SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume3 No.2

SPring-8 Section B: Industrial Application Report

X線回折による低アルカリ性セメントの初期水和過程の解析
X-ray Diffraction Analysis on Low Alkali Cement of Early Hydration Process

DOI:10.18957/rr.3.2.488
2012A1750 / BL19B2

人見 尚

Takashi Hitomi


(株)大林組

Obayashi. Co. Ltd.


Abstract

 反応性を向上させたフライアッシュ(焼却飛灰)を用いた低アルカリ性セメントの初期の水和物生成過程を追うことを目的として、練混ぜ直後から30時間経過後までのX線回折データの取得を行った。高分解能な回折データが得られたため、セメント中の未水和鉱物や、フライアッシュ中のムライト、さらに、水和生成物に含有されると考えられているジェナイトの存在を確認するなど、鉱物種の特定に本測定法が有効であることが示された。しかし、活性度を向上させたフライアッシュは反応性が若干向上するものの、全体として変化に乏しい結果となった。定量標準として添加した酸化亜鉛(ZnO)が凝結遅延を起こしたと考えられた。標準化のための混和材料や、試料保持装置などに改善の余地があることが分かった。


キーワード: 低アルカリ性セメント、X線回折、時分割観察



背景と研究目的:

 放射性廃棄物処分場に用いられるコンクリートは粘土鉱物であるベントナイトに接する形での施工が検討されている。コンクリートはカルシウムを高含有するため、水に触れると高いアルカリ性を示す。そこで、コンクリートに用いるセメントが遊離カルシウムを生じないようにした‘低アルカリ性セメント’が検討されている。低アルカリ性セメントのコンセプトは、普通ポルトランドセメント(以下、OPC)にフライアッシュ(以下、FA)やシリカフューム(以下、SF)などケイ素を主成分とする材料を混和し、カルシウムをケイ素と結合させ難溶性のカルシウムシリケート水和物を生成させることにある。

 本研究では低アルカリ性セメントのうちOPCの4割をFAに置換し、2割をSFに置換したHFSC(Highly Fly-ash contained Silica-fume Cement)を対象とする。しかしながら、現在のHFSCは、いまだ水酸化カルシウムを消費し尽くすまでには至らない現状がある。この原因として、FAの反応活性度が極めて低いのに対し、SFの反応活性度は極めて高いという、混和する材料の活性度のアンバランスにあると考えている。特にSFは、練混ぜ開始より48時間程度で反応が終了すると考えられ、この期間における短い時間間隔での観察が必要と考えられる。本研究は、強度を確保したうえで、アルカリ性を下げたセメントの開発を目的とし、特にこれまで用いていたFAに改質を加えることによって効率的な水酸化カルシウムの消費を目指すものである。このような水和物の生成の分析には、X線回折が最適であり、高速で数分ごとの反応の経時変化を観察できるSPring-8のBL19B2の装置が最適と判断した。今回は、改質したFAを用い、初期の水和過程において連続X線回折観察を実施し、水和物生成の把握を目的とした。


実験:

試料の仕様

 試料は、HFSCについて、FAの比表面積とSFの混和割合をパラメータとして変えたものを用いた。FAに関しては、通常のもの(B種FA,比表面積:約4000 cm2/g)と比表面積が9000 cm2/gのもの(FA9)とした。比表面積の大きいFAは分級により作製した。表1に使用材料の一覧を示す。これらを組み合わせ、試料を作製した。試料の一覧を表2に示す。以下、試料は表中の略称で表記する。HFSC29はFAをFA9に変更したもの、HFSC19はFA9の活性度向上に期待し、SFを半分にし、FA9を全体の5割に増やしたものである。


表1 使用材料の一覧


 作製にあたり、水はイオン交換水を用いた。試料は全重量を1.6 gとして作製し、OPC,FAおよびSFからなる結合材を1 g、水を0.5 g、さらに回折強度を各サンプルで揃えることを目的とした検量用のZnOの粉末を0.1 g加えて練り混ぜた。また、HFSCは重量比でOPC:SF:FA=4:2:4であるため、OPCとFAは種類に関わらず0.4 g、SFは0.2 gとした。


表2 試料の配合


試料の作成と実験条件

 試料はセメントに水を加えて練り混ぜてセメントペーストとしたのち、すぐにシリンジを用いてφ0.8 mmのガラス製細管に注入した。練混ぜから試験開始までは概ね1時間程度の間隔をあけた。細管はHilgenberg社製のX線低吸収ガラスを用いた。ガラス製細管の下部は、専用に製作した冶具に取り付けた。本冶具はキャピラリーより水分が失われるため、継続して水和させるための処置である。冶具の外観を写真1に示す。冶具の内部は中空で水を溜めることのできる構造(写真1左)にし、細管の端部を挿入し(写真1右)水を供給した。冶具の左側の突起(写真1左)は、回折装置専用の冶具に固定するためのものである。X線回折の装置は、BL19B2に設置しているデバイ・シェラーカメラを用いた。X線のエネルギーはセメント試料を詰めた細管を透過することのできる17.6 keVとした。



写真1 観察用冶具


結果および考察:

 まず混和したSF,FAおよびFA9について、練混ぜ前に粉末の状態での測定を行った。測定結果を図1に示す。SFには鋭いピークは存在せずハローが存在するのみであった。これは、SFには結晶性の鉱物は存在せず、ガラスのような結晶性の極めて低い物質しか存在しないことを示している。FAおよびFA9においてもハローが見られ、結晶性の低い物質を多く含むことが示されたが、酸化アルミニウムと二酸化ケイ素の化合物であるムライトの存在を示すピークが見られた。ムライト(mullite)は、自然界には存在しないが、磁器など高温で焼成されるものに含まれており、火力発電所の燃焼過程で生成し、FAに含有されているものと考えられる。また、二酸化ケイ素の結晶多形の一つである石英(quartz)も含まれていることが分かった。また、これらは分級されたFA9には少量の含有となっていることから、比較的大きな粒径を有しているものと考えられる。

 次いで、封入後1時間経過時の測定結果を図2に示す。ICSDのデータベースを用いて含有されると推定された水和物も併せて示す。練混ぜ直後の回折パターンには未水和のOPCに含まれるセメントクリンカーであるエーライト(alite)とビーライト(belite)の存在が確認された。beliteは、ICSDのデータベースでは、larniteに相当する。aliteやbeliteは、水和によりいずれもセメント水和物の主要構成材である水酸化カルシウムやカルシウムシリケート水和物(以下、C-S-H)を生成する。それぞれ、aliteは反応が早く28日程度でほとんど消費されてしまうのに対し、beliteの反応は緩慢であり数ヵ月も継続するという特徴を有する。aliteやlarnite(belite)のピークはいずれの試料においても存在することが分かった。また、mulliteは、HFSCのシリーズのみで確認された。水和によって生成したと考えられる鉱物は、エトリンガイト(ettringite)で、OPCおよびHFSCの全てのシリーズで確認された。OPCにおいて、C-S-Hの構成鉱物の一つと考えられるジェナイト(Jennite)のピークが確認された。Jenniteは、カルシウム-シリカモル比が1.5とC-S-Hを構成する鉱物の中ではカルシウム-シリカモル比の高い鉱物であり、カルシウム量の多いOPCでのみ見られたものと考えられる。



図1 SF,FAおよびFA9の測定結果



図2 練混ぜ直後(封入後1時間経過時)の測定結果


 ほぼ1時間ごとに、それぞれの試料に対しX線回折データの取得を行った。本報告ではaliteの変化に注目した。反応が進むにつれてaliteは消費されるため、その強度は低くなると考えられる。結晶データベースよりaliteのピークが14.35°~14.8°であるため、この領域での変化に注目した。図3と図4にHFSCとHFSC29の結果を示す。なお、図3と図4における試料番号は、3時間ごとの値で、1は練混ぜ直後の0時間の結果、2は3時間経過後、3は6時間経過となり、11は30時間経過後の値を示す。HFSCとHFSC29では、aliteの強度にはばらつきが大きいものの、時間の経過とともにわずかながら減少の傾向が見られ、反応によるaliteの消費が見られたものと思われる。

 今回の結果では、高分解能な回折データが得られたため、セメント中の未水和鉱物や、FA中のmullite、さらに、水和生成物に含有されると考えられているJenniteの存在を確認するなど、鉱物種の特定に本測定法が有効であることが示された。しかし、時分割観察においては、OPCおよびHFSC共に反応が進まず、全体的に変化の乏しい結果となった。これは、標準化のために混和したZnOの量が多く、凝結遅延剤として作用したことが主原因として考えられる。通常、水酸化亜鉛(Zn(OH)2)は凝結を阻害する遅延剤としてよく知られているが、アルカリ環境下では、ZnOも若干イオン化を起こし、Zn(OH)2と同様の影響を及ぼしたものと考えられる。試料を封入したガラス製細管を保持する冶具に製作した水分保持装置の密閉性が低かったことに起因すると考えられる。試料および水分の保持方法にさらなる工夫が必要であることが分かった。

 SFを減らしたHFSC19では、変化に乏しい結果が得られたことより、FAのブレーンをあげたことの効果は、SFを減ずる効果に比べ低かったと考えざるを得ない。しかしながら、HFSC29ではハローが他の試料と比較して格段に大きく非晶質の材料が多く含まれることを示唆し、反応ポテンシャルの高いことが想像される結果となった。現状では、FAのブレーンをあげたものの反応性はSFには及ばないが、通常のFAに比べ反応性は若干上昇すると考えられる。今回のFAは分級によるもので、粉砕などで反応性を向上させるなどの工夫が必要と思われる。



図3 時間経過に伴うHFSCにおけるaliteの変化



図4 時間経過に伴うHFSC29におけるaliteの変化


まとめ:

 時分割測定により、練混ぜ直後から30時間経過後までのX線回折パターンの取得を行った。高分解能な回折データが得られたため、セメント中の未水和鉱物や、FA中のmullite、さらに、水和生成物に含有されると考えられているJenniteの存在を確認するなど、鉱物種の特定に本測定法が有効であることが示された。

 しかし、活性度を向上させたFAは反応性が若干向上するものの、全体として変化に乏しい結果となった。ZnOの混和割合が多く凝結遅延を起こしたことに起因したと考えられた。標準化のための混和材料や試料保持装置などに改善の余地があることが分かった。


今後の課題:

 ZnOが凝結遅延材となり水和を阻害した可能性が高いと考える。定量分析のための混和材料の再検討を進めたい。



ⒸJASRI


(Received: November 16, 2012; Early edition: May 28, 2015; Accepted: June 29, 2015; Published: July 21, 2015)