SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume3 No.2

SPring-8 Section B: Industrial Application Report

白色マイクロビーム波長分散型X線回折による応力ミクロ分布測定による2相鋼材の応力腐食割れメカニズムの検討(2)
Measurement of the Internal Stress Distribution to Individual Grains of Dual Phase Steel by Energy-Dispersive X-ray Diffraction with White X-ray Microbeam

DOI:10.18957/rr.3.2.469
2012A1188 / BL28B2

土井 教史a, 高部 秀樹a, 佐藤 眞直b, 宮澤 知孝b

Takashi Doia, Hideki Takabea, Masugu Satob, Tomotaka Miyazawab


a住友金属工業株式会社, b(公財)高輝度光科学研究センター

aSumitomo Metal Industries, Ltd., bJASRI


Abstract

 構造用鋼材の強度特性の制御因子としての組織形態に関する知見を得るため、複相組織を有する鋼材中の応力ミクロ分布測定を行った。制御された外力を印加しながら、マイクロビーム化された白色X線を試料に照射し回折データを得た。いくつかの外力印加条件での測定を行い、解析することで、結晶粒ごとの局所的な弾性歪みを評価することができた。得られた結果は。今後、組織形状制御技術に反映させ、材料設計に活用する。


キーワード: 鉄鋼材料、構造用鋼、白色X線、波長分散型XRD、ミクロ歪み分布測定


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背景と研究目的:

 鉄鋼材料の強度、加工性、耐腐食性等の特性制御は、金属組織を構成する結晶粒の粒径、相比率の制御によって行われる。特に相比率の制御が重要となる機械的特性(硬さ、変形能)の違う複数の鉄鋼相(オーステナイト、フェライト、マルテンサイトなど)で構成される複相鋼は、それぞれの特性のブレンドによって材料機械特性を制御しており、結果として耐SCC特性も影響を受けていると考えられている。この複相鋼の材料強度は外力印加時における各相の結晶粒への応力再分配によって発現する。

 このような微細組織中の各相への応力分配の組成比依存性を把握するために、SPring-8において開発されたX線マイクロビームによる回折データを得る測定手法(Energy-dispersive X-ray Diffraction Microscopy, 以下EXDM[1])を適用した。本手法を用いれば、金属組織を顕微観察を通じ形態的な特徴から各相の結晶粒を同定して、その結晶粒ごとの回折データを取得することができるため、例えば結晶構造の違いがわずかなフェライト相とマルテンサイト相のような組織を区別しながら、それぞれの結晶からの回折パターンが評価できるメリットがある。

 前回までで、フェライト‐マルテンサイト2相鋼中の結晶粒ごとに分配されるミクロ歪みの測定が可能であることを確認した。今回は、それら組織形態によって、分配される応力傾向に差異があるかどうかを検討した。


実験:

 実験は白色X線ビームラインBL28B2において実施された。白色X線は、入射スリットにより10 μm × 10 μmに整形されている。BL28B2に設置されている多軸回折計を用い、透過配置においた試料後方にラウエパターン検出用の2次元検出器(浜松フォトニクス製フラットパネルセンサー)と、検出されたラウエパターン上の回折スポットのエネルギースペクトル測定用のsolid statedetector (SSD)を配置した。

 測定試料は、前回(課題番号2011B1820)と同様フェライト‐マルテンサイトの2相鋼を用いたが、組織形状による機械的特性の影響を調査するため、圧延条件を変え、結晶形態制御を行った2種の異なる結晶粒形状、層状および粒状に制御された10~20 μmの2相組織が分布している鋼材を得た。それらを、20 × 7 mm、厚さ20 μmの引っ張り試験片に加工し、小型の引張試験装置を用いて弾性域内(400 MPa)および降伏応力近傍の引張外力(756 MPa or 825 MPa)を印加しながら測定した。

 白色X線マイクロビームは透過配置で試料各部に任意で選んだ15ないしは16箇所に照射された。各照射位置について複数(10 - 20程度)の回折ピークを測定し、得られた各回折面の格子面間隔の無歪状態に対するずれから、弾性歪みを評価した。格子定数の平均値から無歪状態の格子面間隔を算出した。さらに各回折面に生じている歪みと結晶方位に対する弾性異方性を考慮し、各結晶粒に生じている内部応力の応力テンソルを計算した。応力テンソルの計算には、本試験片の弾性コンプライアンス定数がα-Fe[2]と同等と仮定し、C11=22.8 × 1010 Pa, C12=13.8 × 1010 Pa, C44=11.6 × 1010 Paを用いて計算した。


結果および考察:

 図1に層状組織を有する試料各点から得られた応力状態を示す。赤もしくは青の線イメージは照射位置から得られた回折パターンから結晶粒ごとの引っ張り外力方向と垂直方向の応力テンソルを対角化することで求めた、応力テンソルの主軸応力成分の大きさを線の長さで、また主軸の向きを線の方向で表現している。赤線は引張応力、青線は圧縮応力に対応する。引っ張り応力は組織制御された組織の長手方向に印加している。応力テンソルの計算の際には試料表面に垂直な方向の成分は解放していると考えて面内成分のみを計算して求めた。

 外力印加状態の異なる状態を比較してみると、外力印加なしの状態では組織形状にかかわらず不均一な残留応力分布が生じていた。図1(a)に層状組織形状試料の測定結果を例示する。その状態から外力を印加することで、引張方向の引張応力成分が増加する様子が観察でき、その程度は組織形状により異なる傾向であった。図1(b), (c)にそれぞれ層状、粒状形状組織試料の外力印加状態に対応する測定結果を示す。図1(c)に示す粒状組織で、外力印加に伴い引張応力成分の増加が顕著であることがわかった。





図1 各組織を有する試料対するEXDM測定結果。

(a)層状組織試料0 MPa, (b)層状組織試料756 MPa,

(c)粒状組織試料825 MPa, 赤:引張、青:圧縮


 図2に、各試料のフェライト相、マルテンサイト相それぞれの最大主応力(δxx)の平均の外力依存性を示す。弾性変形域では、層状組織試料で、フェライト相が大きく変形し、マルテンサイト相の変形は小さい。

 一方、粒状組織試料では、両相で大きな差異はない。降伏応力近傍では、層状組織試料で両相の差が減少する一方で、粒状組織試料ではマルテンサイト相の変形が顕著になった。これらの結果は、組織形状の違いが応力分配の差異として発現した結果と考えている。



図2 マルテンサイト、フェライトそれぞれの組織形態に着目した主応力(δxx)の印加応力依存性.

 左: 層状組織、右:粒状組織。


今後の課題:

 組織形状の異なる2相鋼内部に発生する内部応力分布測定を行い、組織形状制御に関する重要な成果が得られた。今後の材料開発にこの知見を生かす。一方、実用的な2相鋼材のその組織α相、γ相の2相組織を有し、やはりその組織形状制御が材料開発にとって重要なパラメータとなっている。今後、実用2 相鋼についても同様の検証を行い、材料開発の妥当性を検討したい。


参考文献:

[1] K. Kajiwara, M. Sato, T. Hashimoto, T, Yamada, T. Terauchi, T. Fukumura, K. Arioka: ISIJ International, 53 (2013), 165-169.

[2] A.E.Lord, D.N.Beshers, J. Appl. Phys., 36 (1965),1620.



ⒸJASRI


(Received: November 16, 2012; Early edition: April 28, 2015; Accepted: June 29, 2015; Published: July 21, 2015)