SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume3 No.2

SPring-8 Section B: Industrial Application Report

マイクロビームX線小角散乱を用いた異なる形状の日本人毛髪の内部構造解析
Small Angle X-ray Diffraction Internal Structure Analysis of Japanese Hairs with Different Shapes

DOI:10.18957/rr.3.2.493
2012B1365 / BL40XU

柴野 輝美a, 山口 達也a, 久下 宗一a, 青池 広樹a, 百済 朝子a, 八田 一郎b

Terumi Shibanoa, Tatsuya Yamaguchia, Munekazu Kugea, Hiroki Aoikea, Asako Kudaraa, Ichiro Hattab


aタカラベルモント株式会社, b(公財)名古屋産業科学研究所

aTakara Belmont Corporation, bNagoya Industrial Science Research Institute


Abstract

 本研究はクセのある毛髪をクセのない理想の髪へ近づけるために必要な要件を導出することを目的とし、小角X線散乱を用いてクセのない毛髪とクセのある毛髪の内部構造における特徴の抽出を行った。クセのない毛髪とクセのある毛髪の両方で、毛髪の中心部はIF-IF(中間径フィラメント)間の距離が短く、毛髪の外周部は長いという傾向が得られた。この結果に基づいて日本人のクセ毛の程度に応じた縮毛矯正方法の導出につなげたい。


キーワード: 毛髪、クセ毛、中間径フィラメント


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背景と研究目的:

 美しくツヤのある髪は女性にとって理想の髪である。一方、年を重ねる毎に人の髪はうねりが生じツヤも失われていく。いつまでも若く美しくありたいと願う女性の心理として、クセやうねりのない理想の髪を手に入れたいという欲求は強い。

 本研究はクセのない毛髪とクセのある毛髪の内部構造における特徴を抽出し、クセのある毛髪を理想の髪へ近づけるために必要な要件を導出することを目的とする。

 これまでに日本人のクセのない毛髪・クセのある毛髪・縮毛矯正処理を行った毛髪の毛髪断面を用いた内部構造比較の報告はなされている[1]。一方、クセのない毛髪・クセ毛本来のカール形状を保持した状態・一時的に形状を真っ直ぐにした状態における毛髪内部構造を比較した例はない。毛髪内の分子構造変化をもたらすパーマ処理プロセスを考える場合、まず一時的形状変化を与えたクセ毛内部の構造におけるIF-IF間距離や構造規則性の変化を把握することが必要であるとの考えに至り研究目的の変更を行った。クセのない毛髪と縮毛矯正を伴わない形状変更の内部構造への影響を把握することで縮毛矯正が果たすべき役割を導出することを目指す。


実験:

試料の準備

 酸化還元を伴う化学処理を施していない日本人の毛髪を測定対象の試料とする。

日本人の毛髪の中で、クセのない毛髪とクセのある毛髪を採取し、1本の毛髪を根元側と毛先側に分け、根元側と毛先側の毛髪の対応が分かるように計測用試料台へ貼り付けてサンプルとした。クセのある毛髪の根元側はクセ毛本来の形状を保持した状態で計測用試料台に貼り付け、毛先側は形状が真っ直ぐになる程度の外力を加えた状態で計測用試料台へ貼り付けた。


実験条件

 BL40XUにおいて光源15 keVのX線の光路上に5 μmのピンホールを配置することにより得られるマイクロビームを用いて実験を行った。露光時間は1回目の実験(図2)では0.2秒、2回目の実験(図1)では0.8秒とし、カメラ長は1500 mm、検出器はイメージングインテンシファイア(V5445P/MOD 浜松ホトニクス社製)とCCDカメラ(C4742-98-24A 浜松ホトニクス社製)を用いた。また、標準試料としてベヘン酸銀を用いてカメラ長の校正を行った。


測定方法

 試料毛髪の繊維軸と垂直な方向からマイクロビームX線を照射し、毛髪繊維軸を横切るように5 μm間隔でスキャンした。


解析方法

 マイクロビーム照射によって得られた散乱プロファイルの1枚1枚(図1)から次のような方法により強度プロファイルを求めた。特定の散乱角における円周に沿って積分して求めたプロファイルのピークに対して形状をガウス関数で近似化した。更に、毛髪繊維軸に垂直な方向に沿って平均積算したプロファイル(図2)の解析結果から得られたピーク位置と半値半幅を用いて評価を行った。尚、図2の横軸はQ値、縦軸は強度である。

 Q = (4π/λ)sin(2θ/2) = 0.72 nm-1付近の散乱角はコルテックス領域においてIF-IF間の距離に由来する散乱ピークと考えられている[2]。ここで、λ(= 0.08 nm)はX線の波長、2θは散乱角である。また、グラフ作成の際に、Pは毛髪繊維の直径で規格化しており、クセ毛の場合にはP=0がカール内側表面、P=1がカール外側表面を表している。クセのない毛髪についてはP=0及びP=1が毛髪の外周部であり、P=0.5が毛髪の中央部を示す。なお、解析に当たって、P=0~0.15及びP=0.85~1.00はキューティクルの影響が反映される為、コルテックス部の評価を目的とするにあたって除外した。



図1.散乱プロファイル  図2.一次元プロファイル


結果および考察:

 まず、クセのない毛髪の解析結果を図3に示す。左側の縦軸にQ値を、右側の縦軸に半値半幅 (HWHM)を採り、横軸は毛髪内部の位置を示すPを用いて表す。



図3.クセのない毛髪のコルテックス部におけるQ値及び半値半幅の分布



図4.クセのある毛髪のコルテックス部におけるQ値及び半値半幅の分布(根元側と毛先側比較)


 毛髪中心部のQ値が高く、外周部へ向かうに連れてQ値が低くなっていく様子が伺える。Q値はIF-IF間距離の逆数に比例する値であることから、毛髪の中心部は外周部と比較してIF-IF間距離が近い、つまりIF-IF間距離が密になっていると考えられる。同じ図3の中に示す半値半幅(HWHM)においても毛髪中心部ほど値が低く、この現象を示唆する傾向が見られている。

 次に、図3と同様の方法でクセのある毛髪のコルテックス部におけるQ値及び半値半幅の分布を図4に示す。図4においても図3で示したクセのない毛髪と同様に毛髪の中心部はIF-IF間距離が密になっている傾向が見られる。

 また、Q値及び半値半幅の分布は根元側と毛先側で非常に良く一致している。実験の試料準備の部分にも記載したが、根元側はクセ毛本来の形状を保持した状態で計測し、毛先側は一時的に形状を真っ直ぐにした状態で計測しているが、この変形は毛髪内部のQ値及び半値半幅を変化させるものではないことが、この結果から分かる。


今後の課題:

 今回の実験で用いた日本人の試料毛髪においては、クセのある毛髪とクセのない毛髪の内部構造に共通する特徴が見出された。この結果から日本人のクセ毛の程度であればクセを伸ばす為に毛髪内部のIF構造を大きく変化させる処理は必要ではない可能性が考えられる。

 一方、クセのない日本人毛髪と強いクセのアフリカン毛髪では内部構造の特徴が大きく異なるという報告もある[3]。今後、クセ毛内部構造の特徴に関する詳細な検討を行い、毛髪の内部構造的違いの程度に応じた縮毛矯正方法を導出していきたいと考えている。


参考文献:

[1] M. Kakizawa, et al., 日本香粧品学会誌 34 (2), 102 (2010).

[2] 太田昇 他、放射光 19 (6), 364 (2006).

[3] 梶浦嘉夫 他、放射光 19 (6), 371 (2006).



ⒸJASRI


(Received: May 28, 2013; Early edition: April 28, 2015; Accepted: June 29, 2015; Published: July 21, 2015)