SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume3 No.1

Section C : Technical Report

BL40XU(高フラックス)の現状(2014)
Present Status of BL40XU (2014)

DOI:10.18957/rr.3.1.238
2012A1841, 2012B1979 / BL40XU

岩本 裕之a、青山 光輝a、安田 伸広b八木 直人c

Hiroyuki Iwamotoa, Koki Aoyamab, Nobuhiro Yasudab, Naoto Yagic

a(公財)高輝度光科学研究センター・利用研究促進部門・バイオソフトマテアリアルグループ、b同・利用研究促進部門・ナノテクノロジー利用研究推進グループ、c同・利用研究促進部門

aBio- and Soft-materials Group, Research & Utilization Division, JASRI, bNanotechnology Research Promotion Group, Research & Utilization Division, JASRI, cResearch & Utilization Division, JASRI

Abstract

 高フラックスビームライン(BL40XU)はヘリカルアンジュレータを光源とし、分光器を用いずアンジュレータの基本波を準単色光として利用することで、標準的なアンジュレータビームラインに比較して輝度が1000倍程度高いX線の利用を可能にしたビームラインである。高時間分解能の時分割X線回折実験や、マイクロビームを利用した実験等が行われている。


キーワード:高輝度X線、高速時分割実験、マイクロビーム、ピンポイント構造計測


I.基本性能と実験装置

(詳細は、http://www.spring8.or.jp/wkg/BL40XU/instrument/lang/INS-0000000537/instrument_summary_viewを参照)

 光源はヘリカルアンジュレータであり、磁場周期長は36 mmである。アンジュレータ放射の基本波で8 keVから17 keVまでのエネルギー領域をカバーしている。フロントエンドスリットの開口とミラーのコーティングにより基本波のみを抽出し利用する。


エネルギー領域 8 ~ 17 keV
エネルギー分解能 ΔE/E ~ 0.02(@E = 15 keV)
フラックス 1015 ph/s(12 keV、蓄積電流100 mA)
ビームサイズ(半値全幅) 250 μm (水平) × 40 μm (垂直)
(ミラーで集光した場合)

 BL40XUの実験ステーションは2つの実験ハッチからなる。実験ハッチ1はおおよそ4 m × 6 mの大きさで、小角散乱実験用に長さ約3 mの真空パスが設置可能である。実験ハッチ1の最上流にはソレノイド駆動のアルミニウム製アッテネータ(厚さの異なる2 種類)と回転チョッパー式高速シャッターが設置されており、必要なときだけ高フラックスのX線を試料に照射することで効率よいデータ収集を実現できる。実験ハッチ1にはこのほかに高出力のYAGパルスレーザーが設置されている。検出器としては低残光型X 線イメージインテンシファイアに各種の冷却CCDカメラ、高速CCDカメラを組み合わせて使用できるほか、フラットパネル型検出器も利用可能である。

 実験ハッチ2は5 m × 4 m × 3.3 mの大きさで実験ハッチ1の下流側にある。通常X線の減衰をなくすため上流の実験ハッチに4 mの真空パスまたはヘリウムパスを設置して使用する。ハッチ内にはX線パルスセレクター(XPS)、Si(111)チャンネルカットモノクロメータ、精密回折計、窒素吹付け型低温装置およびフェムト秒レーザー(波長800 nm)を設置している。XPSにより100-1000 Hzの範囲で任意のX線パルスを使用でき、その周波数でレーザーを同期させ光照射することができる。このシステムによりポンプ&プローブ法による時分割X線測定が可能である。


Ⅱ.利用状況

 2013A期2013B期合わせて32課題が実施された。採択率は、2013A期、2013B期それぞれ80%、81.3%であった。図1(a)に、全課題に対する各研究分野の課題数の割合を示す。実験ハッチ1では、X線マイクロビーム(マイクロビーム)を使用する実験が14課題、生体分子等に結合させたナノ結晶プローブの動きを追跡する1分子計測(1分子)が5課題、マイクロビームを用いない小角散乱実験(小角)が3課題、その他(他)1課題である。実験ハッチ2(ハッチ2)を用いたものは9課題で、Hモードのシングルバンチを利用した高速時分割イメージングが2課題の他は微結晶構造計測課題である 。図1(b)に、全課題に対する各分科会での採択課題数の割合を示す。利用分野としては、D5分科会への申請課題が最も多く8課題で、次いでL2分科課題が7課題あった。D5分科課題には材料系の実験が多く、L2 分科課題には1分子計測とマイクロビーム実験が多かった。図1(c)に、全課題に対する課題種の割合を示す。ビームタイムの約5%が成果公開優先利用課題に使用されている。2013年度は長期利用課題は実施されていない。


図1 全課題に対する各課題種の割合。(a)各研究分野の課題数の割合、(b)各分科会での採択課題数の割合、(c)課題種の割合。GL、重点=重点グリーン/ライフ・イノベーション推進課題。成、成果=成果公開優先利用課題。


Ⅲ.高度化の実施内容と成果

(1)寄生散乱の少ないマイクロビーム光学系の開発

 BL40XUビームラインでは、その高輝度性を生かし、マイクロビームを用いた小角散乱実験が数多く行われている。その幾つかのアプリケーションでは極小角の分解能(>100 nm)が必要とされる。しかし、通常マイクロビームの作成に用いるピンホールはエッジが平滑でないため、多くの寄生散乱を生じる。このため従来は2枚以上のピンホールを用いて、上流のピンホールで生じた寄生散乱を下流のピンホールでカットする方法を用いてきたが、上流のピンホールからの寄生散乱が下流のピンホールのエッジでさらに散乱を起こす等の問題があり、極小角領域の寄生散乱を完全に除去することは困難であった。

 寄生散乱を除去する有効な方法として、スリットのエッジを単結晶の素材で作成する方法が報告されている。単結晶ではブラッグ条件を満たす方向以外に散乱が起きないため、スリットからの散乱を実質0にすることができる。この原理に基づいたスリットは既に製品化され、仏Xenocs社から販売されている。

 BL40XUでも2012年にこのXenocs社製スキャッタレススリットが導入されたのを機会に、ピンホール光学系の最下流にスキャッタレススリットを置くことで極小角領域の寄生散乱を実用程度まで減らすことができるか、試験を行った。

 光学系のセットアップはカメラ長3.5 m、ビームストップ径2 mm、波長0.15 nmであり、寄生散乱がなければd ~ 500 nmの小角分解能で散乱測定が可能な光学系である。ピンホールは50 µm厚のタンタル板にレーザー加工により穿孔して作成されたもので、defining pinholeとして径10 µm、guard pinholeとして径20 µmのものの2枚を用いた。この間隔が短すぎればdefining pinholeのエッジからの散乱をカットしきれないし、離しすぎれば直接光がguard pinholeに当たって散乱を生じてしまう。この中間に最適値があるはずであるが、実際にはピンホールが真円でない等の理由で寄生散乱が0になる距離は存在しない。

 図2(a)はこのようにして、寄生散乱が最小になる距離に2枚のピンホールを置いて記録した散乱像であり、ビームストップ近傍に強い寄生散乱が生じている。それに対し、図2(b)は2枚のピンホールの下流にさらにスキャッタレススリットを置いて、その開口部が最適になるように調整したものである。図2(b)は検出器の感度を上げ、露光時間も延ばして記録しているが、図2(a)と同等の条件になるように階調を調整している。図2(c)ではスキャッタレススリット(Geブレード)の特性として若干滲みのような散乱が認められたものの、ピンホール由来の不規則な寄生散乱は完全に取り除かれていることが分かる。


図2 記録された散乱。(a)ピンホール2枚のみ、(b)ピンホール2枚+スキャッタレススリット、(c)bの光学系を使用して記録されたコラゲンの回折像。


図2(c)は試料にコラゲン繊維を用いたものである。コラゲンの1次反射(d = 65.3 nm)はビームストップから遥かに離れたところに記録されており、試料由来以外の散漫散乱は認められない。以上から、スキャッタレススリットを加えたマイクロビーム光学系によって、実用的にd ~ 500 nmの小角分解能が達成されたと考えられる。

 試験に用いた光学系では、2枚のピンホールは同じメカニカルステージに載っているため、ビーム位置の変動があってもアラインメントを崩さずに位置の調整が可能であるが、スキャッタレススリットの位置は固定のため、2枚のピンホールを移動させるとアラインメントが狂うという問題があった。現在スキャッタレススリットも同じメカニカルステージに載せることで、ビーム位置が移動してもアラインメントが崩れないシステムを構築済みである(インハウス課題2012B1979)。

 今回の開発の成果は、マイクロビームを用いた一般的な小角・極小角散乱回折実験のほか、部分的コヒーレンスを利用したレンズレス回折イメージング実験にも役立つものと期待される。


(2)繊維試料自動測定装置の開発

 本ビームラインでは5 μm程度の準単色マイクロビームを容易に使用できるため、単繊維X線回折実験が可能である。繊維回折実験においては、製法や材質の異なる多くの試料を測定する必要が生じる場合がある。そのような実験に備えて、多数の繊維を自動測定するシステムを開発した。本開発にはインハウス課題2012A1841のビームタイムを使用した。

 試料の繊維は専用ホルダーにあらかじめ粘着テープなどで垂直に貼り付けておく(図3)。実験時にはホルダーをビームライン実験装置のX-Z自動ステージに載せ、顕微鏡で測定場所を確認する。これは繊維試料の多くが湾曲しており、目視による位置の確認が必要なためである。各繊維の両側の座標を測り、それをプログラムに読み込むことで、測定する繊維の場所を指定する。縦方向の場所を変えて指定することによって、一本の繊維について、繊維軸方向に複数の箇所で測定を行うことも可能である。繊維横断方向の測定間隔をあらかじめ与えておき、測定開始後は計測ソフトウェアが各繊維を水平方向に与えた距離ずつ動かし、各点で回折像を自動的に記録する。

 現在使用可能なホルダーでは、最高13本までを装着できるが、専用のホルダーを作るか、または繊維を貼り付ける間隔を狭くすることで、数10本の繊維を一度に自動測定することも可能である。

 一般に繊維回折では小角散乱をX線イメージインテンシファイアで記録することが多いが、フラットパネル検出器を使用することにより、広角反射を同時に測定することも可能となっている。これにより、ミクロフィブリル構造と、それを構成する高分子繊維の配列等の関係を検討することができる。

 このシステムは毛髪や歯エナメル質で既に使用実績があり、データベース構築を必要とするような系統的な材料評価に応用が期待される。


図3 繊維測定用ホルダー(試料間距離=5 mm)



ⒸJASRI


(Received: October 17, 2014; Early edition: November 28, 2014; Accepted: January 16, 2015; Published: February 10, 2015)