SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume3 No.2

SPring-8 Section B: Industrial Application Report

蛍光XAFSによるフェライト磁石中に存在する微量不純物元素の化学形態の解明
Chemical State Analysis of Trace Impurity Elements in Commercial Ferrite Magnets by Fluorescent XAFS

DOI:10.18957/rr.3.2.558
2013B1822 / BL14B2

藤井 達生a, 中西 真a, 坪井 禅b, 三島 泰信b, 大渕 博宣c, 本間 徹生c

T. Fujiia, M. Nakanishia, S. Tsuboib, Y. Mishimab, H. Ofuchic, T. Honmac


a岡山大学, bDOWAエフテック(株), c(公財)高輝度光科学研究センター

aOkayama Univ., bDOWA F-Tec Co. Ltd., cJASRI


Abstract

 化学物質規制の強化に伴い、不純物レベルの微量な化学物資についても、近年、その安全性の確認が迫られている。本研究では、蛍光XAFS測定により、フェライト磁石中に含まれる微量不純物金属元素の化学形態を解明することで、その安全性の評価を行っている。その手始めとして、フェライト中に存在するNi不純物の蛍光XAFS測定を行い、Niが六方晶フェライト格子中のFeサイトに置換固溶していることを明らかにした。


キーワード: フェライト磁石、化学状態分析、微量不純物元素、蛍光XAFS


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はじめに:

 酸化鉄を原料とするフェライト磁石は、希土類磁石に比べると非常に安価であるため、現在でもスピーカや汎用モータなどに数多く使用されている。しかし、フェライト磁石の原料となる工業用酸化鉄には、不純物としてCrやNiなどの遷移金属元素が0.1 wt%近く含まれており、CrやNiは第一種指定化学物質として有害性が指摘されている元素でもある。しかもCrやNiは、その化学形態によっては高懸念物質に指定された化合物もあることから、フェライト磁石中に含有される微量不純物元素についても、欧州のReach規制に代表されるような国内外の化学物質規制の動向を鑑みると、その濃度と化学形態によっては将来的に問題となることが危惧されている。そのためフェライト磁石メーカでは、緊切の課題として、製品中に含まれる微量不純物元素の化学形態の解明を急いでいるが、X線回折をはじめとする一般的な機器分析の手法では、そのような微量不純物元素の同定は不可能である。そこで本研究では、高い輝度を有する放射光を利用したSPring-8での蛍光XAFS分析により、フェライト磁石中の不純物元素の化学状態分析を行うことを試みた。


実験方法:

 分析した試料は、岡山県内に本社工場を持つフェライト粉専業メーカのDOWAエフテック株式会社製のストロンチウムフェライト(SrFe12O19)粉末成型体である。蛍光XAFS測定に先立ち、まず、フェライト成型体の蛍光X線分析の結果を表1に示す。その主たる構成元素はSr、Ba、Fe、Oであり、遷移金属不純物としてCr 0.07 wt%、Mn 0.47 wt%、Ni 0.02 wt%、Cu 0.03 wt%等を含んでいた。そこで今回の実験では、微量不純物元素の中でも、まずNiに焦点を絞り、Ni K吸収端の蛍光XAFS測定を実施した。測定はBL14B2においてQXAFS法にて実施し、19素子ゲルマニウム半導体検出器によりNi Kα線のみを選択的にカウントするとともに、スペクトルのS/N比向上のため時間の許す限り積算を繰り返した。測定系の光学配置は、BL14B2の標準的なものを用いている。またフェライト成型体に加えて、ストロンチウムフェライトのFeサイトをNiとTiで置換した Sr(NiTi)Fe11O19、NiとFeの酸化物であるNiFe2O4、およびNiのみの酸化物NiOの3種類の酸化物を参照試料として用意した。参照試料については透過XAFS測定とし、所定量を秤量後、BN(窒化ホウ素)粉末と混合・プレス成型したものを準備した。なお、当初の計画ではバッチの異なる3種類のストロンチウムフェライトについて蛍光XAFS測定を実施する予定であったが、試料中のNi濃度が約0.02 wt%と非常に小さいためS/N比の良いXAFSスペクトルを得るためには、1試料あたり1シフト以上の積算時間を要してしまい、割り当てられた2シフトのビームタイムでは、1試料の測定を行うのが精一杯であった。


表1. 蛍光X線分析によるフェライト粉末成型体の元素分析結果 (wt%)


結果と考察:

 図1にストロンチウムフェライト成型体および各参照試料のNi K吸収端XAFSスペクトルを重ねて示す。フェライト成型体中のNi不純物は、3種類の参照試料と同じく、Ni2+に典型的な吸収端エネルギーを示しており、不純物はNi2+の化学状態で存在していることが明らかとなった。加えてその微細構造を詳細に比較すると、フェライト成型体中のNi不純物の吸収極大位置は、NiOとはわずかにずれており、NiFe2O4またはSrFe12O19中のFeサイトをNiで置換したSr(NiTi)Fe11O19とほぼ完全に一致した。



図1. ストロンチウムフェライト成型体および参照試料のNi K吸収端XAFSスペクトル


 ところでSrFe12O19は、図2に示すように、その結晶構造中にNiFe2O4と等価な構造ブロック(スピネルブロック(S-block))を持つ。言い換えると、NiFe2O4とSr(NiTi)Fe11O19のスペクトルの類似性から、NiはSrFe12O19中のスピネルブロックのFeサイトを置換していることを強く示唆している。よって、フェライト成型体中のNi不純物についても、NiはSrFe12O19中のFeサイトに置換固溶していると考えられ、その化学形態は、全米産業衛生政府専門官会議(ACGIH)の分類によると、ニッケル化合物の中でも比較的毒性の低い難溶性群に分類される。よって、フェライト成型体中のNi不純物が人に暴露される危険性は無視することができ、欧米における化学物質規制の対象には含まれないと判断できる。



図2. マグネトプラムバイト型フェライト(SrFe12O19)の結晶構造



今後の課題:

 最後に、今後の化学物質規制の動向を考えた場合、微量不純物元素の化学形態の解明はますますその重要性が高まることが予想されており、今後はCr、Mnなど他の不純物元素に対しても同様に蛍光XAFS分析を適用していきたいと考えている。



ⒸJASRI


(Received: April 24, 2014; Early edition: April 28, 2015; Accepted: June 29, 2015; Published: July 21, 2015)