物アナログとして考えると、FeTiO3に出現する様々な相や相転移系列の詳細を明らかにすることはスーパーアースに代表される巨大惑星の深部を理解するための重要な手がかりとなるだろう。


参考文献:

[1] M. Murakami, K. Hirose, K. Kawamura, N. Sata, Y. Ohishi, Science 304, 855 (2004).

[2] S. Tateno, K. Hirose, Y. Ohishi, Y. Tatsumi, Science 330, 359 (2010).

[3] D. Valencia, D.D. Sasselov, R.J. O’Connell, Astrophys. J. 656, 545 (2007).

[4] D. Nishio-Hamane, M. Zhang, T. Yagi, Y. Ma, Amer. Mineral. 97, 568 (2012).

[5] 瀬戸雄介、浜根大輔、永井隆哉、佐多永吉、高圧力の科学と技術 20, 269 (2010).

[6] T. Sakai, E. Ohtani, N. Hirao, Y. Ohishi, J. Appl. Phys. 108, 084912 (2012).

[7] H. Dekura, T. Tsuchiya, Y. Kuwayama, J. Tsuchiya, Phys. Rev. Lett. 107, 045701 (2011).

[8] K. Umemoto, R.M. Wentzcovitch, Rev. Mineral. Geochemis. 71, 299 (2010).

[9] T. Tsuchiya, J. Tsuchiya, PNAS 108, 1252 (2011).



ⒸJASRI


(Received: July 1, 2014; Early edition: September 30, 2014; Accepted: January 16, 2015; Published: February 10, 2015)