Volume3 No.2
SPring-8 Section B: Industrial Application Report
XAFSを用いたV2O5-MxOy系ガラスの構造解析
X-ray Absorption Fine Structure Analysis on V2O5-MxOy System Glass
a(株)日立製作所日立研究所, b(公財)高輝度光科学研究センター
aHitachi, Ltd., Hitachi Research Laboratory, bJASRI
- Abstract
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V2O5-MxOy(M=P, Te, Pb, Ba)二元系ガラスや、これにAg2O、Sb2O3、WO3などを添加した三元系ガラスの構造解析を目的として、V元素周囲の局所構造をSPring-8/BL14B2のXAFS測定装置にて評価した。V-K吸収端の低エネルギー側に現れるプリエッジのピーク強度より、TeO2やPbOを添加したガラスではV2O5結晶の5配位と比較して配位数が減少している可能性が示唆された。また、Ag2O、Sb2O3、WO3の添加はいずれもプリエッジのピーク強度を増加させることから、配位数もしくは対称性に影響を与えることが分かった。
キーワード: V系ガラス、ガラス構造解析、XAFS、XANES
背景と研究目的:
V2O5系のガラスは、低融点性に加えて半導体特性も有する特殊な酸化物ガラスである。これまでに、その低融点性を活かして電子部品(水晶振動子、MEMS、ICセラミックパッケージ等)を気密に封止できる鉛フリーの低温気密封止材料としての研究が行われ、既に実用化されている[1,2]。
また、本ガラスは添加元素によって大きく物性も変化することが報告されているが[1]、そのガラス構造に関しては明らかでない部分が多い。そこで本研究では、添加元素によるガラス構造変化と耐湿性、熱安定性等の特性変化を明らかにすることを目指し、XAFS測定、高エネルギーX線回折、中性子回折及び逆モンテカルロモデリングを併用してガラス構造の解析を実施する。本報告では、V2O5-MxOy、(M=P, Te, Pb, Ba)二元系ガラスや、これにAg2O、Sb2O3、WO3などを添加した三元系ガラスについて、添加元素によるV元素周囲の局所構造の差異をXAFSで評価した。
実験:
二元系ガラスの原料としてV2O5、P2O5、TeO2、PbO、BaCO3を用い、50V2O5-50MxOy(M=P, Te,Pb, Ba)ガラスを溶融急冷法にて作製した。また、三元系ガラスの原料としてAg2O、Sb2O3、WO3を用いて40V2O5-40TeO2-20Ag2O、45V2O5-30P2O5-25Sb2O3、35V2O5-25P2O5-40WO3ガラスを同様に作製した。
作製したガラスを粒径5 μm以下になるまで乾式ジェットミルを用いて粉砕を行い、BN粉末と混ぜてペレット化した。作製したペレットを、SPring-8/BL14B2にてV-K吸収端XAFSを透過法のクイックスキャンにて室温で測定した。二結晶分光には、Si(111)を用いた。測定は1測定につき約5分の測定を3回繰り返し、スペクトルを積算した。また、比較材としてV2O5、V2O4の測定も行った。
結果および考察
作製した二元系ガラスのV-K吸収端のXANESスペクトルをFig. 1に示す。吸収スペクトルの規格化は、XANES領域よりも十分高エネルギー側(5628-6353 eV)で行った。このとき、50V2O5-50BaOガラスについては測定したものの、Ba-L吸収端のエネルギーが近いことから規格化することができなかった。測定したXANESスペクトルからは、5467 eV付近に強いプリエッジピークが観察された。このピークは、V 3dとO 2pの軌道から形成される混成軌道への遷移であることが提案されている[3-5]。プリエッジピークは、d電子数の数や対称性でも影響を受けるが、Vにおけるプリエッジピーク強度は、配位数で大きく変化することが報告されている[6]。
Fig. 1 作製した二元系ガラスのXANESスペクトル
Table 1にFig. 1より読み取ったプリエッジピーク強度の値を示す。これより、P2O5を50 mol%添加した場合のピーク強度はV2O5の値と大差がないが、TeO2やPbOを添加した場合にはプリエッジのピーク強度が大きく増加していることが分かる。
Table 1 Fig. 1のプリエッジピーク強度
文献値[6]によると、5配位(V2O5)や6配位(MgV2O6)に比べて、4配位であるNH4VO3やCa2V2O7のプリエッジピーク強度は、0.2程度大きくなることが報告されている。本研究におけるTeO2やPbOを添加したガラスのプリエッジピーク強度もV2O5単体と比較して0.2前後大きくなっていた。ガラス中においては、定まった配位数を取らず、配位数の異なるものが混在している可能性が考えられるが、TeO2やPbOを添加したガラスでは、Vの配位数は5配位のVO5ユニットよりも、4配位のVO4ユニットが増えているものと推察される。
Fig. 2には、k3-weighted EXAFSスペクトルを、Fig. 3にはそのフーリエ変換後の動径構造関数を示す。このとき、フーリエ変換はk = 3.0-12.0 Å-1の領域で計算した。Fig. 3において、V2O5では1.5 Å近傍と、2.6 Å近傍に強いピークが観察された。FEFF6Lを用いた計算によって、1.5 Å近傍のピークはV-Oによる散乱、2.6 Å近傍のピークは主にV-Vによる散乱に起因することを確認した。
Fig. 2 k3-weighted EXAFSスペクトル
Fig. 3 作製したガラスの動径構造関数 (k3-weighted)
作製したガラスにおいては、2.0 Å以下にV-Oの第一配位圏のピークが主に観察された。V-Oに起因するピークは、いずれのガラスもV2O5よりも短距離側にシフトしていることから、ガラス中におけるV-O結合距離は結晶のV2O5よりも短くなっていることが推察される。
三元系ガラスのV-K吸収端のXANESスペクトルをFig. 4に示す。また、Fig. 4より読み取ったプリエッジのピーク強度をTable 2に記載した。これより、V2O5-P2O5ガラスにSb2O3やWO3を添加した場合には、プリエッジのピーク強度が大きくなることが分かった。また、同様にV2O5-TeO2ガラスにAg2Oを添加した場合にもプリエッジのピーク強度は大きくなっていた。
Fig. 4 三元系ガラスのXANESスペクトル
Table 2 Fig. 4のプリエッジピーク強度
以上より、Sb2O3、WO3、Ag2Oの添加は、配位数が小さいVO4ユニットを増加させる可能性やユニットの対称性に変化を与える可能性が考えられるが、現状では判断できず、高エネルギーX線回折や逆モンテカルロモデリングなどの結果と合わせて考慮する必要がある。
今後の課題:
今後は、高エネルギーX線回折や中性子回折等で得られたデータを基に比較しながら、詳細なVの微細構造(配位数等)や全体のガラス構造について解析を進めていく。
参考文献:
[1] T. Naito, Jpn. J. Appl. Phys. 50, 088002 (2011).
[2] T. Naito, J. Ceram, Soc. Japan. 100, 685 (1992).
[3] T. D. Tullius et al, J. Am. Chem. Soc. 102, 5670 (1980).
[4] J. Wong, Phys. Rev. B. 30, 5596 (1984).
[5] T. Tanaka, J. Chem. Soc. Faraday Trans. 1. 84, 2987 (1988).
[6] S.Yoshida, X-ray Absorption Fine Structure for Catalysts and Surface. Chapter 8.2, 304 (1996).
ⒸJASRI
(Received: February 20, 2014; Early edition: April 28, 2015; Accepted: June 29, 2015; Published: July 21, 2015)