SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume3 No.1

SPring-8 Section B: Industrial Application Report

トバモライト合成への低結晶質シリカの活用(7)
Use of Low Crystalline Silica for the Synthesis of Tobermorite (7)

DOI:10.18957/rr.3.1.85
2014A1765 / BL19B2

松野 信也a, 東口 光晴a, 石川 哲吏a, 小川 晃博b, 松井 久仁雄b

Shinya Matsunoa, Mitsuharu Higashiguchia, Tetsuji Ishikawaa, Akihiro Ogawab, Kunio Matsuib

a旭化成㈱, b旭化成建材㈱

aASAHI KASEI. CO. LTD., bASAHI KASEI CONSTRUCTION MATERIALS CO.



Abstract

 軽量気泡コンクリート(ALC)の主成分であるトバモライト(tobermorite 化学組成:5CaO・6SiO2・5H2O)の量と質は、その性能と密接な関係にあり、その反応過程を制御したALCの改良研究が、日本および欧州で活発になされている。そのような中で、我々はフライアッシュ(火力発電所から排出される石炭灰)など低結晶質シリカ源の利用検討を行っている。今回は、通常トバモライトを生成しない微結晶シリカ源を使い、その系に石膏を4wt.%添加し、合成温度を下げてトバモライト生成への影響を調べた。今回、合成温度が低くてもトバモライト生成が認められた。また、低温(180°C)ではゾノトライト(Xono)の生成が抑制されることがわかった。


キーワード: 水熱反応、トバモライト、低結晶質シリカ、軽量気泡コンクリート、

       石膏、低温合成


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背景と研究目的:

 フライアッシュは石炭火力発電に伴い発生する灰(低結晶質シリカ)で、日本では石炭利用率の増加に伴いその発生量は年々増加している。2008年の統計では1,230万トンもの量が発生している。フライアッシュ(以下、FA)の大部分は、セメント原料としてリサイクルされているが、セメントの国内生産量は、最盛期の約1億トンから現在4千万トン台まで大きく減少しており、今後もセメントリサイクルへ回されるFA量の減少が余儀なくされる。このような中、我々はFAをはじめとした低結晶質シリカを使いこなす技術を開発すべく検討を行っている。

 しかしながら、目標物性を得るための技術的障壁は高く、反応メカニズムの解明を含めた基礎レベルからの検討が必要不可欠である。幸い我々の研究グループは、今までの検討において得られた珪酸質原料の反応性の水熱反応への寄与、アルミニウム化合物添加がトバモライト生成を促進する等の知見[1-6]を活かすことにより、FAをはじめ低結晶質シリカを原料とした高品質のALCを実現できる可能性を検討中である。

 今回の課題では、微結晶珪石は溶解が早いので逆に低温合成の可能性があるのではと考え、微結晶珪石に石膏を4wt.%添加した系で低温合成の可能性を検討した。


実験:

 今回の実験では、原料としては反応および生成物を単純化するためセメントを使わない高純度原料系による実験を行い、微結晶珪石(SIL5、平均粒径2.2 μm)、高純度酸化カルシウム、水、石膏の混合物(水/固体比は1.7)を予備養生したものを、Be窓を有する水熱反応計測用のセルに入れ、それを加熱用の電気炉内にセットする。電気炉を架台上にセットし、Be窓を通してX線を入れる[1]。実験は、室温から180°Cおよび190°Cまで加熱し、その温度で保持することによりトバモライトを合成し、その過程を透過法in-situ X線回折(BL19B2, X線エネルギー30 keV)により追跡した。粗大粒子の影響を平均化するために試料の搖動を行いながら、計測を行う(実際には電気炉ごと上下動を繰り返す)。検出器は大面積で必要な角度範囲を一回で測定でき、かつデバイリングの平均化が可能なPILATUS-2Mを使った。PILATUS-2Mは珪石のような粗大粒子の存在する不均一な反応系の追跡にも非常に有効である。なお、PILATUS-2Mのデータを1次元化するソフトはIgor Proを使って自作しており、長時間にわたって取得される多量のデータを処理するマクロも作っている。各測定での温度、圧力(1.1 MPa)は、実験ハッチ内からケーブルでデータロガーに転送、収集した。また、実験後、試料を持ち帰り、最終生成物について実験室系でのX 線回折測定(Cu-Kα, 8.05 keV)を行った。


結果および考察:

 低温合成の可能性を検討した意図は、低結晶性珪石は溶解がより低温で起こるために低温合成の可能性があると考え、今までと逆転の発想にある。図1に石膏を添加して合成した2試料の最終生成物の実験室系でのX線回折パターンを示す。これより、180°Cでも190°Cと同様にトバモライトが生成し、かつXonoの生成が抑制されていることがわかる。



図1 石膏4wt.%添加、180°Cおよび190°C合成の最終生成物のX線回折パターン(実験室系で測定)


 まず、BL19B2で測定した一連のX線回折パターンの温度変化を図2に示す。図2においては図の下から上にXRDプロファイルの時間変化をスタックしている。次に、原料および生成物の時間変化を図3に示す。ここで、図中のQ:珪石、P:水酸化カルシウム、T:トバモライトである。ここで、回折強度としてQ は(100), (101), (110)線の強度の合計を、Pは(001), (100), (101)線の強度の合計を、Tは(002), (220), (222)線の強度の合計を取った。190°C合成の場合は、Pがなくなると直ぐにTが生成し始めるが、180°Cの場合は20分ほどのタイムラグがあってTの生成が始まる。この理由は現在不明である。しかしながら、図4からわかる様に、それ以降、T生成の時間変化は同様な傾向にある。また、図4からT生成初期のT回折強度の時間変化(T生成初期の挙動)が180°Cと190°Cで少し異なるが、これが何を意味するのか、このとき何が起こっているのかは今後の課題である。




図2 石膏4wt.%添加、180°Cおよび190°C合成のX線回折パターンの温度変化



図3 石膏4wt.%添加、180℃および190℃合成時のQ, P, Tの回折強度の時間変化



図4 石膏4wt.%添加、180℃および190℃合成時のTの回折強度の時間変化(拡大、重ね書き)


まとめと今後の課題:

 今回の実験で、低結晶質珪石を使ったトバモライト合成について低温合成の可能性が確認された。また、180°C合成ではXonoの生成がなかった。今後、更に他の条件でも検討を重ねて、低結晶質シリカ系における低温合成の可能性を検討し、今まで利用できていないシリカ源を使った低コストALC生産プロセスの確立を図っていきたい。


参考文献:

[1] J. Kikuma, S. Matsuno, et. al., J. Synchrotron Rad. 16, 683-686 (2009).

[2]菊間 淳、松野 信也、分析化学, 4, 287-291 (2010).

[3]菊間 淳、松野 信也、分析化学, 6, 489-498 (2010).

[4] J. Kikuma, S. Matsuno, et. al., J. Am. Ceram. Soc. 93 [9] 2667–2674 (2010).

[5] K. Matsui, S. Matsuno, et. al., Cement and Concrete Research, 41, 510–519 (2011).

[6] J. Kikuma, S. Matsuno, et. al., J. Solid State Chemistry, 184, 2066–2074 (2011).



ⒸJASRI


(Received: December 11, 2014; Accepted: January 16, 2015; Published: February 10, 2015)