SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume3 No.1

Section C : Technical Report

BL04B1(高温高圧)の現状(2014)
Present Status of BL04B1 (2014)

DOI:10.18957/rr.3.1.110
2013A1715 / BL04B1

肥後 祐司、丹下 慶範

Yuji Higo, Yoshinori Tange

(公財)高輝度光科学研究センター・利用研究促進部門・構造物性Ⅰグループ

Materials Structure GroupⅠ, Research & Utilization Division, JASRI

Abstract

 BL04B1は偏向電磁石を光源としたビームラインで、主として白色X線を用いた高温高圧条件下のX線回折実験とX線ラジオグラフィー実験に使用されている。2013年度は、X線ラジオグラフィー拡大光学系の整備および高感度高分解能sCMOSカメラの導入などの高度化を行った。本高度化によって、X線ラジオグラフィー画像を用いた試料の微小変形の検出が可能となり、高圧鉱物の弾性波速度測定、アコースティック・エミッション実験や非弾性測定の高精度化が可能となる。


キーワード:歪測定、非弾性測定、超音波

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I.基本性能と実験装置

(詳細は、http://www.spring8.or.jp/wkg/BL04B1/instrument/lang/INS-0000000411/instrument_summary_viewを参照)

 

 光源は偏向電磁石から発生する白色X線を実験ハッチ(区分上は光学ハッチ)にそのまま導入しており、広いエネルギー範囲の放射光X線をそのまま利用可能である。また、小型のSi(111)二結晶分光器も備えており、30~60 keVの単色X線を利用したX線回折実験やX線ラジオグラフィー実験も可能である。

 

使用できる実験装置としては、主に以下のものがある。
(1)SPEED-1500 川井型高圧発生装置(DIA型プレス、光学ハッチ2)
(2)SPEED-MkⅡD 川井型高圧発生装置(D-DIA型プレス、光学ハッチ3)

 

(1)、(2)の実験装置共にそれぞれGe半導体検出器とYAG蛍光体型X線ビームモニターを設置しており、エネルギー分散型のX線回折測定やX線ラジオグラフィー観察が可能である。また、(2)には大型CCDカメラおよびIPホルダーを備えており、単色X線を利用した2次元のX線回折パターンの取得も可能である。これらの高圧装置で発生可能な圧力温度領域は、高圧セルの改良により年々拡大しているが、現在のところSPEED-1500が30 GPa、2300℃まで、SPEED-MkⅡDが100 GPa、2000℃までの圧力温度が発生可能である。

 

Ⅱ.利用状況

 2013A期2013B期併せて25課題が実施された。採択率は、2013A期、2013B期それぞれ、88.9%、75%であった。重点課題としては、愛媛大学のパワーユーザー課題『マルチアンビル実験技術の高度化と下部マントル条件下でのレオロジー・弾性波速度・相関係の精密決定:地球深部のダイナミクスと進化過程の解明に向けて』が実施されている。本ビームラインでの高圧実験は加圧・加熱などの一連の手順に非常に時間がかかるために、2013A期2013B期併せて6課題(24%)が一年課題として実施されており、他のビームラインと比較して一年課題の割合が高い。実験装置別の課題数の割合は、SPEED-1500 川井型高圧発生装置 が10課題(40%)、SPEED-MkⅡD 川井型高圧発生装置 が13課題(52%)、両方の装置を使用する課題が2課題(8%)となっている。また光源別では白色X線が18課題(72%)、単色X線が4課題(16%)、白色&単色X線両方が3課題(12%)となっている(図1)。

図1 全課題に対する(a)各装置の課題数の割合、(b)光源別の課題数の割合

 

Ⅲ.高度化の実施内容と成果

 高圧下での弾性波速度測定実験では、高圧セル内部の試料長さを正確に測定する必要があり、X線ラジオグラフィー画像を利用した長さ測定は、今のところ高圧高温状態の試料を観察できる唯一の手法である。また、D-DIA型高圧装置であるSPEED-MkⅡDの導入によって、高温高圧条件下での変形実験が可能となった。SPEED-MkⅡDは世界でも例を見ない、1500トン級の高圧変形装置であり、マントル深部の温度圧力条件下での変形実験に威力を発揮する。変形実験では歪や応力を正確に測定する必要がある。高温高圧条件下での変形実験では変形量は非常に小さく、多くの場合は1 µm以下である。こうしたサブミクロンの変形をとらえるためにも、X線ビームモニターを高度化し、サブミクロンの変形を捉えることは非常に重要である。BL04B1に設置されているX線ラジオグラフィーカメラでは、X線吸収コントラストを厚さ150 µmのYAG蛍光板で可視光に変換し、可視光用のカメラで観察している。本システムでは、可視光を介してX線吸収コントラストを観察するため可視光の半波長である約0.3 µm以下の分解能を得ることはできず、また比較的厚い蛍光板を使用するため実際は1 µm以下の分解能を得るのは難しい。しかしながら、変形実験では試料端面の変形マーカー(金などの重金属箔)の移動量から試料変形量を測定する手法を用いるため、ラジオグラフィー光学系の空間分解能以下で変形マーカーの移動量を測定できる。具体的には、カメラの画素配列と斜交するように変形マーカーを配置する。これにより、サブピクセルの移動量でも隣接する画素間でコントラストの変化が生じる。これを適切な関数によってフィッティングすることによってサブピクセルでの移動を検出する。本年度は、高精度かつ高速な歪測定のために、拡大率10倍のX線ラジオグラフィー拡大光学系の整備(従来は1.2倍)、画素数400万画素の高感度高分解能sCMOSカメラの導入(従来は30万画素)を行った。これにより、数100 nmの試料変形の検出を目指す。

 

(1)X線ラジオグラフィー拡大光学系の整備

 拡大光学系は2012年度に導入した。本拡大光学系はSPEED-MkⅡDの直後に配置しており、YAG蛍光板により可視化された像をf 200のリレー光学系によって仮想結像面に結像する。これを高倍率の対物レンズによって拡大することで、明るさを失うことなく高倍率を確保しており、拡大率は従来の1.2倍から10倍に向上した。2013年度はステージ、カメラ、制御ソフト等を整備し、本格的にユーザー運用が始まった(図2)。試用段階で制御ソフトの不具合から、X線CCDカメラおよび受光スリットとの衝突事故が相次いだため、ハードリミットセンサーを取り付け、高圧プレス側とゴニオステージ側双方の動作について衝突防止策を講じたため、ユーザー運転を安全に行えるようになっている。

 X線ラジオグラフィー像取得を主とする実験では拡大光学系の使用を推奨する。

図2 拡大光学系の設置状況

 

(2)sCMOSカメラ導入によるラジオグラフィーの高感度化

 2013年度は、上記の拡大光学系に高感度のsCMOSカメラ(ORCA-Flash4.0 V2、浜松ホトニクス製)を導入した。400万画素の高解像度かつ、70%以上の高い量子効率をもち、高感度で低ノイズの科学計測用sCMOSカメラである。本高度化によるX線ラジオグラフィー画像の検証のために、インハウス課題2013A1715を実施したので次に実験の詳細について記載する。

 

(背景と研究目的)

 下部マントルの上部から中部は地震波速度が単調に増加する領域であり、汎地球的に化学的に均質であると考えられている。この領域の地震波速度とマントル鉱物の弾性波速度を精密に比較することによって、下部マントルの化学組成をかなり精密に決定できると期待されている。しかしながら、川井型高圧発生装置を用いた下部マントル条件下での弾性波速度測定は下部マントル最上部までに限られ、未だ下部マントル中部に至る測定技術は開発されていない。本実験では焼結ダイヤモンドアンビルを使用して、微小試料の高温高圧下での弾性波速度測定を試みた。特に上記の高度化に関連して0.5 mm以下の試料長さの変化について検出可能かどうか実験を行った。

 

(実験)

 下部マントル全域の圧力発生が可能なように、一辺14 mmの焼結ダイヤモンド(WD700、住友電工ハードメタル製)立方体の先端切り欠き長さを1.5 mmに加工したものをアンビル材として使用した。また、(Mg0.5,Fe0.5)Oを直径0.4 mm、長さ0.4 mmの円筒形にレーザー加工したものを試料として使用した。また、試料の上下端には変形マーカーとして厚さ2.5 µmの金箔を挿入した。試料のX線ラジオグラフィー観察は上記の拡大光学系とsCMOSカメラを使用した。その他の実験手法は参考文献[1]と同様である。

 

(結果および考察)

 実験の結果、最高50 GPaまでの高圧発生に成功し、試料のX線ラジオグラフィー観察および、超音波エコーの取得に成功した。試料の直径は0.4 mmであり、X線吸収コントラストによるX線ラジオグラフィーで試料端面の観察が可能となったのは、今回の高度化の成果と言える(図3)。しかしながら、コントラスト不足で解析プログラムによる試料端面の検出が不可能であった。

図3 高温高圧下でのX線ラジオグラフィー像

 

また、30 GPa以上の高圧下では試料の上下端の金箔の視認性が著しく悪化し、試料端面の視認自体が困難であった。減圧回収後の高圧セルの観察から、圧力媒体・ガスケット材のX線吸収のムラや、アンビルの保護のためにテフロンテープの影が視認性の悪化の原因となっていることがわかった(図4)。

図4 減圧回収後の高圧セルの様子

 

(今後の課題と展望)

 今回の実験では、長さ・直径ともに約0.4 mmの試料おいてX線吸収コントラストによるX線ラジオグラフィーで試料端面の観察が可能となった。但し、微小変形の測定において、解析に十分なX線ラジオグラフィー像を得ることはできなかった。しかしながら、その主因は高圧セルにあるため、今後高圧セルの改良によって克服可能である。まず、圧力媒体に軽元素物質を使用して、試料上下端の金箔と周囲の物質の間に十分なX線吸収コントラストをつける。また高圧セル外部のX線吸収のムラを最小化するために、軽元素物質を使用したガスケット材の開発や、アンビル保護用のテープ材の最適化を行う。さらに、低コントラストのX線ラジオグラフィー画像から試料長さを測定するための解析プログラムの高度化も必要である。

 こうした高度化を達成し、微小変形の検出が可能となると、下部マントルの温度圧力領域でのマントル鉱物の粘性・弾性・非弾性測定が可能となる。また、高速・高感度sCMOSカメラ導入によって、単色X線による高分解能X線ラジオグラフィー像の取得が可能となり、X線吸収法による高温高圧下での二次元密度測定も可能となる。本高度化によって従来の高圧鉱物のX線回折測定の他に様々な物理量の測定が可能となる。

 

参考文献

[1] Y. Higo, Y. Kono, T. Inoue, T. Irifune and K. Funakoshi, J. Synchrotron Rad., 16(6), 762-768, (2009).

 

ⒸJASRI

 

(Received: August 27, 2014; Early edition: November 28, 2014; Accepted: January 16, 2015; Published: February 10, 2015)