SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume3 No.2

SPring-8 Section B: Industrial Application Report

マイクロ接合部の疲労損傷評価のための非破壊ひずみ測定の可能性試験
Feasibility Study of Nondestructive Strain Measurement for Evaluation of Thermal Fatigue Damage in Micro Joints

DOI:10.18957/rr.3.2.497
2012B1490 / BL20XU

 

岡本 佳之a, 高柳 毅a, 釣谷 浩之b, 佐山 利彦b, 上杉 健太朗c, 星野 真人c, 長瀬 達則d, 森 孝男d

Yoshiyuki Okamotoa, Takeshi Takayanagia, Hiroyuki Tsuritanib, Toshihiko Sayamab, Kentaro Uesugic, Masato Hoshinoc, Tatsunori Nagased, Takao Morid

 

aコーセル(株), b富山県工業技術センター, c(公財)高輝度光科学研究センター, d富山県立大学

aCosel Co., Ltd., bToyama Industrial Technology Center, cJASRI, dToyama Prefectural University

 

Abstract

 SPring-8における放射光光源を利用したX線マイクロCT装置(SP-μCT)を用い、フリップチップのSn-Ag-Cu鉛フリーはんだ接合部を対象として、デジタル画像相関法による、ひずみ分布の非破壊計測の可能性について検証を行った。ひずみ計測の前段階として、変位ベクトルの粗探索を行った結果、Ag3Sn相のような特徴点の周囲では、比較的高い精度で、ひずみ計測を行うことができる見通しが得られた。今後、追加の実験を行うことでマイクロ接合部における新たな信頼性手法の開発が期待できる。


キーワード: フリップチップ、鉛フリーはんだ、ひずみ計測、非破壊評価、熱疲労損傷


pdfDownload PDF (740 KB)

 

背景と研究目的:

 電子基板の高密度実装化に伴い、そのマイクロはんだ接合部における熱疲労損傷が、信頼性に大きな影響を与える要因となっている。このため、マイクロ接合部の微細な欠陥や損傷を非破壊で検出する技術の開発が強く望まれている。しかし、非破壊検査の手法としては、超音波検査や、X線管球を用いた透過検査などが試みられているものの、十分な空間分解能が得られていないのが現状である。一方、SPring-8においては、上杉らを中心として、放射光光源を用いた非常に高い空間分解能を有するX線マイクロCT装置(以下、SP-μCT)が開発されており[1]、著者らはこれまで、Sn-Pb共晶はんだを用いた簡単なフリップチップ接合部について、熱サイクル負荷による微細な金属組織の成長過程や、熱疲労き裂の進展過程の観察にSP-μCTを適用してきた[2]。しかし、鉛フリーはんだについては、疲労き裂が発生する以前の段階において、熱疲労寿命を評価することは実現していない。一方、これまでの研究の過程で、SP-μCTを用いてSn-Ag-Cu鉛フリーはんだ中の微小なAg3Sn相を明瞭に確認できることを見出している。このような特徴点が確認できることから、SEM (Scanning Electron Microscope) 画像、光学顕微鏡画像、あるいは産業用X線CTなどで実績のあるデジタル画像相関法[3]を用いてSP-μCTにより撮影したCT画像からひずみを計測できる可能性がある。ひずみを計測することが可能となれば、それを基にしたはんだ接合部の信頼性評価を行うことが可能である。そこで、本研究では、SP-μCTにより撮影したフリップチップはんだ接合部のCT画像に対して、デジタル画像相関法によるひずみ計測の可能性について検討を行った。

 

実験:

 SP-μCTを用いた実験を、SPring-8の共用ビームラインBL20XUにおいて実施した。SP-μCTでは、アンジュレータから発生した放射光を、Siの二結晶分光器により単色化して用いる。このように単色化されたX線を試料に照射し、CT撮影を行う。単色化されたX線を用いることにより、そのX線エネルギにおける線吸収係数 (LAC, Linear Attenuation Coefficient) の3次元分布を定量的に評価することが可能である。また、このX線は、極めて平行度が高く、高い指向性を持つため高分解能の3次元画像を再構成することが可能である。

 観察に用いた試験体は、SiチップがFR-4基板に直径約120 μmのSn-3.0 wt%Ag-0.5 wt%Cu 鉛フリーはんだによってフリップチップ実装されたものである。この試験体を縦1 mm×横1 mm×長さ10 mmに加工して使用した。はんだバンプのひずみの状態を変化させるために、この試験体に高温保持温度125°C、低温保持温度-40°C、保持時間30 min、およびランプ時間2 minの熱サイクル負荷を加えた。SP-μCTを用い、はんだ接合部内における初期状態を観察した。さらに熱サイクル負荷を1サイクル加えた状態で観察を行った。試験体を回転ステージに固定し、これを180°回転させて1800枚の透過画像を撮影した。透過画像1枚あたりのX線の露光時間は、0.15 secとした。また、透過画像の撮影領域は960 μm × 720 μm、および画素寸法は0.5 μmとした。透過画像からCT画像への再構成には、畳み込み逆投影法 (Convolution back-projection method) を用いた。なお、はんだの微細組織におけるβ-Sn相とAg3Sn相とのコントラストを明瞭にするために、X線エネルギは、SnのK吸収端よりもやや低い29.0 keVを選択した。また、SP-μCTにより、はんだ接合部を撮影する際には、X線の散乱や屈折、回折の影響により、試験体と検出器(浜松ホトニクス社製ビームモニタ:AA50、CCDカメラ: C4880-41S)の距離に応じて再構成画像の画質が変化する。まず、最適な画質が得られる距離を判断するために、20 mmから45 mmまでの範囲で検出器の距離を変化させて撮影を行った。

 

結果および考察:

 まず、CT画像の撮影条件について検討する。図1は、試験体と検出器との距離を変化させた際の各距離における再構成画像を示す。図は、いずれも熱サイクル負荷前の初期状態であり、同一のはんだバンプにおけるほぼ同一の断面である。図において、はんだバンプは灰色の部分として表されており、これを本研究におけるデジタル画像相関法の対象とする。その他に、Siチップ、Cuパッド、アンダーフィル、およびFR-4基板も明瞭に観察できる。また、バンプ内部の微細組織において、灰色素地中に分布する微小な明るい点群がAg3Sn相であり、素地の部分がβ-Sn相である。距離が大きくなるに従って、ノイズが減少しAg3Sn相が鮮明になっている。一方で、距離が大きくなると、偽像を生じたり、X線の屈折や回折の影響により輪郭などの正確さが、徐々に損なわれたりしている。そこで、はんだバンプ内部において、Ag3Sn相のノイズレベルが低く、かつ鮮明さがあまり損なわれていない40 mmの距離において以後の実験を行うこととした。

 さて、デジタル画像相関法では、変形前の画像における各画素が、物体の変形後にどの位置に移動したのかという変位ベクトルを決定するために、変形前の画像において対象とする画素を中心とするM × Mのサブセットと呼ばれる領域を設定し、これと最も類似している領域を変形後の画像において探索する。すなわち、変位ベクトルの探索では、次式で表わされる残差Sを計算し、Sが最小となる平行移動量(u0,v0)を各画素について求めた。

図1 試験体と検出器との距離による再構成画像の画質の違い

ここに、Iuは変形前の画素値、Idは変形後の画素値、Mは探索に用いるサブセットのサイズ(画素数)、u, vはそれぞれ、x, y軸方向の平行移動量である。

 具体的には、変位ベクトル探索の第一段階として、変形前と変形後の2つの画像から、画素単位での大まかな変位ベクトルの分布を計算する(粗探索)。SP-μCTにより撮影したCT画像が、デジタル画像相関法が適用可能な画質を有しているかを評価するために、変形前の画像として無負荷初期状態での画像を用い、変形後の画像として以下の2種類の画像を用いて評価を行った。すなわち、(1) 全く同一の条件下で同じ無負荷の試験体をもう1度撮影した画像、(2) 同一の試験体に熱サイクル試験を1サイクル加えた後に撮影した画像である。上記2種類の各画像について、変位ベクトルの粗探索を行った。

 まず、(1)の全く同一の条件下で同一の無負荷の試験体を2度撮影した画像を用いた場合について述べる。図2は、1回目に撮影した画像を変形前画像とし、2回目に撮影した画像を変形後画像として、変位ベクトルの粗探索を行った結果をまとめる。(a)は変形前の画像として用いた1回目の撮影による再構成画像、(b)は変形後の画像として用いた2回目の撮影による再構成画像、(c)から(e)は、サブセットサイズMを各々5、10、および15ピクセルとした場合の変位ベクトル(u0,v0)の絶対値の分布を画素単位で示している。同一の試験体を同一の条件下で撮影した画像を変形後の画像として用いているので、正しく計算が行われていれば、各画素での変位ベクトルの絶対値はすべて0となるはずである。(c)のサブセットサイズM = 5の場合は、バンプの輪郭が青く表示されていることから、Ag3Sn相やバンプ表面の境界などの特徴点の周辺では、正しく計算が行われているが、それ以外の領域では変位ベクトルが0となっておらず、正しく計算が行われていないことが分かる。さらに、(d)のM = 10および(d)のM = 15の場合は、サブセットサイズが大きくなるに従って全体が青色になり、変位ベクトルが正しく計算される領域が広がっていくことが分かる。しかし、得られる変位ベクトルは、サブセットサイズの領域全体の平均的な変位となるので、サブセットサイズが大きくなるに従って局所的な変位の情報は得られなくなるため、高い精度での変位の計測が期待できなくなる。具体的には、サブセットサイズM = 10以上であれば、変位ベクトルを決定できる可能性があるといえるが、これは、5 μm × 5 μmの領域における平均の変位ベクトルであり、期待できる変位の空間分解能が5 μm程度であることを意味する。

図2 同一条件下で2回撮影した再構成画像と変位ベクトルの絶対値の分布

 

 次に、(2)の場合について述べる。すなわち、図3は、同一の試験体に対して、無負荷の初期状態において撮影した再構成画像を変形前の画像とし、熱サイクルを1サイクル負荷した後に撮影した再構成画像を変形後の画像として、変位ベクトルの粗探索を行った結果をまとめる。(a)は変形前の画像として用いた1回目の撮影による再構成画像、(b)は変形後の画像として用いた1サイクル負荷後の再構成画像、(c)から(e)は、サブセットサイズMを各々5、10、および15ピクセルとした場合の変位ベクトル(u0,v0)の絶対値の分布を画素単位で示している。この場合は、熱変形によりバンプの形状が実際に変わっているので、変位ベクトルの絶対値は、画像全域で0になることはなく、最大で2から3ピクセル程度の値をとるものと推測される。また、バンプ内にき裂等が存在せず変位の連続性が保証される限りでは、変位ベクトルは滑らかに分布するはずである。サブセットサイズM = 10以上の場合を見ると、バンプ内のほとんどの領域において、変位ベクトル絶対値は3ピクセル以内の値をとっており、かつ滑らかに変化しているので、概ね計算が正しく行われているといえる。しかし、Ag3Sn相が希薄である画像に特徴のない領域では、変形領域の探索が収束せず、変位ベクトルが大きく得られており、正しく計算が行われていないことが分かる。したがって、バンプ内部における変位ベクトルの分布を完全に決定するためには、変位ベクトルが正しく計算される領域のデータを用いて、バンプ内部全体の変位ベクトル分布をなめらかに補完する技術の開発が必要であることが、課題として明らかになった。

図3 初期状態および1サイクル負荷後の再構成画像と変位ベクトルの絶対値の分布

 

まとめ:

 X線マイクロCT装置(SP-μCT)により撮影したフリップチップはんだ接合部のCT画像に対して、デジタル画像相関法によるひずみ計測の可能性について検討を行い、次の結果が得られた。

(1) Ag3Sn相のような特徴点のある部分では、デジタル画像相関法による変位計測を、空間分解能が5 μm程度で行える見通しが得られた。

(2) はんだバンプ全体の変位ベクトル分布をなめらかに補完する技術の開発が必要である。

 今後は、実際にひずみの計算を行って最終的な評価を行う。また、さらに追加の実験を行い、計測したひずみに基にした熱疲労損傷を評価する手法の開発を進めたい。

 

参考文献:

[1] Uesugi, K. et al., Nucl. Instr. Method., Sec. A, 467-468, 853-856, (2001).

[2] 釣谷浩之ほか, 機械学会論文集(A), 75(755), 799-806, (2009).

[3] 宍戸信之ほか, 材料, 57(1), 83-89, (2008).

 

ⒸJASRI

 

(Received: February 13, 2015; Early edition: April 28, 2015; Accepted: June 29, 2015; Published: July 21, 2015)