Volume8 No.1
Published 22-January 2020 / SPring-8 Document D2020-004
SPring-8 Section A: Scientific Research Report
a岡山大学異分野基礎科学研究所, b大阪市立大学複合先端研究機構
aRIIS, Okayama University, bOCARINA, Osaka City University
- Abstract
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光合成の水分解反応を行っている光化学系 II 蛋白質の活性中心 Mn4CaO5 クラスターは III と IV 価の混合原子価状態と考えられているが、各 Mn の価数の議論はまだ結論がついていない。本研究は、Mn のX線吸収端が価数に応じてシフトすることに着目し、X線吸収に依存する異常分散項の電子密度差電子密度マップを用いて各Mnの価数を分析した。その結果、K-吸収端波長領域において、各 Mn の価数に応じた変化を明らかにした。
Keywords:光合成、金属蛋白質、Mn クラスター、価数、異常分散項差電子密度マップ
a広島市立大学, b宇部工業高等専門学校, c(公財)高輝度光科学研究センター, d熊本大学, e名古屋工業大学, f自然科学研究機構分子化学研究所, g奈良先端科学技術大学院大学
a Hiroshima City University, b NITUC, cJASRI, d Kumamoto University, eNagoya Institute of Technology, fUVSOR, gNAIST
- Abstract
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強磁性半導体 Ge1-xMnxTe の光電子ホログラム測定を行った。948 eV の励起光に対して、運動エネルギーが 900 eV の光電子放出強度の角度分布を測定して、Te 4d 光電子回折パターン(光電子ホログラム)の取得に成功した。得られたホログラムより Te 周辺の原子像を再生したところ、Te のサイトに原子位置の揺らぎがあることが分かった。この結果は蛍光X線ホログラフィーの結果と一致する。
Keywords: 光電子ホログラフィー、強磁性半導体、スピントロニクス材料
a東京工業大学, bメリーランド大学, c(国研)物質・材料研究機構/SPring-8
aTokyo Institute of Technology, bUniversity of Maryland, cNIMS/SPring-8
- Abstract
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本研究は、電界印加下時間分解放射光X線回折法を用いて、反強誘電体エッジ組成が示す巨大な圧電性について調査を行った。その結果、電界を印加することで反強誘電相は強誘電相へ相転移を起こし、それらは可逆的に動作することが理解できた。しかしながら、全てのドメインが相転移を起こしている訳ではなく、一部にとどまった。相転移が引き起こす歪みから計算した圧電定数は最大で 240 pm/V になることが分かった。
Keywords:圧電特性、強誘電体、反強誘電体、電界誘起相転移
aCROSS 東海事業センター, b熊本大学, c大阪大学, dSPring-8/JASRI
aCROSS, bKumamoto University, cOsaka University, dSPring-8/JASRI
- Abstract
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コンテナレス・ガス浮遊超高温X線回折法を用いて高融点を持つ ZrO2 の融点までの構造解析を行った。高温での激しい粒成長のため二次元IP検出器による放射光迅速測定を行った。正方晶 ZrO2(空間群 P 42 /nmc, Z = 2)の格子定数、熱膨張および c/a 軸率等を決定した。正方晶相から立方晶相への相転移点は 2430-2540℃ の間である。2200℃ を超えると相転移の前兆現象が観測される。正方晶相から立方晶相への転移点では明確な格子体積変化は観察されない。我々は正方晶相と立方晶相との間の P/T 相境界は負の勾配ではないと提案する。
Keywords: ガス浮遊超高温X線回折法、高融点材料、pure-ZrO2、ジルコニア、正方晶ZrO2、立方晶ZrO2、相転移温度、格子定数、熱膨張、軸率c/a、転移の前兆現象、P/T相境界、クラペイロン勾配
a AIST, b QST, c JAEA, d Kyushu University
- Abstract
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To understand the hydrogen storage properties of CaLi2-xMgx having a C14 Laves phase structure, changes in its average and local structures by hydrogenation were investigated by using the Rietveld and the atomic pair distribution function analyses of X-ray diffraction data. We found that after hydrogen uptake at 283 K, Mg-containing samples exhibit a C14 phase with reduced volume. This C14 phase readily decomposes into CaH2 at temperatures higher than 300 K. Our study suggests that hydrogen absorption in CaLi2-xMgx at 283 K is multi-step reaction. Lithium that can easily diffuse through C14 crystals reacts with hydrogen forming a Li-rich hydride phase. On the other hand, slow diffusion of large Ca atoms and strong Mg-Mg and Mg-Ca interaction restrain the immediate formation of CaH2. As a result, there is a substantial time lag between the formation of a Li-rich hydride phase and the formation of CaH2 at 283 K. This brings about a C14 phase with reduced volume where a large number of Li vacancies are present immediately after hydrogenation.
Keywords: C14 Laves phase, hydrogen absorbing materials, X-ray diffraction, atomic pair distribution function
兵庫県立大学
University of Hyogo
- Abstract
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トバモライトを主成分とする吸着材を合成し、セシウムイオンを吸着した吸着材について EXAFS 測定を行った。その結果、セシウムはトバモライトの層間に位置する酸素8員環の中心位置に内圏錯体として捕捉されている可能性が高いことが示唆された。さらに、この測定結果を元に b 軸方向に結晶成長させた吸着材を合成した結果、市販のトバモライトに比べて2倍以上の陽イオン交換容量を示す吸着材を得た。本吸着材を福島県南相馬市の汚染土壌からのセシウム除去に適用した結果、水だけによる洗浄よりも優位な洗浄効果を確認した。
Keywords: セシウム、吸着材、トバモライト、構造解析
a兵庫県立大物質理学研究科, b(公財)高輝度光科学研究センター
aUniversity of Hyogo, bJASRI
- Abstract
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近年、真空中での溶液あるいは液体状態の分光が注目され、水(液体)、アルコール(液体)、溶液の光電子スペクトル、軟X線発光スペクトル、内殻吸収スペクトルなどが測定されてきた。本研究では超音波振動による微少液滴生成技術を利用し、水溶液内のアミノ酸の軟X線吸収スペクトル測定を試みた。その結果、軟X線領域では、液滴の窓への付着、超音波噴霧の不安定性により、十分なS/N測定には、様々な改良が必要なことがわかった。
Keywords: 微少液滴、超音波振動、軟X線、吸収スペクトル
a(国研)海洋研究開発機構, b高知大学, c(公財)高輝度光科学研究センター
aJAMSTEC, bKochi University, cJASRI
- Abstract
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本研究では SPring-8 の高空間分解赤外顕微分光装置を利用した非破壊アプローチによる微生物のドメイン情報取得を行うことを目指した。大腸菌、およびメタン生成菌を標準試料とした分析を実施したところ、微生物細胞が複数集積した箇所では安定した測定結果が得られたものの、細胞密度の低いところでは結果のばらつきが大きく、ドメイン判定が困難であった。
Keywords: 赤外顕微分光、海底下生命圏、ドメイン識別
滋賀県立大学
University of Shiga Prefecture
- Abstract
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トマトに含まれる色素のオール trans 型リコピンの微結晶を作成し、BL02B1 ラインで高エネルギーX線照射による単結晶構造解析を行った。ディスオーダーした分子構造が見られ、R 値は 13% 台になった。分子中の11個の連続するポリエン鎖は、メチル基の立体反発を示すように湾曲しており、また完全な平面でなくねじれた構造をしていることが明らかになった。結晶構造において、分子はポリエン鎖が π-スタッキング相互作用を行うように配置しており、固体状態において光分解しやすい実験事実が裏付けられた。
Keywords: リコピン、分子構造、結晶構造
a帝京大学,b東京慈恵会医科大学, c(公財)高輝度光科学研究センター
aTeikyo University, bThe Jikei University, cJASRI/SPring-8
- Abstract
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ウサギ骨格筋から作成した skinned fiber の high-Ca rigor 状態での ramp-shaped release に対する力学的反応時の構造変化を X-ray diffraction の技法によって調べたところ、EDTA(10mM)の有無に関わらず、(1)赤道反射強度比[I(1,1)/I(1,0)]と 1,0 反射の間隔(spacing)は release 後では有意に増大した。(2)actin 由来 5.9 nm 層線は赤道線方向の lateral spacing が 0.05/nm より内側では強度変化は殆ど見られないのに対して 0.05/nm より外側では強度が低下した。Actin 由来層線の強度分布は、子午線から遠ざかるにつれて、アクチンフィラメントのらせん軸により近い部分の構造を反映する。したがって、ramp-shaped release により変化するのは、アクチンに結合するミオシン頭部のアクチン結合部位付近の微細構造と考えられた。
Keywords:骨格筋、high-Ca 硬直状態、low-Ca 硬直状態
a名城大学理工学部, b(公財)高輝度光科学研究センター
aMeijo University, bJASRI
- Abstract
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低抵抗 p 型伝導性制御を期待される高品質の窒化物系混晶半導体 GaN1-xSbx を実現する目的で、有機金属気相成長法で成長した Sb 添加 GaN 中の Sb 原子近傍の局所構造をX線吸収微細構造法で評価した。その結果、Sb 原子近傍の動径分布関数が、GaSb 基板のものとは異なり、第一近接原子である Ga の信号も一致しなかったことから、Sb 添加 GaN 中のほとんどの Sb は GaN 中の V 族元素の N 原子を置換していないと考えられる。
Keywords: 窒化物系混晶半導体、Sb、相分離、X線吸収微細構造法
a三重県警察本部科学捜査研究所, b京都大学大学院工学研究科都市環境工学専攻
a Forensic Science Laboratory, Mie Prefectural Police H. Q., b Department of Environmental Engineering, Graduate School of Engineering, Kyoto University
- Abstract
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自動車タイヤゴム試料について、XAFS によるイオウの存在状態分析によって走行距離の推定が可能か検討した。実車で 2700 – 20000 km走行したタイヤのゴムを試料とし、そのイオウの存在状態を分析した。試料は蛍光収量法で測定した。XAFS の結果から、走行距離が大きくなるほど酸化がすすむ傾向がやや見られたものの、各走行距離内で大きくばらついていた。そのため、20000 km 程度以内の走行距離では蛍光収量法によるイオウの存在状態から走行距離を推定することは困難であると考えられた。
Keywords: 科学捜査、XAFS、交通事故、イオウ
a東北大学多元物質科学研究所, b(公財)高輝度光科学研究センター
aIMRAM, Tohoku University, bJASRI
- Abstract
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単一の結像素子のみで定量的な微分干渉像が得られるX線顕微鏡を構築するため、対物フレネルゾーンプレートにヒルベルト位相フィルターを作用させる光学系での実現可能性を調べた。位相反転による集光ビームのスプリットを確認し、結像光学系に適用した。部分コヒーレント照明、インコヒーレント照明系に於いて像特性を調べたところ、位相敏感効果は観測できたものの、定量的な微分位相像を得るまでには至らなかった。
Keywords: X線顕微鏡、位相イメージングCT
東京大学 物性研究所
Institute for Solid State Physics, The University of Tokyo
- Abstract
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層状オキシセレナイド La2Fe2Se2O3 および LaCuSeO を交互に積層した新物質 La4Fe2+xCu2–xSe4O5 (x = 0.5、1.0、1.5)の合成に成功した。ヘテロ構造の形成に伴う物性の変化が期待されたが、同物質の磁性は La2Fe2Se2O3 と比べてほぼ変化がなかった。この起源を探るべく粉末X線構造解析を行った結果、x の増大に伴い Cu サイトの欠損が生じ占有率が低下することが明らかとなった。また Fe サイト周囲の結合距離や結合角は x に依らず La2Fe2Se2O3 とほぼ同等であったことから、積層化によっても磁気相互作用がほぼ変化せず同様の磁性を示すと考えられる。
Keywords: オキシセレナイド、結晶構造解析、Intergrowth 化合物
a兵庫県立大学, b (公財)高輝度光科学研究センター
aUniversity of Hyogo, bJASRI
- Abstract
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発光色の異なる同形の Cu(I) と Ag(I) の六核金属錯体の組み合わせについて、Cu(I) 錯体の基板結晶表面に Ag(I) 錯体をクロロホルム溶液から結晶粒として成長させた試料に、X線マイクロビームを照射して回折像を測定し、表面結晶粒と基板結晶の方位測定と単結晶構造解析を行った。その結果、それぞれ既知構造と一致し、測定した4つの表面結晶粒と基板結晶の結晶方位が、1つの結晶粒を除いて、4.4˚ 以内で一致することを明らかにした。
Keywords: 放表面結晶、界面構造、エピタキシャル成長、単結晶X線構造解析、X線マイクロビーム、発光性多核金属錯体
aUniversity of Copenhagen, bTechnical University of Denmark
- Abstract
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We have used X-ray nanotomography to image spines of three different sea urchin species to complement previously acquired microtomography data and study the hierachical structure of the spines.
Keywords: X-ray nanotomography, sea urchins, biotemplating
a京都大学大学院理学研究科化学専攻, b(公財)高輝度光科学研究センター
aDivision of Chemistry, Graduate School of Science, Kyoto University, bJASRI
- Abstract
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一次元ハロゲン架橋遷移金属錯体 (MX-chain) は金属イオンとハロゲン化物イオンが直線状に交互に並んだ理想的な一次元構造を持つ錯体であるが、近年、一次元鎖を有機配位子で連結して次元性を拡張したMX錯体の研究が注目を集めている。本研究では、あみだくじ状の構造を持つ二次元シート型 MX 錯体について、ダイヤモンドアンビルセルを用いた高圧下での粉末X線回折測定を行い、その構造及び電子状態の変化を検証した。
キーワード: MX錯体、低次元化合物、高圧、X線結晶構造解析
a京都大学, b中部学院大学
aKyoto University, bChubugakuin University
- Abstract
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二次象牙質の蓄積量やセメント質の層構造などの、歯牙内部の微細構造は、霊長類を含めた哺乳類の年齢推定に用いられる。しかし、現在のところ破壊的な観察方法しか存在しないため、CT 撮影によりこれが非破壊的に観察可能かどうかを調べた。二次象牙質はその境界を明瞭には観察できなかったが、セメント質の層構造は、個体によっては、観察することができた。実験後の被写体を従来方法で観察し、今回の結果と比較することにより、従来から観察されてきた層構造と同一のものを、非破壊的に観察できていることが確認された。
Keywords: 象牙質、セメント質、年齢推定、CT
兵庫県立大学 大学院生命理学研究科
Graduate School of Life Science, University of Hyogo
- Abstract
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ヒドロゲナーゼは水素の分解・合成反応を触媒する金属酵素である。本実験では、硫酸還元菌 Desulfovibrio vulgaris Miyazaki F 株由来の[NiFe]ヒドロゲナーゼを対象として、還元型、空気酸化型および強制酸化型の3つの酸化還元状態について、水素原子の位置決定も含めたそれぞれの反応中間体の高精度結晶構造解析を目指した。
Keywords: [NiFe] ヒドロゲナーゼ、 金属酵素、酸化還元
a大阪大学産業科学研究所, b近畿大学, c岡山大学, d株式会社微生物化学研究所
aISIR, Osaka University, bKindai University, cOkayama University, dInstitute of Microbial Chemistry
- Abstract
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Angucycline 抗菌化合物 aquayamycin の結合部位を決定するため、大腸菌センサーヒスチジンキナーゼ EnvZ DHp ドメインの結晶を調製し、同化合物でソーキングした。Aquayamycin の結合によって茶褐色に変色した結晶について、X線結晶構造解析を行った。しかしながら、電子密度マップ上で、aquayamycin に対応する電子密度は認められなかった。また、Angucycline 抗菌化合物 waldiomycin に対して親和性が低下する S242A 変異型 EnvZ の DHp ドメインに関しても、X線結晶構造解析により構造決定した。
Keywords: ヒスチジンキナーゼ、X線結晶構造解析、新規抗菌薬
大阪大学大学院理学研究科
Graduate School of Science, Osaka University
- Abstract
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C1 資化性脱窒菌 Hyphomicrobium denitrificans の亜硝酸還元酵素(HdNIR)は、一次構造上、一般的な銅含有亜硝酸還元酵素と相同なカルボキシ末端側ドメイン(C ドメイン、分子量 ~35 kDa)とブルー銅蛋白質に相同なアミノ末端側ドメイン(N ドメイン、~12 kDa)を併せ持ち、C ドメイン単独でも生理的電子供与体シトクロム c から電子を受け取って十分な酵素活性を示すことがわかっている。本研究では、まだ機能が未知な N ドメインとそこに存在するタイプ1銅(T1CuN)の役割を解明することを目的に、T1CuN 配位アミノ酸残基に変異を入れ銅の酸化状態を固定した試料を用い、その構造や機能について簡単な調査を行った。
Keywords: 金属酵素、銅蛋白質、マルチドメイン、酸化還元
a東北大学金属材料研究所, b(公財)高輝度光科学研究センター
aIMR Tohoku University, bJASRI/SPring-8
- Abstract
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BL43IR に既設の無冷媒超伝導マグネットを活用し、磁場中赤外顕微分光測定系を改良することで、信号強度の大幅な増大と測定可能エネルギーの遠赤外光領域への拡張に成功した。また、クライオスタットを新造更新し、冷媒の消費量を大幅に抑えることができた。これらの結果により、本ステーションは、低温(~ 4 K)、強磁場(~ 14 T)の環境下で、200-10000 cm-1 程度の幅広い赤外光学スペクトルを再現性よく安定的に得ることができる貴重な測定系となった。
Keywords: 強磁場、低温、赤外、顕微分光
SPring-8 Section B: Industrial Application Report
a立命館大学, b東北学院大学
aRitsumeikan University, bTohoku Gakuin University
- Abstract
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Nd-Fe-B 系薄膜の元素選択的磁気ヒステリシス測定を軟X線磁気円二色性測定(XMCD)で行った際のキャップ層の影響を硬X線光電子分光(HAXPES)と組み合わせることで検証した。キャップ層が Mo 層 3 nm であるとき、その下の Nd-Cu 層および Nd-Fe-B 層は酸化されておらず、保護膜としての機能を果たしていることがHAXPES測定より分かった。しかしながら、XMCD 測定において、キャップ層によるシグナルの抑制のために、特に磁場中で発生するノイズがシグナルを超えて大きくなり、ヒステリシス測定が十分な精度で行えないことが分かった。
Keywords: 元素選択的磁気ヒステリシス測定, XMCD, HAXPES, Nd-Fe-B 永久磁石薄膜
a東京大学物性研究所, b東芝燃料電池システム(株), c(国研)日本原子力研究開発機構
aISSP, The University of Tokyo, bToshiba Fuel Cell Power Systems, cJapan Atomic Energy Agency
- Abstract
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固体高分子形燃料電池の正極触媒として高い性能を有する白金ナノ粒子触媒に対し、発電環境下において、共鳴非弾性X線散乱を用いて元素選択的に Pt のみの電子状態密度分布を取得した。正極に 1.0 V かけた状態で 3.75 eV 付近にラマン散乱ピークが見られ、同じピークが自然電位でも弱いながら観測された。その原因として、蒸気を導入したことにより水分中の OH 基が吸着し、Pt との間に結合・反結合状態を形成したことが示唆された。
Keywords: 固体高分子型燃料電池、白金ナノ粒子触媒、共鳴非弾性X線散乱
株式会社日本触媒
Nippon Shokubai Co., Ltd.
- Abstract
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HAXPES を用いて、有機無機ハイブリッド LED における光電子スペクトルの放射光照射依存性を検討した。また、素子特性変化に伴う素子の物質的変化は微小であることが明らかであることから、解析精度をあげる目的で、今回は複数の同素子における駆動前後の観察を試みた。経時変化からは、Mo の動きが特異であること、駆動前後の観察からは僅かながら Mo とは連動しない特異なSの変化を観測した。
Keywords:有機 EL、酸化モリブデン、有機/無機界面、放射光照射依存性
a東京大学物性研究所, b東京大学放射光連携研究機構, c東芝燃料電池システム(株), d(国研)日本原子力研究開発機構
ISSP, The University of Tokyoa, SRRO, The University of Tokyob, Toshiba Fuel Cell Power Systemsc, Japan Atomic Energy Agencyd
- Abstract
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固体高分子型燃料電池正極触媒の Pt‐O 結合エネルギーに及ぼす Pt 粒径効果を Pt L 端 RIXS を用いて評価した。Pt‐O 結合エネルギーは、Pt の平均粒径の減少と共に急激に増加した。得られた結果から、触媒活性および耐久性を両立する適度な Pt-O 結合エネルギーを持つ Pt 粒径が存在することが明らかとなった。
Keywords: 固体高分子型燃料電池、白金ナノ粒子触媒、共鳴非弾性X線散乱、粒径依存性
株式会社 本田技術研究所
Honda R&D Co., Ltd.
- Abstract
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自動車排ガス浄化触媒における貴金属(Pd)の有効活用の為の基礎研究として、αAl2O3 に担持された Pd の状態変化を大気雰囲気中の in-situ 昇温測定にて観測した。担持された Pd の初期状態は酸化物(PdO)構造であり 900°C まで酸化物相を保つが、900~1000°C において金属(Pd)構造に変化することが明らかになった。
Keywords: Pd-K吸収端,in-situ XAFS
住友電気工業株式会社
Sumitomo Electric Industries, Ltd.
- Abstract
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鉄箔を大気酸化した後に、高温のアセチレンガス雰囲気中で処理すると、熱亀裂の内部にサブミクロンの幅を持つ炭素繊維(チューブやシート)が亀裂の両側をブリッジするように成長する新しい現象を発見した。この現象を利用すれば、直線的なナノカーボンが成長でき、新規デバイス作成手法に応用できる。炭素が引き出されるメカニズムを解明するため、雰囲気制御可能な XAFS 装置により浸炭工程毎での Fe の状態変化を測定した。
Keywords: カーボンナノチューブ、高純度鉄箔、XAFS、酸化鉄、ガス浸炭
三菱ケミカル(株)
Mitsubishi Chemical Corporation
- Abstract
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アイソタクティックポリプロピレン(iPP)の昇温過程(50℃~200℃)における SAXS/WAXS 同時測定を行い、iPP のα晶の融解過程について詳細に調べた。その結果、結晶融解過程に関しては、昇温に伴うWAXSピークの消失挙動から、iPPのα晶は、DSCの吸熱反応が検出できないレベルの温度領域(174℃~190℃)においても残存していることを明らかにした。
また、SAXS プロファイルの変化より、昇温に伴うラメラ周期長の増大と、並びに、ドメイン構造の出現が明らかとなり、かつその構造は融点よりやや低い温度領域から 190℃ 付近まで明確に観測されることを示した。
Keywords: アイソタクティックポリプロピレン、メモリー効果、α晶、放射光X線散乱、SAXS、オリジン、メソフェイズ、SPring-8
首都大学東京(現所属:日本原子力研究開発機構)
Tokyo Metropolitan University (present affiliation: JAEA)
- Abstract
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鉄鋼材料の微量なチタン添加は溶接熱影響部の切欠靭性改善に有効である。本研究は、放射光X線による小角散乱法を用いて入熱量を制御した再現熱サイクル試験鋼材中の析出粒子を定量評価することを目的とする。本実験は、産業利用Iビームライン BL19B2 を使用して放射光X線小角−極小角散乱測定を実施した。その結果、低 q 側の Guinier(ギニエ)領域が観察できない散乱プロファイルに対して、Porod(ポロド)則に従い、散乱プロファイルを解析することで、析出粒子の総界面積を定量評価することに成功した。本手法は微視組織解析の一つとして有効的である。
Keywords: 放射光X線小角散乱法、溶接熱影響部、窒化チタン粒子、Gunier 領域、Porod 則
a奈良先端科学技術大学院大学, b岩手大学, c (公財)高輝度光科学研究センター, d日本化薬株式会社
aNAIST, bIwate University, cJASRI, dNippon Kayaku Co., Ltd.
- Abstract
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有機低分子半導体薄膜について、温度可変試料ステージを用いて2次元斜入射X線回折(2D-GIXD)測定を行い、2次元回折画像を得た。この画像から格子パラメータの温度依存性を求め、アルキル基が導入された有機低分子に関して大きな体積熱膨張、ヘテロ原子が導入された有機低分子の負の体積熱膨張など、分子構造に特徴的な熱膨張の関係性が得られた。今後、格子パラメータからパッキング構造を予測推定し、分子間相互作用と熱膨張、トランスファー積分の温度依存性などの解析に発展させる予定である。
Keywords: 有機半導体材料、熱電材料、構造相転移、熱膨張
株式会社ノリタケカンパニーリミテド
Noritake Co., Ltd.
- Abstract
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セリアジルコニア酸化物は酸化還元により酸素を吸放出する機能性粉体であり、貴金属とともに、排ガス浄化用触媒として利用されている。排ガス浄化に大きく寄与する Pd または Pt 還元メカニズム解明のため、既存のセリアジルコニアと開発中のセリアジルコニアに Pd または Pt を担持し、室温から 150°Ϲ までの昇温過程において in-situ XAFS 測定を実施した。開発したセリアジルコニアに担持した Pd と既存のセリアジルコニアに担持した Pd の還元温度に差はみられなかったが、Pt については開発したセリアジルコニアに担持したもののほうが低温で還元されていることがわかった。この結果は昇温還元測定(TPR 測定)による酸素放出挙動と定性的に一致した。
Keywords:排ガス浄化用触媒, セリアジルコニア, in-situ XAFS 測定
a株式会社ダイセル, b大阪大学大学院基礎工学研究科, c(公財)高輝度光科学研究センター
aDaicel Corporation, bOsaka University, cJASRI
- Abstract
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酢酸の高選択的水素化によるアセトアルデヒドへの変換反応を目的として、高活性を示す PdFe 合金触媒の開発を実施した。酢酸の水素化によるアセトアルデヒドへの変換反応において高活性を示す Pd-Fe2O3 触媒は Fe 前駆体種、組成により同 Pd 量でも活性が大きく変化する。Fe 前駆体種、組み合わせ比率の異なる各触媒を Pd K 殻及び Fe K 殻 XAFS 測定することにより PdFe 合金の生成を確認、比較した。Fe 前駆体の組み合わせにより PdFe 合金生成量が変化しており、触媒活性に影響していることが示された。
Keywords: XAFS、合金粒子、水素化反応、還元反応
三菱ケミカル(株)
Mitsubishi Chemical Corporation
- Abstract
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アイソタクティックポリプロピレン(iPP)の溶融紡糸による未延伸糸の急速冷却過程において、280 °C よりも高い溶融状態から得られた未延伸糸では、α 晶は形成されず準安定相であるメソフェイズが形成され、逆に 280 °C より低温での紡糸では α 晶が形成されることを示した。このように、融点より非常に高い温度での溶融状態が、急速冷却後の結晶化の有無や状態を決定づけていることを明らかにした。この理由としては、高温溶融状態にて、iPP の結晶化に重要な影響を与える何らかの凝集構造(オリジン)が存在し、これがメモリー効果として融点より 100 °C 以上も高い高温領域まで残存しているためと考察した。
また、未延伸糸の構造はその後の延伸過程での伸び切り鎖の構造形成において決定的因子となり、メソフェイズを有する未延伸糸から延伸を開始することが、高延伸倍率で高強度な iPP 繊維を得るのに圧倒的に有利であることを明らかにした。
Keywords: アイソタクティックポリプロピレン、メモリー効果、α晶、放射光X線散乱、 SAXS、オリジン、メソフェイズ
日本メナード化粧品(株)総合研究所
Research Laboratories, Nippon Menard Cosmetic Co., Ltd.
- Abstract
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化粧品の有効性を評価することを目的として、現在様々な試験が行われているが、真皮における「コラーゲンの質」を評価する方法は十分に確立されていない。我々はこれまでに、線維芽細胞の広角・小角X線散乱を測定し、コラーゲンの三重らせん構造、分子間距離、長周期構造に由来する回折について観察してきた。本研究では、線維芽細胞の小角・極小角X線散乱の測定を行い、より大きな構造に由来するX線散乱の観察が可能か検討した。その結果、長周期構造の回折に加え、由来不明の肩ピークが観察された。また、試料の固定、乾燥状態によって、観察されるピークの有無や大小に変化が見られた。
Keywords: コラーゲン、長周期構造、線維芽細胞
(株)東芝
Toshiba Corporation
- Abstract
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省電力化および高速動作が可能な次世代磁気抵抗メモリ、VoCSM (電圧制御型スピントロニクスメモリ、Voltage-Control Spintronics Memory) の開発が行なわれている。VoCSM は電圧によって磁気異方性が変化する VCMA (Voltage Control Magnetic Anisotropy) 効果を書き込み手段に用いている。この効果の発現メカニズムとして、理論上では、絶縁層と磁性層の界面に存在する電荷が寄与すると考えられている。これを確認するため、電圧印加硬X線光電子分光法 (HAXPES; Hard X-ray Photoelectron Spectroscopy) による非破壊での深さ方向電位解析を試みた。
Keywords:硬X線光電子分光法、HAXPES、電圧印加、オペランド、深さ方向分析
SPring-8 Section C: Technical Report
(公財)高輝度光科学研究センター
JASRI
- Abstract
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硬X線ナノビームによる顕微 XAFS/XMCD 測定の効率向上のため、BL39XU に二段階集光光学系を構築し、高フラックスの集光ビームを得るための開発を行った。X線屈折レンズと KB ミラーによる二段階集光光学系の概要、レイトレーシングによる光学系の評価、屈折レンズ素子の特性および実験で得られた集光ビーム性能について報告する。二段階ナノ集光光学系により、ビームサイズ 109(垂直)×136(水平) nm2 (半値幅)、光子フラックス 6×1010 photons/s の集光X線ビームが得られた。集光サイズは KB ミラーのみによる既存の光学系と同等であり、フラックスは10倍の向上がみられた。ただし、垂直方向の集光ビーム形状は非対称であり、全幅で 600 nm 程度の裾野が重畳している。屈折レンズの収差評価等による原因解明と、集光ビーム形状の改善が今後の課題である。
Keywords: X線ナノビーム、集光素子、顕微XAFS、顕微XMCD
(公財)高輝度光科学研究センター
JASRI
- Abstract
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高温でのin-situ X線回折は、相転移、固溶反応、結晶化等の反応過程の知見を得るうえで非常に有用な手法である。そこでグラファイトヒーターを用いて、キャピラリー内に封入された試料を非接触で加熱する装置の開発を行い、試料を回転させながらビーム照射位置で 1000℃ を超える温度を達成した。
Keywords: 高温X線回折, グラファイトヒーター
(公財)高輝度光科学研究センター
JASRI
- Abstract
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低融点合金を利用し、高エネルギーX線用のピンホール光学素子を安価に作成する方法を考案し、また作成のための装置を試作した。この装置を用いて実際にピンホール光学素子を作成し、BL40XU ビームラインにて試用したが、市販のものと同様に問題なく使用できた。
Keywords: 低融点合金、ピンホール、高エネルギーX線
(公財)高輝度光科学研究センター
Japan Synchrotron Radiation Research Institute
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従来と比較して 100 nm × 100 nm あたり20倍の集光フォトン数が期待できる KB 配置型ミラー集光光学系を構築した。本光学系は垂直方向に関して光源の直接縮小投影を用いるため、不安定性の原因となりえる光路中の液体窒素冷却シリコン二結晶分光器について、熱的安定性に寄与する機器を改良した。高真空型集光ミラー姿勢調整装置を BL39XU 第2実験ハッチに導入し、集光性能を評価した。結果、2.5×1011 photon/s の集光ビーム:115 ~ 140 nm(垂直)× 93 nm(水平)(半値幅)を確認した。
Keywords: 液体窒素冷却シリコン二結晶分光器、集光ミラー、ナノ集光
a(公財)高輝度光科学研究センター, b京都大学
aJASRI, bKyoto University
- Abstract
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土砂の法科学での異同識別では一次鉱物成分組成の比較によって行うことが多い。このために用いられる実体顕微鏡や偏光顕微鏡での観察による方法では土壌の粒子一つ一つの成分同定を目視観察で行うことは経験と熟練を要し、各成分の組成比を算出するための計数作業は時間を要する。そこで鉱物粒子の塊についてX線 CT 測定を行い異同識別の可能性を検討した。その結果、線吸収係数の違いから CT 画像の解析で個々の粒子の定性を行うことで、異同識別のための鉱物組成を見積もることができた。
Keywords:土砂、X線 CT、異同識別