SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume3 No.2

SPring-8 Section A: Scientific Research Report

RE2Ni7水素吸蔵合金(RE:希土類元素)の水素吸蔵放出サイクルに伴う結晶構造変化
Crystal Structure Evolution of RE2Ni7-based Intermetallic Compounds during Hydrogen Absorption/Desorption Cycles

DOI:10.18957/rr.3.2.333
2011B1484 / BL02B2

岸田 恭輔, 岩竹 佑樹, 乾 晴行

Kyosuke Kishida, Yuki Iwatake, Haruyuki Inui

京都大学大学院工学研究科材料工学専攻

Kyoto University


Abstract

 La2Ni7を室温付近で水素化を行った場合、圧力-組成等温線(PCT曲線)には3段階のプラトーが観察されるが、水素化の各段階における構造変化についてはいまだ不明な点が多い。本研究ではPCT曲線の各プラトーまで水素を吸蔵放出させた後に得られるLa2Ni7水素化物の結晶構造をSPring-8の放射光粉末X線回折を用いて調査した。30°Cおよび80°C第1プラトーまで水素吸蔵放出後に観察される水素化物と、第2,第3プラトーまで水素吸蔵放出後に観察される水素化物はいずれも斜方晶の対称性を有しているが、異なる結晶構造を持つことが明らかとなった。


キーワード: 水素吸蔵合金、粉末X線回折、リートベルト解析


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背景と研究目的:

 ニッケル金属水素化物(NiMH)電池の負極材料としてRE-Ni金属間化合物(RE:希土類元素)が広く用いられている。初期にはRENi5型金属間化合物が用いられてきたが、現在では自己放電特性に優れたRE2Ni7型金属間化合物が用いられるようになってきた。RE2Ni7型金属間化合物の結晶構造はRE2Ni4ユニットレイヤーとRENi5ユニットレイヤーが積層したブロックを構造単位とし、それらが複数積み重なったブロックレイヤー構造として記述され、水素吸蔵放出特性は各ブロックレイヤーの特徴が反映されると考えられている[1]。たとえば、RE2Ni7型金属間化合物の一つであるLa2Ni7を室温付近で水素化を行った場合、圧力-組成等温線(PCT曲線)には多段階のプラトーが観察されるが、水素化の各段階における構造変化についてはいまだ統一的な見解がなされていないのが現状である[1-3]

 我々は最近原子尺度での高角散乱環状暗視野走査透過電子顕微鏡法(HAADF-STEM)観察によりLa2Ni7は1サイクルの水素吸蔵放出の際に、従来報告されていたものとは異なる複雑な構造変化を示唆する結果を得た。本研究ではさまざまな水素化温度および圧力で水素化した場合のLa2Ni7水素化物の結晶構造について、SPring-8の高エネルギー,高強度のX線を用いた粉末X線回折法(XRD)により詳細に調べ、これまでに得られた原子尺度でのHAADF-STEM観察の結果と合わせることで、従来の報告例よりも精密な構造解析を行い、水素化条件がLa2Ni7水素化物の結晶構造変化に及ぼす影響を明らかにする事を目的とした。


実験:

 La2Ni7金属間化合物の粉末試料を用い、30°Cおよび80°Cでさまざまな最大水素吸蔵量まで水素吸蔵させた後、装置の圧力測定下限まで放出試験を行った。得られた粉末試料を内径0.2~0.3 mmのガラスキャピラリーに封入したものを測定用試料として用いた。粉末XRD測定は粉末結晶構造解析ビームライン(BL02B2)の標準的な装置レイアウトを利用し、イメージングプレートを検出器として用いて行った。得られたデータの解析にはリートベルト法を用いた。


結果および考察:

 30°Cおよび80°Cで水素吸蔵放出を行った場合、PCT曲線には多段階のプラトーが観察される(図1)。



図1. (a)30°Cおよび(b)80°CにおけるLa2Ni7のPCT曲線.


30°Cでは第1段目のプラトー(第1プラトー領域)は水素対金属の原子数比(H/M)で0~0.5の範囲に観察され、その平衡圧は非常に低く圧力測定下限(0.01 MPa)以下であった。また第2プラトー領域は0.6 ~ 0.8 H/M付近,第3プラトー領域は0.9 ~ 1.2 H/M付近に存在している。このうち第1プラトー領域で吸蔵された水素は不可逆容量として結晶中に残留し、安定な水素化物として存在する。同様に80°Cの試験においても多段階のプラトーが観察されるが、それぞれの平衡圧力は30°Cの場合より高くなる傾向を示し、またH/Mで約1.1まで水素吸蔵放出させた場合には試料中に残留する水素量がH/M~0.4(およそプラトー1が終了する値に対応)の場合よりも増加することが分かった。図2にPCT曲線上のそれぞれのプラトー領域まで水素吸蔵放出させた試料の放射光XRDの結果を示す。図2(a-c)は30°Cにおいて、(a)第1プラトー領域まで(最大水素吸蔵量Max. H/M ~0.5),(b)第2プラトー領域まで(Max. H/M ~0.8),図2(c)は第3プラトー領域まで(Max.H/M ~1.2)それぞれ吸蔵させた後、放出を行った試料からのXRDプロファイルである。30°Cにおいて第2プラトー領域あるいは第3プラトー領域まで水素吸蔵放出を行った試料のXRDプロファイルにはほとんど違いが認められないのに対し、第1プラトー領域までの試料のXRD プロファイルは大きく異なることが分かる。つまり、30°Cにおいて第1プラトー領域まで水素吸蔵放出を行った際に生成する水素化物(β相とする)が、第2,第3プラトー領域まで水素吸蔵放出を行うことで異なる結晶構造を持つ水素化物(以下ではβ’相として区別する)へと変化したことを意味している。またβ相とβ’相のXRDプロファイルを比較すると、β’相の方がより高い対称性を有することが示唆された。同様の傾向は80°Cにおいて水素吸蔵放出を行った試料についても確認されるが、図2(e)に示すMax. H/M ~1.1まで水素吸蔵後、放出を行った試料のXRDプロファイルにみられるピーク位置は図2(b,c)と良い一致を示しているが、ピークがブロードニングする傾向を示すことが分かった。これは80°C,Max. H/M ~1.1までの水素吸蔵放出の際に転位や非晶質領域などの格子欠陥が導入されたことを示唆しており、それらにより不可逆容量が増大したものと推測される。

 これまでに第1プラトー領域直後まで水素吸蔵放出を行った試料について、La2Ni7の持つ六方晶の対称性(空間群P63/mcm)を保持したまま、構造中のLa2Ni4ユニットレイヤーのみがc軸方向へ異方膨張する構造モデルが提案されてきた[1]が、今回得られたXRDプロファイルの解析ならびに本研究の成果を踏まえて行った透過電子顕微鏡法(TEM)を用いた解析の結果により、β相,β’相はいずれも水素吸蔵前の六方晶から斜方晶の結晶構造へと変化していることが分かった[4]。さらに30°Cで水素吸蔵放出を行った試料についてのTEMおよび高分解能HAADF-STEMによる結晶構造解析により、β相,β’相のそれぞれについて空間群の候補を決定し、それに基づいたXRDプロファイルのリートベルト解析を試みたが、十分な精度での構造解析結果を得ることができなかった。これは、水素化物中に存在する格子欠陥の影響や、非常に類似した結晶構造を持つ各種LaNix化合物とそれらの水素化物の微量混入の影響によるものと考えられる。



図2.La2Ni7水素化物の放射光XRDプロファイル.(a)30°C, 最大水素吸蔵量Max. H/M ~0.5,(b)30°C, Max. H/M ~0.8, (c)30°C, Max. H/M ~1.2, (d)80°C, Max. H/M ~0.4, (e)80°C, Max.H/M ~1.1.


今後の課題:

 微量に混入するLaNix水素化物の構造について、これまでのTEM/STEMを用いた解析結果を参考にさまざまなモデル構造を構築し、それらを含んだ多相試料としてのリートベルト解析を行う必要があるが、結晶構造の類似性のため、解析精度の向上は非常に困難であることが予想される。


参考文献:

[1] R.V. Deny, A.B. Riabov, V.A. Yartys, M. Sato and R.G. Delaplane, J. Solid State Chem., 181, 812 (2008).

[2] H. Oesterreicher, J. Clintonn and H. Bittner, Mat. Res. Bull. 11, 1241 (1976).

[3] K. Iwase, K. Sasaki, Y. Nakamura and E. Akiba, Inorg. Chem., 49, 8763 (2010).

[4] Y. Iwatake, K. Kishida and H. Inui, MRS Symp. Proc., 1516, 83 (2013).



ⒸJASRI


(Received: February 4, 2015; Early edition: March 25, 2015; Accepted: June 29, 2015; Published: July 21, 2015)