SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume3 No.2

SPring-8 Section A: Scientific Research Report

高エネルギーX線反射率法による高分子電解質ブラシ/塩水溶液界面における分子鎖形態評価
Characterization of Polymer Chain Conformation at Polyelectrolyte Brush/ NaCl Aqueous Solution by High Energy X-Ray Reflectivity Measurement

DOI:10.18957/rr.3.2.302
2011B1326 / BL13XU

高原 淳a,b, 村上 大樹a,b, 星野 大樹a,b, 篠原 貴道a, 檜垣 勇次a,b

Atsushi Takaharaa,b, Daiki Murakamia,b, Taiki Hoshinoa,b, Takamichi Shinoharaa, Yuji Higakia,b


a九州大学 先導物質化学研究所, bJST ERATO高原ソフト界面プロジェクト

aInstitute for Materials Chemistry and Engineering, Kyushu University, bJapan Science and Technology Agency (JST), Exploratory Research for Advanced Technology (ERATO), Takahara Soft Interfaces Project


Abstract

 高分子電解質ブラシ/水界面の分子鎖凝集構造をX線反射率測定による評価を試みた。測定のための溶液セルを試作した。陽イオン性、陰イオン性の高分子電解質ブラシに比べて、それらの共重合体を用いた場合には界面粗さが増大したが、塩水溶液中ではその差は小さかった。高分子鎖内の静電相互作用、また水溶液中の塩によるその遮蔽効果による高分子電解質ブラシ分子鎖形態の変化を、X線反射率測定によって適切に評価できる可能性を示した。


キーワード: 高分子電解質ブラシ、分子鎖形態、X線反射率測定、高分子電解質ブラシ/水界面


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背景と研究目的:

 固体基板上に高密度にグラフトされた高分子電解質は高分子電解質ブラシと呼ばれ、その超親水的性質から水中において固体に良好な潤滑性や防汚性を付与できるため、新たな表面高機能化材として近年注目されている[1,2,3]。水中における高分子電解質ブラシは高分子鎖間の強い静電的な反発や立体的束縛、周囲の水や溶存イオンとの相互作用によって、膨潤した構造を取っている。このような分子鎖形態に関する情報はその表面・界面物性を考える上で欠かせない知見であるにも関わらず、液体中において分子レベルでの構造評価を行う手法は重水素を液体に用いた中性子反射率測定(NR)に限られている。本研究ではSPring-8 BL13XUの高強度の放射X線を用いて液体中でX線反射率法を行うことにより、水中または塩水溶液中における高分子電解質の分子鎖形態の詳細な評価を行うことを目的とした。


実験:

 高分子電解質ブラシには陽イオン性のpoly(2-(methacryloyloxy)ethyl trimethylammonium chloride) (PMTAC)、陰イオン性のpoly(3-sulfopropyl methacrylate potassium) (PSPMK)、またそれらのブロック共重合体であるPMTAC-b-PSPMKを用い、それぞれシリコンウエハ上に開始剤を固定し表面開始原子移動レジカル重合(ATRP)法によって調製した。図1にポリマーブラシの化学構造を示す。



図1 ポリマーブラシの化学構造


 XR測定には液体中測定用の測定セルを自作して使用した。シリコン基板を底面に固定後(図2a)、X線入射・出射のためのカプトン窓を有する外蓋を固定し(図2b)、その後インジェクション孔から液体を充填した。液体中のX線光路長はおよそ50 mmとした。さらに液体による吸収を低減するためには高エネルギーのX線を利用する手法が報告されており[4]、我々は20 keVのX線を使用した。反射X線の強度はセル後方に設置したシンチレーションカウンターを用いて1秒/点の露光時間で測定した。



図2 液体中XR測定セル (a) 基板固定の様子、(b) 外蓋


結果および考察:

 図3には調製したそれぞれの高分子電解質ブラシ/水界面で得られたX線反射率測定の結果を示している。X線反射率は基板と水の全反射臨界角に対応する散乱ベクトルqcにて急激な減衰を見せており、本測定によって水界面におけるX線反射率が適切に測定できていることが確認できる。高分子電解質ブラシと水との電子密度コントラストが小さいために膜厚に依存する明確なフリンジは現れていないが、曲線の減衰挙動に顕著な相違が確認できる。PMTACブラシとPSPMKブラシの間では大きな違いはないのに対し、PMTAC-b-PSPMKブラシでは散乱ベクトルqの増大とともにX線反射率はより急速に減衰している。PMTACやPSPMK単独のブラシ中は、分子鎖中の正または負電荷どうしが反発し合うで膨潤した分子鎖構造をとっていると考えられる。これに対し、正負両電荷を有するPMTAC-b-PSPMKブラシは、分子内の静電相互作用により、PMTAC部位とPSPMK部位が複雑に絡み合った構造をとっていることが、界面粗さを増大させている要因であると考えられる。

 この点を検証するために、水に代えて500 mM NaCl水溶液を用いても同様の実験を行った。PMTACブラシ、PSPMKブラシでは水を用いた場合と比べて大きな変化は現れなかったが、PMTAC-b-PSPMKブラシでは水の場合に比べてX線反射率の低下が緩やかになっており、界面粗さが減少したことを示唆していた。添加塩の効果によってPMTAC-b-PSPMKブラシ層中での正負電荷間の静電相互作用が遮蔽され、分子鎖の絡み合いが緩和されることにより、界面粗さが低減していることを反映しているものと考えられる。



図3 液中X線反射率測定の結果 ()PMTACブラシ(水中)、()PSPMKブラシ(水中)、()PMTAC-b-PSPMKブラシ(水中)、()PMTAC-b-PSPMKブラシ(NaCl水溶液中)


今後の課題:

 水中、水溶液中におけるXR測定は高分子ブラシの構造変化を調べる有用な手段であることが示された。しかしながら今回の実験では高分子ブラシを構成する高分子電解質と水との間の電子密度コントラストが十分でなかったために界面粗さのみの定性的な議論に留まってしまった。しかし実際には図3中の全反射臨界角度での散乱ベクトルqcが試料に依存してわずかに変化していることからも予測されるように、界面粗さの変化に伴って高分子ブラシ層の電子密度や膜厚も変化しているはずであり、それらを統括した分子鎖形態の議論を行うことが求められる。今回の実験結果からは厳密なフィッティング解析による定量的議論には至らなかったが、今後測定セルの形状や測定時間の最適化による測定精度の向上、またより適した高分子材料を用いることによる電子密度コントラストの向上を図ることで、電子密度や膜厚を含むより定量的な議論へと進展させることが必要である。


参考文献:

[1] M. Kobayashi, M. Terada, Y. Terayama, M. Kikuchi, A. Takahara, Isr. J. Chem., 52, 364-374 (2012)

[2] M. Kobayashi, Y. Terayama, H. Yamaguchi, M. Terada, D. Murakami, K. Ishihara, A. Takahara,Langmuir, 28, 7212–7222 (2012)

[3] M. Kobayashi, M. Kikuchi, Y. Terayama, A. Takahara, Soft Matter, 9, 5138-5148 (2013)

[4] C. E. Miller, J. Majewski, T. Gog, T. L. Kuhl, Physical Review Letters, 94, 238104 (2005)



ⒸJASRI


(Received: January 26, 2015; Early edition: May 28, 2015; Accepted: June 29, 2015; Published: July 21, 2015)