SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume3 No.2

SPring-8 Section B: Industrial Application Report

タイヤで使用されるゴム-ブラス接着層中の金属の化学結合解析
Analysis of Chemical Bonding of Metal in Adhesion Layer of Rubber and Brass in Tires

DOI:10.18957/rr.3.2.555
2013B1576 / BL14B2

鹿久保 隆志, 清水 克典, 網野 直也

Takashi Kakubo, Katsunori Shimizu, Naoya Amino

 

横浜ゴム株式会社

THE YOKOHAMA RUBBER CO.,LTD.

 

Abstract

 タイヤ中のブラスとゴムの接着性向上のために添加しているCo塩化合物の役割を解明するためにX線吸収微細構造(XAFS)測定により分析を行った。ゴム中の加硫前後のCo塩化合物のCoの化学状態を測定することができた。加硫前後でCo-OからCo-Sに変化することを確認した。加硫時のCoの化学的挙動はCo塩の種類が変わっても、同様であることが分かった。


キーワード: タイヤ、ゴム、接着、ブラス、コバルト、硫黄、XAFS


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背景と研究目的:

 タイヤ中のスチールコードとゴムを接着させることで強固な複合体となりタイヤの耐久性が維持される。タイヤ中にあるスチールコード表面にはブラス(Cu-Zn合金)めっきが施してあり、ブラスとゴムが硫黄を介して反応することで接着する。ブラス表面のゴム接着反応は長い間多くの人々により研究されてきた。ブラスとゴムの接着性向上にはCo塩の添加が有効であるとされているが、Coの接着作用は明らかになっていない。Coの化学状態を解明することができれば、より接着性を高めるための新たな配合手法の検討が可能となる。Coの化学状態を適切に制御して、接着性の向上およびタイヤの耐久性向上を導く手法を導き出すことが本実験での取り組みの主目的である。

 以前の課題(課題番号2011B1794)において、BL14B2を用いて加硫中におけるCoの経時変化を測定した[1]。結果より観察されたCo-K吸収端のピークは加硫初期において大きく変化した。大幅なピーク変化は加硫時間3 minまでにほぼ収束したことから、加硫によるCo塩の化学変化は加硫時間3 minの間に活発に行われていることが分かった。今回はCo塩の種類、加硫時間、老化条件を変えたときのCoの化学状態変化を解析することを目的とした。

 

実験:

 SPring-8のXAFS測定は、高輝度でX線のエネルギー選択性が高いため、微量Coの化学状態の解明が可能である。接着用ゴムには天然ゴムおよびカーボンブラック、酸化亜鉛、硫黄、さらにCo化合物としてステアリン酸Coまたはホウ酸ネオデカン酸Co を接着用ゴムに配合した。ブラス板(Cu/Zn=65/35)は10 mm×10 mm×厚さ1 mmの板を用いて未加硫ゴムを載せて、トータルで1.5 mm厚になるようにして170°Cで加硫を行った。加硫時間は0 min(加硫前)、10 minとし、老化は70°C乾熱条件で2週間行った。これらの試料ゴム側に存在するCo-K吸収端についてXAFS測定を蛍光法にて行った。試料の性質上、ゴム中と接着界面のどちらに存在するか区別がつかない。モノクロ結晶面方位はSi(111)、検出器は19素子Ge半導体検出器を用いた。

 当初、CuのXAFS測定も検討していたが、オートサンプルチェンジャー可動の不具合があり測定時間が減ったこと、光学調整の時間がかかるために試料数を減らした上で、Coのみの測定とした。

 

結果及び考察:

 ブラス板上にステアリン酸Co配合ゴム(StCo)またはホウ酸ネオデカン酸Co配合ゴム(BoCo)を載せて加硫、老化処理した試料のCoのXANESスペクトルをFig.1に示す。ステアリン酸Co配合ゴム、ホウ酸ネオデカン酸Co配合ゴムのどちらも加硫前に7723 eV付近にシャープなピークが現れ、全体のピーク形状は一致した。また、10 min加硫および熱老化後の試料では7735 eV付近にブロードなピークと7718 eV付近にショルダーピークを持つ、いずれもほぼ同形状のスペクトルが得られた。ゴム中のCo化合物は加硫前は同じ化学状態であり、また加硫後に形態が変化してそれぞれ同様な構造を保持することが分かった。さらに、加硫後と70 °Cでの熱老化後のピーク形状が変わらなかったことから、加硫後のCoの化学状態は安定であると言える。

Fig.1 ゴム中のCoのXANESスペクトル

 

 以上の結果から加硫処理前後および熱老化後のブラス上のゴムに配合されたCo化合物の化学情報を把握することができた。加硫時にCoが反応するとCoの化学的環境が安定になり、熱老化後でもCoの結合状態に変化が見られないことが分かった。Co化合物の種類が変わっても傾向は同様であった。接着配合向けゴムには各種脂肪酸Co塩が用いられるが、Coの反応性や接着への寄与を考える上で有用な知見が得られた。Coは加硫時の加熱により活性化し結合状態が変化する。加硫後は安定状態となり熱老化による化学結合の変化は見られなかった。今後、各種脂肪酸Co塩の配合を変更する際に配合手法の選択に対して実施可能な指針が得られた。

 

参考文献:

[1] 清水他 SPring-8/SACLA利用研究成果集, 1(2), 40-42 (2013) 2011B1794.

 

ⒸJASRI

 

(Received: April 7, 2014; Early edition: April 28, 2015; Accepted: June 29, 2015; Published: July 21, 2015)