SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume3 No.2

SPring-8 Section B: Industrial Application Report

貴金属を使用しない燃料電池カソード触媒のXAFSによるその場測定
In-situ XAFS Analysis of Oxygen Reduction Reaction on Non-Precious Metal Cathode Catalysts for Fuel Cell

DOI:10.18957/rr.3.2.505
2012B1729 / BL14B2

朝澤 浩一郎a, 岸 浩史a, 坂本 友和a, 田中 裕久a, 松村 大樹b, 田村 和久b, 西畑 保雄b

Koichiro Asazawaa, Hirofumi Kishia, Tomokazu Sakamotoa, Hirohisa Tanakaa, Daiju Matsumurab, Kazuhisa Tamurab, Yasuo Nishihatab


aダイハツ工業(株), b(独)日本原子力研究開発機構

aDAIHATSU MOTOR CO., LTD., bJAEA


Abstract

 アニオン交換膜形燃料電池に用いられるカソード触媒の構造を明確にするために、X線吸収微細構造(XAFS)測定に取り組んでいる。現在注目しているキレート触媒は中心金属が配位子に配位されており、その組み合わせにより性能を大幅に変化させる。今回は新たに作製した二元金属(FeCo)キレート触媒におけるin-situ測定を行い、酸素還元反応のメカニズムの解明を試みた。その結果、FeCoキレート触媒は金属が合金化し、配位した構造が少ないことが分かった。活性評価の結果と照らし合わせると、キレート構造の維持が活性向上に寄与するといった結論を得た。


キーワード: 燃料電池、アニオン交換膜形、非白金カソード触媒、in-situ XAFS


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背景と研究目的:

 次世代動力源として期待されている燃料電池車は2014年に市販されたが、依然、水素貯蔵や白金の使用による資源問題がある。ダイハツ工業(株)では、アルカリ性のイオン交換膜を用いた「液体燃料形アニオン燃料電池」の早期実現に向けて、国内外の大学・研究機関と連携して研究開発を行っている。発電の心臓部分である電極触媒の開発では、燃料側のアノード触媒および空気側のカソード触媒において、非白金ながら白金の性能を超える出力性能が得られており、実用化に着実に近づいている[1]。カソード電極触媒としては金属を配位子に配位させたキレート触媒の開発に注力しており、これまで、Coキレート触媒により燃料電池特性が飛躍的に向上することを報告した[2]。しかしながら酸素還元反応のメカニズムおよびその活性点については諸説があり未解明な部分が多い。我々はこれまでの試験結果からCoを活性点と考えCoキレート触媒のin-situ測定に取り組み、酸素還元反応における電位変化に伴う構造の変化を捉えることに成功した(課題番号2009B1874、2009B2083、2010A1872)[3]

 その後、Coキレート触媒より高い触媒活性を示すFeキレート触媒について開発を行い、そのin-situ XAFS測定を進めてきた(課題番号2010B1852、2011A1722)[4,5]。FeキレートもCoキレート同様に電位によってK吸収端やEXAFSスペクトルのフーリエ変換によって得られた動径構造関数(RSF)に変化が見られることを確認した。また、電極触媒を固定するアイオノマーと触媒の相互作用についての測定(課題番号2011B1802)[6]を行い、含水性を制御した測定が可能となった。

 さらにFeキレート触媒の活性向上を目指して開発を進め、前駆体の違いが触媒活性に大きく影響することを見出した。そこで前駆体の異なる2種類のFeキレート触媒についてin-situ XAFS測定を行い、少ない電位変化でFeの価数変化が収束するFeキレート触媒は高活性となることを示唆する結果を得た(課題番号2012A1774)[7]

 これらの知見を活かして、更なる触媒活性の向上を目指して取り組んでいるのが、二元金属キレート触媒の研究開発である。2種類の金属錯体から合成された二元金属キレート触媒は、性質の異なる2種類の反応場をもち、酸素還元反応を段階的に促進させることで、一元金属キレート触媒よりも出力性能を向上させることが分かり始めている[8, 9]。しかし、提唱されている二元金属キレート触媒の反応メカニズムは、定常状態の測定に基づくモデルの推察に留まっており、動的な変化を捉える測定は行われておらず、反応メカニズムの完全解明には至っていない。そこで、今回の実験では新たな二元金属キレート触媒におけるin-situ測定を行うこととし、従来の一元金属(Coキレート触媒、Feキレート触媒)の知見を活かして、FeCoキレート触媒を作製することで、二元金属キレート触媒における酸素還元反応のメカニズムの解明を試みた。


実験:

 測定対象のカソード触媒には、FeCoキレート触媒とFeキレート触媒を用いた。

 In-situ測定の装置構成・セルは課題番号2011A1722、2011B1802、ならびに2012A1774で使用したものと同様である[5, 6, 7]。FeCoキレート触媒およびFeキレート触媒は課題番号2011B1802により選定したアイオノマと混合したインクを作製し、それをカーボンペーパー上に塗布し電極を形成した[6]。セルは3電極型であり、リファレンス電極にはHg/HgO、カウンター電極には白金線を用い、ポテンシオスタットで電位を -600 mV、 -500 mV、-400 mV、-300 mV、-200 mV、-100 mV、0 mV、100 mV、250 mVに制御した。

 触媒の初期状態を電解液供給前に把握した後に酸素を電解液中にバブリングし、溶存酸素として供給した。放射光は試料面に45°で入射させ、19素子SSD検出器を使用した蛍光法によりFe-K吸収端およびCo-K吸収端のin-situ XAFS測定を行った。


結果および考察:

 まずFeCoキレート触媒とFeキレート触媒について、初期状態のEXAFSスペクトルから解析したFe動径構造関数をFig.1に示す。FeCoキレート触媒では、Feキレート触媒が有するMono cluster成分の割合が少なく、メタル成分のピークが現れた。FeCoキレート触媒のFeとCo動径構造関数の比較をFig.2に示す。2.2 Åおよび4.4 Å付近のメタル成分のピーク位置が一致しておりFeとCoが合金を形成していることを示唆する結果が得られた[10]

 我々がこれまで行ってきた実験の結果から、メタル成分が成長している触媒はキレート構造を形成している触媒に比べて触媒活性を得にくい傾向がある。FeCoキレート触媒は活性なキレート構造が崩れ、低活性なメタル成分が成長している。事前に行った電気化学的な触媒活性測定(RRDE測定)の評価結果でFeCoキレート触媒はFeキレート触媒に比べて活性が低かったという結果(Fig.3)も併せて考えると、やはりキレート構造を維持し、メタル成長を抑制することが重要であることを示唆する結果となった。

 また続けて行ったin-situ測定におけるFeCoキレート触媒とFeキレート触媒について、初期状態(initial)、高電位(250 mV)、低電位(-600 mV)のFeのK吸収端のXANESスペクトルをFig.4に示す。FeCoキレート触媒はFeキレート触媒に比べて初期のFeのK吸収端が低エネルギーにシフトしており、メタリックな性質を示すことが分かった。高電位(250 mV)と低電位(-600 mV)のK吸収端の変化は、FeCoキレート触媒およびFeキレート触媒ともに同様の変化幅を示した。また、Fig.5にFeCoキレート触媒中のCoのK吸収端の電位変化を示す。FeCoキレート触媒中のCoは前述の通りメタルが主成分なため、あまり活性に対する寄与は無いが電位に伴う変化が確認できた。以上のことから、本触媒系においては電位印加時よりも、初期の状態が引き起こす酸素吸着状態の違いが触媒活性に重要な要素であることを示唆する結果となった。


今後の課題:

 今後は、さらに成分や合成法を変えることによって、メタル成分を除去あるいは生成を抑えてキレート触媒成分のみの働きを調べるとともに、上記解析結果に基づいた酸素還元反応中の触媒構造変化のモデルを検証するために、量子力学に立脚した理論解析を行う。具体的には、酸素還元反応中の触媒構造変化を、密度汎関数理論に基づく第一原理計算によって解析し、導出された電子状態をXAFSデータへと変換する。理論計算から得られたデータと今回得られた測定結果とを照合し、二元金属キレート触媒の活性向上指針を見出し触媒設計に反映することで、より高活性なカソード触媒の早期実現を目指す。


参考文献:

[1] H. Tanaka et al., ECS Transactions, 16 (2008) 459.

[2] K. Asazawa et al., Angewandte Chemie International Edition, 46 (2007) 8024.

[3] K. Asazawa et al., ECS Transactions, 33 (2010) 1751.

[4] 朝澤 浩一郎、平成22年度SPring-8重点産業利用課題成果報告書(2010B) 2010B1852

[5] 朝澤 浩一郎、平成23年度SPring-8重点産業利用課題成果報告書(2011A) 2011A1722

[6] 朝澤 浩一郎、平成23年度SPring-8重点産業利用課題実施報告書(2011B) 2011B1802

[7] 朝澤 浩一郎、平成24年度SPring-8重点産業化促進課題・一般課題実施報告書(2012A)2012A1774

[8] X. Li, et al., Journal of Power Sources, 196 (2011) 1717.

[9] Q. Hea, et al., Journal of Power Sources, 196 (2011) 7404.

[10] D. Carta, et al., Journal of Chemical Physics, 127 (2007) 204705.



Fig.1 FeCoおよびFeからなるキレート触媒のFe動径構造関数の比較



Fig.2 FeCoからなるキレート触媒のFeおよびCo動径構造関数の比較



Fig.3 FeCoおよびFeからなるキレート触媒の触媒活性測定(RRDE測定)



Fig.4 FeCoおよびFeからなるキレート触媒のFe-K吸収端の比較



Fig.5 FeCoからなるキレート触媒のCo-K吸収端の変化



ⒸJASRI


(Received: February 18, 2013; Early edition: May 28, 2015; Accepted: June 29, 2015; Published: July 21, 2015)