Volume3 No.2
SPring-8 Section A: Scientific Research Report
X線マイクロCTを用いた高温高圧におけるかんらん石中のFe-Ni-Sメルトの三次元微細構造観察
In situ Observation of 3-D Fine Texture of Fe-Ni-S Melt in Olivine under High Pressure and Temperature Using X-ray Micro-CT
a岡山大学, b大阪大学, c(公財)高輝度光科学研究センター
aOkayama University, bOsaka University, cJASRI
- Abstract
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かんらん石中のFe-Ni-Sメルトの平衡組織の観察を目的として、トモグラフィ用高圧プレスを用いた高温高圧 ’その場’ X線CT測定を行った。高圧プレスの揺動などの高温高圧CT測定の本質に関わる課題の洗い出しと対策を行った。しかしながら、圧力媒体からの散乱X線の影響により透過像から再構成したCTイメージが不鮮明になったため、当初の目的とした高分解能の三次元組織を観察できなかった。
キーワード: X線マイクロCT,高圧,惑星核,マントル
背景と研究目的:
核・マントル分離過程は惑星形成期における主要な分化過程である。地球などの大きな天体では集積に伴い形成されたマグマオーシャンの中で鉄合金メルトが重力分離して核を形成する。一方、半径数百km程度の微惑星や原始惑星ではマグマオーシャンが形成されないため、浸透(パーコレーション)により固体マントルから核が分離した可能性が示されている。微惑星や原始惑星の内部構造の形成プロセスを解明するためには浸透による核マントル分離過程の詳細を検討する必要がある。
これまでのところ、高温高圧から急冷回収された試料の研究から鉄合金メルトの浸透現象が起きる条件(メルト分率や圧力など)が明らかにされてきた。例えば、Terasaki et al.[1]によると3 GPa以下の圧力では2面角が60°以下となって鉄合金メルトは浸透により移動できるが、3 GPa以上では2面角が60°を超えて鉄合金メルトはメルトポケット中に孤立する。しかしながら、これらの研究では急冷回収試料の組織観察から主要な結論が得られている。鉄合金メルトと珪酸塩が共存する組織は急冷により形状が変化する[2]ため、2面角測定などに影響を与えることが予想される。そこで、本研究では、BL20XUにおいて高温高圧トモグラフィ測定を実施し、Fe-Ni-S融体のかんらん石中における三次元分布を明らかにすることを目的に実験を行った。
実験:
実験はBL20XUにおいてトモグラフィ用80トンプレス[3]を用いて、トロイダル型対向アンビルを使用して行った(図1A)。圧力媒体にはX線透過性の高いボロン-エポキシを使用した。加熱はグラファイトヒーターで行い、圧力はhBN(六方晶窒化ホウ素)の状態方程式から見積もった。
測定試料はかんらん石とFe-Ni-S合金の混合物から合成した。かんらん石は(Mg0.76Fe0.24)2SiO4組成の粉末で、Fe-Ni-S合金はFe56Ni6S38組成を持つFeとNi,FeSの粉末混合物である。これを岡山大学理学部においてマルチアンビル装置を用いて2 GPa, 1400 Kで15時間ほど保持することにより、かんらん石中にFe-Ni-Sメルトが平衡状態で分布する組織を持つ試料を作成した。BL20XUでは同じ圧力温度条件でX線CT測定を行った。あらかじめ組織平衡化した試料を使用することにより、限られたビームタイムで平衡状態の組織観察が可能となる。
マイクロCT測定には37 keVの単色X線を用いた。X線透過像は1920×1440画素のCMOSカメラ(浜松ホトニクス社製ORCA-Flash2.8)で検出した。CMOSカメラのピクセルサイズは1.04 μmである。露光時間は200 msで、プレスを180°回転させて1800枚の透過像を撮影した。また、試料とhBN圧力マーカーのX線回折パターンをCMOS型フラットパネル検出器(浜松ホトニクス社製C7942)で収集した。
結果および考察:
BL20XUではX線CTにおいて1 μm程度の高い空間分解能が期待できるため、詳細な鉄合金メルトの空間分布データが得られることを期待した。しかしながら、ステージの揺動と圧力媒体による小角散乱から、オリビン中の鉄合金メルトの平衡組織の微細観察という点では当初の目的とした成果を得るには至らなかった。
図1.(A)BL20XUに設置されたトモグラフィ用高圧プレス。(B)プレスの揺動のため歪んだ断面X線CT像。(C)Z軸ステージ。(D)回転電極につながる電力ケーブルとその荷重を支える架台。
CT測定中のステージの揺動は本質的な問題で、三次元イメージの再構築が不可能となる。ビームタイム中に一度、円筒試料の断面X線CT像が3回対称の形状に歪むという事象が観察された(図1B)。揺動には二つの原因が考えられる。一つは、加熱用電力ケーブルからトモグラフィ用高圧プレスにかかる張力である。CT測定中もプレス最上部に設置した回転電極を通して電力が供給される。電力ケーブルの自重によってプレスに力がかかる可能性がある。もう一つは、プレスを搭載したステージの強度不足である。トモグラフィ用高圧プレスの重量は30kgと比較的軽いが、CTを撮るためにXYZステージと回転ステージ、さらに軸芯出し用のXYステージの上に載っている。このため重心が高くなっており、回転中に力がかかるとステージがたわんでしまう可能性がある。
プレスの揺動の問題は、剛性の小さいZ軸ステージ(図1C)を使用しないことと、電力ケーブルの重量が直接プレスに負荷されないようにすることで(図1D)、正常なCT測定が可能となった。
図2に示すようにトロイダル型対向アンビルの場合、試料の回りに大量の圧力媒体がある。X線が透過する試料の厚さが0.6 mmに対して、圧力媒体は18 mmの厚さがある。加圧時には圧力媒体は外側に流動するため、X線方向の圧力媒体はさらに厚くなる。圧力媒体のアモルファスボロンによるX線の散乱、特に小角散乱が透過X線に重畳される。このため、再構築した断面X線CT像においてBL20XUで期待される空間解像度を達成できないことになったと考えられる。図3にBL20XUで測定したかんらん石中のFe-Ni-S合金の分布状態を示す断面X線CT像を示す。プレスで加圧した場合(A)に比べ、通常のCT測定による断面像の解像度が高いことが明瞭にわかる。
図2.(A) トロイダル型対向アンビルと圧力セル、(B) 圧力セルの断面図。
図3.X線CT像への圧力媒体の影響。(A)プレスを用いて測定した断面X線CT像(2 GPa,1400 K)。解像度が低く、柱の影の影響(筋)が認められる。(B)通常の測定法による急冷回収試料の断面X線CT像。いずれも、かんらん石とFe-Ni-S合金の混合物であり、BL20XUで測定した。
今後の課題:
圧力媒体の減量は散乱の効果を下げることにつながる。ボロン-エポキシ圧力媒体とポリカーボネートチューブを組み合わせることにより、X線方向のアモルファスボロンの厚さを半分にすることが可能となった。圧力媒体の散乱による解像度低下の対策の一つとして結像光学系の使用が考えられる。結像光学系は回折の影響を押さえて解像度を上げることが可能であることから[4]、高圧下のX線CTへの応用が期待される。
謝辞:
この研究は日本学術振興会科学研究費補助金23340129の助成を受けて行われた。
参考文献:
[1] H. Terasaki et al., Earth Planet. Sci. Let., 273, 132-137 (2008).
[2] H. Terasaki et al., High Pressure Res., 28, 327-334 (2008).
[3] S. Urakawa et al., J. Phys.: Conf. Ser., 215, 012026 (2010).
[4] 竹内晃久他, 放射光, 16, 44-48 (2003).
ⒸJASRI
(Received: December 19, 2014; Early edition: March 25, 2015; Accepted: June 29, 2015; Published: July 21, 2015)