SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume3 No.1

SPring-8 Section C: Technical Report

BL37XU(分光分析)の現状(2014)
Present Status of BL37XU (2014)

DOI:10.18957/rr.3.1.219
/ BL37XU

寺田 靖子、新田 清文

Yasuko Terada, Kiyofumi Nitta

(公財)高輝度光科学研究センター・利用研究促進部門・分光物性Iグループ

Spectroscopy GroupⅠ, Research & Utilization Division, JASRI

Abstract

 ビームラインBL37XU(分光分析)は、直線型真空封止アンジュレータを光源としたビームラインであり、顕微分光分析法を主体とする実験に利用されている。2010年度に実施された「グリーン・ナノ放射光分析評価拠点の整備」により、高品質なナノ集光ビーム形成の実現を目的として、第3実験ハッチが新規に建設された。この第3実験ハッチには、「ナノビームX線蛍光分析装置」が整備され、ビームライン光学系も併せて高度化が行われた[1,2]。2013年度においては、広いエネルギー領域(4.5 ~ 113 keV)とX線集光素子の組み合わせにより、マイクロ/ナノビームを用いた分光分析手法を利用して、様々な実試料の分析が行われている。本稿では、BL37XUの現在の利用状況と、近年実施した高度化研究開発について報告する。


キーワード:走査型X線顕微鏡、蛍光X線分析、ビームライン延伸

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I.基本性能と実験装置

(詳細は、http://www.spring8.or.jp/wkg/BL37XU/instrument/lang/INS-0000000592/instrument_summary_viewを参照)

 光源は真空封止アンジュレータである。光学ハッチ内の各コンポーネントはSPring-8標準型に従って設置されている[3,4]。2010年度の整備により、二結晶分光器は、従来のインクラインド配置水冷型から液体窒素冷却を用いた平行平板配置に変更された。これにより、第2結晶の切り替えが可能となり、Si 111 - Si 111結晶ペアとSi 333 - Si 511結晶ペアにより4.5 ~ 113 keVまでの広いエネルギー領域をカバーできるようになった。分光器下流には2枚の水平偏向平面湾曲ミラーが設置され、高調波カットおよび水平集光を行うことが可能である。ミラー表面はPtとRhのコートが施されており、計測エネルギー領域によって選択することが可能である。このミラーと二結晶分光器のミラーの間には高精度4象限スリットが設置されており、ナノ集光ビーム形成の際に空間フィルターとして利用される。


エネルギー領域 4.5 ~ 37.7 keV (Si 111), 14 ~ 113 keV (Si 333 + Si 511)
エネルギー分解能 ΔE/E ~ 2 × 10-4 (Si 111), 2 × 10-5 (Si 511)
フラックス 2 × 1013 ph/s (Si 111, E = 10 keV)
ビームサイズ(半値全幅) 2 mm (水平) × 2 mm (垂直)(非集光時)

図1 BL37XU全体レイアウト


 使用できる主な実験装置としては、走査型X線顕微鏡などが挙げられる。図1に、ビームラインのレイアウトを示す。


Ⅱ.利用状況

 2013A期と2013B期は、合わせて全34課題が実施された。採択率は、2013A期、2013B期それぞれ、90%、64%であった。図2(a)に、課題種別の割合を示す。一般課題が80%近くを占めている。長期利用課題として、Michael Zolensky博士(NASA)の「Energy scanning X-ray diffraction study of extraterrestrial materials using synchrotron radiation」が実施されている(重点グリーン:重点グリーン/ライフ・イノベーション推進課題、萌芽:萌芽的研究支援課題)。図2(b)に、研究分野別の割合を示す。触媒、材料物質、電池、デバイス、地球環境物質、生体・薬学関係、考古学など非常に幅広い研究分野に渡り実験が行われている点にBL37XUの特徴がある。図2(c)に測定手法別の割合を示す。走査型顕微XRF/XAFS法を主体として、深さ分解XAFS法などの顕微分光法や超高感度計測法(蛍光分解XAFS法など)など、アンジュレータ光の高輝度特性を最大限利活用した計測手法を用いて、極希薄・微量・薄膜試料に対する実験が実施されている。


図2 採択課題に対する(a)課題種別割合、(b)研究分野別割合、(c)測定手法別割合


Ⅲ.高度化の実施内容と成果

(1) ビームライン延伸によるナノ顕微X線分光プローブの実現

 2010年度に新たに増設した第3実験ハッチは、ナノ集光ビーム形成のため、X線光学素子による縮小率を高くすることを目的として、実験ホール内の最下流位置(光源からの距離:約80 m)に設置されている。集光光学素子としては、安定かつ高効率なXAFS測定を可能とするために、2枚の非球面全反射ミラーからなるKirkpatrick-Baez(KB)ミラーを導入した。既設の第1実験ハッチでは、光源からの距離が50 m程度しか確保できなかったため、最小800 nm程度の集光ビームの利用に留まっていた。第3実験ハッチで導入したKBミラーは、優れたミラー表面加工技術により、100 nmオーダーの集光ビームでありながら高フラックスのX線が得られるように設計を行った。ミラーはRhコーティングで、視斜角:3.5 mradとし、ミラー長をそれぞれ、300 mmと200 mmにすることにより、入射X線に対して、1 × 0.7 mm2の有効開口を得ることができ、NAの大きな明るい集光ビームを実現している。利用可能エネルギーは15 keV以下である。また、近年のin-situ計測等のニーズの増加に伴い、種々の試料セルの設置を可能とするために試料周辺部のスペースをできるだけ広く確保する必要があった。そのため、ワーキングディスタンス(集光ミラー下流端から集光点までの距離)として100 mmを確保できるようにした。この設計のKBミラーを用いて、第3実験ハッチでは、高フラックスモードと高空間分解能モードの二つの実験モードの設定を可能とした。高フラックスモードは、KBミラーがアンジュレータ光源を直接見込んでおり、ビームサイズ:300 (H) × 300 (V) nm2、フラックス:6 × 1011 ph/s(10 keV)を利用可能とした。従来と比べ、ビームサイズが1/3になったにも関わらず、フラックスは1桁以上高くなっており、蛍光X線分析を行うに十分明るいナノビームが実現された。一方、高空間分解能モードでは、二結晶分光器下流の高精度4象限スリットを空間フィルターとして用いることにより、ビームサイズ:100 (H) × 100 (V) nm2、フラックス:109 ph/s以上の集光ビームを利用可能とした(図3)。今後、ナノビームを用いた走査型顕微XRF/XAFS法を用い、従来法よりも高い空間分解能かつ高い精度をもつ元素分布分析や化学状態分布計測が様々な研究対象に対して展開されることが期待される。


図3 第3実験ハッチ内集光ビームプロファイル(高空間分解能モード)


 ビームライン延伸によるもう一つの大きな展開として、透過型X線顕微法と結像型X線顕微法の高精度・高効率・高分解能化の実現が挙げられる。両者に関しては、現在高度化を進めている段階である。これらと走査型X線顕微法を組み合わせることにより、より質の高い情報が得られるX線ナノ顕微計測の利用が展開されることが期待される。


(2) 広エネルギー領域の顕微X線分光計測実現のための高度化

 BL37XUは従来、Aブランチの二結晶分光器により4.5 ~ 37 keV(可変)、Bブランチの単結晶分光器により75.5 keV(固定)のX線の利用が可能であった。Aブランチの二結晶分光器の変更に伴い、全実験ハッチにおいて4.5 ~ 113 keVの広エネルギー領域のX線をエネルギー可変な条件で安定利用することを目的とし、ビームライン制御・計測システムの構築を進めている。新システムで実測した代表的なエネルギーでのフォトンフラックスは、それぞれ1.8 × 1013 ph/s(10 keV)、1.4 × 1012 ph/s(34 keV)、5.6 × 109 ph/s(100 keV)であった。

 第3実験ハッチにおいて高エネルギーX線領域での集光テストを行ったところ、KBミラーを用いた場合のビームサイズは、600 × 320 nm(60 keV、フォトンフラックス:109 ph/s)が実現できている。これにより、高エネルギー蛍光X線分析がより柔軟に利用でき、高エネルギーXAFS計測も可能になった。これは世界的に見ても類を見ない大きな特徴となっており、今後の利用の展開が期待される。


参考文献

[1] M. Suzuki, Y. Terada, H. Ohashi, SPring-8 Research Frontiers, 2011 (2012) 151.

[2] H. Ohashi, Y. Terada, et al, J. Phys: Conf. Ser., 425 (2013) 052018.

[3] Y. Terada, et al, AIP Conf. Proc., 705 (2004) 376.

[4] Y. Terada, et al, AIP Conf. Proc., 1365 (2011) 172.



ⒸJASRI


(Received: November 20, 2014; Accepted: January 16, 2015; Published: February 10, 2015)