Volume3 No.1
SPring-8 Section C: Technical Report
BL19B2(産業利用Ⅰ)の現状(2014)
Present Status of BL19B2 (2014)
(公財)高輝度光科学研究センター・産業利用推進室・産業利用支援グループ
Industrial User Support Group, Industrial Application Division, JASRI
- Abstract
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BL19B2は産業界による放射光利用を目的としており、産業界の多様なニーズに対応するため、イメージング装置、多軸回折計装置、粉末回折装置及び小角散乱装置といった複数の装置が設置されている。イメージング装置では測定時間短縮のために測定方法を改良し、多軸回折計では信号強度増加のために小角散乱用に導入したシリンドリカルミラーを本装置にも適用した。粉末回折装置では測定代行用の試料を安全に運搬するために搬送バッグを整備し、小角散乱装置では散乱強度が微弱な試料でも評価できるようにバックグラウンド強度を低減した。
キーワード:産業利用、イメージング、回折、小角散乱
Ⅰ.基本性能と実験装置
(詳細は、http://www.spring8.or.jp/wkg/BL19B2/instrument/lang/INS-0000000464/instrument_summary_viewを参照)
本ビームラインは産業界による放射光利用の拡大を主な目的とした汎用的な偏向電磁石ビームラインである。本ビームラインの実験ハッチは、光学ハッチに隣接した第1実験ハッチと両ハッチと分離して下流側に設置されている第2実験ハッチ、そして蓄積リング付属施設W棟内に第3実験ハッチが設置されている。第1実験ハッチは光源から51 m下流に位置し、ハッチのサイズは4.0 m(ビーム方向) × 3.0 m(W) × 3.3 m(H)である。第2実験ハッチは77 m下流に位置し、そのサイズは5.0 m(ビーム方向) × 4.0 m(W) × 3.3 m(H)である。第3実験ハッチは111 m下流に位置し、そのサイズは 8.0 m(ビーム方向) × 4.0 m(W) × 3.3 m(H)である。第1実験ハッチにはイメージング装置が、第2実験ハッチには多軸回折計と大型デバイシェラーカメラがそれぞれ設置されている。第3実験ハッチには極小角散乱の2次元検出器が設置されている。以下、それぞれの実験装置ごとに実施した高度化開発の状況を報告する。
エネルギー領域 | 5 - 72 keV |
ビームの水平方向の発散 | 1.4 mrad |
光子量 | ~1010 photon/s(ビームサイズ 5.0 mm(H) × 1.0 mm(V)) |
エネルギー分解能 | ΔE/E ~ 10-4 |
高調波除去率 | ~10-4 |
図1に、ビームラインのレイアウトを示す。
図1 ビームラインレイアウト
Ⅱ.高度化の実施内容と成果
Ⅱ−Ⅰ.イメージング装置
BL19B2の従来のCT測定の手順は、試料を僅かに回転させた後に試料の透過像を測定・保存することを繰り返して行っており、回転ステージの始動、停止に時間を要していた。CT測定の高速化のために、試料の回転を遂次停止させずに、連続で回転させながら試料の透過像を測定する制御プログラムを作成した。試料の回転速度は回転中心から最も遠い画素で測定される試料中の部位が、露光時間中に1画素だけ回転する速度となるように
回転速度 [rad/s] = 2/(横方向の画素数 × 露光時間)
を目安とした。
回転ステージは台形駆動をするため(図2参照)、一定の回転速度になるまで、画像の測定開始を遅らせ、また、その間に回転する角度分だけあらかじめ逆方向に回転させることにした。測定を遅らせる時間は、回転速度に依存し、1.2度/秒の場合は0.15秒である。
試料回転中に得られる全ての画像ファイルは、浜松ホトニクス製のカメラ制御ソフトウェア Hipicを使い、一つのファイル(HIS形式)に追記する方法で保存した。このファイルは一般的な形式でないため、個別の画像ファイルに展開するImageJのプラグインを作成した。同時に、このプラグインでは画像取得時の試料角度をテキストファイルに書き出すことができる。この角度情報は、HISファイルに記録された画像取得時のタイムスタンプと回転速度から算出した値である。この測定方法により、従来は40分かかった測定が7分で完了する事例も現れ、測定時間が大幅短縮できた。
図2 回転ステージの台形駆動
Ⅱ−Ⅱ.多軸回折計
2012年度に小角散乱装置の入射X線フラックスの向上を狙って水平集光用のシリンドリカルミラー(第2ミラー)を導入した。2013年度はこのミラーを応用して第2実験ハッチに設置されている多軸回折計を用いた測定での能率向上を目指し、シリンドリカルミラーの集光条件の検討を行った。
シリンドリカルミラー導入前の水平方向のビームサイズは多軸回折計の試料位置で約6.0 mmであり、角度分解能の向上・バックグラウンドの低減を目的に4象限スリットやコリメータでビームを成形し、水平方向ビームサイズ1.0 mmで実験をしていた。シリンドリカルミラーを導入し集光条件の検討を行った結果、水平方向のビームサイズが約0.3 mmまで集光された。図3に標準試料LaB6粉末の回折プロファイル(110反射)を示す。X線エネルギーは12.398 keVであった。水平集光ミラーを導入することで信号強度が約6倍に向上することが確認できた。
図3 水平集光ミラー導入前後のLaB6粉末の回折プロファイル
Ⅱ−Ⅲ.粉末回折装置
BL19B2第2実験ハッチに設置されている粉末回折装置(大型デバイシェラーカメラ)および「全自動試料交換・測定システム(JukeBox)」では、施設留保ビームタイムの一部を利用して「測定代行」を実施している。粉末回折測定代行では、実施課題のうち約3分の2が、ユーザーは実験に立ち会わずに測定試料を郵送する形式で実施されている。試料郵送の際、試料を安全にビームラインまで運ぶために、専用の搬送キャリアを作製した(図4)。このキャリアは、5試料装填可能なトレイ、およびトレイを6個収納できるバッグからなる(すなわち、最大収納数:30個)。試料が少数の場合は、トレイのみでも使用可能である。測定試料は試料ホルダに固定した状態で装填する。このキャリアを利用することで、ガラスキャピラリに粉末を充填した壊れやすい試料でも、郵送から搬送、測定、返却までの一連の取り扱いが破損の心配なく行えるようになった。
図4 測定代行専用の試料搬送キャリア
Ⅱ−Ⅳ.X線小角散乱
極小角X線散乱(USAXS)による界面活性剤の会合構造や金属材料中の析出物など小角散乱(SAXS)の信号強度が微弱な試料の測定で、バックグラウンド(BG)の低減が求められていた。このBG低減のための装置レイアウト改造を検討するために、USAXS測定におけるBG源の調査を行った。実験条件はX線エネルギー18 keV、カメラ長42 mである。実験ハッチにおけるBG源として予想されるのは、①真空パスの窓材からの散乱、②試料周辺、および、真空パスの隙間の空気からの散乱が挙げられる。最初に第1実験ハッチ(第1ハッチ)から第3実験ハッチ(第3ハッチ)までの装置レイアウトのどこからの散乱の寄与が大きいのか、図5(a)に示したレイアウト中のカプトン製の真空パスの窓材が設けられている各箇所に125 μm厚のカプトンフィルムを透過配置で設置し、その散乱のBGプロファイル(試料なしの散乱データ)に対する影響を検討した。その結果を図5(b)に示す。第1実験ハッチ、第3実験ハッチに設置した条件ではその影響はほとんどなく、第2実験ハッチ(第2ハッチ)に設置した際の影響が顕著であることから、BG源が主に第2実験ハッチの真空パスの窓材からの散乱に起因することが分かった。次に窓材の変更によるBG低減効果を検討するため、現状の窓材のカプトンフィルム、ビームラインの輸送系に標準的に用いられているBe窓と、SAXS領域での散乱が弱いとされているスぺリオUT(三菱樹脂製)のUSAXSプロファイルを比較した。カプトンフィルム、スぺリオUTともに厚さは100 μmである。図6にBGを差し引いた各窓材の散乱プロファイルを示す。なお、スぺリオUTは、測定試料からの散乱が測定系のBGよりも弱いために低波数領域を中心にデータの欠落が生じた。以上のように、スぺリオUTからの散乱はカプトンフィルム、Be窓より2桁程度低いことが明らかになり、第2実験ハッチのカプトン製の真空パス窓材をスぺリオUTに変更して、BGを従来の半分以下に低減できた。
図5 125 μm厚カプトンフィルムの散乱によるBG発生個所検討の結果。(a)カプトンフィルム設置場所、(b)カプトンフィルムの散乱によるUSAXSのBGプロファイルへの影響。
図6 各種窓材(カプトン、スぺリオUT、Be窓)のUSAXSプロファイル
ⒸJASRI
(Received: December 9, 2014; Accepted: January 16, 2015; Published: February 10, 2015)