SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume3 No.1

SPring-8 Section B: Industrial Application Report

石油増進回収技術への応用を目的とした油-鉱物/水-鉱物の2相界面における吸着構造解析
Structure Analysis on Oil- and Water-Mineral Interface for Application to Enhanced Oil Recovery Technique

DOI:10.18957/rr.3.1.90
2014A1813 / BL46XU

松岡 俊文a, 片所 優宇美a, 山邉 浩立a, 小林 和弥a, 葭谷 暢仁a, 今泉 昂憲a, 日比 隆太郎a, 杉山 俊平a, 立山 優a, 村松 玲奈a, 岡本 直樹a, 三野 泰之b, 下河原 麻衣b, 梁 云峰a, 蜂谷 寛a, 福中 康博c, 村田 澄彦a, 廣沢 一郎d

Toshifumi Matsuokaa, Yumi Katashoa, Hirotatsu Yamabea, Kazuya Kobayashia, Nobuhito Yoshitania, Takanori Imaizumia, Ryutaro Hibia, Shumpei Sugiyamaa, Yu Tateyamaa, Reina Muramatsua, Naoki Okamotoa, Yasuyuki Minob, Mai Shimokawarab, Yunfeng Lianga, Kan Hachiyaa, Yasuhiro Fukunakac, Sumihiko Murataa, Ichiro Hirosawad

a京都大学, b(独)石油天然ガス・金属鉱物資源機構, c早稲田大学/JAXA, d(公財)高輝度光科学研究センター

aKyoto University, bJOGMEC, cWaseda University/JAXA, dJASRI

Abstract

 石油増進回収技術の開発には、油-鉱物、水-鉱物の界面における水分子および油分子の集積、吸着現象の解明が必要である。本研究では鉱物に雲母を、油にシクロヘキサンを採用し、BL46XUにおいて20 keVの入射X線エネルギーでX線CTR散乱法の測定を行った。その結果、X線入射光強度を落とさず測定した場合、雲母基板にX線による損傷が確認された。測定後、損傷個所に対してラマンイメージング測定を実施し、ラマンシフトが240 cm-1から305 cm-1の範囲に見られる鉱物由来のピークの重心位置をマッピングしたところ、色中心の発生が示唆された。一方、入射強度を1/10にすると明確な損傷は見られず、同ビームラインでのX線CTR散乱法測定では入射X線エネルギーを20 keVとした場合、入射光強度を1/10にすればよいことが分かった。


キーワード: 油-鉱物界面、石油増進回収、X線CTR散乱法、マイカ、色中心


背景と研究目的:

 発展途上国の急速な経済成長に対応する石油・天然ガスの需要に応えることが困難になりつつある中で、メタンハイドレートやシェールガスなど新規資源の開発に加えて、効率的な石油増進回収(EOR)技術の開発が求められている。効率的EOR技術の開発には、µmスケール以下の微小孔隙内で、高温、高圧下での水-鉱物および油-鉱物の2相界面現象、将来的には、油-水-鉱物の3相界面現象の解明が必要である。本研究では、X線CTR散乱法により、まずは鉱物と油の2相界面における吸着構造を解明することを目的とする。


実験:

 劈開により新鮮で平滑な表面を作製することができる白雲母と分子全体の外形が扁球面状で吸着構造を評価しやすいシクロヘキサンをそれぞれ鉱物と油に選定した。雲母基板(15 mm×15 mm×0.15 mm)を劈開させ、新しくできた(001)面を上にしてセルに固定した。測定セルは、図1(a)に示すようにX線CTR散乱法による鉱物-水界面の測定で用いられているthin film cell[1]を改良したもので、セル内部に埋め込んだネオジム磁石とNi箔(約5 mm×約5 mm×0.01 mm)とで雲母基板の4隅を押えることで接着剤を使わずに基板を固定するとともに、基板を覆うカプトンフィルムとの間に厚さ0.01 mmの一様なシクロヘキサン膜ができるようにしている。カプトンフィルムは、最初厚さ5 µmのものを用いたが、下記の理由で、途中で厚さ20 µmのものに交換した。

 測定はBL46XUで行い、入射X線エネルギーは20 keVとした。上記の方法で雲母基板を固定し、シクロヘキサンをセル内に満たして密封した後、セルを多軸回折計のステージに取り付けた。入射側のスリットを幅0.2 mm×高さ0.1 mm、受光側のスリットを幅0.6 mm×高さ0.4 mmとしてコリメーションを行った。はじめに、入射光強度を落とさずにL=2.1から0.1ごとに非整数の場合のrockingスキャンをω=±0.1°の範囲で行った。ここで、L=dq/2π、qは散乱ベクトル、dは白雲母の(001)面の面間隔(19.96 Å)である。また、L=6.6の測定中、雲母基板上に図1(b)に示すような損傷または炭化水素の付着と思われる暗色の条線と気泡の発生がモニター画面で確認されたため、L=6.6で測定を中断して雲母基板の確認と交換、カプトンフィルムの厚さ5 µmのものから20 µmのものへの交換を行った。その後、損傷を発生させない入射光強度を求めるため、入射側のアブソーバーを1枚にして入射光強度を1/10にした場合とアブソーバーを2枚にして1/100にした場合の測定を行った。なお、アブソーバーが1枚の場合は、L=12.5から0.1ごとにL=13.7まで、2枚の場合はL=13.5まで測定を行った。また、それぞれの場合において測定の最初と最後に信号強度が強いL=12.1の測定を行い、この2回のrockingスキャンのプロファイルから測定の再現性の確認を行った。



図1 (a)測定セル(thin film cell)の構造と(b)観測セル内の雲母基板にできた条線。


結果および考察:

 まず、得られたrockingスキャンのプロファイルにおいて、ピーク形状にGaussian分布を、バックグラウンドノイズに1次関数または3次関数を適用して両者の分離を行った。次に、フィッティングされたピークの面積を積算時間とqで除し、逆格子空間上でのプロファイルに変換した。その結果を図2(左)に示す。この図に示すように、L=4.7以降は、ピークがほとんど検出されていないことが分かる。これについては、上にも記したようにX線の照射による基板やカプトンフィルムの損傷または炭化水素の付着、気泡の発生が原因であると考えられた。次に、アブソーバーを1枚入れることで入射光強度を1/10にした場合と2枚入れることで1/100にした場合の結果を図2(右)に示す。これらの測定では基板やカプトンフィルムに損傷が見られなかったことから、BL46XUで入射X線エネルギーを20 keVとした場合のX線CTR散乱測定には、得られるCTR信号強度を勘案してアブソーバーを1枚入れた1/10の入射光強度が適切であると考えられる。また、図3に示すように、アブソーバーが1枚と2枚のどちらの場合でも、L=12.1のrockingスキャンのプロファイルが1回目と2回目とで異なっていることから、基板の固定が不十分で測定位置がずれた可能性が考えられる。さらに、基板の縁に気泡が不均等に発生し付着しているのが確認された。この気泡も基板の位置ずれの原因になると考えられることから、測定中に気泡を発生させない工夫も必要であることが分かった。

 測定終了後、L=6.6の測定中に確認された暗色の条線が炭化水素の付着物であるのかどうかを確認するため、まず、条線が付いた雲母基板を劈開してさらに2枚に分けてみた。その結果、2枚両方に条線が確認された。したがって、条線は炭化水素の付着によるものではなく、X線照射により基板内部まで損傷を受けて光学的物性が変化したことによるものと考えられる。次に、東京インスツルメンツ社製レーザーラマンシステムNanofinder FLEXを用いて損傷を受けた領域と受けていない領域の境界部分の図4(b)に黄色の枠で示す範囲に対してラマンイメージングを行った。この装置の入射レーザー光の波長は532 nmで、検出器はAndor社製の電子冷却型CCD検出器である。また、ピエゾステージにより試料の位置を約0.1 µm単位で制御できる。スキャン範囲はx方向98.1 µm、y方向99.4 µmであり、各方向20点ずつの400点でラマンシフトが31 cm-1から2003 cm-1のスペクトルデータを1点あたり2.07秒の積算時間で取得した。スキャン範囲中央の点におけるラマンスペクトルを図5に示す。図5に薄青で示すラマンシフトが240 cm-1から305 cm-1の範囲に見られる鉱物由来のピークの重心の位置を、全てのスペクトルデータから抽出しマッピングした結果を図4(c)に示す。また、同範囲の半値全幅(FWHM)を同様にマッピングした結果を図4(d)に示す。損傷を受けた領域はFWHMが大きくなり、重心が低波数側にシフトする傾向が見られることから、損傷を受けた部分は結晶性が低下し、格子欠陥が増加しているものと考えられる。同様の現象は、Schlegelら[2]の研究でもphoton fluxが1011–1012 photons/sのX線を5時間以上照射した場合に確認されており、雲母内部の結晶の色中心の生成によるものだとしている。今回のラマンイメージングの結果もこのことを裏付けている。しかし、色中心の生成だけでCTR信号が消失することは考えにくく、何らかの表面析出物の生成も考える必要がある。現在のところ、CTR信号の消失を伴い、色中心を高密度で生成するような表面析出物の形成メカニズムは不明であり、今回、L=4.7以降でCTR信号のピークがほとんど検出されなくなった原因についてはさらに検討が必要である。

 以上のように、今回の測定では、雲母基板とシクロヘキサンの系に対して目的とするX線CTR法の測定データを得ることができなかった。しかし、X線照射により雲母基板に損傷が発生することが確認でき、それに対応するための適切な入射光強度と基板の固定等の課題を明らかにすることができた。これにより、次回の測定につながる手がかりが得られたと考える。


今後の課題:

 今回のX線CTR散乱法の測定では基板の固定の問題と入射光強度の問題により、鉱物と油の2相界面における吸着構造を解明するに足りるデータを得ることができなかった。今後は、基板をセルに確実に固定するとともに気泡が生じないような実験システムを構築する。また、入射X線強度を1/10にしてサンプルに損傷を与えないように測定を行う。



図2 シクロヘキサン―雲母基板のX線CTR散乱測定結果。(左)アブソーバー0枚、(右)アブソーバー1枚、2枚の場合。



図3 L=12.1の場合のrockingスキャンプロファイル。(左)アブソーバー1枚、(右)アブソーバー2枚。



図4 損傷を受けた部分のラマンイメージングによる結晶性評価。

(a) 透過顕微鏡写真、(b) スキャン範囲、(c) 272 cm-1ピークの重心位置、(d) 272 cm-1ピークのFWHM



図5 スキャン範囲中央部における白雲母のラマンスペクトル

  (薄青で示す範囲のピークデータを抽出)


参考文献:

[1] Fenter, P. A., Reviews in Mineralogy and Geochemistry, 49, 149 (2002).

[2] Michel L. Schlegel, Kathryn. L. Nagy, Paul Fenter, Likwan Cheng, Neil C. Sturchio, Steven D. Jacobsen, Geochimica et Cosmochimica Acta, 70, 3549 (2006).



ⒸJASRI


(Received: October 23, 2014; Accepted: January 16, 2015; Published: February 10, 2015)