SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume3 No.2

SPring-8 Section B: Industrial Application Report

表面修飾による薄膜の構造変化の解析
Analysis of the Structure of the Thin Film by Surface Modification

DOI:10.18957/rr.3.2.582
2014A1561 / BL19B2

権藤 聡a, 馬路 哲a, 和泉 篤士b

Satoshi Gondoa, Satoshi Majia, Atsushi Izumib


a住ベリサーチ(株), b住友ベークライト(株)

aS.B. RESEARCH CO., LTD, bSUMITOMO BAKELITE CO., LTD.


Abstract

 有機-無機複合材料において無機材料の表面を改質することで、様々な特性を付与することができる。その例として、エポキシ樹脂-アルミナ複合材料の熱伝導性は、アルミナ表面を不飽和脂肪酸によって修飾することで向上することがある。これは、表面修飾によってエポキシ樹脂の高次構造が変化したためと推定される。本研究では、不飽和脂肪酸がエポキシ樹脂の高次構造に与える影響について、放射光すれすれ入射広角X線回折(GI-WAXD)による解析を行った。不飽和脂肪酸の修飾量とエポキシ樹脂塗膜の構造の関係性の検証を行ったが、エポキシ樹脂の濡れ性が少量の不飽和脂肪酸修飾により変化することはわかったが、修飾状態とエポキシ樹脂の構造の関係を評価するには至らなかった。


キーワード: すれすれ入射X線回折、表面修飾、熱伝導



背景と研究目的:

 近年の電子機器の高機能化、高速化に伴い、その発熱量が増加傾向にある。さらに、省エネルギーを目的としたパワーデバイスの需要の増加が見込まれているが、動作時に高温の環境となりやすいため、発熱放熱の制御が課題となっている。そのため、各種基板、樹脂シート、スペーサー、半導体封止材などの放熱用部材においても高放熱性の要求が高まっている。これら放熱用部材の多くは樹脂と無機充填材から構成されているが、我々の研究では、表面修飾した無機充填材を使用することで熱伝導性が向上する結果が得られている。しかし、そのメカニズムはわかっていない。

 熱伝導を担うフォノンは格子欠陥や分子振動の非調和性により散乱を起こし、熱伝導性を低下させるため、一般に高分子材料は熱伝導性が低いが、分子を配向させ分子構造の秩序性(いわゆるパッキング性)を高めれば、熱伝導率が向上することがわかっている[1]

 そこで、本研究では無機充填材への表面修飾が界面近傍の分子のパッキング性を高めることで、熱伝導率が向上している可能性があると予想し、界面付近の分子構造をすれすれ入射広角X線回折(GI-WAXD)法で調べることで、熱伝導性向上のメカニズムを明らかにすることを目的とした。以前の実験(課題番号: 2013B1510)では脂肪酸の構造の違いがパッキング性に与える影響を調べるために2重結合数の異なる脂肪酸を表面修飾した基板について実験を行った。本実験では修飾剤の量および修飾時の温度がパッキング性に与える影響を調べるために、修飾剤状態が異なる7水準の基板について評価した。


実験:

 LED用サファイア基板(京セラ製)を水中で加熱して修飾剤(不飽和脂肪酸)を反応させた後、エタノールで洗浄、乾燥して表面修飾基板を作製した。修飾剤の濃度を0%、0.001%、0.05%、3%とすることで、修飾量を制御した。修飾剤の量はX線光電子分光(XPS, Thermo Scientific製 ESCALAB 220i)で測定し、修飾剤の添加量と被覆量に相関があることを確認した。また、加熱温度を150℃, 250℃, 300℃の3水準の基板も作成した。さらに、ビフェニル型エポキシ樹脂(三菱樹脂製)をスピンコート後、200℃で硬化させ20–30 nmのエポキシ樹脂薄膜付きサファイア基板を作製した。以下、作製した基板のうち修飾剤の濃度の低い順にエポキシ膜の無いものをCA-0、CA-1、CA-2およびCA-3、エポキシ膜のあるものをCA-0-E、CA-1-E、CA-2-EおよびCA-3-Eと記す。同様に加熱温度が異なる基板については、CA-150、CA-250、CA-300、CA-150-E、CA-250-E、 CA-300-Eと記す。なお、比較のため測定した加熱処理を行っていないブランク基板は、エポキシ膜の無いものとあるものをそれぞれ Blank、Blank-Eと記す。

 X線反射率(XRR)測定およびすれすれ入射広角X線回折(GI-WAXD)測定はBL19B2のHUBER製多軸回折計を用いて実施し、カプトンドームを使用しHeガス雰囲気、室温で実施した。X線波長は1 Å、検出器はシンチレーションカウンターを使用し、入射X線は幅0.2-0.3 mmとし、受光側は発散角0.1°のソーラースリットを用いた。

 なお、予定していた加熱時の実験は、加熱ステージの不調のため実施できなかった。


結果および考察:

 表1に表面修飾後のサファイア基板表面(CA-1~3)のXPSによる元素濃度の測定結果を示す。表面修飾時の修飾剤の濃度が高い方が、修飾剤由来の炭素の濃度が高く、不飽和脂肪酸の修飾量の異なるサファイア基板ができていることを確認した。


表1 XPSによるサファイア表面の元素濃度


 図1に修飾量の異なるサファイア基板のXRR測定プロファイルを示す。データを見やすくするため、各データを縦軸方向にスライド表示させてある。CA-1、CA-2、CA-3では修飾層由来のフリンジが明確でなく、修飾層の厚みを算出することはできなかったが、プロファイルのわずかな屈曲から、修飾層は1 nm程度の厚みであると推測される。CA-0では修飾層は存在しないが、Blankと比べるとプロファイルの変化が見られるため、サファイア基板表面になんらかの変質層ができていると推測している。

 エポキシ樹脂を塗布したBlank-E、CA-0-EおよびCA-2-Eではエポキシ樹脂薄膜由来のフリンジが明確に見られ、フィッテング解析を行った結果、それぞれ28 nm、28 nm、および25 nmの膜厚であることが確認された(表2)。CA-1-EとCA-3-Eでは、フリンジが明確でなく、膜表面のラフネスが大きいと考えられ、膜厚を算出することができなかったが、同程度の膜厚であると推測している。また、表面修飾量との相関は見られなかったが、エポキシ樹脂薄膜のラフネスは表面修飾を行った方が増大する傾向が見られた(表2)。このラフネスの変化は、表面修飾を行うことでエポキシ樹脂に対する濡れ性の変化が生じたためと推測され、表面処理によるエポキシ樹脂への影響があることがわかった。



図1 サファイア基板のXRRプロファイル。a)エポキシ樹脂膜無、b)エポキシ樹脂膜有


表2 エポキシ樹脂薄膜の膜厚と表面ラフネス


 図2に各水準のin plane方向のGI-WAXDプロファイル(入射角=0.125°)を示す。エポキシ樹脂膜の密度からその臨界角は 0.11°、X線反射率測定からサファイア基板の臨界角は0.185°程度と見積もられるため、この入射角の場合は、エポキシ樹脂薄膜のほぼ全体を評価していると考えられる。

 各試料でアモルファスハローが2θ = 13°付近に見られた。このアモルファスハローは、Blank-EとCA-0-Eは強度が強く、CA-1-EとCA-2-E、CA-3-Eは強度が弱かった。この結果から、修飾剤量の依存性は見られなかったものの、修飾剤による改質の効果がハロー強度の変化として観測されたと考えられる。なお、2θ = 14°, 17°, 22°付近等に見られている鋭いピークは基板の結晶に由来と推測される。



図2 サファイア基板のin plane方向のGI-WAXDプロファイル


 図3に加熱温度が異なるサファイア基板のXRRプロファイルを示す。CA-150はフィッテング解析により修飾剤は厚さが1.4 nm程度であることがわかった。CA-250、CA-300はフィッテング解析ができなかったが、プロファイルの屈曲から、同程度の修飾剤がついていると考えられる。

 また、エポキシ樹脂の付着状態についてはフリンジが観測されなかったため、確認することができなかった。なお、CA-300およびCA-300-Eにおいては臨界角付近の反射率の落ち込みが大きい。このことから、基板表面のラフネスが大きいと考えられ、加熱処理によりサファイア表面が変質した可能性が推測される。

 図4に加熱温度が異なるサファイア基板のin plane方向のGI-WAXDプロファイル(入射角=0.125°)を示す。加熱温度が高いCA-250-E、CA-300-Eでは2θ = 7°, 15°, 22°付近に見られ、加熱温度が高いほどこれらのピーク強度が大きいことから、加熱によるサファイア基板の変質が進んでいると推測される。一方、有機膜由来の回折は見られず、加熱温度による有機膜の構造への影響を評価することはできなかった。基板表面にエポキシ樹脂がコーティングできていないかコーティング量が少なかった可能性が考えられる。



図3 サファイア基板のXRRプロファイル。a)エポキシ樹脂膜無、b)エポキシ樹脂膜有



図4 サファイア基板のin plane方向のGI-WAXDプロファイル


今後の課題:

 修飾剤量によるエポキシ樹脂の構造の違いは今回のGI-WAXD測定では確認できなかったが、2θ < 3°に観測される2 nm以上の長周期構造が変化している可能性も考えられるためGI-SAXS実施し、熱伝導率との関係性を調べていく予定である。

 加熱温度による影響の評価に関しては、サファイア基板の加熱温度や樹脂膜のコーティング方法等試料作製方法を検討する必要がある。


参考文献:

[1] C. L. Choy, Polymer, 18, 984 (1977)



ⒸJASRI


(Received: October 14, 2015; Early edition: March 25, 2015; Accepted: June 29, 2015; Published: July 21, 2015)