SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume3 No.2

SPring-8 Section B: Industrial Application Report

メカノケミカル複合化した固体酸化物形燃料電池用酸素イオン伝導体のIn-situ XAFS解析
In-situ XAFS Analysis of Perovskite Oxygen Ion Conductor for SOFC Combined by Mechanochemical Process

DOI:10.18957/rr.3.2.502
2012B1721 / BL14B2

岩井 広幸、犬飼 浩之、高橋 洋祐

Hiroyuki Iwai, Koji Inukai, Yosuke Takahashi


(株)ノリタケカンパニーリミテド

NORITAKE CO., LIMITED


Abstract

 固体酸化物形燃料電池(SOFC)電極に用いる酸素イオン伝導材料La0.6Sr0.4Ti0.3Fe0.7O3-δおよびLa0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8O3-δをメカノケミカル処理による複合化にて飛躍的に発電性能が向上することが分かっている。この材料について、作動条件(高温かつ酸化および還元雰囲気)での材料挙動を、in-situ XAFSで解析した。メカノケミカル処理による粒子の価数変化、配位状態の変化などが懸念されたが、材料が不安定な高温還元雰囲気になっても、FeおよびCoに近接する酸素が欠損する挙動が現れるが、メカノケミカル処理の有無では大きな変化がないことが明らかなり、電極の耐久性にも影響しないことが期待される。


キーワード: 酸素イオン伝導材料、SOFC、燃料電池


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背景と研究目的:

 省エネルギー化、二酸化炭素排出抑制を背景に、高効率な固体酸化物形燃料電池(SOFC)の実用化要望が増してきている。また、従来の大規模発電所では実現できない中規模分散型電源が、災害リスク対策の観点からも望まれている。SOFCは、実用化が進んでおり、2015年ごろには普及される予定である。我々は、SOFCの心臓部となる酸素イオン伝導材料および酸素イオン伝導モジュールの実用化研究を進めてきている。環境・エネルギー分野において、これらの重要性が増してきており、国際的なニーズも増してきている。このような状況の中、電極として一般的に用いられているLa0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8O3-δ(以下、LSCF)とLa0.6Sr0.4Ti0.3Fe0.7O3-δ(以下、LSTF)をメカノケミカル処理で複合化することで、LSCFシェル,LSTFコアとなるようなコアシェル状粒子とすることで、熱膨張係数が電解質に近くなり、ヒートサイクル耐久性が向上するだけでなく、発電性能についても実用レベルまで向上することが分かってきた。

 本研究では、SOFCに用いるLSCF-LSTFメカノケミカル複合化材料を高温かつ酸化および還元雰囲気下における作動条件において、in-situ XAFS法により測定し、材料を構成する原子の局所構造を解析して、高イオン伝導性能かつ高耐久性の酸素イオン伝導体材料の新たな開発指針を得ることを目的とする。


実験:

 高速攪拌混合機を用いてLSCF粉末およびLSTF粉末をメカノケミカル処理により複合化した。この際混合比はLSCF : LSTF = 30 : 70とし、メカノケミカル処理を施していない粉末も用意した。これら粉末をプレス成形(φ10 mm×0.1 mm)して、XAFS測定試料とした。測定試料は、まず空気雰囲気下で室温から600°C、700°C、800°Cと昇温しながら、二結晶分光器の結晶にSi(111)を用いて、透過法によりFe-K吸収端のin-situ XAFS測定を行った。その後、その試料を300°Cまで一度冷却して、窒素ガスで置換し、窒素雰囲気が安定した後、再度600°C、700°C、800°Cと昇温しながら、XAFS測定を行った。空気雰囲気下におけると同様に窒素雰囲気下におけるXANESスペクトルを得た。さらに、その後、試料を300°Cまで一度冷却して、水素ガスで置換し、同様に水素還元雰囲気におけるXAFS測定を行った。


結果および考察:

 図1にメカノケミカル処理有無の変化確認のため、酸化および還元雰囲気における、Fe-K吸収端のXENESスペクトルを示す。高温還元雰囲気になるとFeの価数が小さくなることが確認された。この現象は、課題番号2010A1855で報告したLSTFのみの場合と同じ傾向を示した[1]。メカノケミカル処理の有無によるFe-K吸収端のXANESスペクトルの変化は観察されなかった。

 一方、図2に同様の試料の酸化および還元雰囲気における、Co-K吸収端を示した。Coにおいても高温還元雰囲気になるとCoの価数が小さくなることが確認された。Fe-K端と同様にメカノケミカル処理の有無によるCo-K吸収端の変化は観察されなかった。

 SOFCに用いるペロブスカイト電極材料は酸素不定比性が大きいため、高温還元雰囲気中では酸素脱離が起きる。熱重量測定において300°C程度から酸素脱離が開始されるため、FeおよびCoの価数が変化すると予測される。図3に示した動径分布関数からCo、Feまわりの酸素脱離状態を比較すると、Coまわりの酸素の方が脱離しやすいと考えられる。

 メカノケミカル処理したLSCF、LSTF複合材料については、メカノケミカル処理による極端に大きな原子挙動の差異は少ないと考えられる。すなわち、SOFCに用いる電極材料として、メカノケミカル複合化すると性能が向上するが、そのことによって耐久性は低下しないと考えられる。メカノケミカル処理による複合化を利用した材料開発を進めていく上で、重要な基礎知見を得ることができた。

 産業面においては、高性能なLSCFを固体酸化物形燃料電池(SOFC)の空気極材料として用いているが、熱的特性(熱膨張係数)がセル構成材料であるZrO2,CeO2といった材料との差が大きいため、SOFCに求められるヒートサイクル耐性といった要求性能を満足しきれないのが現状である。我々が提案しているLSCF-LSTFメカノケミカル複合材料は要求熱特性を満たす材料である。本試験にて取得した重要な基礎知見を活用し、産業化を推進していく。



図1. LSCF、LSTF複合化粉末(a)空気中、(b)水素中のXANESスペクトル(Fe-K吸収端)

NT:メカノケミカル処理無し、MC:メカノケミカル処理有り



図2. LSCF、LSTF複合化粉末(a)空気中、(b)水素中のXANESスペクトル(Co-K吸収端)

NT:メカノケミカル処理無し、MC:メカノケミカル処理有り



図3. 700°C空気、N2、H2雰囲気中におけるLSCF、LSTF複合化粉末(a)Fe、(b)Coの動径分布関数

NT:メカノケミカル処理無し、MC:メカノケミカル処理有り


今後の課題:

 本試験では、複合化条件を限定したサンプルについての測定であった。次回以降の実験において、複合化する粒子の粒子径や複合化条件の異なるサンプルについて、さらにXAFS測定を行い、酸素イオン伝導メカニズムおよびSOFC電極反応への複合化の寄与を明確にできるかが課題と考えられる。さらに、メカノケミカル反応が起こっているのは表面であるため、透過法ではメカノケミカルの影響を評価できなかった可能性もある。転換電子収量法など異なる評価手法を検討する必要があると考える。


参考文献:

[1] 高橋 平成22年度重点産業利用課題成果報告書(2010A) 2010A1855.



ⒸJASRI


(Received: June 10, 2013; Early edition: April 28, 2015; Accepted: June 29, 2015; Published: July 21, 2015)