SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume3 No.1

Section C : Technical Report

BL20B2の現状(2014)
Present Status of BL20B2 (2014)

DOI:10.18957/rr.3.1.182
2013A1143, 2013B1221 / BL20B2

上杉 健太朗、星野 真人

Kentaro Uesugi, Masato Hoshino

(公財)高輝度光科学研究センター・利用研究促進部門・バイオ・ソフトマテリアルグループ

Bio- and Soft-materials Group, Research & Utilization Division, JASRI

Abstract

 BL20B2は偏向電磁石を光源としたビームラインで光源からエンドステーションまで215 mの長さを持つ中尺ビームラインである。このビームラインは主に吸収コントラスト法や位相コントラスト法を利用したX線イメージング実験に使用されている。また大型光学素子の評価や大面積トポグラフィーなどの実験も可能である。


キーワード:X線イメージング・吸収・位相

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I.基本性能と実験装置

 BL20B2の全体レイアウトを図1に示す。光学ハッチにはSPring-8標準型分光器が設置されている。実験ハッチは全部で3つあり、それぞれ光源から44 m・200 m・207 mの位置にある。実験ハッチ1のみを使用する実験の際は、実験ハッチ2と3を切り離す事が出来る。また、実験ハッチ2と3は15 m長のハッチとして利用することもできる。


図1 BL20B2全体レイアウト


 分光結晶はSi(111)・Si(311)・Si(511)の3つから選択可能である。ほとんどの実験では37 keV以下のエネルギーのX線を利用するため、多くの場合Si(111)結晶を用いている。このビームラインには高調波カットミラーは設置されていないため、試料による吸収が強い場合には注意が必要である。

 ここからは実験ハッチ毎に実施されている主な実験に関する概略を示す。実験ハッチ1では、最大ビームサイズは横50 mm縦4 mm程度となる。また、Si(111)分光結晶を用いたときの光束密度はおよそ6.5E+9 ph/sec/mm2 @15 keVとなる。このようなビームを利用して行われるのは、空間分解能10 µm程度のイメージング実験である(画素サイズは3 µmから6 µm程度)。CCDあるいはsCMOSを用いたX線画像検出器を利用して、単純投影(屈折コントラストも含む)撮影やマイクロCT撮影が行われる。単純投影ではおよそ1 Hzから50 Hz程度での撮影が可能であり、金属凝固の観察やangiographyなどが行われている。マイクロCTは、生体試料や岩石試料をはじめ、様々な試料に対して利用されている。1試料あたりの計測時間は最速で50秒程度となる(1800投影)。この場合、データサイズが10 GB以上となるので、転送やデータ処理に関して注意が必要となる。BL20B2では、ビームライン全体をGigabitイーサネットで接続し、最大速度120 MB/secでのデータ転送を可能としている。また、画像再構成用のGPUマシンを利用することで、画像再構成にかかる時間を出来るだけ低減させるようにしている。

 実験ハッチ2では、最大ビームサイズは横300 mm縦20 mm程度となる。光束密度はおよそ3.3E+8 ph/sec/mm2 @15 keVとなる。ここでは回折格子を利用した位相CT撮影と大型光学素子の評価実験が行われている。位相CT撮影は回折格子を利用して行われ、空間分解能はおよそ30 µm程度、濃度分解能はおよそ2 mg/cm3 (3σ)である。撮影時間は試料の状態にもよるが最短で60分程度となっている。

 実験ハッチ3では、in-vivo観察が多く行われており、そのほとんどは実験ハッチのスペースを利用した屈折コントラスト法を利用している。空間分解能は30 µm程度である。In-vivo観察の場合、動物の呼吸や心拍と同期して撮影を行うことが必要となるが、それらの信号から撮影条件を設定し自動的に撮影を行うシステムも構築されている。試料や空間分解能にも依存するが、1ショットあたりの露光時間は最短で20-30 msecとなる。


図2 BL20B2での撮影例。(左):実験ハッチ1にて撮影された綿棒のCT像。スキャン時間は32 sec。5 min毎に撮影され、水分が蒸発していく様子をとらえた。(中):ラット大脳の位相CT像。脳はホルマリン固定され、無染色で測定されている。海馬を形成している細胞等が描出されていることが分かる。(右):ウサギ新生児の胸部屈折コントラスト像。肺胞から生じるスペックルパターンに対し、Particle Image Velocimetryを適用し、肺の運動をベクトル表示している(Monash大学A. Fourasらによる)。


Ⅱ.利用状況

 2013A期2013B期合わせて35課題が実施された。このうちin-vivo計測を含む生物系の実験は20-30%を占める。これ以外は材料や装置の開発に関係する物が多い。使われる撮影技術は、大きく分けて投影イメージング法・マイクロCT法・それ以外となるが、課題毎に利用されているのは、それぞれ30%・55%・15%ほどとなっている。2014年度の時点で長期課題として、Monash大学のHooperらによる「Phase Contrast X-ray Imaging of the Lung」が実施されている。

 また最近の傾向として、30-50 keV以上の高エネルギーX線を利用する課題が増加傾向にある。これらは、光学素子や検出器の評価実験と化石・隕石などの3次元微細構造を定量あるいは可視化するための実験で、現状ではSPring-8でのみ実現可能であると考えられる。本ビームラインにおける高エネルギーイメージング実験はこれまでにも多くの実績があり(例えば[1-3])、CMOSフラットパネル検出器など高エネルギーX線に適した検出器も用意されているが、今後はさらに検出効率や分解能の向上を検討しなければならない。またX線エネルギーが高くなるにつれてビームの垂直発散が小さくなり、撮像範囲が狭くなるため、ビーム拡大技術の開発も必要である。


Ⅲ.2013年高度化の実施内容

1.X線トリスコピックイメージングの開発

 試料の3次元情報を計測する際に、一般的にはX線マイクロCTが利用されているが、試料を回転させながら画像再構成に必要な投影像を取得していくため、すべての投影データを得るためにはある一定量の時間が必要であり、試料のライブ観察には向いていない。一方で、2次元の単純投影イメージングを用いれば、動的試料をライブで観察することは可能であるが、投影方向の情報(奥行き方向の情報)は積算されてしまうため、3次元的な情報を得ることは出来ない。この両者の間を埋めるイメージング技術として、試料を異なる方向から同時投影することができるイメージング法の開発を行ってきている。試料の動きを同時に複数方向から捉えることができれば、1方向からの投影では失われてしまう試料の奥行き方向の情報を復元することが可能であり、ライブイメージングの3次元化も現実味をおびてくる。以前に試料を異なる2方向から同時投影することが可能なX線ステレオイメージングの開発について報告したが、試料を異なる3方向から同時投影することができるイメージング法がX線トリスコピックイメージングである[4]。CT再構成の原理からも明白なように、試料の3次元情報を2次元の投影像から復元する際に、異なる投影角度からの情報が多ければ多いほど、構造情報を精度良く再構築する上で有利となる。

 X線トリスコピックイメージングの光学系写真を図3に示す。BL20B2の実験ハッチ3において、自然発散により水平方向に大きく広がった入射X線ビームの両端にSi(111)の平板結晶(200 mm × 50 mm × 5 mm)を配置し、結晶に入射したビームをBragg反射させることで進行方向を変える。これにより、2枚のシリコン結晶による2つの反射ビームと、結晶間を直進するビーム、合わせて3本のX線ビームを作り出すことができる。3本のX線ビームが一か所で交差するように調整し、その交差点に試料を設置することで、試料を異なる3方向から同時に投影することが可能となる。X線エネルギーは15 keVから25 keV程度で調整可能であり、20 keVにおいて撮像視野20 mm × 20 mm程度が得られる。この場合、横視野の大きさは、結晶のアクセプタンスに依存する。ビームの進行方向を変化させるSi(111)平板結晶表面にはラップ研磨が施されており、実効的なロッキングカーブ幅を広げることにより、入射X線ビームの発散角および二結晶分光器の熱負荷によって生じる僅かなエネルギー分散が、反射ビーム幅に与える影響を低減している。また、平板結晶を僅かにベントさせることにより、反射ビーム強度分布の補正を行っている。交差点直後に画像検出器を設置することで屈折の影響がほとんど無い吸収コントラスト(図3参照)、交差点から離れた位置に検出器を設置することで屈折コントラストによる測定が可能である。屈折コントラストにおける測定では、試料から離れた検出位置において各ビーム間の距離が離れてしまうため、各ビームをそれぞれ独立した画像検出器で計測し、外部トリガーにより3台の検出器の撮像タイミングを同期することにより、3方向からの同時投影イメージングが可能となる。


図3 X線トリスコピックイメージング光学系


 X線トリスコピックイメージングにおける撮像例として、生きたマウスの人工呼吸下における時系列イメージングの様子を図4に示す。3台の画像検出器を用いた屈折コントラストによる測定で、実効ピクセルサイズは13.2 µm、視野は13.2 mm角である。通常の投影イメージングであれば、試料に対してある1方向からのみのライブイメージングであるが、X線トリスコピックイメージングを用いることにより、異なる3方向からの投影情報を得ることが出来ている。

 本高度化実験は、2013A1143, 2013B1221にて実施した。


図4 人工呼吸条件下におけるマウス胸部の時系列X線トリスコピック画像。スケールバー:5 mm



参考文献

[1] T. Miyazawa et al., Proceedings of SPIE, 7011, (2008) 70112P.

[2] T. Tsunoo et al., Medical Physics, 35, (2008) 4924-4932.

[3] M. Uesugi et al., Earth and Planetary Science Letters, 299, (2010) 359-367.

[4] M. Hoshino, T. Sera, K. Uesugi and N. Yagi, JINST, 8, (2013) C05002.



ⒸJASRI


(Received: September 24, 2014; Early edition: November 28, 2014; Accepted: January 16, 2015; Published: February 10, 2015)