SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume3 No.2

分子状酸素の活性化機能を有する担持バナジウム酸化物光触媒に関する光励起状態のXAFS解析
XAFS Analysis for Light-induced Excited State of Supported Vanadium Oxide Catalyst for Activation of Molecular Oxygen

DOI:10.18957/rr.3.2.609
2012B8031 / BL3

片山 真祥a, 稲田 康宏a, 寺村 謙太郎b, 田中 庸裕b

Misaki Katayamaa, Yasuhiro Inadaa, Kentaro Teramurab, Tsunehiro Tanakab

 

a立命館大学, b京都大学

aRitsumeikan University, bKyoto University

 

Abstract

 分子状酸素を光活性化する機能を持つ高分散担持バナジウム触媒を対象とし、XFEL光を利用した波長分散型XAFS(DXAFS)により固体触媒の光励起状態を観測することを試みた。SACLAでのDXAFS実験は均一系について報告されているが[1]、不均一固体試料での応用はまだなされていない。XFELでのDXAFS実験と不均一試料でのポンプ・プローブ実験について明らかになった課題を報告する。


キーワード: 光触媒、単分散バナジウム、波長分散型XAFS、ポンプ・プローブ法


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背景と研究目的:

 光による分子状酸素の活性化は、学術的、産業的に興味深い反応系の一つである。選択酸化は化学工業の根幹を担う重要な反応の一つであり、安価な酸化剤である大気中の酸素を用いたプロセスの構築が望まれている。これまで寺村・田中らは、シリカやアルミナなど高表面積の担体に分散した金属酸化物に着目し、その金属酸化物が原子状に分散されるとユニークな活性酸素種を形成すること、また、この分子状酸素を用いた高難度選択光酸化が進行できることを見出した。高分散に担持された金属酸化物は、分子状酸素の光活性化に対して極めて優秀な光触媒特性を有しており、単分散種を形成できる担体を選ぶことにより、アルカン、オレフィン、アルコールなどの様々な炭化水素に対して有効に機能する多機能触媒系が構築できることを明らかにしてきた。高表面積の固体担体上に高分散される金属元素は、チタン、バナジウム、クロム、ニオブ、モリブデン、タンタルなど多岐にわたる。前述の通り、分子状酸素の光活性化に寄与する化学種は単分散した金属種であり、原子が単核で担体上に分散されているため、その構造決定は容易ではない。

 しかしながら、放射光XAFSにより、いくつかの高分散金属酸化物の構造決定に成功している。例えば、バナジウムの場合では、単核のバナジウム原子が3つの酸素原子を介して担体の原子(シリコンやアルミニウムなど)と結合しており、さらにバナジウム原子からは二重結合で酸素原子が担体から垂直方向に位置していることが、これまでのXAFS解析から明らかになっている[2]。また、励起・発光スペクトルによる検討から、アルミナに担持した高分散バナジウム酸化物(V2O5/Al2O3)では、二重結合している酸素原子とバナジウム原子の間の電荷移動と、平面の酸素原子とバナジウム原子の間での電荷移動の2 種類の過程による光励起が生じ、それぞれの励起一重項状態は項間交差を経て励起三重項状態へと変化すると考えられている[3]

 これらの研究の成果から、アルミナ粉末に担持した高分散バナジウム酸化物が、分子状酸素の光活性化触媒として極めて有用であることが示されているが、その活性を司る励起三重項状態や、その前段階である励起一重項状態のバナジウム原子の電子状態と局所構造は明らかではない。本研究では、分子状酸素の光活性化触媒として機能する高分散に担持されたバナジウム酸化物を対象とし、その励起一重項状態と励起三重項状態について、XFEL光を用いたV K吸収端時間分解(ポンプ・プローブ)XAFS法により解析することを目的とする。

 

実験:

 XFEL光を利用したDXAFS実験[1]はSACLA BL-3実験ハッチ2で実施した。装置のレイアウトを図1に示す。試料には粉末である3 wt% V2O5/SiO2を、直径10 mmの錠剤に成型し、大気中の酸素や水分から保護するためAr雰囲気下でポリエチレン袋に密封した状態で用いた。入射XFEL光の中心エネルギーはV K吸収端(5.46 keV)とした。試料前に集光ミラーを設置し、試料透過後の発散光をリン酸二水素アンモニウム平板結晶により分光することでXAFSスペクトルを得た。検出器にはMPCCDを用い、集光ミラーよりも上流に設置した透過型回折格子によりスプリットしたビームを、片方は試料を透過させずに分光し、入射X線強度として吸光度の計算に使用した。ポンプ光にはフェムト秒同期レーザーシステムからの266 nmパルスレーザーを用い、ピコ秒オーダーで電気的に遅延時間を設定することで時間分解測定を試みた。

図1 SACLAでの波長分散型XAFS(DXAFS)実験レイアウト

 

結果および考察:

 XFEL光はパルスごとに強度分布とエネルギー分布が異なるため、放射光実験で一般的に行われるような試料の有無により吸光度を算出することができない。すなわち、完全に同一のパルスで入射光強度と透過光強度を測定する必要があり、これを達成するためにSACLAでは透過型回折格子が用いられている[1]。質の高いXAFSスペクトルを得るためには、スプリットしたビームのスペクトルがお互いに一致していることが重要である。図2には、透過型回折格子を通ったビームのスペクトルおよびスプリットしたビーム強度から計算したブランクのX線吸光度を示す。図2で強度が2 × 104カウント以上の領域では、ブランクのX線吸光度は0.0 ± 0.2である。

 図3には、金属バナジウム箔、V2O5、NH4VO3、担持バナジウム触媒についてビームスプリット方式で得られたXANESスペクトルを入射X線強度と共に示す。担持バナジウム触媒については、図3(D)のように吸収端での吸光度ジャンプが0.2程度と小さいこともあり、ブランク吸光度の変動の影響を大きく受ける。ブランク吸光度の変動に時間変化が無い場合、実験的に差し引くことが可能であるが、実試料のスペクトルでは、この処理によるスペクトルの質の改善はみられなかった。これは、ブランク吸光度の時間変動が無視できないためであると考えられる。また、担持バナジウム触媒について、励起光の有無によるXAFSスペクトルの変化は検知することができなかった。これは、励起光の試料への侵入長が十分ではなかったためだと考えられる。

図2 透過型回折格子によりスプリットしたXFEL光を平板結晶により分光して得られたスペクトル(A)とブランクのX線吸光度(B)

いずれもXFEL100ショットの平均

図3 XFELのDXAFS実験で得られたXAFSスペクトル(100ショット平均)

黒線:入射X線強度、青破線:ビームスプリットで得られたX線吸光度、

赤線:ブランクのX線吸光度を差し引いた吸光度

 

今後の課題:

 XFEL光を用いたDXAFS実験では、分岐したビームのスペクトルとその時間的な安定性が極めて重要である。実試料では、吸収端ジャンプが理想的な大きさをもたない場合も多く、XAFSスペクトルのS/N比をより一層改善することが必要である。具体的には、強度の変動(ノイズ)はXAFS信号の0.1%以下、図2(B)に示したブランク吸光度の変動はXAFS信号の1%以下であることが望ましい。ビームスプリット方式では、試料を透過したか否かで分光結晶への照射光子密度に大きな差が生じるため、それによる分光結晶の不安定性を評価することも重要である。試料側の課題としては、ポンプ・プローブ実験ではポンプレーザーによる励起とX線によるプローブ領域を一致させることが不可欠であり、不均一固体触媒試料での実現には励起光が透過する試料の作製などを検討する必要がある。

 

参考文献:

[1] T. Katayama, Y. Inubushi, Y. Obara, T. Sato, T. Togashi, K. Tono, T. Hatsui, T. Kameshima, A. Bhattacharya,Y. Ogi, N. Kurahashi, K. Misawa, T. Suzuki and M. Yabashi, Appl. Phys. Lett., 103, 131105 (2013).

[2] S. Yoshida, T. Tanaka, T. Hanada, T. Hiraiwa, H. Kanai and T. Funabiki, Catal. Lett., 12, 277 (1992).

[3] K. Teramura, T. Hosokawa, T. Ohuchi, T. Shishido and T. Tanaka, Chem. Phys. Lett., 460, 478 (2008).

 

ⒸJASRI

 

(Received: April 8, 2015; Early edition: May 28, 2015; Accepted: June 29, 2015; Published: July 21, 2015)