SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume3 No.1

Section C : Technical Report

BL02B1(単結晶構造解析)の現状(2014)
Present Status of BL02B1 (2014)

DOI:10.18957/rr.3.1.100
2014A1901 / BL02B1

杉本 邦久a、安田 伸広b

Kunihisa Sugimotoa, Nobuhiro Yasudab

a(公財)高輝度光科学研究センター・利用研究促進部門・構造物性Iグループ、b同・ナノテクノロジー利用研究推進グループ

aMaterials Structure Group I, Research & Utilization Division, JASRI, bNanotechnology Research Promotion Group, Research & Utilization Division, JASRI

Abstract

 BL02B1は偏光電磁石を光源としたビームラインで、主として単結晶試料による結晶構造解析を目的とした研究のために建設された。現在、精密構造解析を主軸とする物質構造と物性との相関を明らかにする研究が展開されている。


キーワード:極低温、時間分解、CCD検出器



I.基本性能と実験装置

(詳細は、http://www.spring8.or.jp/wkg/BL02B1/instrument/lang/INS-0000000581/instrument_summary_viewを参照)

 光学ハッチには、2結晶分光器の前後にミラー(白金コート)が設置されており、それぞれX線ビームの平行化及び鉛直方向の集光を行っている。さらに、サジタル集光結晶(第2結晶)により水平方向に広がったX線ビームを集光することによって輝度を高めており、微小結晶を対象とした実験にも対応している。光学ハッチに設置されているSPring-8標準型の分光器で分光可能なX線エネルギーは、5 keVから115 keVまでであるが、標準的には、18 keVから35 keVを使用する。

エネルギー領域 5 ∼ 115 keV(Si(311)が標準配置、Si(111)、Si(511)をインクラインド配置により使用)
エネルギー分解能 ΔE/E ≈ 10-4(@E = 35 keV、Si(311)で分光)
フラックス < 1010 ph/s
(X線エネルギー35 keV、蓄積電流100 mAの条件)
ビームサイズ(半値全幅) 0.15 mm (水平) × 0.15 mm (垂直)
(X線ミラー(垂直)及びサジタル集光(垂直)による値)

使用できる実験装置としては、主に以下のものがある。
(1)大型湾曲IPカメラ
(2)CCD検出器
(3)4軸回折計

図1に、光学系レイアウトを示す。


図1 BL02B1光学全体レイアウト


Ⅱ.利用状況

 2013A期2013B期合わせて33課題が実施された。採択率は、2013A期、2013B期それぞれ、64.7%、52.9%であった。図2(左図)に、2013年度のBL02B1の応募・採択課題数の機関割合を示す。各機関の応募・採択課題は、大学等教育機関が最も多く、応募23課題・採択15課題、国立研究機関等が、応募4課題・採択1課題、海外機関が、応募6課題・採択3課題であった。図2(右図)に、2013年度の本ビームラインの研究分野割合を示す。構造解析が最も多く、応募22課題・採択13課題、精密構造解析が、応募9課題・採択6課題、産業利用が、応募2課題・採択0課題であった。ビームラインの高度化によって、CCD検出器が導入されたことから、不安定な結晶や微小結晶の構造解析が増加傾向にある。本ビームラインでは、2009年度から2013年度までパワーユーザー課題「単結晶高分解能電子密度分布解析による精密構造物性研究」(代表者:澤 博教授/名古屋大学)及び2013年度~2015年度まで長期利用課題「外場によって誘起される原子・分子ダイナミクスのマルチモード時分割構造計測」(代表者:青柳 忍准教授/名古屋市立大学)の実験が行われており、今後、これらの課題による精密構造解析研究及びビームラインの高度化が期待される。また、成果公開優先利用課題は、3課題、萌芽的研究支援課題は、1課題、重点グリーン/ライフ・イノベーション推進課題は、2課題が実施された。


図2 2013年度のBL02B1の応募・採択課題数の機関割合(左図)、研究分野割合(右図)。


Ⅲ.高度化の実施内容と成果

Ⅲ-I.クローズドサイクル冷凍機システムの高度化

 本ビームラインでは、これまで既存のHe/N2ガス吹き付け装置により試料の温度を制御してきた。しかしながら、この装置での試料部の最低到達温度は20 Kであり、分子性導体の金属-絶縁体転移など、より低温領域での現象について直接観察に基づいた構造と物性の関係を議論することはできなかった。そこで、本高度化では、20 K以下の温度領域でも単結晶X線回折実験を可能とするために、クローズドサイクル冷凍機の高度化を行った。一般的なX線回折用のクローズドサイクル冷凍機システムでは、入射及び回折X線の減衰を避けるためにベリリウムによるドーム型シュラウドを作成し使用する。しかしながら、窓材としてベリリウムを用いたシステムでは、ベリリウムに起因する散乱線によりバックグラウンドが上昇するため、統計精度の良いデータを収集することは困難である。本冷凍機システムでは、ベリリウムのドームに代わってスーパーインシュレータを円筒状に整形した内部シールドを採用した。また、X線ビームストッパーは最外部シールドの内側に配置することによって、内部シールドからの散乱線を減少させることができた。図3の写真のように、本冷凍機システムを大型湾曲IPカメラの一軸ゴニオメーターに取り付けた後、試料部に設置した校正済みセルノックス抵抗温度計により測定したところ8 Kまで冷却していることを確認した。本高度化によって、内部シールドを改良したクローズドサイクル冷凍機が開発され、20 K以下8 Kまでの試料の温度制御が可能となった。


図3 本冷凍機システムを大型湾曲IPカメラの一軸ゴニオメーターに搭載


Ⅲ-Ⅱ.単結晶試料のためのX線チョッパーによる時間分解測定システムの高度化

 本ビームラインでは、これまでにレーザー光や電場などがもたらす静的な励起状態の結晶構造について明らかにしてきた。さらに、外場因子により生じる現象を動的な結晶構造の変化から解明するために、X線チョッパーを用いた単結晶試料のための時間分解測定システムの高度化を行った。本高度化で用いたX線チョッパーは、これまでにナノテクノロジー利用研究推進グループにより開発・整備を進めてきたものであり、円盤上に施されたスリット溝の幅と回転数によってX線ビームの切り出しのタイミングを制御している[1]。時間分解測定システムの構築により、高電圧パルス電場によって生じる強誘電体BaTiO3の単結晶の電場誘起歪みにより発現するイントリンジックな圧電応答の直接観察を行った。この結果、単結晶BaTiO3の電場誘起歪みによる動的な圧電応答現象のメカニズムが明らかになった[2]。本高度化により、パルス放射光、X線チョッパー、励起源を同期させ、ポンプ-プローブ法による単結晶試料のサブナノ秒の時間分解X線回折データを収集することが可能となった。


Ⅲ-Ⅲ.CCD検出器の整備

 本高度化では、制御及び測定においてユーザーに扱いやすく、既存のIPと緩衝しない検出器としてCCD検出器の導入を検討した。本CCD検出器の外観図と仕様は、それぞれ図4と表1に示す。CCD検出器の導入に当たっては、下記のことを考慮して単結晶試料の外場条件を変更することなくIPとCCDの検出器を容易に切り替えられることを念頭に行った。近年、結晶学、化学、材料科学などの分野の多くの雑誌は、単結晶構造解析結果の信頼性やデータベースの質の維持を目的とし、0.6 < sinθ/λ 以上の分解能の範囲で98%以上の独立反射の観測を構造解析に必要不可欠な測定条件としている。放射光実験の利点として、バックグラウンドの上昇の要因である蛍光X線の影響を最小限に抑えるため、吸収端近傍の波長を避けたX線エネルギーを選択することができる。しかしながら、X線エネルギー可変の条件下では、上述の測定条件を満たすデータを観測するためには、結晶から検出器の距離(カメラ長)及び光軸に対するオフセット角(2θ 軸)を最適化する必要があり、それぞれを制御できるステージ上に検出器を配置した。また、ユーザーによりIPとCCDの検出器の切り替えを行う際には、装置同士の緩衝が懸念される。そこで、電気的にIPとCCDが同時に駆動しないような回路を組むとともに、装置にリミットスイッチを配置することにより、トラブルが起こらないよう配慮した。さらに、測定ソフトウェアはIPカメラと同じインターフェースを採用し、測定においてユーザーが混乱しないようにプログラムを開発した。シミュレーションソフトについても、国際的論文雑誌の投稿規定が推奨する分解能を入力すれば、その範囲内でのコンプリートネスを計算するように改良を実施した。本CCD検出器の導入により、既に多数の巨大分子の構造解析に成功している[3]。本高度化によって、超分子結晶のような不安定かつ比較的大きい結晶格子を有する単結晶試料の測定が可能になっただけでなく、これまでビームタイムの制約により非現実的であった構造解析を目的としたポンプ-プローブ法による時間分解実験の実施が可能となった。


表1 CCD検出器の主な仕様

Product name Rigaku Mercury2CCD
Detecting area 70 × 70 mm
Pixel size 68 μm/1024 × 1024, 136 μm/512 × 512
Dynamic range 16 bit
Reading time 2.3/0.6 sec (1024/512)

図4 CCD検出器の外観図


以上の高度化及び性能試験は、インハウス課題2014A1901を含むビームタイムにより実施した。


参考文献

[1] 大沢仁志 他:第24回日本放射光学会 講演番号 3B005 2011年1月.

[2] C. Moriyoshi et al., Jpn. J. Appl. Phys., 50 (2011) 09NE05.

[3] Y. Yamada et al., J. Am. Chem. Soc., 135 (2013) 11505−11508.



ⒸJASRI


(Received: September 1, 2014; Early edition: September 30, 2014; Accepted: January 16, 2015; Published: February 10, 2015)