SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume3 No.2

SPring-8 Section B: Industrial Application Report

シリカガラス中の微量フッ素の化学状態解析
Chemical State Analysis of Trace Fluorine in Silica Glass

DOI:10.18957/rr.3.2.438
2011B1858 / BL27SU

飯原 順次, 米村 卓巳, 中村 元宣

Junji Iihara, Takumi Yonemura and Motonori Nakamura

住友電気工業株式会社

Sumitomo Electric Industries, Ltd



Abstract

 微量のフッ素を添加したシリカガラスは、紫外領域の透明性に優れているが、レーザー照射によって透過率が低下することがある。この原因解明のためにフッ素の化学状態変化に着目して調査した。その結果、レーザー照射前後での系統的なフッ素の化学状態変化を見出すことはできなかった。


キーワード: a-SiO2:F、ドーパント、透過率


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背景と研究目的:

 微量のフッ素を添加したシリカガラスは、紫外領域の透明性に優れている。このため、紫外領域の光学デバイスへの応用が期待されている。これはフッ素添加によって酸素欠乏による欠陥が減少することに起因していると考えられている[1]。しかしながら、YAGレーザーの照射により、透過率の低下が生じるという課題がある。この透過率低下の原因に関して、種々の方法で調査してきたが未解明である。本課題においては、レーザー照射前後でのシリカガラス中のフッ素の化学状態変化を調査することを目的とした。


実験:

(a) 測定試料 (表1):

 フッ素の添加量によって、レーザー照射後の透過率の低下率が異なる。そこで、フッ素添加量を最も透過率の低下が小さい濃度である5980 ppm(MA、ML)と、低下率が大きな高濃度の10000 ppm(HA、HL)、および低濃度の1000 ppm程度(LA、LL)の3段階とし、それぞれに対してレーザー照射前後の試料を測定対象とした。試料サイズは20 mm × 20 mm × 10 mmの試料である。この試料からXAFS測定用に10 mm × 5 mm × 1 mmのサイズに切り出し、表面研磨を施したものを測定試料とした。


(b) 測定方法:

 XAFS実験は、SPring-8のBL27SUにて実施した。シリカガラスが絶縁体であること、対象としているフッ素添加量が微量であることから、蛍光法XAFSにより実施した。蛍光法XAFSの測定には、アワーズテック社製のSDD (Silicon Drift Detector) を使用した。本BLでは、入射エネルギーごとに蛍光X線のエネルギースペクトルを取得し、測定終了後に着目する蛍光X線の領域を切り出す部分蛍光収量法XAFSを実施することが可能であり、散乱線の影響が少なくなるようにフッ素の蛍光X線領域を切り出して吸収スペクトルを得た[2]


表1 測定試料一覧


結果および考察:

 フッ素のK-XANESの測定結果をFig.1に示す。フッ素濃度、レーザー照射の有無にかかわらずよく似た構造のスペクトルである。以下では、これらを詳細に比較するために濃度ごとのXANESスペクトルの比較を実施する。



Fig.1 Fluorine K-XANES spectra of a-SiO2:F


Fig.2には最も高濃度試料(HA、HL)のレーザー照射の有無によるXANESスペクトルの比較を示す。細かく比較するとレーザー照射によって、吸収端が高エネルギー側に若干シフトしていること、688.9 eV付近の小さな吸収ピークの強度がレーザー照射によって小さくなり、689.3 eV付近の谷が小さくなっている。



Fig.2 Fluorine K-XANES spectra in high concentration a-SiO2:F (Red line: before laser irradiation (HA), Blue line: after laser irradiation (HL))


Fig.3には6000 ppmフッ素を添加した試料(MA、ML)のフッ素のK-XANESを示す。これらのスペクトルにおいては、高濃度試料(HA、HL)のフッ素ほど明瞭なレーザー照射前後での差異は認められていない。Fig.4には低濃度フッ素を添加した試料(LA、LL)のフッ素のK-XANESを示す。これらのスペクトルにおいては、689 eVのピーク形状において、高濃度試料(HA、HL)の違いと共通する差異があるように思われる。しかしながら、高濃度試料(HA、HL)で認められた吸収端のシフトは低濃度試料(LL、LA)のレーザー照射有無の試料間では認められていない。



Fig.3 Fluorine K-XANES spectra in medium concentration a-SiO2:F (Red line: before laser irradiation (MA), Blue line: after laser irradiation (ML))



Fig.4 Fluorine K-XANES spectra in low concentration a-SiO2:F (Red line: before laser irradiation (LA), Blue line: after laser irradiation (LL))


以上より、XANES比較によりレーザー照射前後で明瞭に差異が認められたのは最もフッ素が高い試料HA、HLであった。

 そこで、試料HA、HL間の差異を詳細に比較すべくEXAFS測定を実施した。その結果をFig.5に示す。レーザー照射前試料HAのFig.5(a)では、良好なスペクトルを得ることができたものの、レーザー照射後試料HLのFig.5(b)においては、900 eV付近にコンタミネーションと思われる構造を含んでおり、EXAFS解析が不可であった。コンタミネーションの起源を社内にて蛍光X線分析で調査した結果、Ceが存在していることを確認した。Ceは試料本来には含まれていないことから、測定試料への加工時の汚染と考えて調査したところ、ガラスの切断後の研磨に用いている研磨剤中の不純物のCeが極わずかに残存していると推定した。Fig.5に現れているピークもCe M4,5吸収端の902.4 eV、883.8 eVと一致していることから、Ceの影響であると判断した。以上より、高濃度のフッ素を添加した試料(HA、HL)ではレーザー照射前後でXANESに僅かな違いを認めることができた。しかしながら、より低濃度の試料においては、レーザー照射前後で明瞭なXANES形状の違いを認めることができなかった。従って、レーザー照射に伴うフッ素の系統的な状態変化を認めることができなかった。



Fig.5 Fluorine EXAFS spectra in high concentration a-SiO2:F (a: Before laser irradiation (HA), b: After laser irradiation(HL))


 以上より、レーザー照射に伴う透過率の低下とフッ素の化学状態変化の間の相関はないものと判断した。


謝辞:

 本課題の実験に際し、SPring-8のBL27SU担当である為則様には多大なるご協力を頂きました。この場を借りて、厚く御礼申し上げます。


参考文献:

[1] K.Kajihara, Y.Ikuta, M.Oto, M.Hirano, L.Skujaand H.Hosono, Nucl. Instr. and Meth. B, 218, 323 (2004).

[2] Y. Tamenori, M. Morita and T. Nakamura, J.Synchrotron Rad. 18, 747 (2011).



ⒸJASRI


(Received: November 25, 2014; Early edition: March 25, 2015; Accepted: June 29, 2015; Published: July 21, 2015)