Volume8 No.3
Published 29-October 2020 / SPring-8 Document D2020-013
SPring-8 Section A: Scientific Research Report
a中央大学, bESRF, cお茶の水女子大学, d広島県立大学, e (公財)高輝度光科学研究センター
aChuo University, bESRF, cOchanomizu University, dPrefectural University of Hiroshima, eJASRI
- Abstract
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SAXS signals from the DNA of salmon spermatozoa in an aqueous solution were analyzed using a rheometer-device, which controlled the rate of shearing during SAXS observations. When shearing rate > 1000 s−1 was applied to the DNA suspension, DNA strands were not aligned as observed with other biological filaments, but a stable diffraction peak approximately ranging 1.7–1.8 [nm−1] of Q-values were observed. We compared our observation with simulated SAXS signals.
Keywords:DNA, solution structure, scattering, SAXS simulation
aMonash University, bNational Cerebral and Cardiovascular Center Research Institute, cJASRI/SPring-8
- Abstract
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We investigated in female rats the coronary response to infusion of angiotensin-II type 2 receptor agonist compound 21 (C21) utilizing high resolution SR microangiography. We found that in non-diabetic rats acute C21 infusion evoked dilation in the coronary microvessels that most likely involved endothelium derived hyperpolarization factors, while C21 evoked mild constriction in prediabetic rats.
Keywords:angiotensin-II receptors, vasodilation, endothelium, diabetes
aラトックシステムエンジニアリング株式会社, b東北大学多元物質科学研究所, c慶應義塾大学医学部細胞組織学研究室
aRatoc System Engineering Co., Ltd., bInstitute of Multidisciplinary Research for Advanced Materials, Tohoku University, cLaboratory of Cell and Tissue Biology, Keio University School of Medicine
- Abstract
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骨粗鬆症治療薬である副甲状腺ホルモン PTH は、骨吸収や骨形成を促進することが知られている。しかし、連続投与すると骨吸収促進作用があるとされている。本実験では、成長板直下における軟骨小腔や一次海綿骨の石灰化を反映した3次元画像を取得して解析し、その機序の解析を試みた。PTH 非投与群では、肥大軟骨小腔の横中隔基質と縦中隔基質が吸収され、血管と骨髄が軟骨小腔に侵入し、石灰化肥大軟骨は吸収され、一次海綿骨が形成された。この経過は軟骨内骨化における不可欠の過程である。一方、PTH 連続投与群では、横中隔基質が石灰化し、肥大軟骨小腔が残存し、内部は低石灰化骨で満たされた。横中隔基質の石灰化により血管が侵入できず、破骨細胞が形成されない結果、骨吸収が抑制された。石灰化軟骨が一部残存し肥大軟骨小腔に低石灰化骨が形成され、石灰化骨への置換に障害をきたした。
Keywords:骨粗鬆症治療薬、副甲状腺ホルモン PTH、肥大軟骨小腔、骨吸収、骨形成、マルチスキャンX線顕微鏡、微分位相コントラスト法、デフォーカス位相コントラスト法
(国研)物質・材料研究機構
National Institute for Materials Science
- Abstract
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プロトン伝導性固体電解質から供給されるプロトンが誘起する酸化還元反応を利用して酸化グラフェンの酸素官能基を制御する固体イオニクスデバイスの動作機構の調査のため、硬X線回折を利用して電圧印加状態での in-situ 観察を行った。印加電圧の極性に対応して還元反応では酸素官能基の減少およびそれに伴う吸着水の脱離による層間距離の減少、逆に酸化反応では層間距離の増加が予想されたものの、印加電圧に依存しない回折ピーク強度の低下が認められた。硬X線 XPS の測定結果と考え合せると、X線照射のダメージに起因する酸化グラフェンのアモルファス化が進行したものと考えられる。
Keywords:酸化グラフェン、酸化還元反応、固体イオニクス
a兵庫県立大学, b総合科学研究機構, c大阪大学, d(公財)高輝度光科学研究センター
aUniversity of Hyogo, bCROSS, cOsaka University, dJASRI
- Abstract
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ダイヤモンドアンビルセル(DAC)中の高圧試料に対するX線三次元イメージングについて検討するため、モデル試料を用いた完全 CT と、試料回転軸を大きく傾けたラミノグラフィ測定を実施した。得られたデータを加工することにより、撮像に角度制限のある不完全 CT 像をシミュレートした。DAC 内試料に対する不完全 CT イメージングおよび不完全 CT のラミノグラフィによる逆空間での情報補完について検討した。ラミノグラフィを用いた逆空間補完法は、75% 程度欠落のある不完全 CT の画質を改善した一方で、13% 程度の欠落の像に対してはむしろ悪影響となった。
Keywords:X線イメージング、ダイヤモンドアンビルセル、逆空間補完
a京都大学複合原子力科学研究所, b京都大学工学研究科
a Institute for Integrated Radiation and Nuclear Science, Kyoto University, b Graduate School of Engineering, Kyoto University
- Abstract
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新しい Na イオン伝導体である Na3AlS3 ガラスをメカニカルアロイング法によって合成した。高エネルギーX線回折実験によって測定された構造因子 S(Q) にはわずかに結晶成分の残存が見られたが、ほぼガラス化された試料が得られた。全相関関数 T(r) を pair function 法によって解析した結果、ガラスの短距離構造ユニットとして AlS4 四面体が存在し、それらが形成するネットワーク構造はほぼ寸断されていることが明らかになった。さらに、Na イオンは他の硫化物系ガラスと同様に S 原子に4配位もしくは5配位されており、本系のイオン伝導性と関連していることが示唆された。
Keywords:イオン伝導体、高エネルギーX線回折、二体分布関数解析、メカニカルアロイング法
a九州大学, b(公財)高輝度光科学研究センター
aKyushu University, bSPring-8/JASRI
- Abstract
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本研究では、Fe50Pd50-xNix(x=6, 12, 25, 38, 44)の混合粉末を 6 GPa の高圧下で高圧ねじり(HPT)加工を行い、巨大ひずみを導入して固溶体状態のバルク状に固化した。続く熱処理で L10 構造の規則化を図った。X線回折(XRD)で規則相生成を確認し、振動試料型磁気力計(VSM)で保持力や飽和磁化を測定した。また、光電子顕微鏡 (PEEM) を用いて試料表面の組成分布、磁区構造を調べた。これより Fe50Pd50 における Pd の Ni による置換がどの程度可能かについて検討した。
Keywords:巨大ひずみ加工、X線回折、磁化曲線、L10 規則相、磁気異方性
京都大学
Kyoto University
- Abstract
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ヒトにおいて mRNA の核外輸送に働く mRNA 輸送因子 UAP56 と相同性の高いパラログ URH49 は、Apo-TREX および Apo-AREX 複合体の形成と、ATP 結合による ATP-TREX 複合体の形成を介して選択的 mRNA 輸送に働く。両者の複合体形成基盤の解明を目的として、UAP56、URH49 ならびに複合体形成制御領域を置換した変異体について ATP 非存在 / 存在下の SAXS 解析を行った。結果、ATP 非存在化において UAP56 と URH49 の溶液中構造に差異が存在し、ATP 存在化では両者の構造が相同になるというユニークな複合体形成の制御機構の可能性が示唆された。
Keywords:UAP56、URH49、ATP、複合体形成機構
京都大学 化学研究所
Institute for Chemical Research, Kyoto University
- Abstract
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架橋密度の低い天然ゴムを高速で伸長し、結晶化により準安定状態となる過程について、BL40XU ビームラインの強力なビームを用いた高速時分割広角X線回折(WAXD)解析を行った。一般に高分子結晶の熱的安定性は分子鎖方向の結晶サイズに影響されるが、今回の測定では準安定状態の発現と無関係にほぼ一定の値となった。一方、結晶化度については準安定状態となる試料が有意に高い値を示したことから、新しい熱力学的モデルの構築が必要性だと考えられた。
Keywords:形状記憶天然ゴム、伸長結晶化、広角X線回折
a京都大学生存圏研究所, b東アジア文化研究所, フランス, c奈良文化財研究所, d 京都大学, e南京林業大学, 中華人民共和国
a Research Institute for Sustainable Humanosphere, Kyoto University, b East Asian Civilizations Research Centre CRCAO, c Nara National Research Institute for Cultural Properties, d Kyoto University, e Nanjing Forestry University
- Abstract
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東アジアの木彫像は歴史的背景等により国外にて保管されているものが少なからずあり、現在欧米の様々な美術館・博物館などに保管されている木彫像の樹種調査を進めている。本研究では、アメリカ合衆国のボストン美術館での木彫像群の調査のうち、日本の木彫像3体から採取された非常に小さな試料に、SPring-8 の BL20XU でのシンクロトロン放射光X線トモグラフィーを適用して樹種識別調査を行った。その結果、Chamaecyparis obtusa が使用されていることを明らかにした。
Keywords:Wood identification, Micro-CT, Anatomical structure
SPring-8 Section B: Industrial Application Report
a宇都宮大学, b(公財)高輝度光科学研究センター, cライオン(株)
aUtsunomiya University, bJASRI, cLion Corporation
- Abstract
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固/水界面に対する微小角入射X線回折(GIXD)測定システムを構築し、毛髪表面に存在する官能基を疎水鎖末端に持つ有機シラン化合物で表面修飾したシリコンウエハと界面活性剤水溶液の界面に形成される吸着膜の構造を評価した。本研究で用いた界面活性剤分子は、固/水界面で緻密に充填した結晶状態で吸着膜を形成しており、その充填構造は、試料セル内水溶液の超純水による置換(すすぎ洗いに相当)によっても、今回の置換量の範囲内では維持されることがわかった。
Keywords:固/液界面、微小角入射X線回折法、界面活性剤、毛髪コンディショナー、 吸着膜
a南洋理工大学, b京都大学
aNanyang Technological University, bKyoto University
- Abstract
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芳香族炭素−水素(C–H)結合の活性化に触媒活性を有する低原子価コバルト化学種の酸化状態,配位構造等に関する知見を得るべくXAFS解析を行った。コバルト(II) 塩、配位子、有機マグネシウム反応剤から調製される触媒溶液について Co K-edge の XANES および EXAFS 測定を行ったところ、有機マグネシウム反応剤の添加に伴ってコバルトの還元が起こり、最終的に Co(0) または Co(−I) まで還元されることが示唆された。
Keywords:コバルト錯体,均一系触媒反応,XAFS
a宇都宮大学, b(公財)高輝度光科学研究センター, cライオン(株)
aUtsunomiya University, bJASRI, cLion Corporation
- Abstract
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毛髪コンディショナー成分(界面活性剤)の水溶液に浸漬したシリコンウエハとの界面に形成される吸着膜の構造について、X線反射率法により検討した。界面活性剤としては、塩化ベヘニルトリメチルアンモニウムを基本成分とし、ベヘニルアルコールおよびステアリルアルコールを添加物として用いた。塩化ベヘニルトリメチルアンモニウム水溶液ならびにそれぞれの長鎖アルコールを添加した水溶液から形成される吸着膜に対して、超純水による洗浄の程度に依存した膜構造の変化に着目した。長鎖アルコールの添加は、吸着膜の構造を変化させ安定化の向上に寄与することが示唆された。
Keywords:固/液界面、X線反射率法、毛髪コンディショナー、界面活性剤、吸着膜
(株)豊田中央研究所
Toyota Central R&D Labs., Inc.
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広域X線吸収微細構造(EXAFS)解析で得られる平均配位数に基づいて、バイメタリックナノ微粒子(BNP)の表面元素比率を評価することを試みた。BNP を構成する2元素が金属状態であることが求められるため、Pd、Pt ともに金属状態で存在する Pd–Pt BNP の実測データを用いて表面 Pd/Pt 比を見積もった。透過電子顕微鏡観察・エネルギー分散型X線分光分析の結果と無矛盾な結果(即ち Pt が BNP 表層に濃化していることを示す結果)が得られた。
Keywords:バイメタリックナノ微粒子,EXAFS解析,原子分布
(株)住化分析センター 技術開発センター
Sumika Chemical Analysis Service, Ltd. Technology Innovation Center
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リチウムイオン電池(LiB)電極は、その構造が複雑であるが、放射光X線 CT を活用することで合剤内部構造の解析が期待できる。すなわち、放射光の特徴である細く絞られ拡がりにくい光による高空間分解能ならびに単色X線による高コントラスト化の両立による微細空隙部分の可視化である。しかし、一般的な活物質である黒鉛を使用した負極を解析する場合、試料が非常に脆く、高分解能観察用に短冊化する事が難しい。そこで、我々は、シリコーン樹脂で電極空隙部を包埋する事で、合剤部分を強化し、かつ活物質と空隙部分のシリコーン樹脂との線吸収係数の差から空隙解析も容易になるのではないかと考えた。しかしながら、本法では、合剤部分を固定化する以外に画像解析上の利点を見出せなかった。
Keywords:リチウムイオン電池、負極、CT、シリコーン樹脂
ソニー株式会社
Sony Corporation
- Abstract
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レーザダイオードの発光特性には、チップに加わる応力による格子ひずみが影響を及ぼしていると考えられる。そこで、レーザダイオードチップに対してマイクロビームを用いたX線回折測定を行い、試料上の異なる位置で格子ひずみの差異を捉えることが可能なことを確認した。
Keywords:レーザダイオード、逆格子マップ、マイクロビーム
(株)住化分析センター
Sumika Chemical Analysis Service, Ltd.
- Abstract
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本研究ではガラスを最高 1100℃ で加熱し、溶融したガラスに対して XAFS 測定を行った。基板に表面処理を施したことで、溶融したガラスが流れずに基板上に留まった。この基板を用いて2種類のガラスについて XAFS 測定を行ったところ、リン酸系ガラスでは脱泡剤として添加した鉄が3価未満から3価への変化が確認され、ソーダ石灰ガラスでは3価のままであった。ガラス溶融時の価数変化を XAFS 測定により評価することが可能となった。
Keywords:XAFS、ガラス、高温測定
SPring-8 Section C: Technical Report
(公財)高輝度光科学研究センター
Japan Synchrotron Radiation Research Institute
- Abstract
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回転楕円面状に配置した高結晶性平面グラファイトによるブラッグ反射を利用し、目的とするX線の波長域をバンドパスする蛍光X線分光フィルタを試作した。Pt 試料に 12 keV のX線を照射し、作製した分光フィルタを通した後に SDD (Silicon drift detector)でスペクトルを評価した結果、目的とする Pt Lα1 9.44 keV が、Pt Ll 8.27 keV や Pt Lβ2 11.25 keV と分光でき、検出効率が 1.6 倍に向上した。さらに、蛍光X線分光フィルタと強度検出器を用いて、蛍光法による Pt L3 吸収端でのX線吸収スペクトルの取得に成功した。
Keywords:高結晶性グラファイト、ブラッグ反射、分光、蛍光X線分光フィルタ
Section SACLA
a大阪大学蛋白質研究所, b広島大学大学院医系科学研究科
aInstitute for Protein Research, Osaka University, bGraduate School of Biomedical and Health Sciences, Hiroshima University
- Abstract
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X線自由電子レーザーを用いた巨大ウイルスの単粒子構造解析を目指した研究に取り組んだ。直径約 160~200 nm の巨大ウイルスを用い、単粒子構造解析のための試料調製法の最適化とその評価方法の開発を行った。最適化した試料を SACLA BL3A における XFEL 回折実験に供し、単粒子由来の回折像を得ることに成功した。
Keywords:X線自由電子レーザー、単粒子構造解析、ウイルス