Volume3 No.2
SPring-8 Section B: Industrial Application Report
高アルカリ性溶液に接する岩の非破壊CT−XRD連成法による変化の分析
Analysis on Alteration Rocks Contacting Highly Alkali Solution Using Non-destructive Integrated CT-XRD Method
(株)大林組
Obayashi. Co. Ltd.
- Abstract
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大深度地下に建設が検討されている放射性廃棄物処分場には、坑道の安定性確保などの目的でセメント系材料の使用も検討されている。本実験では、セメント系材料や、これに触れて高アルカリ性溶液となった地下水の、坑道周辺の母岩である花崗岩に及ぼす影響の把握のため、セメント系材料に接触させた状態で、高アルカリ性溶液への浸漬試験を行った花崗岩の浸漬前後について、CT像と局所X線回折を行い、アルカリ作用により65日間の浸漬において、構成鉱物の変質が起きることを見出した。
キーワード: 放射性廃棄物処分場,花崗岩変質,透過像,X線回折
背景と研究目的:
放射性廃棄物処分場は大深度地下の岩盤に建設した坑道を中心とした施設となることが検討されている。この中では、止水や坑道安定性の確保に、コンクリートなどセメント系材料の使用も検討されている。セメント系材料に接した岩盤は地下水の介在により高いアルカリ性の水分に接することになる。放射性廃棄物処分場の供用期間は長期におよび、その間の変化を限られた時間で求めるには、微小な変化を高精度に把握できる放射光実験が最適である。先行研究では、センチメートルオーダーの観察に留まっており[1,2 など]、高アルカリ性溶液に接する岩盤の影響を精度よく求めたとは言い難い。本課題では、岩盤の劣化に関し、X線CT撮影による花崗岩の空間構造の把握とマイクロビームによる局所X線回折を組み合わせた連成測定を通じ長期の放射性廃棄物処分場の安全性予測・評価に資する知見を得ることを目的とした。
実験:
放射性廃棄物処分場の模擬実験施設である、日本原子力研究開発機構の瑞浪超深地層研究所の深度500 mの研究坑道より採取した花崗岩の観察を行った。
観察方法は、物理的な形状の変化の把握のためX線CT撮影を、構成鉱物の把握のため透過X線によるX線回折を用いた。SPring-8 BL28B2で発生する白色X線を用いて、受光器の角度を変化させずエネルギーチャンネルごとの強度を求める角度固定型のX線回折装置を用いた。この方式により、X線をマイクロビーム化することで試料内部の関心領域に対しX線回折を行うことが可能になった。
観察手順としては、まずX線CT撮影を行い、試料内部の状況を把握する。これによりX線回折観察を実施する領域を決定する。X線CT撮影の投影数は900とし、露光時間は0.2秒とした。得られる断面図の画素数はおおよそ800で、画素寸法は7.46 μmとして、おおよそ5 mmの幅の試料を観察できるように設定した。断面図間の高さは5.10 μmとした。X線CT撮影はサンプルの下流側に25 keVのエネルギーによる透過像を得られるようにSiの単結晶を配置し、単結晶の(111)面を用いた。次いでX線回折を実施した。回折に用いたX線は幅が0.1 mmで高さが0.05 mmのマイクロビームとした。多くの結晶を検出するために、X線回折測定中はX線照射位置を中心として水平方向に試料を回転させた。全体の測定時間は1点当たり300秒とした。写真1に測定装置の外観を示す。白色X線を用いたマイクロビームによる回折では、X線回折プロファイルはエネルギーとX線強度の関係として得られる。鉱物の有無を判定するために、ICSDの結晶データベースから得られる角度とX線強度の関係からなるX線回折プロファイルと比較するため、得られたX線回折プロファイルも、ブラッグの反射条件とエネルギーと波長の関係を用いて角度に変換したものを用いた。本測定では、エネルギーを12.38 keV、すなわち波長を0.1 nmとした場合の回折角(2θ)に換算して表示した。また、マイクロビームは試料中を通過するために、試料による吸収を受ける。X線吸収は低エネルギー側で顕著となり、換算した時の低角度側に相当する。このため、本測定で得られるX線回折プロファイルは低角度側のX線強度が低くなる傾向にある。本報告では、ピーク位置の比較による鉱物の判定に留めた。本来は、含有されると推定した鉱物結晶の原子配置より、理論的なエネルギーとX線回折強度の関係を求めた上で、実験結果の比較が望ましい。しかし、これらの導出作業に加えて、前述の結晶内の透過によるX線の吸収による強度の低下や、入射X線のエネルギーの本来のスペクトルを考慮するなどが必要となるため、これらは今後の課題としたい。
写真1 測定装置の外観
写真2に花崗岩試料の外観を示す。原位置の坑道建設時に発生する数十センチメートル単位の大きな破砕物を採取し、岩石カッターを用いて小規模の塊に切出し、ワイヤーカッターを用いて角柱状の試料に加工、さらに研磨を用いて直径5 mmの円筒形に加工した。さらに、アルミテープで周囲を被覆し、両端にシリコンチューブを設置した。この試料にコンクリートを模擬した普通ポルトランドセメントのペーストを注入した。ペーストは粘度が低くないと注入が困難であったため、水セメント比で400%のものとした。注入後2日で初期状態(以下、浸漬前)の観察を行い、高アルカリ性溶液に浸漬した。
浸漬液は、セメント系材料からの溶出液として、水酸化カルシウムの飽和溶液を用いた。浸漬期間は、65日間とした。浸漬は溶液と試料を小瓶に封入し密閉し溶液の交換は行わなかった。
また課題申請時では、堆積岩や割れ目導入試料を用いる計画であった。堆積岩に関しては試験開始後、アルカリ性溶液への浸漬時に予期せぬ膨張のため試料の破損が生じた。このため、拘束方法にさらなる工夫が必要であることがわかった。また、割れ目導入試料に関しては割裂後の試料の形状保持が困難なため、観察を見送った。これらに関しては試料保持の冶具の開発を行い、以降の検討対象としたい。
写真2 花崗岩試料の外観
結果および考察:
透過像の観察結果
図1に、花崗岩試料の浸漬前後のCT像を示す。図中にはX線回折による測定を行った個所として測定点1および測定点2を示した。CT像観察の結果より測定点1は石英などケイ素成分を多く含有する鉱物の領域として、測定点2は分子量の高い雲母系の鉱物を含有すると思われる領域として選定した。いずれもセメントとの接触面に近く何らかの作用を受けていることを期待した。CT像は試料の中間を選んだ。花崗岩の内部はほぼ均質な物質で構成され、ところどころに輝度の明るい物質が島状に分布していた。目視によりこの領域は黒色のため、雲母系の鉱物と推定した。花崗岩試料の周囲にはセメントペーストと思われる物質が付着するように存在していた。浸漬後では、試料とアルミテープとの隙間に新たな物質が充填するように存在している様子が認められた。試料自体の形状に変化は認められなかった。
図1 花崗岩試料の浸漬前後の透過像および差分像
測定点1における浸漬前後のX線回折プロファイルの結果を図2に示す。X線エネルギーは12.38 keVに換算した場合の回折角(2θ)で表示している。浸漬後のカウント数は200を加え、浸漬前後のデータをずらすように表示した。花崗岩中に含まれる鉱物の候補を絞り、その中でICSDの結晶データベースとの比較を行い、特に多くの点でピークの一致した鉱物を図中に示す。X線回折プロファイル中ではBiotite,Clinochlore,Anorthiteなどのピークが認められた。これらは順に、黒雲母,緑泥岩,カリ長石の一種と考えられる。また、浸漬後にその量が増大したと考えられるのがIlliteであった。Illiteは粘土鉱物の一種で、花崗岩がアルカリ作用を受けると発生する鉱物とされている。Savageら[1]も浸漬試験によりその発生を指摘している。
測定点2における浸漬前後のX線回折プロファイルの結果を図3に示す。測定点2では、Muscoviteのピークが多くみられ、目視により雲母系の鉱物が存在するとした判断と一致する結果となった。また、この領域では、粘土鉱物の一種であるKaoliniteが多くみられ、その強度は浸漬後に大きくなる結果となった。この領域においても同様に粘土鉱物の発生もしくは増加を示唆する結果を得た。
いずれの測定点においても、浸漬により花崗岩試料のごく表面の領域において粘土鉱物の発生もしくは増加が見られ、花崗岩の劣化を示唆する結果となった。
図2 測定点1のX線回折プロファイル
図3 測定点2のX線回折プロファイル
今後の課題:
アルカリ性溶液への浸漬によって花崗岩の表面部位において、粘土鉱物の発生を示唆する結果を得たが、影響範囲を求めるまではいかなかった。浸漬方法などの再検討や温度条件の変更などを検討したい。
参考文献:
[1] Savage D., Bateman K., Hill P., Hughes C., Milodowski A., Pearce J., Rae E., Rochelle C., Appl. Clay Sci., 7, pp.33-45, (1992)
[2] Adler M., Mäder U. K., Waber H. N., Schweiz., Mineral. Petrogr. Mitt., 79, pp.445-454, (1999)
ⒸJASRI
(Received: January 16, 2015; Early edition: June 22, 2015; Accepted: June 29, 2015; Published: July 21, 2015)