SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume3 No.2

SPring-8 Section B: Industrial Application Report

固体高分子形燃料電池(PEFC)用コアシェル触媒のin-situ XAFS解析
In-situ XAFS Analysis of Core-Shell Catalysts for Polymer Electrolyte Fuel Cell (PEFC)

DOI:10.18957/rr.3.2.446
2011B1960 / BL14B2

渡邉 慶樹, 伊藤 雅章

Yoshiki Watanabe, Masaaki Ito

(株)ノリタケカンパニーリミテド

NORITAKE CO., LIMITED


Abstract

 固体高分子形燃料電池(PEFC)用のNiコアPtシェル触媒の加湿状態および還元状態でのin-situ XAFS解析を行った。Pt L吸収端の測定では、400°C以上の温度域でコアシェル構造が崩れ、合金化することが判明した。また、Ni K吸収端の測定では、酸化還元状態がはっきりとわかり、それが触媒劣化に起因しているものと推察できた。


キーワード: PEFC、コアシェル触媒、耐久性、in-situ XAFS



背景と研究目的:

 PEFCの本格的な普及には、システムコストの低減が不可欠であり、更なる燃料電池スタックの性能・信頼性向上が必要である。電極触媒は、スタックの性能・信頼性を決定する重要な部材であり、触媒コスト削減(Pt使用量の低減)、触媒活性の向上、耐久性の向上という相反する3つの課題を克服していかなければならない。

 電極触媒の飛躍的な性能向上を図る上で、触媒が発電時にどのように働き、どのように劣化するのか、その過程の詳細を原子レベルで明らかにすることが必要である。しかしながら、触媒の反応・劣化過程は、現在ほとんど解明されていない状況にあり、これは、水を大量に含む実用燃料電池系において、燃料電池が働いているその場で原子レベルの分析ができる手段が非常に限られていることに起因している。

 Ptは卑金属原子と結合すると、それらの電子的な相互作用によってPt単体より触媒活性が向上することが知られており、中でも、Pt3Ni合金は非常に高い触媒活性を示す[1]。コアシェル触媒は、触媒コスト削減とコア材料とPtとの電子的な相互作用により、触媒活性向上の両方が期待される材料である。また、触媒コストを削減するためやコア金属との電子的な相互作用を発現させるには、Ptシェル層を薄くする必要がある。本実験では、NiコアPtシェル触媒において、NiとPtの組成を変化させ、Ptシェル層の層数を変えたものを合成し、触媒の反応・劣化過程の解明を目的として触媒表面のPt原子近傍の局所構造に関する情報を得るためXAFS解析を行った。

 従来、コアシェル粒子は、Niナノ粒子上にCuを1原子層アンダーポテンシャル析出(Underpotential deposition; UPD)させた後、Ptと置換する方法[2]、あるいは、PtNi合金を酸処理して合金表面のNiを溶出させることでPtスキン層を形成して合成されていた[3]。今回、NiコアPtシェル/C触媒は、Ni錯体溶液とイオン交換水に分散させたカーボン担体を混合させた後、還元しながら塩化白金酸溶液を加えて作製した。作製したコアシェル触媒は、液相中においてNi表面で直接Ptを還元することから、Niの結晶面に沿ってPt(111)が析出することがTEMおよびSTEMによる構造解析から判明している[4]。また、本触媒は、燃料電池実用化推進協議会(FCCJ)が推奨する回転電極法による触媒活性評価[5]でも標準となるPtシェル/C触媒の約3倍の活性が得られることがわかった。触媒の耐久評価は、通常、電極・膜接合体(MEA)を作製して、電位サイクル試験を行い、ある電位サイクル後の電流-電圧特性から、劣化度合いを把握する。あるいは、ある電位サイクル後の触媒層のナノ構造解析を行い、触媒粒子の粒径や粒子の分散状態から劣化度合いを把握するのが一般的である。しかし、MEAを作製して耐久評価を行うには、その触媒に合った触媒層形成方法が必要であり、各種触媒について形成方法を確立してMEA耐久評価を行うことは難しいのが現状である。


実験:

 本実験に用いたNiコアPtシェル触媒は、Pt:Ni=1:1,0.5:1,0.1:1の組成になるように液相合成したもので、それぞれのコアシェル粒子をTEM観察した結果、Ptシェル層は、それぞれ7~8層、3~4層、1層であった。実用の燃料電池での触媒は、80~90°Cの温度で、電位サイクル(0~1.2 V)によって酸化・還元過程を繰り返す。そこで、図1に示すような試験装置を用いて実験を行った。加湿雰囲気では、60°Cに加熱した精製水中に窒素ガス160 sccmと酸素ガス40 sccmの混合ガスをバブリングさせながら、高温セル中に導入した。また、還元雰囲気では、水素ガス200 sccmを直接高温セル中へ導入した。それぞれの雰囲気にするときには、窒素ガスで置換した後、それぞれのガスを導入し、排気ガスの一部を質量分析し、酸素濃度と水素濃度が一定になってから実験を開始した。各触媒は、加湿雰囲気および還元雰囲気を繰り返して、室温、100°C, 200°C, 300°C, 400°C, 500°Cと温度を変化させ、加速して触媒の劣化状態を評価し、Ptシェル層の酸化状態やNiコアの酸化状態がどのように変化していくかをin-situ XAFS観測した。

 SPring-8のBL14B2ビームラインを使用し、透過法でSi(111)分光結晶面を用い、NiコアPtシェル/C触媒でのコアであるNiのK吸収端エネルギーシフト量とEXAFSを測定し、Niの局所構造に関する情報を得た。同様に透過法でSi(311)分光結晶面を用い、Ptシェル層であるPt-Lのホワイトラインのピーク強度とEXAFSを測定して、Ptの酸化状態と原子間距離の情報を得た。Ptシェル層の層数によるNiの価数や原子間距離の違いを観測し、触媒活性との相関性を解析した。また、温度によるコアシェル構造の安定性の違いを検討し、耐久性と関連づけた。



図1 実験概要図


結果と考察:

 図2にPtNi組成コアシェル触媒を室温(RT)および500°Cの加湿雰囲気ならびに還元雰囲気下におけるPt L吸収端スペクトルを示し、図3にRTおよび500°Cの加湿雰囲気の代表的なEXAFS振動スペクトルを、図4にk-rangeを2 − 16(Å-1)としてフーリエ変換して得られた動径構造関数を示す。Pt-Lのホワイトラインのピーク強度は、Ptの酸化状態を示しており、各試料ともPtの酸化状態に変化はなく、500°Cの加湿雰囲気においてもPtホイルとピーク強度に差はなかった。図4に示した動径構造関数では、Ptホイルで観測された2~3 Åの2つのピークがPt-Ptに由来するものであり、RTで測定したサンプルには、同様の位置にピークが存在する。500°Cでは、加湿雰囲気および還元雰囲気において、ピーク位置が異なっている。しかし、PtO2とも違うことから、Pt-Oに由来するものでもなく、コアであるNiとPtとの結合によるものと考えられ、コアシェル構造が崩れ合金化していると考えられる。

 図5にXAFS測定する前と測定後のコアシェル触媒のTEM像を示す。測定前は、カーボンに7 nm程度のコアシェル粒子が担持されていて、二相のコントラストからなるコアシェル構造の粒子であることがわかる。一方、測定後には、二相のコントラストがはっきりせずコアシェル構造が崩れて合金化していることが判明した。実用燃料電池系では、コアがNiのような卑金属の場合、コア金属が酸化・還元を繰り返し、コアシェル構造が崩れることにより、触媒活性や耐久性に影響するものと示唆される。



図2 PtNi組成のPt L吸収端スペクトル



図3 PtNi組成のPt L k3χ(k)-XAFSスペクトル



図4 PtNi組成のPt L吸収端の動径構造関数



(1)XAFS測定前       (2)XAFS測定後

図5 XAFS測定前後のコアシェル触媒粒子のTEM像


 図6にPtNi,Pt0.5Ni,Pt0.1Ni各組成のコアシェル触媒のRTにおけるNi K吸収端スペクトルおよびPt0.1Ni組成の500°C加湿雰囲気のNi K吸収端スペクトルを示す。図7にPt0.1Ni組成のRTおよび500°Cの加湿雰囲気の代表的なEXAFS振動スペクトルを、図8にk-rangeを2 − 14(Å-1)としてフーリエ変換して得られた動径構造関数を示す。

 各組成のコアシェル触媒のNi価数は、Pt比が少なくなるほどNiホイル(0)からNiO(+2)に近づいていき、Ni表面が部分的に酸化されているものと考えられる。図8に示した動径構造関数においても、Pt比が少なくなっていくと、2.1 Å付近のNi-Niに由来するピーク以外にNi-Oに由来するであろう1.5-2.0(Å)にもピークが観測されていく。また、Pt0.1Ni組成の触媒は、500°Cの加湿雰囲気では、Niの価数はRTの時とそれほど変わらないように見えるが、動径構造関数ではNiOに近づいているように観察された。

 このことにより、各組成によってNiコアの状態が異なり、PtNi組成では金属Niに近い状態、Pt0.1Ni組成ではNiOまたはNiO(OH)のような酸化状態に、Pt0.5Ni組成ではそれらの混合状態になっていると考えられる。通常、金属Niは酸化雰囲気中で酸化されNiOへと変化するが、NiO(OH)は大気中で酸化されないため、NiOまたはNiO(OH)のような酸化状態となっている可能性が高いと推測される。しかしながら、500°CのPt L吸収端で観察されたようなPtNi合金に由来するピークシフトは観察されなかった。

 今回の実験では、シェル層であるPtは、酸化・還元の雰囲気に関係なくPtとして存在するが、コアであるNiは酸化・還元雰囲気でNiO⇔NiあるいはNiO(OH)⇔Niと変化していく様子が観察された。実用燃料電池では、そのような構造変化が、触媒活性や耐久性に影響を及ぼす。理想的なコアシェル触媒では、PtNi組成のようにNiは金属として存在し、かつ酸化が起こらないことであり、XAFS解析によってPtシェル層の均質性が評価できることが判明した。



図6 各組成のNi K吸収端スペクトル



図7 代表的なNi Kχ(k)-XAFSスペクトル



図8 各組成のNi K吸収端の動径構造関数


今後の課題:

 本課題により、コアシェル触媒のPtシェル層の酸化状態に変化が見られなかったことから触媒としての耐久性が期待できる。今後、さらにPtシェル層の被覆率を向上させる検討をした後、カーボンに担持されていない粒子のみの状態で基板に塗布し、全反射XAFSなどにより、Ptシェル層の極表面の酸化状態を解析できる手法を取り入れていきたい。


参考文献:

[1] W. Jianbo et al., J. Am.Chem. Soc. 132 (14), 4984 (2010).

[2] W. Yanni et al., J. Power Sources 194 (2), 805 (2009).

[3] S. Jianglan et al., J. Mater Chem. 1.21 (17), 6225 (2011).

[4] 伊藤雅章 他、電気化学会第77回大会 講演要旨集 235(2010).

[5] 篠原和彦 他、第18回燃料電池シンポジウム講演予稿集 189 (2011).



ⒸJASRI


(Received: May 8, 2012; Early edition: April 28, 2015; Accepted: June 29, 2015; Published: July 21, 2015)