SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume3 No.1

Section B : Industrial Application Report

タイヤの耐久性向上のための黄銅/ゴムの接着結合様式の解析-硫黄の化学状態解析Ⅱ
Analysis of Adhesion Bonding System between Brass and Rubber for High Durability of Tires: Analysis of the Chemical State of Sulfur in Tires Ⅱ

DOI:10.18957/rr.3.1.28
2013A1387 / BL27SU

鹿久保 隆志, 清水 克典, 網野 直也

Takashi Kakubo, Katsunori Shimizu, Naoya Amino

横浜ゴム株式会社

THE YOKOHAMA RUBBER CO., LTD.



Abstract

 タイヤ中のスチールコードとゴムを接着させることで強固な複合体となり耐久性が維持される。金属接着用ゴムには硫黄が多く含まれており、ゴム中の架橋およびゴムと金属の結合の役割をする。これまで金属側からのXAFS測定を行ってきたが、今回は硫黄に着目し、軟X線XAFS測定より加硫前後、老化前後の硫黄の環境情報を測定した。ゴムシートに硫黄粉末を練りこんだ後、加硫(加熱)処理して、加硫前後の硫黄の化学状態をXAFS測定にて解析した。また、加硫後のゴムシートを空気中で熱老化させて、老化前後の硫黄の化学状態を同様に解析した。硫化物標準試料と対比することで硫黄の結合状態等を推定した。今回の測定により、金属接着ゴム中の硫黄の化学状態を把握することができた。


キーワード: タイヤ、ゴム、接着、ブラス、硫黄、軟X線XAFS


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背景と研究目的:

 タイヤの耐久性向上に対して重要なことは、ゴムの耐劣化性を向上すること、タイヤの補強材として用いているスチールコードとゴムの接着を長期に安定化させ、接着破壊を起こさないこと、が挙げられる。タイヤ中にあるスチールコード表面にはブラス(Cu-Zn合金)めっきが施してあり、ブラスとゴムがゴム中の硫黄を介して反応することで接着する。ブラス表面のゴム接着反応は数多く研究されてきたが、内容の多くはXPSやXRDによる接着界面分析が主であった。しかしながら、ラボ分析機器では少量配合されている硫黄の検出及び反応メカニズムを調査することは困難であった。そこで、これらの問題を解決する手法として高感度による分析が可能なXAFS測定を検討している。前回のBL27SU測定(課題番号2012A1377)では、加硫時間を変えたときの硫黄の化学情報を観測した。これらの結果から老化前後の硫黄の反応挙動についても調査する必要があると考えた。使用時と同様な劣化条件にて硫黄の接着反応、劣化メカニズムの調査はこれまで観察したことがないため、今回観察することができれば、接着層の開発や耐久性の向上において大変有意義なデータが得られる。今回も軟X線領域の照射が可能であるBL27SUを用いて硫黄の化学情報を解析した。


実験:

 1試料あたりの測定時間を20 minとし、60水準の測定を計画していたが、実際は約1 hの測定が必要であった上、5個の試料についてはアルミふたの閉め忘れ等もあったことから満足なデータを得ることができなかった。特に標準試料測定において粉末試料を用いたが、試料濃度の強弱によりきれいなスペクトルが得られなかった。このため、良好なデータが得られた試料について詳細な検討を行った。

 未加硫ゴム試料をブラス板上に少量載せた後、170°Cで10 min加硫した。ゴム試料には天然ゴムに酸化亜鉛、硫黄、加硫促進剤とコバルト塩が含まれる。ブラス板上に加硫ゴムが50 μm程度の厚さになるようにサンプルを調製した。さらに、70°Cの空気中にて2週間熱老化を行い、老化前後のサンプルを調整した。BL27SUにて、モノクロ結晶面方位Si(111)を用いて、蛍光法でXAFS測定した。検出器はSSD検出器を使用した。スペクトルの解析にはIfeffitのAthenaを用いた。さらに硫黄(S8)、および合成イソプレンゴム(IR)と硫黄を混ぜ合わせた試料およびこれを170°Cで10 min加硫した試料を用意した。標準試料にはCuS、Cu2S、ZnS、CoS、単体硫黄を用いた。硫黄化合物のS-K吸収端のXANESピーク形状を比較することにより、ゴム中に存在する硫黄の化学状態を解析した。硫黄の1sエネルギーは2472 eVであるため、2300-3200 eVの範囲で測定を行った。


結果及び考察:

 実験結果から以下のことが観察された。図1に各種硫化物標準試料のXANESスペクトルを示す。2470 eV付近には-2価の硫黄が、また2483 eV付近には+6価の硫黄のスペクトルが見られた。2475 eV付近には0~+2価の硫黄のスペクトルが検出されると考えられる。それぞれに特徴的なスペクトルが得られたため、硫化物のXANESスペクトル解析の参考とする。



図1 各種硫化物標準試料の硫黄のXANESスペクトル


 次に、ブラス板上にゴム薄片を載せて加硫、熱老化処理した試料、およびイソプレンゴムに硫黄のみを10 phr混合したときのXANESスペクトルを図2に示す。70°Cの熱老化により2482 eV付近に価数の異なる硫黄の吸収が見られた。6価の硫黄が検出されていると思われるが、CuS由来のものなのか、それ以外の要因かは特定できなかった。IRと硫黄を加えた試料では、加硫前後に2482 eVに吸収は現れなかった。ブラスの上のゴムを測定しているが、ゴム層は50 μm厚であり、ブラス界面までは測定されていないが、ブラス中のCuがゴムに移行してゴム中での反応に関与している可能性は考えられる。また、ゴム中には酸化亜鉛を配合するためZnS由来の検出も考えられたが、共通する吸収は現れなかった。

 以上の結果から加硫前後のゴム中の硫黄および熱老化前後のブラス上のゴム中の硫黄の化学情報が得られた。



図2 加硫前後、老化前後のゴム中の硫黄のXANESスペクトル


今後の課題:

 SPring-8におけるXAFS測定により加硫前後および老化前後の硫黄の化学状態や各種標準試料を測定することができた。XANESスペクトルから化学情報についての違いが見えつつあるが、詳細には解析できていない。モデル化合物の測定や配合条件、加硫、老化条件を変えて、接着層での硫黄の詳細な結合情報を把握する必要がある。



ⒸJASRI


(Received: January 20, 2014; Early edition: September 30, 2014; Accepted: January 16, 2015; Published: February 10, 2015)