SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume3 No.2

SPring-8 Section B: Industrial Application Report

デジタルカメラを用いたX線トポグラフィによるシリコン単結晶中の転位像の強調
Enhancement of Dislocation Image in Silicon Single Crystal by X-ray Topography Using Digital Camera

DOI:10.18957/rr.3.2.397
2011B1768 / BL19B2

梶原 堅太郎, 松本 拓也

Kentaro Kajiwara, Takuya Matsumoto

(公財)高輝度光科学研究センター

JASRI



Abstract

 X線トポグラフィによるシリコン単結晶の観察において転位像を強調するために、回折角度をロッキングカーブの中央の角度からわずかにずらしてX線トポグラフ像を測定した。単に試料をわずかにずらすだけでは、試料内の方位分布により回折条件を満たす領域が狭いため、回折角度を走査しながらデジタルカメラを用いてX線トポグラフィを測定し、画像処理を行うことで方位分布を補正した。その結果、試料の広い範囲において転位像を強調することができた。


キーワード: X線トポグラフィ、シリコン単結晶、転位



背景と研究目的:

 X線トポグラフィにおける単結晶中の転位像は、転位周辺で起こった運動学的回折により形成される。このとき、転位周辺以外の完全結晶部分で起こった動力学的な回折像は、転位像を見え難くする不要なコントラストであり、抑制する必要がある。動力学的な回折像を抑制するためには、X線トポグラフ像の測定角度をブラッグ角度からわずかにずらせばよい。これは、動力学的回折のロッキングカーブの幅は、転位周辺の運動学的回折のロッキングカーブの幅より狭いため、測定角度がブラッグ角度からずれることで、動力学的回折強度を選択的に小さくできるためである(図1)。しかしながら、試料結晶には彎曲などの方位分布があることが多く、ブラッグ角度からわずかにずらした角度条件を満たす面積は非常に狭い(図2)。

 一方、従来X線フィルムで撮影されていたX線トポグラフ像が、デジタルカメラで撮影されるようになり、回折角度を走査しながらX線トポグラフ像を測定することで画素ごとにロッキングカーブを測定できるようになった(図3)[1]。そこで、画素ごとに、ロッキングカーブの中央の角度を解析し、その角度からわずかにずらした角度の回折強度を表示することで、試料全面において転位像を強調することを試みた(図4)。不要な像の発生を抑制することで転位像の分解能が向上することが期待される。

 本課題の目的は、動力学的な回折像を抑制し、明確な転位像を容易にユーザーに提供する測定系を構築することである。



図1. 動力学的回折強度の抑制. ロッキングカーブの中央の角度からずれた角度で回折強度を測定することで完全結晶部の回折強度を選択的に低くすることができる.



図2. 試料が方位分布を持つ場合. 転位周辺の回折強度が低い場所もある.



図3. 二次元検出器を使ったロッキングカーブ測定(回折角度を走査しながら測定した一連のX線トポグラフ像の模式図とロッキングカーブ). 試料内の各位置のロッキングカーブが測定できる.



図4. 提案する手法. 試料の各位置におけるロッキングカーブの中央角度からΔθずらした角度の回折強度で像を形成する. 試料の全域において動力学的回折強度を抑制する.


実験:

 実験はBL19B2の第二実験ハッチで行った。試料および検出器はHUBER社製の多軸回折計に取り付けた。実験配置図を図5に示す。試料はFloat Zone(FZ)法により育成されたシリコン単結晶を用いた(図5)。検出器は浜松ホトニクス社製のビームモニタ(AA40P)とCCDカメラ(C4880-41S)を組み合わせて使用した。ビームモニタとCCDカメラにはそれぞれ単焦点レンズが取り付けられており、その焦点距離は50 mmと105 mmであった。レンズで拡大されたCCDの画素サイズは2.86 μmであり、さらにこれを縦横2画素ずつ組み合わせた(ビニングした)ため実効的な画素サイズは5.72 μmであった。X線は、SPring-8の標準モノクロメータの111回折で30 keVに単色化され、第二実験ハッチに設置したスリットで縦幅0.04 mmおよび横幅12 mmに成形された。試料の回折面は(220)として、回折角度θを走査しながら、各θでセクショントポグラフ像を撮影した。セクショントポグラフ像の1枚当たりの露光時間は1秒とした。回折角度θの初期値は6.1269度、角度の走査間隔は0.0005度として、37枚のセクショントポグラフ像を得た。

 作成した解析プログラム(図6)により、測定された一連のセクショントポグラフ像から、画素ごとにロッキングカーブの中央の角度が求められ、それぞれの中央の角度から指定した角度をずらした回折強度の分布が示された。

 尚、本実験は計画段階において、今回用いた検出系と原子核乾板とをそれぞれ用いて検出器に依存した転位像のサイズを比較すること、およびカメラ長を変えて転位像のサイズを比較することを予定していたが、セクショントポグラフィの撮影に要する露光時間が想定よりも長かったため、予定を変更し、これらの比較は行わなかった。



図5. 試料写真と実験レイアウト(横から見た図).



図6. 画像解析ソフトウェアのインターフェイス.


結果および考察:

 図7(a)が解析の結果から得られたセクショントポグラフ像である。各画素のロッキングカーブの中央の角度から0.001度ずらした角度の回折強度の分布を示している。暗いコントラストは回折強度が強いことを示しており、暗い点状の像が転位線の断面像である。転位線の断面像が明確なコントラストで表示されている。本手法の効果を明らかにするために、通常の方法で測定したセクショントポグラフ像(図7(b)と(c))と比較した。図7(b)は試料全体の平均的なロッキングカーブの中央の角度(6.1364度)で測定した像である。試料中央から左上にかけて、転位線の断面の他に動力学的な回折像が観察されており、転位像が分かり難い。動力学的回折を起こしている完全結晶部(図中にAで示す)と転位部(Bで示す)のロッキングカーブを図8に示す。図8中に示される「図7(b)を測定した角度」が位置AとBのロッキングカーブの中央角度と近いため、位置Aの回折強度は抑制されていないことが分かる。一方、それぞれのロッキングカーブの中央角度から0.001度ずらした角度の回折強度は、位置AとBで大きく異なっており、位置Aの回折強度を弱くすることができていた。

 図7(c)は、試料全体の平均的なロッキングカーブの中央角度から0.001度ずらした角度で撮影されたX線トポグラフ像である。動力学的な回折像は抑制されているが、画像中央から右側にかけて転位線も観察できていなかった。位置Bと弱くなった転位像(Cで示す)のロッキングカーブを図9に示す。位置Cのロッキングカーブにおいて、「図7(c)を測定した角度」はロッキングカーブの裾の部分であったため強度が弱く、位置Bのロッキングカーブにおいては肩の部分であったため著しい強度の低下はなかったことが示された。この原因は位置BとCの回折面の方位差(0.0004度)によるものであると考えられる。本手法では各画像の方位を補正した後、ロッキングカーブの中央角度からずらすため、位置BとCで同程度の強度が得られていた。

 図7(a)の転位の断面像の直径は約40 μmであり、図7(b)においても同程度であった。本手法による空間分解能の向上は認められなかった。



図7. FZシリコン単結晶のセクショントポグラフ像. 画像処理により転位線を強調した像(a)、ロッキングカーブの中央の角度で測定されたセクショントポグラフ像(b)、および中央の角度から0.001度ずらした角度で測定されたセクショントポグラフ像(c)



図8. 図7中の位置AとBにおけるロッキングカーブ.



図9. 図7中の位置BとCにおけるロッキングカーブ.


今後の課題:

 動力学的な回折像は抑制することができたが、空間分解能の向上は達成できなかった。図8や図9に示すようにロッキングカーブのS/N比が悪いことや角度走査のステップの粗さなどが原因の一つと考えられる。長時間露光、高強度のX線、高感度な検出器および高い角度分解能の回転ステージの使用など改善の必要がある。

 コリメータ結晶を用いるなどして入射X線の平行度を向上させて、回折条件を満たす空間的な領域を狭くするなどの工夫も必要である。


参考文献:

[1] D. Lübbert, T. Baumbach, J. Härtwig, E. Boller and E. Pernot. μm-resolved high resolution X-raydiffraction imaging for semiconductor quality control. Nucl. Instr. Meth. B (2000) 160(4), 521-527.



ⒸJASRI


(Received: November 13, 2014; Early edition: March 25, 2015; Accepted: June 29, 2015; Published: July 21, 2015)