SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume3 No.1

Section B : Industrial Application Report

燃料電池の信頼性を飛躍的に向上させる電解質への鉄の極微量添加手法の確立とその機構解明
Development of High Performance Fuel Cell Electrolytes by Investigating an Effect of Small Amounts of Iron Additives on its Stability and Local Structure

DOI:10.18957/rr.3.1.24
2011B1967 / BL14B2

嶺重 温a, 吉岡 秀樹b, 森 良平c, 大渕 博宣d, 梅咲 則正d

Atsushi Mineshige a, Hideki Yoshioka b, Ryohei Mori c, Hironori Ofuchi d and Norimasa Umesaki d

a兵庫県立大学, b兵庫県立工業技術センター, c冨士色素(株), d(公財)高輝度光科学研究センター

aUniversity of Hyogo, bHyogo Prefectural Institute of Technology, cFuji-Pigment.Co.Ltd., dJASRI



Abstract

 ランタンシリケート(LSO,組成La9.333+xSi6O26+1.5x)は燃料電池用新規電解質として応用が期待されるが、イオン伝導性向上のためにxの値を高める必要があり、その場合に化学的に著しく不安定となることが問題である。我々は、極微量の鉄添加が材料の安定性を飛躍的に向上させることを見出した。本課題では、0.99{La10(Si5.8Al0.2)O26.9}-0.01(FeOγ)をベース組成とする、鉄を極微量添加したLSOに対し、XAFSによる鉄の状態解析を実施した。その結果、添加された極微量の鉄はLSO類似のLa-Si-Fe-Oアパタイト相を形成するのではないかと推察された。


キーワード: 固体酸化物形燃料電池、微量元素、XAFS


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背景と研究目的:

 資源・エネルギー問題の解決、循環型社会の実現を目指し、クリーンエネルギーシステムの確立が強く望まれている。電気エネルギーへのエネルギー変換効率の高い固体酸化物形燃料電池(SOFC)は、触媒に貴金属が不要、良質の熱と電気の併給が可能であり、天然ガス、バイオガス等種々の燃料が利用可能である等の利点を活かし、災害時対応も可能な家庭用分散電源としての応用が期待されている。我々は酸化物イオン(O2-)伝導性固体電解質、ランタンシリケート(LSO,組成La9.333+xSi6O26+1.5x)がSOFC高効率化を可能とする有望な材料であると位置づけている。特に本材料はイオン伝導度が高いこと、伝導の活性化エネルギーが低いことが特徴[1-3]であり、SOFCの作動温度低温化に向けて非常に有望な材料である。しかし、本材料はイオン伝導性向上のためにxの値を高める必要があるが、そのようなLa過剰型LSOにおいては自己崩壊現象が見られ、化学的に著しく不安定となることが問題である。我々は、極微量の鉄添加が材料の安定性を飛躍的に向上させることを見出した。このような鉄添加手法は工業的に見ても極めて有効である。しかし、安定性向上を果たした原因の詳細は依然不明であり、当該手法の完成のためには、鉄の状態解析が必要である。それによって初めて本材料の本格的な工業化の実現や学術的な鉄添加の機構解明が為され、本材料を用いる燃料電池の実用化に向けた取り組みが加速すると考えられる。そこで本課題では、安定化機構を探るべく、鉄を極微量添加したLSOに対し、QXAFS(Quick XAFS)による鉄の状態解析を実施した。

 2009年度に課題番号2009B2043において実施した測定では、①La10(Si5.8Al0.2Fe0.005)Oγおよび②La10(Si5.8Al0.2Fe0.05)Oγを測定対象(重量比でLaが約70%、Siが8.2%、Alが0.2%、酸素が約22%、鉄は①140 ppm、②0.14%)としたが、大きな割合で共存するLaの蛍光によるスペクトルへの影響のため、140 ppm鉄の試料の場合にはS/N比に問題があり、EXAFS解析が行えなかった。一方、0.14%鉄の試料では、EXAFS解析が可能であったものの、イオン伝導を阻害し得る第二相の析出が懸念された。そこで今回は0.99{La10(Si5.8Al0.2)O26.9}-0.01FeOγ(鉄の重量濃度280 ppm)をベース組成として微量鉄の測定を行い、あわせて数多くの参照試料の測定を行うことで、それらの比較から鉄の状態を推測した。


実験:

 組成式(1-α){La10(Si5.8Al0.2)O26.9}-α(FeOγ)で表されるLSOセラミックス(緻密多結晶焼結体)を固相法によって合成した。ビームラインBL14B2において、試料にSi(111)分光器による単色化X線を照射し、19素子Ge半導体検出器を用いた蛍光法によりFe K吸収端近傍スペクトルを測定した。参照試料としてFeO、Fe3O4(マグネタイト)、α-Fe2O3(ヘマタイト)、α-FeOOH、γ-FeOOH、Fe(OH)3、LaFeO3、NiFe2O4の高純度の種々の鉄化合物、ならびにSiO4四面体を形成しているLSOのSiサイトに意図的に鉄を多く導入した固溶体試料La10(Si5Fe)O26.5(固相法、1500°C焼成セラミックス)を準備し、そのFe K吸収端領域のQXAFS測定を実施した。測定条件は、測定試料ならびにLa10(Si5Fe)O26.5については焼結体サンプルをそのまま用い、最大で角度幅17.0°~14.1°(-0.00084°ステップ)とした蛍光法にて測定した。一方、La10(Si5Fe)O26.5以外の参照試料については粉末試料をBN(窒化ホウ素)と混合したペレット状(直径10 mm、厚さ0.5 mm)に成型し、角度17.0°~13.2°(-0.00084°ステップ)とした透過法にてスペクトルの測定を行った。EXAFS解析には、解析ソフトArtemisを用いた。


結果および考察:

 課題番号2011B4905によりBL15XUにて実施したX線回折測定によって、化学的に不安定化して自己崩壊を起こしたLSO試料のX線回折パターンには六方晶アパタイト構造のLSO主相(空間群; P63/m)に加え、La(OH)3相が第二相として僅かに析出すること、また焼成直後のLSO試料にはLa2O3相が共存することが確かめられた。

 一方、鉄を添加し、自己崩壊を抑制できた試料においてはこれらの相の析出が見られなかった。即ち、鉄 を添加しないLa過剰型LSO試料では、La2O3相が微量第二相として恐らく粒界部に析出しており、これが周囲の水と反応することによってLa(OH)3相を生じる過程で試料の粒界破壊が引き起こされるが、鉄添加試料ではLa2O3相の析出を防げたために、化学的安定性が飛躍的に向上したものと考えられた。そこで鉄がどのようにしてLa2O3相の析出を抑制しているかを調べるため、鉄添加LSO試料(α = 0.01)のFe K吸収端X線吸収スペクトルを測定した。得られたスペクトルを参照試料と比較しながらFig. 1に示す。試料のスペクトルには7112 eV付近にプレエッジが明確に観測され、四面体環境にある鉄が存在している[4,5]ということが分かった。αの値に関係なくスペクトルはほぼ同様であったが、標準試料のいずれもこのスペクトルを再現するものは無かった。今回の測定でスペクトル形状の良い一致を示した試料は、Fig. 2に示すように、意図的にSiO4四面体サイトに鉄を多く導入したLSO固溶体試料La10(Si5Fe)O26.5のみであった。Fig. 2には、LSO試料(α = 0.01)に水素アニールを施した試料のスペクトルもあわせて示したが、スペクトルに大きな差は見られなかった。



Fig. 1. Fe K-edge XANES for 0.99{La10(Si5.8Al0.2)O26.9}-0.01(FeOγ) compared with some references.



Fig. 2. Fe K-edge XANES for α = 0.01 compared with that for after H2-annealing, and for La10(Si5Fe)O26.5.


 また本課題では、焼成温度を変えた試料の測定も行ったが、この場合もスペクトルに有意な差は見られな かったことから、鉄はかなり安定な状態にあり、作製条件を多少変化させても安定して存在できる構造をとっていると推測された。Fig. 3ならびにFig. 4には、Fig. 2で示した3試料のEXAFS振動ならびに動径構造関数を示す。これらの図からも、極微量に添加した鉄は、意図的に鉄をSiO4四面体サイトに多く導入した試料La10(Si5Fe)O26.5の挙動とほぼ一致した。



Fig. 3. k-space XAFS spectra for α = 0.01 and La10(Si5Fe)O26.5.




Fig. 4. Radial structure functions for α = 0.01 and La10(Si5Fe)O26.5.


 以上より、鉄はLSO中で四面体構造をとるSiサイト(Si-O距離1.63-1.65 Å)に置換しているものと判断された。EXAFS振動をもとに、四配位鉄[FeO4]をモデルとして、第一配位圏についてQFS(Quick first shell)計算によるカーブフィッティングを行ったところ、Fig. 5に示すとおり良好なフィッティングが可能であり、得られたα = 0.01のFe-O距離は1.86 Åであった。水素アニールを施すことによってこの距離は1.90 Åに増加し、水素アニールにより、大きく構造は変化しないが鉄の還元による距離の増加が見られるということが分かった。以前行ったα = 0.05試料について、同様の解析を行って得られたFe-O距離も1.86 Åであり、ほぼ同じ値であった。



Fig. 5. Radial structure function for α = 0.01 and QFS fitting curve.


 一方、La10(Si5Fe)O26.5のFe-O距離は1.87 Åであった。この試料を水素アニールした場合、スペクトルに大きな変化は見られず、Fe-O距離は1.85 Åと僅かに減少し、α = 0.01試料と異なる傾向を示した。その理由は今のところ不明である。しかし、以上のことから、微量鉄はLSOの粒界部のLa2O3相の析出を抑制するが、その際に粒界部にLSO類似のLa-Si-Fe-Oアパタイト相を形成するのではないかと推察された。即ち、アパタイト相を形成することによって水との反応による劣化を生じない、安定な電解質を形成できたのではないかと結論付けられた。


今後の課題:

 本課題によって、La過剰型LSOに鉄を極微量添加した場合に得られる安定化機構解明につながる鉄の状態解析が行えた。今回の測定では試料バルク体における鉄の情報が得られたが、La2O3相偏析の可能性のある試料表面近傍は、劣化反応がより顕著に起こっている部分でもあるため、詳細な観測が望まれる。引き続き、試料表面の鉄の状態解析について検討が必要である。

 さらに、鉄以外の遷移金属を添加した場合についての検討も行う必要がある。コバルトならびにニッケルを極微量添加して同様の手法で試料の作製を行い、その元素の状態解析を行うことで、鉄添加によって起こっている状況をより正確に把握できる可能性があると考えられる。


謝辞:

 本課題の遂行にあたり、測定法の検討や実験手順の計画に際し、JASRI産業利用推進室の杉浦 正洽 博士にご指導、ご助言をいただきました。この場を借りて御礼申し上げます。


参考文献:

[1] S. Nakayama, H. Aono and Y. Sadaoka, Chem. Lett., 24, 431 (1995).

[2] H. Yoshioka, Chem. Lett., 33, 392 (2004).

[3] A. Mineshige, T. Nakao, Y. Ohnishi, R. Sakamoto, Y. Daiko, M. Kobune, T. Yazawa, H. Yoshioka, T. Fukutsuka and Y. Uchimoto, J. Electrochem. Soc., 157, B1465 (2010).

[4] A. L. Roe, D. J. Schneider, R. J. Mayer, J. W. Pyrz, J. Widom and L. Que Jr., J. Am. Chem. Soc., 106, 1676 (1984).

[5] T. Yamamoto, X-ray Spectrometry, 37, 572 (2008).



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(Received: May 8, 2012; Early edition: September 30, 2014; Accepted: January 16, 2015; Published: February 10, 2015)