SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume3 No.1

SPring-8 Section B: Industrial Application Report

X線回折による溶融塩電解FeNi粒子の構造評価
Evaluation of FeNi Particles Electrolyzed in Melted Salt by X-ray Diffraction

DOI:10.18957/rr.3.1.67
2014A1506 / BL19B2

林 靖a, 水口 将輝b, 小嗣 真人c, 大坂 恵一c

Yasushi Hayashi a, Masaki Mizuguchi b, Masato Kotsugic, Keiichi Osakac

 

a(株)デンソー, b東北大学, c(公財)高輝度光科学研究センター

aDENSO CORPORATION, bTohoku Univ., cJASRI

 


Abstract

 自動車用高効率モーター用磁石としてL10型FeNi磁石の合成を試みている。これまで塩化物前駆体の固相低温還元法を検討してきたが、Niリッチな合金しか得られず、保磁力が頭打ちとなっていた。そこで今回還元パラメータを詳細に制御できる可能性がある溶融塩中電気化学還元法の検討を開始した。今回、その第一段階として還元条件の異なる試料の結晶構造と保磁力の関係を調べた。その結果、これまでの固相低温還元の場合と同様にFe組成と保磁力の相関が示唆された。


キーワード: L10型FeNi、還元、電気化学、溶融塩、Fe組成


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背景と研究目的:

 自動車用高性能モーターとしてネオジム磁石が用いられているが、自動車環境における耐熱性を確保するためディスプロシウムなど重希土類元素が添加されている。重希土類元素は地球上で偏在しており、特定の地域から大部分が産出する。そのため、コストや安定供給の面で問題がある。このような問題がなく、より低コストなレアアースを含まない磁石としてL10型FeNiの合成に取り組んでいる。

 L10型FeNiは理論的に100°C以上でネオジム磁石に相当する保磁力が期待され、320°Cの相転移温度以上のキュリー点を有する。我々はこれまでにFeとNiを含む複合塩化物を水素化カルシウムを使って固相還元する“塩化物還元法”でFeNi合金としては非常に大きい700 Oe程度の保磁力を有する合金粉末を得ているが、理論的に期待される保磁力に対してはまだ1桁以上の乖離がある。これまでの研究から保磁力が上がらない主な要因のひとつはFe組成が40%以下であることが分かってきた。これはNiはFeに対して貴であって還元されやすいことと、固相反応では還元された合金自身が前駆体と還元剤の接触を妨げて還元初期で組成が決まってしまうためであると推定している。これを解決し得る手法として溶融塩中の電気化学還元を提案した。本手法の予備調査として異なる条件で電気化学還元したFeNi合金の結晶構造と磁気特性の相関を調べることを目的とする。

 

実験:

 溶融塩の選定に当たっては拡散の観点から220°C以上で溶解すること、安定性の観点から300°C以上でも安定であること、FeとNiの活量の調整の観点からNi塩の溶解度がFe塩に比べて低いことを考慮して[1]、KCl-ZnCl2系を選定した。Ni塩に関しては溶解度のデータがないが、Fe塩に関しては十数%の溶解度があるため[1]、今回の実験では若干余裕を見てFe塩とNi塩の合計が12 mol%となるようにした。尚、Fe塩としてはFeCl2・4H2O、Ni塩としてはNiCl2・6H2Oを用いた。実験前に水分を除去するために窒素雰囲気中290°Cで気泡の発生がなくなるまで加熱した。アノードにはパーマロイB(Fe:Ni=55:45)、カソードにはNiを用い、2.0 Vで定電圧還元を行った。還元後溶融塩ごと回収して2%あるいは5%HCl洗浄10 min後、乾燥した試料は0.3 mmφのキャピラリーに封入してX線回折用試料とした。今回使用した試料の水準を表1に示す。尚、表1にはカンタムデザイン社製Versa Lab/VSMで測定した磁化と保磁力も記載した。

 BL19B2設置のカメラ長286.5 mmのデバイシェラーカメラを用いてX線回折測定を行った。Feの規則性を強調する目的でX線のエネルギーはFe-K吸収端近傍の7.11 keVとした。また、Feの規則由来の回折かどうかを明確にするため、7.20 keVでの評価も実施した。積算時間は100 minとした。

 

表1 評価した試料の水準

Fe,Niの塩の合計は溶融塩中の濃度が12 mol%となるようにした。アノードにはパーマロイB、カソードにはNiを用いて2.0 Vで電析を実施した。

結果および考察:

 図1にX線回折の結果を示す。図中の11-, 21-, 31-の表記はそれぞれFe:Ni=1:1, 2:1, 3:1を示している。Fe:Ni=1:1ならびに2%HCl洗浄のものでは明確にスピネル型フェライトの回折が確認される。フェライトは溶融塩の加水分解、酸洗浄後の酸化等で生成したと考えられる。

図1 X線回折の結果

7.11 keVと7.20 keVで100 min計測した回折測定結果。図中×はスピネル型フェライトの回折を示す。図中の11-,21-,31-の表記はそれぞれFe:Ni=1:1, 2:1, 3:1を示す。

 

 Fe:Ni=1:1の試料に関しては50º付近の主回折線を見ると高角側にシフトしていることから格子定数が小さくなっていることが分かる。Fe-Ni合金の格子定数はFe:Ni=1:1近傍で最大となるので、溶融塩中のFeが少なく、温度も低いためにNiリッチな合金が析出したと考えられる。また、7.11 keVでは7.20 keVよりもFeの異常散乱の効果が大きくなることが回折強度にも反映されると考えられるが、測定された主回折線の強度差は小さくFeが少ないことを支持している。Fe:Ni=2:1では5%HCl洗浄でフェライトが消失しているが、磁化や保磁力の減少はわずかである。

 一方で3:1のものでは長時間酸洗浄でわずかに存在したFeとNiの組成が1:1に近い格子定数の大きい成分が消失して、1:1の組成ではない格子定数の小さい成分が残存しており、酸処理による磁化や保磁力の減少も大きい。Niリッチな合金とFeリッチな合金が偏析しており、Feリッチな合金が酸洗浄により溶出したものと推定される。Fe:Ni=2:1のものについても50°近傍の回折線は複数あり、組成の異なる合金が偏析していることを示している。X線回折の結果と磁気特性の関係を見ると、格子定数の大きい成分すなわち、Fe:Ni=1:1に近い成分を含むものほど保磁力が高いことが分かる。この結果はこれまでの固相の塩化物還元法と同様の結果である[2]

 今回の実験ではカソードとしてNiを用いたが、電気化学還元においては電極と析出金属が合金化する場合があり、このような反応でNiがリッチ化している可能性がある。また、電極間電圧が一定で還元を行ったが、アノードとカソードの電位は成り行きであるため、カソード電位が十分低くない場合にはNiが優先還元される可能性がある。また、アノードでの溶出やカソードでの析出に伴って各電位が変化して、経時的な組成変調が生じる可能性がある。

 

今後の課題:

 還元条件を安定化させるためにはカソード電位の制御が重要であると考えられる。今回のように電極間電圧を制御するのではなく、カソード電位を一定にして還元を行う必要があると考えられる。また、カソードとの合金化を考慮するとカソードに何を使うかも重要である。

 今後、詳細な電気化学測定を実施して最適な条件を見出していく。

 

謝辞:

 本研究は経産省、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)未来開拓研究プロジェクト「次世代自動車向け高効率モーター用磁性材料技術開発」の委託業務で実施しました。

 

参考文献:

[1] A. Ruh et al., Material and Corrosion, 57(3), 237, (2006).

[2] 林 靖 他、SPring-8/SACLA利用研究成果集(SPring-8 Research Report), 2(1), 151-153 (2014).

 

ⒸJASRI

 

(Received: August 20, 2012; Early edition: November 28, 2014; Accepted: January 16, 2015; Published: February 10, 2015)