SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume3 No.2

SPring-8 Section B: Industrial Application Report

コアシェル構造を有するセリアジルコニア自動車排ガス用助触媒のIn-situ XAFS解析
In-situ XAFS Analysis of Core Shell CeO2-ZrO2 Catalysts for the Automotive Application

DOI:10.18957/rr.3.2.441
2011B1958 / BL14B2

山田 祐貴a, 高橋 洋祐a, 西堀 麻衣子b

Yuki Yamadaa, Yosuke Takahashia, Maiko Nishiborib


a(株)ノリタケカンパニーリミテド, b九州大学

aNORITAKE CO., LIMITED, bKyusyu university


Abstract

 自動車排ガス浄化用助触媒として開発しているコアシェル構造を有するセリアジルコニアについて、600~800°Cかつ酸化還元雰囲気での材料挙動を、In-situ XAFSで解析した。表面にCeを濃化したセリアジルコニアでは中心部のジルコニア粒子径が小さくなるほど上記条件下においては低温酸化還元雰囲気でのCe価数変動が大きいことが明らかになった。コアシェル構造のセリアジルコニア材の排ガス浄化特性の一部が明らかになった。


キーワード: 自動車触媒、助触媒、セリアジルコニア、XAFS


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背景と研究目的:

 セリアジルコニア(以下、CZ)はセリアが持つ酸素貯蔵能という特異な性質のため、30年以上前から現在に至るまで自動車助触媒材に欠かすことができない材料として用いられている。しかし、近年Ce(セリウム)の価格が高騰しており、Ce使用量の低減化が求められている。従来のCZは均一固溶体型で、粒子中心部分のCeが有効に使われていないという課題があった。この課題に対して我々は、Ceをジルコニア粒子の表面に配置するコアシェル構造のコンセプトで、全てのCeを有効に利用する材料開発に取り組んできている。

 本研究では、我々が作製したCZ材はSTEM-EDX分析の結果コアシェル構造であることが確認されており、600~800°Cかつ酸化・還元雰囲気でのCeの価数変動をin-situ XAFSで解析し、Ce使用量を低減化し、かつ低温で酸素貯蔵能が高い材料を設計するための新たな指針を得ることを目的とした。


実験:

 粒子中心部のジルコニア一次粒子径が(a)50 nm, (b)100 nm, (c)120 nmの3種のCZ粉末をプレス成形(φ10 mm×1 mm)した。Ce/Zr比はいずれも20/80で、二次粒子の平均粒径D50は(a)10 μm, (b)3 μm, (c)6 μmである。また、いずれの試料のCe層も、XPS測定限界以下のため、正確には不明であるが数nm以下の厚みであると考えられる。比較試料として、Ce/Zr比20/80の均一固溶体型のCZについても上記同様の手順で測定試料を作製した。各試料を室温、600°C、800°Cの空気雰囲気において透過法で、SPring-8 BL14B2にてCe K吸収端及びZr K吸収端、分光結晶面Si(311)でXAFS測定を行った。その後、600°Cまで一度冷却して、水素ガスに置換した後、再度600°C、800°Cの還元雰囲気(水素)でXAFS測定を行った。さらに800°Cで再度空気雰囲気に置換し測定を行った。3価Ceの標準試料にはCe(NO3)3・6H2Oを、4価Ceの標準試料にはCeO2を、0価Zrの標準試料にはZr foilを、4価Zrの標準試料にはZrO2を用いた。価数評価に関しては、特にCe LIII吸収端の測定も行い検討すべきであったが、ビームタイム不足のため今回はK吸収端のみで検討を行った。


結果および考察:

 図1に各試料の600°C還元雰囲気下でのCe K吸収端のXANESスペクトルを示す。粒子中心部のジルコニア粒径が小さいほど、空気から還元雰囲気に変化した時のCeの価数変動が大きくなることが確認された。図2に各試料の800°C還元雰囲気下でのCe K吸収端のXANESスペクトルを示す。図2の縦軸normalized×μ(E) = 0.5において、各試料が3価Ce標準試料と同じ約40428 eVの値を取っているため、800°C還元雰囲気ではいずれの試料もほぼ3価のCeになっていることが考えられた[1]。3価と4価のCe標準試料の測定結果を用いてlinear combination fittingを行った結果から、ジルコニア粒径が小さいほど低温(600°C)でCe価数が変化しやすい、すなわちCZが持つ酸素貯蔵能を示す理由であるCeO2→CeO2-x+x/2O2の反応が起こりやすい状態であり、粒子が酸素をより放出しやすい状態になっていることが考えられた。

 一方、酸素雰囲気下ではいずれの試料、温度でもCe価数は4価であった。図3に試料(a)のCZの空気雰囲気下、800°Cまで昇温した時のCe K吸収端のXANESスペクトル(CZ 1st)、その後CZ 1stを600°Cに一度冷却して、水素ガスに置換した後、再度800°Cに昇温し、その後空気雰囲気に再度置換した時のCe K吸収端のXANESスペクトル(CZ 2nd)を示した。還元雰囲気後においても酸素雰囲気下にすればCeの価数は再度4価に戻ることが分かった。コアシェル構造のCZでは、Ceは価数が可逆的に変化することが確認された。

 図4にコアシェル型CZである試料(a)と従来の均一固溶体型のCZの600°C還元雰囲気下でのCe K吸収端のXANESスペクトルを示す。この時のCe価数はnormalized×μ(E) = 0.5において、わずかではあるがコアシェル型の方が価数が小さく、低温での価数変動量が大きい可能性があったが、有意な差であることを確認するにはさらなるN数追加と測定条件の検討が必要であった[1]

 図5にコアシェル型CZ試料(a)の600°C空気雰囲気及び還元雰囲気下でのZr K吸収端のXANESスペクトルを示す。図5の縦軸normalized×μ(E)=0.5において、試料(a)は雰囲気によらず4価ジルコニウム標準試料と同じ約17990 eVをとっているため、ジルコニウムの価数変化は本条件において見られないことが分かった[1]

 我々が取り組んでいるコアシェル構造のCZに関して、粒子中心のジルコニア粒径を小さくしていけばCeの低温での価数変動が大きくなり、性能が向上していく傾向があり、従来の均一固溶体型との比較でも低温での価数変動に優位性があるという重要な基礎知見を得ることができた。

 なお、EXAFS測定は測定時間が十分に取れず、解析できるデータを得ることができなかった。



図1 粒子中心部のジルコニア粒径が異なるコアシェル構造CZのCe K吸収端XANESスペクトル(600°C,H2雰囲気)



図2 粒子中心部のジルコニア粒径が異なるコアシェル構造CZのCe K吸収端XANESスペクトル(800°C,H2雰囲気)



図3 コアシェル構造CZの繰り返し評価時のCe K吸収端XANESスペクトル(800°C,空気雰囲気)



図4 コアシェル構造CZと従来の均一固溶体型CZのCe K吸収端XANESスペクトル(600°C,H2雰囲気)



図5 コアシェル構造CZと従来の均一固溶体型CZのZr K吸収端のXANESスペクトル(600°C,空気雰囲気及び還元雰囲気)


今後の課題:

 本試験では、コアシェル構造に限定した測定であった(一部従来の均一固溶体型を含む)。今後は均一固溶体型についても評価を進め、EXAFSの比較検討をすることで粒子構造の違いによる性能差の本質を明らかにしていくことが課題と考えられる。


参考文献:

[1] 平野 辰巳、湯浅 豊隆、寺田 尚平、高松 大郊、日高 貴志夫「リチウム二次電池用正極材料の局所構造解析」Photon Factory Activity Report 2011 #29 (2012) B 26-1



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(Received: May 8, 2012; Early edition: April 28, 2015; Accepted: June 29, 2015; Published: July 21, 2015)