Volume3 No.2
SPring-8 Section A: Scientific Research Report
Mg固溶リン酸塩蛍光体LiSrPO4:Eu2+の構造解析
Structure Analysis of Mg-substituted LiSrPO4:Eu2+ Phosphors
a新潟大学自然科学研究科, b新潟大学超域学術院, c新潟大学工学部
a Graduate School of Science & Technology, Niigata University, b Center for Transdisciplinary Research, Niigata University, c Faculty of Engineering, Niigata University
- Abstract
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放射光を用いた粉末X線回折で、紫外線励起で青色発光するLi(Sr, Mg)PO4:Eu2+蛍光体の結晶構造解析を行った。リートベルト法による分析により、Mgを固溶させたLi(Sr, Mg)PO4:Eu2+蛍光体は、低温相のorthorhombic生成領域の合成温度900℃であったにも関わらず、高温相のhexagonalの結晶構造であったことが確認された。
キーワード: 蛍光体、リートベルト解析、リン酸塩
背景と研究目的:
東日本大震災の影響から節電意識の高まりを受け、消費電力を抑制できる白色LED照明の普及が進んでいる。この白色LED照明の発光素子の一つであるのが無機蛍光体である。ほとんどの無機蛍光体には、発光中心元素として希土類元素が用いられている。このため、近年の中国によるレアアース輸出制限問題もあることから、将来的には希土類元素を用いない、または、希土類元素の使用量を低減させた蛍光体の開発が望まれている。リン酸塩を母体結晶とする蛍光体は数多く報告されており、ディスプレイ用のバックライトや蛍光ランプとして使用されている。この中でも、ABPO4 (A=Li+, Na+, K+, Rb+, Cs+; B=Sr2+, Ba2+)で表される組成の化合物は熱安定性や耐水性があることから多く研究され、特にLiSrPO4を母体結晶とした蛍光体の合成やその蛍光特性が報告されている[1-4]。我々はLiSrPO4の構造中のSrサイトの一部をMgに置換させたLi(Sr, Mg)PO4:Eu2+の合成に成功している。LiSrPO4には低温相(orthorhombicまたはmonoclinic)と高温相(hexagonal)があるが、Mgを固溶させることにより高温相が低温相と同じ合成条件、すなわち、低温度域で合成することを見出した。この高温相のLi(Sr, Mg)PO4の構造内に発光中心となるEu2+イオンを固溶させると、Eu固溶濃度がわずか1%ながら高発光強度の青色発光を示した。Mgを一部固溶したEu濃度1 mol%の試料の発光強度は、Mg固溶なしのEu濃度5 mol%より2.2倍程度増大した。励起光が近紫外領域にあることからも、近紫外LEDと組み合わせる青色蛍光体としての利用が期待できる。これにより、希土類元素使用量が少ない固溶量で発光強度の高い蛍光体の合成が期待できる。そこで、Mg固溶効果がどのように母体結晶と発光中心に影響しているのかを明らかにするために、放射光を用いた粉末X線回折の実験を行い、リートベルト解析による結晶構造解析を行った。
実験:
試料の合成は通常の固相法により作製した。出発原料としては、炭酸リチウム、炭酸ストロンチウム、酸化マグネシウム、リン酸水素二アンモニウム、酸化ユウロピウムを用い、これらの所定量を秤量し混合した。その後、30 MPaでペレットを成形した。ペレットは、大気圧下、900°Cで4時間仮焼を行った。再粉砕後、5% H2/95% Ar雰囲気下、900°Cで6時間本焼を行った。得られたサンプルLi(Sr0.99Eu0.01)PO4、Li(Sr0.90Mg0.10)PO4、Li(Sr0.98Eu0.01Mg0.01)PO4、Li(Sr0.94Eu0.01Mg0.05)PO4粉末をφ0.3 mmのキャピラリーにセットした。このキャピラリーをBL02B2ビームラインの回折計にセットし、X線を300秒間照射し、イメージングプレートを用いて回折パターンを測定した。波長はCeO2(a=5.4109 Å)粉末を標準試料として校正し、波長は1.0000 Åとして解析を行った。
測定されたX線回折プロファイルに対して、独自に開発したRietan[5]専用GUI、CRietanF[6]を用いてリートベルト解析を行った。
結果および考察:
今回測定したLiSrPO4系の蛍光体は、一般に1000°C以上の焼成により合成されている[7]。このLiSrPO4には3種の晶系が報告されており、低温相はorthorhombicまたはmonoclinic(合成温度:600~1000°C)、高温相はhexagonal(合成温度:1000°C以上)とされている。しかしながら、MgをSrサイトに一部固溶させることにより、合成温度900°Cで高温相であるhexagonalの合成に成功した。Mg固溶がLiSrPO4結晶構造に与える影響を放射光X線回折により検討した。
LiSrPO4はLiKSO4の結晶構造に類似しているとの報告[8]があることから、リートベルト解析はLiKSO4の結晶構造(低温相:orthorhombicまたはmonoclinic,高温相:hexagonal)(Fig.1)によりフィッティングを行った。
Fig.1 LiKSO4とLiSrPO4の高温相hexagonalの結晶構造
まず、発光中心となるEu2+イオンを固溶させたLi(Sr0.99Eu0.01)PO4について検討を行った。LiSrPO4の低温相(orthorhombic)が主相であることは確認できたが、単一相でのフィッティングは収束しなかった。これは、高強度での放射光測定により、LiSrPO4の低温相(orthorhombic)以外の不純物相(低温相(monoclinic)、SrP2O7、未知相)に由来するピークが多く認められたためであると考えられる。但し、今回の結果より、Eu2+イオン添加によるLiSrPO4構造への影響は極めて小さく、主相は低温相(orthorhombic)であり、高温相の生成には寄与していないことが示唆された。
MgをSrサイトに1 mol%固溶させたLi(Sr0.98Eu0.01Mg0.01)PO4についても同様に検討を行った。放射光X線回折プロファイルでは、わずかながら不純物相が確認された。このため、二相解析を行った。第一相を高温相(hexagonal)、第二相を不純物相であるSr3(PO4)2として行った。各信頼性因子値はやや大きな値を示したが、LiKSO4の高温相であるhexagonalの構造モデルが実験結果を最も良く再現できた(Fig.2)。このときの各相の分率は、第一相が96.20%、第二相が3.80%であった。RB値は、第一相が8.944、第二相が20.245であった。また、得られた各格子定数は既報のLiSrPO4の高温相の格子定数と良い一致を示した。今後は解析精度を高めるために単相試料作製のための合成方法の再検討が必要であると考えている。
解析によって得られたMg固溶サイト構造モデル(Fig.3)および主な結晶構造パラメータをTable.1に示す。得られた構造モデルは、P63(No.173)であった。これは、既報の構造モデルの空間群P65(No.170)[4]とは異なった。また、それよりはSrサイトが高対称性であり、Sr-O平均結合長が長かった。これよりMg固溶が、Srサイトの対称性を高くする空間群の高温相(hexagonal)の構造形成に関わることが確認できた。さらに、Mg固溶によるLiSrPO4:Eu2+蛍光体の発光強度向上は、この高対称性場に発光中心Euが固溶されているためではないかと推察される。また一般に配位原子との結合長が長いと蛍光特性は高くなる。温度150℃における発光強度特性は、報告では70%程度[4]であるが、本蛍光体Li(Sr0.98Eu0.01Mg0.01)PO4は80%程度を示した。このことからも蛍光特性向上とMg固溶における相関があることを確かめた。
10% Mg固溶のLi(Sr0.90Mg0.10)PO4、および、5% Mg,1% Eu固溶Li(Sr0.94Eu0.01Mg0.05)PO4については、得られた回折ピークの主相が高温相ではなく低温相(orthorhombic)であった。このため、Mg固溶による高温相の安定組成領域は限られており、Mg固溶が5%以上となると高温相が単相で得られなくなることが示唆される。
Fig.2 Li(Sr0.98Eu0.01Mg0.01)PO4のリートベルト解析結果パターン
赤点、青実線、緑実線、上段茶印、下段茶印は、それぞれ、実測値、計算値、残差、第一相のピーク位置、第二相のピーク位置を示す。
Fig.3 Li(Sr0.98Eu0.01Mg0.01)PO4のMg固溶サイト構造モデル
Table.1 Li(Sr0.98Eu0.01Mg0.01)PO4の精密化後のパラメータ値
今後の課題:
近紫外線励起青色蛍光体として有望なLiSrPO4:Eu2+蛍光体にMgを固溶させた結晶構造解析とそれに伴う蛍光特性向上の相関について検討を行った。Mg固溶を行うことで、従来の合成温度では低温相が生成される900°Cで、高温相(hexagonal)が主相となることが示唆された。しかしながら各信頼性因子がまだ高い値であるため、今後、不純物の少ない試料を用いた実験、精密な複相解析などによる構造解析によって、これらの点が明らかになると期待される。
希土類元素の使用量を低減させる蛍光体の開発は、今後非常に重要な問題である。本研究で得られた結果は、希土類元素使用量低減蛍光体の開発設計に大きく寄与できると考えられるため、さらなる結晶構造の精密化には単結晶の作製が必要であると考えられる。
参考文献:
[1] Z. C. Wu, J. X. Shi, J. Wang, M. L. Gong, Q. Su, J. Solid State Chem., 179, 2356-2360 (2006).
[2] Y. Chen, J. Wang, X. Zhang, G. Zhang, M. Gong, Q. Su, Sensor Actuat B-Chem., 148, 259-263 (2010).
[3] Y. Chen, J. Wang, C. Liu, J. Tang, X. Kuang, M. Wu, Q. Su, Opt. Express., 21(3), 3161-3169 (2013).
[4] C. C. Lin, C. C. Shen, R. S. Liu, Chem. Eur. J., 19, 15358-15365 (2013).
[5] F. Izumi, et al., Mater. Sci. Forum, 59, 378-381 (2001).
[6] http://mukiken.eng.niigata-u.ac.jp/chemsoft/CRietan2000/rietan-top.html.
[7] J. Liu, Z. Wu, M. Gong, Appl. Phys. B, 93, 583-587 (2008).
[8] L. Elammari, B. Elouadi, G. Müller-Vogt, Phase Transitions, 13(1-4), 29-32 (1988).
ⒸJASRI
(Received: February 3, 2015; Early edition: June 22, 2015; Accepted: June 29, 2015; Published: July 21, 2015)