SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume3 No.1

Section B : Industrial Application Report

トバモライト合成への低結晶質シリカの活用(6)
Use of Low Crystalline Silica for the Synthesis of Tobermorite (6)

DOI:10.18957/rr.3.1.62
2014A1504 / BL19B2

松野 信也a, 東口 光晴a, 石川 哲吏a, 小川 晃博b, 松井 久仁雄b

Shinya Matsunoa, Mitsuharu Higashiguchia, Tetsuji Ishikawaa, Akihiro Ogawab, Kunio Matsuib

a旭化成㈱, b旭化成建材㈱

aASAHI KASEI. CO. LTD., bASAHI KASEI CONSTRUCTION MATERIALS CO.


Abstract

 軽量気泡コンクリート(ALC)の主成分であるトバモライト(tobermorite 化学組成:5CaO・6SiO2・5H2O)の量と質は、その性能と密接な関係にあり、その反応過程を制御したALCの改良研究が、日本および欧州で活発になされている。そのような中で、我々はフライアッシュ(火力発電所から排出される石炭灰)など低結晶質シリカ源の利用検討を行っている。今回は、通常トバモライトを生成しない微結晶シリカを使い、その系に水酸化リチウム(LiOH)を添加し、昇温速度を変えてトバモライト生成への影響を調べた。今回の実験で、Li添加のトバモライト生成への効果は再確認されたが、昇温速度の影響は小さいことが分かった。


キーワード: 水熱反応、トバモライト、低結晶質シリカ、軽量気泡コンクリート、

       水酸化リチウム、フライアッシュ


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背景と研究目的:

 フライアッシュは石炭火力発電に伴い発生する灰(低結晶質シリカ)で、日本では石炭利用率の増加に伴いその発生量は年々増加している。2008年の統計では1,230万トンもの量が発生している。フライアッシュ(以下、FA)の大部分は、セメント原料としてリサイクルされているが、セメントの国内生産量は、最盛期の約1億トンから現在4千万トン台まで大きく減少しており、今後もセメントリサイクルへ回されるFA量の減少が余儀なくされる。このような中、我々はFAをはじめとした低結晶質シリカを使いこなす技術を開発すべく検討を行っている。しかしながら、目標物性を得るための技術的障壁は高く、反応メカニズムの解明を含めた基礎レベルからの検討が必要不可欠である。幸い我々の研究グループは、今までの検討において得られた珪酸質原料の反応性の水熱反応への寄与、アルミニウム化合物添加がトバモライト生成を促進する等の知見[1-6]および、予備検討による知見(LiOH添加効果)を活かすことにより、FAをはじめ低結晶質シリカを原料とした高品質のALCを実現できる可能性を検討中である。

 今回の課題ではトバモライト生成促進効果が認められたLiOHを添加し、昇温過程でLi2O・SiO2を析出させ、そのことによって溶液中のSiイオン濃度を変化させるべく昇温速度を変化させた実験を行った。


実験:

 今回の実験では、原料としては反応および生成物を単純化するためセメントを使わない高純度原料系による実験を行い、微結晶珪石(SIL5、平均粒径2.2 μm)、高純度酸化カルシウム、水、LiOHの混合物(水/固体比は1.7)を予備養生したものを、Be窓を有する水熱反応計測用のセルに入れ、それを加熱用の電気炉内にセットする。電気炉を架台上にセットし、Be窓を通してX線を入れる[1]。実験は、室温からトバモライトが熱力学的に安定な190°Cまで加熱し、その温度で保持することによりトバモライトを合成し、その過程を透過法in-situ X線回折(X線エネルギー30 keV)により追跡する。粗大粒子の影響を平均化により低減するために試料の搖動を行いながら、計測を行う(実際には電気炉ごと上下動を繰り返す)。検出器は大面積で必要な角度範囲を一回で測定でき、かつデバイリングの平均化が可能なPILATUS-2Mを使った。PILATUS-2Mは珪石のような粗大粒子の存在する不均一な反応系の追跡にも非常に有効である。なお、PILATUS-2Mのデータを1次元化するソフトはIgor Proを使って自作しており、長時間にわたって取得される多量のデータを処理するマクロも作っている。各測定での温度、圧力(1.1 MPa)は、実験ハッチ内からケーブルでデータロガーに転送、収集した。今回の実験では、昇温速度1℃/min(ブランク、Li3%添加系)および2.75℃/min(Li3%添加系)の条件で実施した。また、実験後、試料を持ち帰り、最終生成物について実験室系でのX線回折測定(ターゲット:Cu)を行った。


結果および考察:

 図1に実験室装置で測定した3試料の最終生成物のX線回折パターンを示す。これより、Li添加により、通常トバモライトが生成しない低結晶性珪石においてもトバモライトが生成すること、更に昇温速度を上げるとトバモライト生成量が増えることがわかった。具体的には、下記の図1中の190℃到達後450分後のT(002)ピークの面積を比較すると、そろぞれ、5.54と7.01(任意単位)になる。



図1 SIL5、SIL5+Li(3)(1°C/分昇温)、SIL5+Li(3)(2.75°C/分昇温)の最終物のX線回折パターン


 まず、今回の測定で得られたX線回折プロファイルの温度変化を図2に示す。次に、SIL5+Li(3)(1°C/分昇温)、SIL5+Li(3)(2.75°C/分昇温)の2試料に於ける原料となる珪石Q、水酸化カルシウムP、そしてそれらの反応生成物であるトバモライトTの時間変化を図3に示す。ここで、それぞれ、Q(001)とQ(101)とQ(110)の強度の和, P(001)とP(100)とP(101)の強度の和, T(002)とT(220)とT(222)の強度の和を取って、時間変化を図示している。





図2 今回の測定で得られたX線回折プロファイルの時間変化



図3 SIL5+Li(3)(1°C/分昇温)、SIL5+Li(3)(2.75°C/分昇温)におけるQ, P, Tの時間変化


図3から昇温速度が速い場合、Q, Pの減少も早いが、トバモライトが生成するタイミングは同じであることがわかる。


まとめと今後の課題:

 今回の実験で、Li添加のトバモライト生成への効果は再確認されたが、昇温速度の影響は小さいことが分かった。すなわち、今回の実験条件ではシリカの溶解制御は小さかったと言える。今後、更に他の条件でも検討を重ねて、FAなど低結晶質シリカ系における反応メカニズムを深耕し、今まで利用できていないシリカ源を使ったALC生産プロセスの確立を図っていきたい。


参考文献:

[1] J. Kikuma, S. Matsuno, et. al., J. Synchrotron Rad. 16, 683-686 (2009).

[2]菊間 淳、松野 信也、分析化学, 4, 287-291 (2010).

[3]菊間 淳、松野 信也、分析化学, 6, 489-498 (2010).

[4] J. Kikuma, S. Matsuno, et. al., J. Am. Ceram. Soc. 93 [9] 2667–2674 (2010).

[5] K. Matsui, S. Matsuno, et. al., Cement and Concrete Research, 41, 510–519 (2011).

[6] J. Kikuma, S. Matsuno, et. al., J. Solid State Chemistry, 184, 2066–2074 (2011).



ⒸJASRI


(Received: September 14, 2014; Early edition: November 28, 2014; Accepted: January 16, 2015; Published: February 10, 2015)