SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume3 No.1

SPring-8 Section C: Technical Report

BL14B2(産業利用Ⅱ)の現状(2014)
Present Status of BL14B2 (2014)

DOI:10.18957/rr.3.1.154
/ BL14B2

高垣 昌史、大渕 博宣、本間 徹生

Masafumi Takagaki, Hironori Ofuchi, Tetsuo Honma

(公財)高輝度光科学研究センター・産業利用推進室・産業利用支援グループ

Industrial User Support Group, Industrial Application Division, JASRI

Abstract

 BL14B2では透過法、蛍光法、電子収量法などの測定技術により粉末から薄膜など様々な試料形態および広いエネルギー領域(3.8 ~ 72 keV)により広範な元素(Ca-K ~ W-K吸収端)に対応し、簡便で高能率なXAFS測定を目指して研究支援および機器開発を行っている。その一環としてユーザーがSPring-8に来所しなくても実験を行うことが可能となる遠隔XAFS測定のための環境整備を行った。


キーワード:BL14B2、XAFS、遠隔XAFS測定

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Ⅰ.基本性能と実験装置

(詳細は、http://www.spring8.or.jp/wkg/BL14B2/instrument/lang/INS-0000001468/instrument_summary_viewを参照)

 本ビームラインは広範な産業利用ニーズに応え、効率的な利用によって産業界の利用拡大を主な目的とした汎用的な偏向電磁石ビームラインである。本ビームラインの実験ハッチは、光学ハッチから飛び地の格好で下流側に設置されている。実験ハッチは光源から56 m下流に位置し、ハッチのサイズは6.00 m(ビーム方向) × 3.75 m(幅) × 3.30 m(高さ)である。実験ハッチにはXAFS測定装置が設置されている。図1に、BL14B2ビームラインレイアウトを示す。

エネルギー領域 3.8 ~ 72 keV
フラックス ~1010 photons/s (5 mm(水平) × 1 mm(垂直))
エネルギー分解能 ΔE/E ~10-4
高調波除去率 ~10-4

 測定方法は、標準的な透過法と蛍光法および転換電子収量法が可能である。検出器は、入射X線強度モニター用に17 cmのイオンチャンバーを設置し、透過X線強度測定用のイオンチャンバーは31 cmのものが設置されている。また、蛍光XAFS測定には Lytle検出器、多素子半導体検出器、Siドリフト検出器(SDD)が用意されている。イオンチャンバー等に使用するガスは、ガス混合器によって任意の混合比でHe、N2、Ar、Krの混合ガスが使用可能である。ユーザーの要望において、有機合成用の触媒、自動車の排ガス触媒や燃料電池などの触媒分野では実用条件下でのその場観察の実験環境整備が多い。そこで、これらの反応性ガスを使用するその場測定に必要な設備として反応性ガスを安全に測定試料へ供給し、使用後のガスを無害化処理して大気放出を可能とするガス供給排気装置を導入している。使用可能なガス種は、H2、O2、CO、NO、H2Sなどである。また、産業界において電子材料、発光材料等に使用される薄膜試料に対するニーズが比較的多い。そこで、薄膜試料に対応するために斜入射蛍光XAFS測定が可能な試料ステージ(自動ω, Z, X, φステージ)が用意されている。薄膜試料表面に対するX線の入射角度をω軸で、入射X線に対する試料位置をZ軸(鉛直方向)およびX 軸(水平面内でX線に垂直方向)で調節する。更に、試料・基板等の回折X線による影響を除く目的でφ軸によって試料を試料面に垂直方向を軸として回転しながらの測定が可能である。多素子半導体検出器は、専用ステージによって試料と検出器間の距離と高さの調整が可能である。光軸は架台上530 mmの位置となるように設計され、各装置はそれに合わせて調整されている[1]


Ⅱ.高度化の実施内容

Ⅱ−Ⅰ.遠隔XAFS測定環境の整備

 BL14B2では、制御・情報部門との協力体制のもと、インターネット経由でXAFS測定を実施できる「遠隔XAFS」測定環境(以下、本システム)の開発を進めており、2015A第2期からのユーザー提供開始を目標としている。フェーズ1として透過配置QXAFSの提供を行い、フェーズ2以降、45°入射蛍光配置、斜入射蛍光配置と順次機能を拡張する予定である。

 BL14B2ではこれまで、自動光学調整機構「Auto-Optics」、自動連続測定機構「Auto-XAFS」[1,2]を提供してきた。本システムは、これら自動化機構をMADOCA2(Message And Database Oriented Control Architecture 2)(*1)経由でインターネットに接続することで実現される。

 ユーザーから郵送された実験試料は、ビームタイム開始時に、BLスタッフによって試料搬送ロボット(図2)上に設置される。ユーザーは各自のウェブブラウザ(*2)を介してBL14B2にログインする。Auto-Opticsをはじめとする調整/測定プログラム群はすべてウェブアプリケーションとなっているため(図3)、ユーザーは別途ソフトウェアをダウンロードする必要はない。全共同実験者には予めログイン用認証ファイルが配布され、同時接続が可能である。接続中の共同実験者のうち、同時に1人だけが操作権限を持ち、この間、他の接続者は進行状況をリアルタイムに共有できる。操作権限は随時、他の接続者に移譲が可能である。測定データは実験データリポジトリサーバに保存され、ウェブブラウザ経由で(ビームタイム中でなくとも)随時ダウンロードが可能である(図4)。データリポジトリの容量は80 TBで、今後の需要に応じて増量にも対応する。測定データは半永久的に保存される。2013年度は、透過配置QXAFS測定の遠隔化を行った。2014年度中にAuto-OpticsおよびAuto-XAFSの遠隔化を完了する予定である。

 本システムの開発に先立ち、MADOCA2上で実験ハッチ系機器の制御を簡便に実現するための「開発フレームワーク」そのものの開発を行った。このフレームワークを用いれば、遠隔制御だけでなく、ユーザー持ち込み機器とBL制御系との同期測定を容易に実現することができる。BL14B2では、今後このフレームワークを活用し、ユーザーの希望に即したオーダーメイド実験、より自由度の高いin-situ実験の実施体制を整えていく方針である。

(*1)SPring-8の加速器から光学ハッチ機器までを制御するフレームワーク。2013年秋より大幅改定が行われ、外部ネット接続に対応した。

(*2)HTML5対応ブラウザが必要。


Ⅱ−Ⅱ.低温XAFS測定自動化システムの開発

 低温XAFS測定時における測定温度の制御が可能であり、複数試料(最大15個)の測定を自動化するプログラムを開発した。図5にプログラムのフロントパネルを示す。このプログラムでは測定温度、試料名、ファイル名、測定範囲等のパラメーターを事前に設定し、自動で透過配置QXAFS測定を行うことができる。これにより、試料交換や測定温度の切り替えが自動化され、実験効率および利便性が向上した。例えば、1試料当たりの測定時間に1分かかる試料15個に対し、測定温度を10 Kから300 Kまでの間の異なる10点と設定した場合、自動化プログラムを用いない場合では最低でも9時間程度かかる測定が、本プログラムを用いることにより7時間程度で自動的に行うことができるようになった。測定の一例として図6にこの自動化システムを使用し、測定温度を10 Kから300 Kまで変化させて測定したCu箔およびCo箔の動径構造関数を示す。いずれの試料に対しても測定温度を下げるにつれてDebye-Waller因子の減衰によるピークの増大が観測された。ratio法により得られた原子間距離、Debye-Waller因子、キュムラント係数の温度依存性は過去に報告されている文献値とよい一致を示した。これにより、ユーザーに提供するデータ取得環境の信頼性を担保出来た。


参考文献

[1] T. Honma, H. Oji, S. Hirayama, Y. Taniguchi, H. Ofuchi and M. Takagaki: AIP. Conf. Proc., 1234 (2010) 13-16.

[2] H. Oji, Y. Taniguchi, S. Hirayama, H. Ofuchi, M. Takagaki and T. Honma: J. Synch. Rad., 19 (2012) 54-59.


Figure caption

図1 BL14B2ビームラインレイアウト

図2 Auto-XAFSの一部である試料搬送ロボット(Sample Catcher)

図3 QXAFSウェブクライアント

図4 実験データリポジトリのダウンロード画面

図5 低温XAFS測定自動化プログラムのフロントパネル

図6 (a)Cu箔および(b)Co箔を10 Kから300 Kまで変化させて測定した動径構造関数


図1 BL14B2ビームラインレイアウト


図2 Auto-XAFSの一部である試料搬送ロボット(Sample Catcher)


図3 QXAFSウェブクライアント


図4 実験データリポジトリのダウンロード画面


図5 低温XAFS測定自動化プログラムのフロントパネル


図6 (a)Cu箔および(b)Co箔を10 Kから300 Kまで変化させて測定した動径構造関数



ⒸJASRI


(Received: December 9, 2014; Accepted: January 16, 2015; Published: February 10, 2015)