SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume3 No.2

SPring-8 Section B: Industrial Application Report

金属触媒複合化したペロブスカイト酸素イオン伝導材料のin-situ XAFS解析
In-situ XAFS Analysis of Perovskite Oxygen Ion Conductor Combined with Metal Catalyst

DOI:10.18957/rr.3.2.423
2011B1834 / BL14B2

高橋 洋祐a, 西堀 麻衣子b

Yosuke Takahashia, Maiko Nishiborib

a(株)ノリタケカンパニーリミテド, b九州大学

aNORITAKE CO., LIMITED, bKyusyu university


Abstract

 固体酸化物形燃料電池(SOFC)に用いるAg触媒を複合化した酸素イオン伝導材料LaSrTiFeO3系材料について、作動条件(高温かつ酸化還元雰囲気下)での材料挙動を、in-situ XAFS法で解析した。高温還元雰囲気下では、Feに近接する酸素が欠損する挙動が現れるが、Ag触媒を複合化しない材料と同等の傾向であり、一方、複合化したAg触媒には大きな価数変化がないことから、Ag触媒を複合化していない材料と比較して、耐久性は同等であり低下しないことが明らかとなった。


キーワード: 酸素イオン伝導材料、SOFC、ペロブスカイト酸化物、XAFS


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背景と研究目的:

 省エネルギー化、二酸化炭素排出抑制を背景に、高効率な固体酸化物形燃料電池(SOFC)の実用化要望が増してきている。また、従来の大規模発電所では実現できない中規模分散型電源が、災害リスク対策の観点からも望まれている。SOFCは、実用化が進んでおり、2015年ごろには普及される予定である。我々は、SOFCの心臓部となる酸素イオン伝導材料および酸素イオン伝導モジュールの実用化研究を進めてきている。環境・エネルギー分野において、これらの重要性が増してきており、国際的なニーズも増してきている。このような状況の中、Fe系ペロブスカイト酸化物にAg触媒を混合するような複合化をすると、伝導特性が向上することが分かってきた。

 本研究では、SOFCに用いるAg触媒複合化酸素イオン伝導材料LaSrTiFeO3系材料について、高温かつ酸化還元雰囲気下における作動条件において、その材料をin-situ XAFS法により測定し、材料を構成する原子の局所構造を解析して、還元雰囲気下で高イオン伝導性能かつ高耐久性の酸素イオン伝導体材料の新たな開発指針を得ることを目的とする。


実験:

 Ag触媒1%を混合し複合化したLa0.6Sr0.4Ti0.3Fe0.7O3-δ粉末をプレス成形(φ10 mm×0.1 mm)して、XAFS測定試料とした。なお、AgPdおよびCoを複合化したサンプルについては、ビームタイムが不足したことにより測定に至らなかった。別途、測定検討を行いたい。測定試料は、まず空気雰囲気下に室温から600、700、800°Cと昇温しながら、分光結晶にはSi(111)を用いて、透過法によりFe-K吸収端in-situ XAFS測定を行い、XANESスペクトルを得た。その後、その試料を300°Cまで一度冷却して、水素100%濃度ガスで5分置換し、還元雰囲気が安定した後、再度、600、700、800°Cと昇温しながら、XAFS測定を行った。空気雰囲気下と同様に水素還元雰囲気下におけるXANESスペクトルを得た。EXAFS(広域X線吸収微細構造)は予定していたが、解析に十分なスペクトルが得られなかった。


結果および考察:

 図1にAg触媒を1%複合化したLa0.6Sr0.4Ti0.3Fe0.7O3-δの酸化および還元雰囲気下における、Fe-K吸収端XANESスペクトルを示す。高温還元雰囲気下になるとスペクトルが変化し、Feの価数が小さくなることが確認された。この現象は、Ag触媒を複合化しないLa0.6Sr0.4Ti0.3Fe0.7O3-δのみの場合[1]と同じ傾向を示した。

 一方、図2にAg触媒を1%複合化したLa0.6Sr0.4Ti0.3Fe0.7O3-δのAg-K吸収端XANESスペクトルの代表例を示す。高温還元雰囲気下において、スペクトルの大きな変化は観察されなかった。

 Ag触媒を複合化したLa0.6Sr0.4Ti0.3Fe0.7O3-δ材料については、XAFS測定では複合化の有無による違いは観察されなかった。今後、Ag触媒の複合化量や複合化プロセスの影響を詳細に調べていく予定である。



図1. Ag触媒1%複合化したLa0.6Sr0.4Ti0.3Fe0.7O3-δのXANESスペクトル(Fe-K吸収端)



図2. Ag触媒1%複合化したLa0.6Sr0.4Ti0.3Fe0.7O3-δのXANESスペクトル(Ag-K吸収端)


今後の課題:

 本試験では、Ag触媒の複合化量やプロセスを限定した条件のサンプルについての測定であった。次回以降の実験において、Ag触媒の複合化量や複合化プロセスの異なるサンプルについて、さらにXAFS測定を行い、伝導メカニズムへの複合化した触媒の寄与を明確にできるかが課題と考えられる。


参考文献:

[1] 高橋,西堀,平成22年度SPring-8重点産業利用課題成果報告書(2010A) 2010A1855.



ⒸJASRI


(Received: April 6, 2012; Early edition: April 28, 2015; Accepted: June 29, 2015; Published: July 21, 2015)