SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume3 No.2

SPring-8 Section B: Industrial Application Report

μ-XAFSによる複合酸化物触媒の局所構造解析
μ-XAFS Study on the Local Structure of Mixed-Oxide Catalyst

DOI:10.18957/rr.3.2.517
2012B1760 / BL37XU

堀江 健作, 濱松 浩, 大村 沙織, 真木 一

Kensaku Horie, Hiroshi Hamamatsu, Saori Omura and Hajime Maki


住友化学株式会社

Sumitomo Chemical Co., Ltd.


Abstract

 固体高分子形燃料電池用のカソード極触媒として、非白金系の酸化物触媒が注目されている。ジルコニウムなどの酸化物触媒では酸素欠損部が活性点と考えられており、それらに対する合成条件や粒子サイズなどの影響について調べることを目的として、SPring-8の高輝度マイクロビームX線を用いたμ-XAFSによる解析を実施した。粒子径が2 μm程度までの酸化ジルコニウム一粒子について、ZrのXANESスペクトルから結晶系の違いを解析することが可能であることが分かった。


キーワード: ジルコニウム酸化物、固体高分子形燃料電池、PEFC、μ-XAFS


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背景と研究目的:

 固体高分子形燃料電池(PEFC)は、高発電効率や低作動温度などの特徴から次世代の電源として活発な研究開発が行われている。カソード極用の触媒として現状では白金系触媒が使用されているが、酸化雰囲気での不安定性やコスト高、資源量の制約などが課題となっており、PEFCの普及には安定で高い酸素還元触媒能(ORR)を示す非白金系の触媒の開発が不可欠である。非白金系の酸化物触媒が、PEFCの動作条件下での安定性の高さ[1]などの理由から注目されている。当社では、独自の合成技術を用いて数十ナノメートルオーダーの高結晶微粒子からなるジルコニウム酸化物やチタン酸化物触媒の開発を行っており、ORR活性を示す触媒を見出した[2]が、実用化に向けては更なる活性の向上が求められている。

 ジルコニウム(以下、Zr)などの酸化物触媒では酸素欠損部が活性点と考えられており、窒素や炭素などの異種元素のドーピングや表面欠陥を導入することにより電子の状態密度分布を変化させることで触媒の活性向上が図られている[1]。ドーピング元素として活性点になり得るFeやTiを選ぶことにより、高活性で、かつ動作条件下での安定性が高い触媒が得られるのではないかと考え、複合酸化物触媒の検討を行っている。分析電子顕微鏡(AEM)による分析では、一次粒子によってドーピング元素の組成にばらつきが観察されており、異種の元素をドーピングする場合、異種元素のみが凝集したり、粒界に偏析するなど、異種元素の組成は必ずしも均一ではないと考えられる。一次粒子のドーピング元素の組成と酸素欠損の関係を調べることは、酸素欠損を制御するために重要であるが、組成の不均一性のために多数の粒子の平均的な解析では、両者の関係を明らかにすることは困難である。

 そこで本研究では、SPring-8の高輝度マイクロビームX線を用いたX線顕微鏡システムを活用して、酸化物粒子についてドーピング組成と酸化物触媒の酸素欠損量を解析することで、安定な酸化物元素のドーピングによる酸素欠損制御の可能性を明らかにするとともに、触媒改良に向けた知見を得ることが目的である。


実験:

 試料は、水酸化ジルコニウムを水熱合成した後、窒素雰囲気下800°Cで焼成した試料(以下、水熱品と表記)、水酸化ジルコニウムに水酸化鉄をZrに対するモル比として5%になるように添加し、水熱合成した後、窒素雰囲気下800°Cで焼成した試料、及び水酸化ジルコニウムを800°Cで焼成した試料(以下、焼成品と表記)、水酸化ジルコニウムに水酸化鉄をZrに対するモル比として5%になるように添加し、800°Cで焼成した試料を用いた。

 実験は、SPring-8 BL37XUにおいて、KBミラーにより0.8 μm×1.4 μmに集光したX線を試料に照射し、Zr Kα線とFe Kα線をGe半導体検出器で計測した。測定にはZr酸化物をエタノールに分散させ、厚さ60 μmのスコッチテープに滴下し、乾燥させた試料を使用した。最初に200 μm四方の測定領域を5 μm/step、0.2 s/pointでスキャンし、Zr Kα線強度から酸化ジルコニウム粒子を探し、最終的には粒子が存在する領域を0.5 μm/stepでスキャンして、酸化ジルコニウム粒子の蛍光X線マッピング像を得た。粒子径が異なる酸化ジルコニウム粒子について、18.15 ~17.95 keV、1 eV/stepの条件で、ジルコニウム粒子のZr K吸収端の蛍光XAFS測定を実施した。


結果および考察:

 得られた実験結果および考察を以下に示す。

(1)酸化ジルコニウム粒子について、μ-XAFS測定が可能な粒子径について検討した。水熱合成した酸化ジルコニウム粒子について、光学顕微鏡で観察された粒子径とZrの蛍光X線マッピングでのX線強度の関係から、300 nm程度の粒子径の酸化ジルコニウムについてZrのXANESスペクトルを得ることができた。


(2)酸化ジルコニウム中のZrの局所構造に対する合成方法の影響を、水熱合成と焼成法で比較した結果、2 μm程度の酸化ジルコニウム粒子について水熱品(正方晶)と焼成品(単斜晶)の結晶系の違いをZrのXANESスペクトルから解析できた。しかし、酸化ジルコニウムの酸素欠損を解析するためには、XAFSスペクトルのS/N比の向上が必要と分かった。


(3)水熱合成でFe添加した酸化ジルコニウム粒子について、Feの分布を蛍光X線マッピングから検出することができ、Feを添加しても同程度のS/N比でZrのXANESスペクトルを得ることができた。今後XAFSスペクトルの測定条件を改善することで、FeのドーピングがZrの酸素欠損などの局所構造へ与える影響について解析できると期待される。


 酸化ジルコニウム粒子について、μ-XAFS測定が可能な粒子径について検討した。光学顕微鏡で粒子径を評価できる酸化ジルコニウム粒子について、蛍光X線マッピングで各粒子が存在する領域で最大値を示す点のZr Kα線強度と粒子径との関係をFig.1に示す。両者は良好な相関を示しており、この関係から粒子径を推定することが可能と考えられる。

 次に異なる粒子径の水熱合成した酸化ジルコニウム粒子について、Zrの蛍光X線マッピング測定した結果をFig.2に示す。マッピング測定時間は粒子1(P1)と粒子2(P2)で0.1 s/point、粒子3(P3)で0.5 s/point、粒子4(P4)で1 s/pointである。Fig.2での縦軸はZ位置、横軸はX位置であり、10パルスが5 μmのスケールである。カラースケールはZr Kα線の検出強度を、図中の括弧内に記載した数字は、1秒当たりのZrの蛍光X線強度を示す。Fig.1に示したZr Kα線強度と酸化ジルコニウムの粒子径との関係を用いて、粒子P1~P4の粒子径を算出すると、それぞれ1.5、0.7、0.3、0.1 μmであった。



Fig.1 Zr Kα intensity dependence on ZrO2 particle-size.



Fig.2 2D μ-XRF images of Zr Kα for ZrO2 particles.



Fig.3 (a) Zr K-XANES spectra for the ZrO2 particles prepared by hydrothermal method shown in Fig.2,

(b) first derivatives of Zr K-XANES spectra.


 Fig.3に粒子P1~P4のZr-K吸収端XANESスペクトルを示す。XANES測定時間は、粒子P1とP2で1 s/step、P3で5 s/step、P4では30 s/stepとした。100 nmの粒子(P4)は、XANESスペクトルのS/N比が他の測定点に比べて不十分で、今回の測定条件では解析が困難であった。300 nmまでの粒子(P1~P3)はZrのXANESスペクトルが取得することができたが、粒子径が小さいほど微分スペクトルのS/N比が低下する傾向が見られた。

 次に、酸化ジルコニウム中のZrの局所構造に対する合成方法の影響を水熱合成と焼成法で比較した。まず、透過法で測定した水熱品と焼成品の酸化ジルコニウム試料のZr K吸収端XANESスペクトルをFig.4に示す。XANESスペクトルでは18.01 keV付近のピークトップの形状に、微分スペクトルでは18.01 keV付近のピーク形状に、試料間の違いが見られた。酸化ジルコニウムでは結晶系によってXANESスペクトルが変化することが報告されており[2, 3]、XANESスペクトルと微分スペクトルから水熱品は正方晶、焼成品は単斜晶の特徴と一致していることが分かった。

 次に粒子径が2 μm程度の水熱品と焼成品の酸化ジルコニウム粒子について測定したZrの蛍光X線マッピング像とμ-XANESスペクトルをFig.5に示す。μ-XAFSスペクトルを用いることで、粒子径が2 μm程度の酸化ジルコニウムの一粒子について、結晶系を解析することが可能であることが分かった。



Fig.4 (a) Zr K-XANES spectra (transmission mode) and (b) their first derivatives of ZrO2 prepared by hydrothermal and calcination method.



Fig.5 2D μ-XRF images of Zr Kα for ZrO2 particles prepared by (a) hydrothermal and (b) calcination method. (c) Zr Κ-XANES spectra for the ZrO2 particles shown in (a) and (b). (d) First derivatives of Zr K-XANES spectra.


 次に、ドープ元素の存在について、水酸化鉄を5%添加した酸化ジルコニウム水熱品及び焼成品の粒子のZrとFeの蛍光X線マッピング像とZr K吸収端XANESスペクトルをFig.6に示す。2 μm程度の粒子についてZrとFeの分布を蛍光X線マッピングで検出することができており、同一粒子にZrとFeが含まれることが確認できた。Feの蛍光X線強度から組成を推定する手法の確立が今後の課題である。また、Feがドーピングされたと思われる粒子についてZrのμ-XANESスペクトルを得ることができ、今回のFe組成では大きな妨害にならないことが分かった。

 今回の実験では、酸化ジルコニウムについて粒子ごとの酸素欠損の解析を行うことを目的としていたが、今回の測定ではXAFSスペクトルのS/N比が不十分であったため、μ-EXAFS測定による酸素欠損解析は実施できなかった。スペクトルのノイズは信号強度から算出される変動幅よりも大きいことから、測定中の蛍光X線強度の変動が含まれていると考えられ、良好なスペクトルを得るためにはノイズの原因究明とその低減も今後の課題である。



Fig.6 2D μ-XRF images of Zr Kα and Fe Kα for ZrO2-Fe2O3 particles prepared by (a)(b) hydrothermal and (c)(d) calcination method. (e) Zr K-XANES spectra for the ZrO2 particles shown in (a) and (b). (f) First derivatives of Zr K-XANES spectra.


結論と今後の課題:

 固体高分子形燃料電池用カソード極触媒のZr酸化物触媒について、活性点と考えられている酸素欠損構造に対する合成条件や添加元素の影響を調べるために、SPring-8の高輝度マイクロビームX線を用いたμ-XAFSによる解析を実施した。今回用いたサンプリング方法では、粒子径が300 nm程度までの粒子についてXRFマッピング像とZrのXANESスペクトルを得ることができ、2 μm程度の粒子であれば、結晶系の違いを解析できることが分かった。今後、2 μm程度の粒子でEXAFSにより酸素欠損を解析するためには、XAFSスペクトルのS/N比の向上に向けてノイズの低減が課題である。


参考文献:

[1] A. Ishihara, et al., Electrochimica Acta 55 (2010) 8005.

[2] 横浜国立大学, 東京大学, 他, NEDO平成20~21年度成果報告書,「固体高分子形燃料電池実用化戦略的技術開発/要素技術開発/酸化物系非貴金属触媒」

[3] P. Li, I-W. Chen and J. E. Penner-Hahn, Phys. Rev. B 48 (1993) 10063.



ⒸJASRI


(Received: June 10, 2013; Early edition: May 28, 2015; Accepted: June 29, 2015; Published: July 21, 2015)