Volume3 No.2
SPring-8 Section B: Industrial Application Report
in situ XAFSによるペロブスカイト酸化物中の複数遷移金属の酸素熱力学パラメータの考察
Study of Oxygen Thermodynamic Parameters of MultipleTransition Metals in Perovskite Oxides by In Situ XAFS
aAGC セイミケミカル(株)品質保証部, b(公財)高輝度光科学研究センター
aQuality assurance Div., AGC Seimi chemical Co., Ltd., bSPring-8, JASRI
- Abstract
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固体酸化物型燃料電池(SOFC)の空気極材料は低温化、安定性においてもっとも重要な課題を抱えている。それらの課題解決には遷移金属の価数、更にはそれらの熱力学的な考察が重要であることが知られている。しかし、空気極材料は複数の遷移金属を含み古典的な熱天秤や滴定によって価数を求めることができない。そこで本課題では中温作動型SOFC空気極材料として利用されている(La0.6Sr0.4)(Co0.2Fe0.8)O3-δ (LSCF)、低温作動型として期待される(Ba0.5Sr0.5)(Co0.8Fe0.2)O3-δ (BSCF)のCo、Fe-K吸収端について様々な温度、酸素分圧でin situ X線吸収スペクトル(XASF)を測定することでCo、Feの価数、熱力学パラメータを議論した。Co、Feの部分モルエンタルピー、部分モルエントロピーからCo価数の方がFe価数より増加しやすいことが分かった。
キーワード: 燃料電池、ペロブスカイト型遷移金属酸化物、価数、XAFS
背景と研究目的:
SOFCは作動温度の低温化、耐久性が重要な課題となっている。特に空気極材料がこれらの課題解決のボトルネックとなりつつある。空気極材料で最も重要な課題の一つに酸素拡散、安定性があり、今まで数多くの報告がなされてきた。
しかし、それらは主に格子の平均構造解析(回折法)や電気化学的測定であり、格子の局所構造と酸素拡散、安定性や熱力学的考察についての議論はほとんどなされていないのが現状である。我々も放射光X線、中性子回折データを解析することによって、酸素挙動を研究してきたが、それらはあくまで平均的挙動であり、元素毎の特徴を捉えたものではない[1, 2]。本研究は、600°C~1000°C(50 K毎)にて酸素分圧(P(O2))を1, 0.1, 10-2, 10-3, 10-4 atmと変化させ、LSCF、BSCFのBサイトCo、Feのin situ XAFS測定を行い、Co、Fe-K吸収端エネルギー(E0)の酸素分圧依存性から、Co、Fe近接の酸素の安定性をギブス自由エネルギーの点から考察する。本課題ではLSCF、BSCFについて検討を行ったが、BSCFは解析の途中であり本報告書ではLSCFを中心に説明する。
実験:
LSCFのCo、Feの価数を正確に議論するために、まず(La1-xSrx)CoO3 (LSC, x=0~0.5)と(La1-xSrx)FeO3 (LSF, x=0~0.5)のCo、Feの価数とE0の関係を求める。LSC、LSFはクエン酸塩法によって合成し、1200°C、6時間焼成した。その試料のCo、Feの価数はヨードメトリーによって評価した。XAFS測定試料は適量のチッ化ホウ素と混合し、室温にてCo、Fe-K吸収端の透過法XAS測定を行った。二分光結晶にはSi(111)を用いた。E0はIfeffit-Athenaを用いて吸収(μt)を吸収端の前後で規格化した後、μt=1/2の値を採用した[3]。次にLSCFはクエン酸塩法によって合成し、1200°C、6時間焼成した。その試料をジルコニアボールにて粉砕し、1200°C、2時間焼結させ、焼結体を厚さ50 μmまで研磨してXAFSの測定試料とした。LSCFのXAFS測定は上述のLSC、LSF試料を測定したときと同様に透過法にて行った。LSCF試料のXAFS測定においては電気炉を用いて測定セルを600°C~1000°C(50 K毎)に保ちP(O2)=1 atmから0.1 atm、10-2 atm、10-3 atm、10-4 atm、1 atmと変化させながら、Co、Fe-K吸収端のXAFS測定を連続的に5分間、2回行った。測定セルから出てきたガスを質量分析によって確認した。
結果および考察:
図1にLSC、LSFのXAFSスペクトルの組成依存性を示す。LSC、LSFともにSrを置換することでCo、FeのE0が高エネルギー側にシフトしていることが分かる。図2にLSC、LSFのヨードメトリーにより求めた価数とE0の関係を示す。LSFに関してはx=0~0.5において価数とE0は直線的な関係を示した。しかし、LSCに関してはx≦0.10において直線的な関係とならず、本課題ではx=0.15~0.5の価数とE0の関係からLSCFのCoの価数を評価することにした。
図1.(La1-xSrx)CoO3、(La1-xSrx)FeO3のX線吸収スペクトルの組成依存性
図2.(La1-xSrx)CoO3、(La1-xSrx)FeO3の価数とCo(赤)、Fe(青)-K吸収端エネルギーの関係
図3に1000°C、P(O2)=1~10-4 atmのLSCFのCo、FeのXAFS変化を示す。Co、FeともにP(O2)が小さくなるに従い、E0は低エネルギー側にシフトし、価数が低下することが示唆される。また、P(O2)=10-4 atmから1 atmに戻した際に、E0が高エネルギー側に戻ることも確認している。これらからエネルギーシフトは酸素不定比性が原因であると考えられる。また、Co、Feを比較した場合、CoのE0の方が大きくシフトすることが確認された。図2の検量線を用いて、温度、P(O2)を変化させたXAFS測定のE0からCo、Fe価数を算出した。図4にCo、Fe価数とP(O2)、温度の関係を示す。Co、Feともに高温、低P(O2)で価数が下がることが分かった。これは基本的に熱天秤等での結果と同様である。今回はXAFSによって元素が選択的に検討することが可能であり、Co、Feの比較ができる。CoはFeに比べて温度、P(O2)に対する価数変化が大きいことがわかる。よって、Co価数の方が変化しやすく、Feの周りの酸素より、Coの周りの酸素の方が動きやすいことが示唆される。これらのデータからCo、Feの酸化反応における部分モルエンタルピー(⊿H0)および部分モルエントロピー(⊿S0)を算出し、結果を図5に示す。(⊿H0、⊿S0の算出法は[4]を参照)
図3.(La0.6Sr0.4)(Co0.2Fe0.8)O3-δのCo、Fe-K吸収端の酸素分圧依存性
図4.(La0.6Sr0.4)(Co0.2Fe0.8)O3-δのCo、Fe価数と温度、酸素分圧の関係
図5.(La0.6Sr0.4)(Co0.2Fe0.8)O3-δのCo、Fe価数と(a)部分モルエンタルピー、(b)部分モルエントロピーの関係
反応としては以下に示すように1 molの酸素が反応する式を想定している。
M=Co、Fe
O2(g):酸素(気体)、VÖ:酸素欠損、MxM:3価のCoまたはFe、OxO:-2価の酸素イオン、M'M':4価のCoまたはFe
Co、Feを比較した場合、⊿H0、⊿S0ともCoの方が低い値を示し、Coは酸化された方が安定していることが示唆された。また、Coは価数が3.2以上で急激に安定することも分かった。一方、Feに関してもCoほど価数依存性は高くないが、⊿H0から高価数側で安定することが分かった。今後は第一原理計算等によって、Co、Feの周りの酸素のエネルギー計算を行うことで、今回の結果の検証を行う。また、同様な解析をBSCFについても行う予定である。
参考文献:
[1] T. Itoh, et al., J. Alloys Comp., 491 (2010) 527.
[2] T. Itoh, et al., Physica B, 405 (2010) 2091.
[3] B. Ravel et al., J. Synchrotron Rad., 12 (2005) 537.
[4] J. Mizusaki et al., J. Solid State Chem., 80 (1989) 102.
ⒸJASRI
(Received: January 7, 2015; Early edition: April 28, 2015; Accepted: June 29, 2015; Published: July 21, 2015)