SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume3 No.1

SPring-8 Section C: Technical Report

BL39XU(磁性材料)の現状(2014)
Present Status of BL39XU (2014)

DOI:10.18957/rr.3.1.228
2012A1845, 2012B1976, 2012B1987, 2013A1899, 2013A1901, 2013A1904, 2013B1921, 2013B1922 / BL39XU

河村 直己a、水牧 仁一朗a大沢 仁志b鈴木 基寛a

Naomi Kawamuraa, Masaichiro Mizumakia, Hitoshi Osawab, and Motohiro Suzukia

a(公財)高輝度光科学研究センター・利用研究促進部門・分光物性Iグループ、b同・ナノテクノロジー利用研究推進グループ

aSpectroscopy GroupⅠ, Research & Utilization Division, JASRI, bNanotechnology Research Promotion Group, Research & Utilization Division, JASRI

Abstract

 BL39XUは標準的な直線アンジュレータを光源としたビームラインで、主として偏光を用いたX線分光実験に使用されている。2013年度における主な高度化は、(1)高いX線透過率と耐圧を有する多結晶ダイヤモンド圧力セルの開発、(2)X線発光分光計測の高効率化、(3)ナノビーム走査型イメージング測定の開発、(4)デバイス素子の時間分解顕微XAFS測定に向けた要素技術開発である。


キーワード:高圧下X線分光、X線発光分光、X線ナノビーム、走査型イメージング

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I.基本性能と実験装置

(詳細は、http://www.spring8.or.jp/wkg/BL39XU/instrument/lang/INS-0000000528/instrument_summary_viewを参照)


エネルギー領域 4.91 ~ 37 keV (Si 111 / Si 220)
エネルギー分解能 ΔE/E ~ 2 × 10-4 (Si 111) / ΔE/E ~ 1 × 10-4 (Si 220)
フラックス 5.3 × 1013 ph/s @ 10 keV / 2.0 × 1013 ph/s @ 5 keV
(蓄積電流100 mAの条件)
ビームサイズ(半値全幅) 0.6 mm (水平) × 0.6 mm (垂直)
(X線エネルギー 10 keV、発光点から40 m位置での値)
集光ビームサイズ(半値全幅) 実験ハッチⅠ:2 µm (水平) × 7 µm (垂直)
実験ハッチⅡ:100 nm (水平) × 100 nm (垂直)
偏光度(移相子利用) 使用可能エネルギー 4.91 ~ 16 keV
円偏光 PC > 0.9 / 垂直偏光 PL = 0.5 ~ 0.9

 光源はSPring-8標準型の真空封止アンジュレータであり、磁場周期長32 mm、周期数は140である。アンジュレータ放射の基本波で4.91 keVから18.63 keVまでのエネルギー領域をカバーしている。分光器はSPring-8標準型の二結晶分光器であり、結晶の冷却は液体窒素間接冷却により行っている。このビームラインの最大の特長は、X線移相子により4.91 ~ 16 keVのエネルギー範囲で偏光状態(水平、垂直、左右円偏光)を制御できることにある。


使用できる実験装置としては、主に以下のものがある。

(1) X線磁気円二色性(XMCD)測定装置
(2) 極限環境下X線分光(XAFS/XMCD)装置(高圧セル、超伝導磁石、冷凍機)
(3) ナノビームXAFS/XMCD測定装置(KB集光ミラー、電磁石)
(4) X線発光分光(XES)測定装置(円筒面集光型/球面集光型アナライザー結晶)
(5) 全反射共鳴X線磁気散乱測定装置


図1に、光学系・実験ステーションレイアウトを示す。基本性能と実験装置に昨年度からの大きな変更はない。


図1 BL39XUビームラインレイアウト


Ⅱ.利用状況

 2013A期 ~ 2013B期合わせて 27課題が実施された。採択率は、2013A期、2013B期それぞれ、61%、62.5%であった。図2(a)に、全課題に対する各装置の利用シフト数の割合を示す。XMCD測定装置を使用する実験課題が9課題で計96シフト、極限環境(高圧、強磁場、極低温)下XAFS測定装置を使用する実験課題が5課題で計87シフトある。図2(b)に、全課題に対する各分科会での採択課題シフト数の割合を示す。利用分野としては、XAFSに関連するXa分科会への申請課題が最も多く、14課題であった。XMCD測定に関連するS3分科会への申請課題は13課題でXa分科会よりもやや少ないが、1スペクトルの計測時間がXMCDの方が長いため、申請シフト数の割合はS3分科会の方が多くなっている。全体的に、高圧下での強相関物質に対する基礎研究やデバイス材料に対する研究が多かった。図2(c)に、全課題に対する課題種別のシフト数割合を示す。ビームタイムの大半が成果非専有の一般課題で占められており、成果公開優先利用課題の割合は1%程未満である。現在、長期利用課題として、九州工業大学・渡辺真仁氏の「X線分光法による臨界価数ゆらぎによる新しい量子臨界現象の実験的検証」(2012B期 ~ 2015A期予定)が実施されている。


図2 全課題に対する(a)各装置の利用シフト数の割合、(b)各分科会での採択課題シフト数の割合、(c)課題種別のシフト数の割合


Ⅲ.高度化の実施内容と成果

(1)高いX線透過率と耐圧を有する多結晶ダイヤモンド圧力セルの開発

 7 keV以下の低エネルギー領域では、ベリリウムやダイヤモンドのような軽元素の窓材に対しても、その透過率はX線のエネルギーの低下とともに激減する。高圧下でのX線分光(XAFS・XMCD・XES)計測では、高圧セルとしてダイヤモンド・アンビル・セル(DAC)を主に用いる。一般的に用いられる厚さ1 mmのダイヤモンド二対アンビルの場合、X線透過率は10 keV では2.1 × 10-1であるが、6 keVでは5.2 × 10-4と1/400に低下する(図3)。高圧下で興味深い物性を示す元素(Ti、V、Cr、MnやLa、Ceなど)は7 keV以下に吸収端をもつものが多く、X線分光測定を高精度かつ高効率に行うためには、X線透過率の高い窓をもつDACの開発が必須である。

 最近、XAFS測定に用いるDACのアンビル材として、ナノ多結晶焼結ダイヤモンド(NPD)が利用されている[1]。NPDはグリッチのないスペクトルが得られるという利点がある[2]だけでなく、単結晶ダイヤモンド(SCD)を凌ぐ硬さを有するため、形状加工後の耐圧性も強いと考えられる。そこで、図4のようにNPDに対して非貫通穴加工を施しX線光路部の厚みを薄くすることでX線透過率の向上を図った。厚みを2.0 mmから1.3 mmに薄くした結果、5.72 keVでのX線透過率は20倍以上増大した。

 図5には、CeCu2Si2のCe L3-吸収端(~ 5.72 keV)XANESスペクトルを示す。高圧下で高いS/N比をもつXANESスペクトルが計測できており、圧力に依存したCeの価数変化が明瞭に観測されている。同様の非貫通穴加工を行ったSCDの最大耐圧は4 GPa程度であったのに対し、NPDの場合は15 GPaでも破損しない[3]。DACの最大耐圧はアンビルの穴寸法だけでなく、キュレット(先端面)径にも依存すると考えられる。今後、アンビルの穴寸法、キュレット径と最大耐圧との関係を調べることにより、アンビルの最適形状を追求する計画である。本高度化によって、NPDを用いたDACは5 ~ 7 keV領域に吸収端を有する元素に対する高圧下磁性研究だけでなく、地球科学分野での局所構造解析や化学状態分析の研究、ならびに高圧合成による新規材料開発等の分野に活用されることが期待される。また、高圧下X線分光測定では未開の領域である5 keV以下に吸収端を有するCaやTi、RhやPdのような4d遷移金属元素、ならびにU、Npのようなアクチノイド元素に対する研究の可能性が拡がる。なお、本高度化は、インハウス課題2013B1922によって実施された。


図3 ダイヤモンド(厚さ:1.3 mm、2.0 mm)およびベリリウム(厚さ:5 mm)に対するX線透過率


図4 穴加工を施したダイヤモンド・アンビルの概略図


図5 CeCu2Si2に対する圧力3.2 GPaおよび13.1 GPaでのCe L3-吸収端XANESスペクトル


(2)X線発光分光計測の高効率化

 X線発光分光(XES)は、価数やスピン状態といった電子状態の微小な変化を明確に捉えることができる有用な手法であり、近年、精力的に行われている。BL39XUでは、多様な試料環境(低温/高温・強磁場・高圧など)に対応可能なXES計測法の構築を目指している。内殻正孔の寿命幅で制限されていたエネルギー分解能を超えた、いわゆる寿命幅フリーXAFSスペクトル[4]の導出は、電子状態の微小な変化を捉えるために非常に有用であると考えられる。これには、XESスペクトルの入射エネルギー依存性(入射-発光エネルギー2次元マッピング)の測定が必要不可欠である。しかしながら、XESは二次光学過程のため、信号強度が微弱であり、スペクトル計測には多くの時間を要する。そこで、XESスペクトル2次元マッピングを迅速に計測するために、広受光立体角をもつ球面湾曲アナライザー結晶を搭載したXES計測システムと、アナライザー結晶の角度掃引と位置敏感検出器を組み合わせた高速XESスペクトル計測システムを構築した[5]

 球面湾曲アナライザー結晶(以下、アナライザー結晶)を用いたX線分光器の制御には、「ローランドマウント方式」に従った「ステップスキャン法」が用いられる。この場合、図6に示されるように計測エネルギー点ごとにアナライザー結晶や検出器の角度・位置調整を伴うため、精密多軸制御が必要となり、正味の計測時間以外に自動ステージの加減速や制御通信に時間を要する。このため、迅速なX線分光計測システムの開発が望まれている。XESスペクトルの測定エネルギー領域が数十 eV程度の場合、アナライザー結晶のBragg角の移動量が小さくなる(≤1.5°)ため、結晶の位置制御は回転軸のみとして、また発光X線の検出位置はBragg角に対する一次関数として近似できる(擬ローランド方式)。図7には、発光X線エネルギー(アナライザー結晶のBragg角)と2次元検出器PILATUS上での集光位置の観測結果が示されており、このエネルギー範囲であれば、その関係は一次関数と見なすことが可能であることがわかる。そこで、アナライザー結晶の角度を一定速度で連続的に掃引しながら、適切な位置に固定した位置敏感検出器により発光X線強度を連続計測する「掃引スキャン法」を新たに開発した。これにより、特定の入射エネルギーに対するXESスペクトルの高速計測を実現した。

 図8に、ステップスキャン法と掃引スキャン法により計測したYb Lα1線XESスペクトルの比較を示す。アナライザー結晶にはSi 620、位置敏感検出器にはPILATUS 100Kを用いた。ステップスキャン法では、結晶角度の送りステップ:24 arcsec/step、積算時間:10 s/pointで計測し、1スペクトルの計測時間は46分であった。一方、掃引スキャン法では、結晶角度の掃引速度:180 arcsec/sで計測し、1スペクトルの計測時間は34秒であった。図6には8スペクトル分を積算したもの(全計測時間約5 分)を示している。掃引スキャン法による計測では、全計測時間が約1/9に、1計測点あたりの正味計測時間が1/9程度に短縮されたにも関わらず、例えば図8中の矢印で記されたピーク間の窪みがより深くなるといった、より微細なスペクトル構造が十分な統計精度で計測できていることがわかる。したがって、ステップスキャン法は、自動ステージの駆動や制御通信におけるロス時間があるばかりでなく、正味の計測時間も不必要に長く設定されていたといえる。ただし、このようなスペクトルの微細構造の観測はスペクトロメーター全体のエネルギー分解能で決まるため、ステップスキャン法においても送りステップを十分細かくすれば、微細構造の観測は可能となる。

 掃引スキャン法のエネルギー分解能は、結晶の回折幅、スキャン時の角度分解幅および2次元検出器の空間分解能で決まる。掃引スキャン法では、結晶の角度分解幅の高い計測を高速にできる点にメリットがある。そのため、掃引スキャン法と空間分解能の高い検出器を組み合わせることにより、ステップスキャン法よりも格段に高速に高エネルギー分解能を実現できる可能性がある。入射-発光エネルギー2次元マッピング計測についても、掃引スキャン法を導入することにより、これまでBL39XUで行われていた分散型方式やステップスキャン法と比較して格段に高速化される。今後、XES計測の最適化を目指したプログラムや検出器開発、微弱な蛍光X線に対するスタディおよびノイズ対策などの技術的課題を解決する計画である。本高度化の進展により、外場変調に伴う化学状態変化がより高精度かつ迅速に計測可能となるため、これまで主に研究が行われてきた強相関系物理分野に加え、反応化学、地球科学分野への展開が期待される。なお、本高度化は、インハウス課題2012B1976および2013A1899において実施された。


図6 ローランドマウント方式の模式図。アナライザー結晶と検出器をローランド円に沿って動かすためには、アナライザー結晶は2軸、検出器は3軸の制御が必要となる。


図7 いくつかの発光X線エネルギー(アナライザー結晶の角度)に対する2次元検出器PILATUS上での集光X線位置の関係


図8 Yb2O3におけるYb Lα1線のXESスペクトル。入射エネルギーEi = 8.9380 keV(XANES pre-edge)


(3)ナノビーム走査型イメージング測定の開発

 実験ハッチⅡ(ナノビームステーション)では、KBミラーにより集光された最小100 nmのナノビームがユーザー利用に提供されている。これを用いて、100 nmからミクロンオーダーの単粒子試料やデバイス素子に対する顕微XAFS・XMCD測定が行われている[6]。また、各エネルギーにおいてナノビームを2次元走査しXAFS・XMCD計測することにより、2次元顕微化学状態イメージングや2次元顕微元素選磁気イメージングが行われている。ナノビーム走査型顕微分光イメージング測定の高度化のため、以下の開発を行った。


① 連続(on-the-fly)走査による高速XAFSイメージング法の開発

 従来、BL39XUの2次元走査型イメージング計測は、試料の位置をステップ走査する方法で行われていた。ステップ走査ではX線計測以外にカウンターの待機や位置調整ステージの動作等に1測定点あたり約1.5秒を要していた。50 × 50ピクセルのイメージングの場合、正味の計測時間以外に1時間あまりを費やしていたことになる。これを解決するため、連続(on-the-fly)走査による2次元イメージングシステムを2013年度に整備した。on-the-fly測定ではX線計測モジュールと試料位置調整ステージのエンコーダーとをトリガー同期させ、試料を連続に移動させながら測定を行うため、正味の計測時間以外のロスがほとんど生じない。これにより従来の1/3以下の測定時間で2次元顕微XAFSイメージング測定を行うことが可能となった。同時に、各エネルギー点で計測した高速2次元蛍光イメージング像から単粒子試料やデバイス素子の重心位置を求めることにより、ナノビーム照射位置のドリフトに対する補正が可能となった。これにより、長時間計測におけるナノビーム照射位置の安定性に関する問題が解決された。本高度化により、従来よりも短時間で高精度な100 nm顕微XAFSイメージングが可能となった。これにより、材料物質単粒子やデバイス単素子等、メゾスコピックオーダーの材料物質・デバイスの研究開発を行う分野での利用の拡大が期待される。なお、本高度化は、インハウス課題2013B1921において実施された。


② 磁場印加下でのXMCD磁気イメージング法の開発と安定化

 XMCD磁気イメージングにおいては、ステップ走査による測定ソフトウェアを開発し、運用を行っている。ステップ走査では、XMCD信号を取得する際に試料を目的の位置に停止させ、最初に右回り円偏光、次に左回り円偏光に対する計数を行う。その後、試料を隣のピクセル位置へと移動するというシーケンスを繰り返す。

 2012年度末に、強磁場下でのXMCD磁気イメージング測定のために専用の電磁石を導入した。KBミラー装置〜集光位置間の80 mm という短いワーキングディスタンスに適合するよう比較的小型でありながら、最大2.3 Tの磁場を試料に印加することができる。図9に電磁石の模式図を示す。上下流方向に非対称な構造を採用することで、KBミラー〜試料間の狭いスペースへの設置を可能としている。この電磁石を用いて、焼結磁石試料における試料磁化過程でのXMCD磁気イメージングが行われている[7]。XMCD磁気イメージングのスタディの結果、電磁石の通電に伴い、ナノビーム照射位置がドリフトすることが判明した。100 nm空間分解能で磁区観察を行うには、このドリフトの原因を究明し、改善することが必須である。そこで、まず、走査型XMCD磁気イメージング測定の温度安定性・長時間安定性に関する基礎的データを取得した。ナノビーム装置の主要部位(KBミラー本体、電磁石磁極、コイル、試料ホルダー等)における温度を熱電対で測定し、磁気イメージング像の位置ドリフトや像の歪みとの相関を調べた。その結果、図10に示すように、電磁石のコイルおよび磁極の温度上昇と画像のドリフトに相関が見られた。現在、電磁石通電時の温度上昇を抑制するための熱シールドを製作し、試験を行っている。加えて、装置各部の温度のモニター値から、試料位置をフィードバック制御することも検討している。

 また、XMCD磁気イメージングに対する連続スキャン法による高速化を検討中である。XMCD測定では、試料の同じ場所について左右の円偏光に対する蛍光強度をそれぞれ測定することが必要である。したがって、XAFSとは異なり連続スキャンの実現は単純ではない。左右の円偏光の信号を取得する間に試料位置が移動すると、XMCDに試料の位置微分の信号が乗ってしまうからである。これを解決するための方法として、1ラインごとに円偏光の切り替えを行うシーケンスを採用し、また得られた像の補間によって微分信号の重畳を避けることを検討している。本高度化の進展により、像に歪みがない迅速なXMCD磁気イメージング計測が実現される。これにより、高密度磁気記録媒体の評価や、焼結構造を有する永久磁石材料の組織・磁区観察等の利用研究が、より高い効率で安定に実施されることが期待される。なお、本高度化は、インハウス課題2012A1845および2013A1904において行われた。


図9 XMCD磁気イメージング測定専用電磁石の模式図(図中の単位はmm)


図10 電磁石通電時の走査型イメージング像の水平方向ドリフト(赤線、左軸)と電磁石各部の温度変動(青線・緑線、右軸)との相関。垂直方向ドリフト < 0.3 µm


(4)デバイス素子の時間分解顕微XAFS測定に向けた要素技術開発

 次世代記憶素子やパワートランジスタ等、サブミクロンオーダーのデバイス素子の時間分解顕微XAFS測定に向け、電気パルスを負荷しながら試料位置スキャンが出来るプローバー一体型試料ステージおよびX線チョッパーの開発を行った。デバイス素子の時間分解顕微測定の場合、高フラックス密度をもつナノビームの照射によって試料内に多数の電子正孔対が生じ、試料の電気特性に変化が生じる恐れがある。これを回避するには、測定に使用するシングルパルスX線以外のX線による照射を避けることが必要である。そこで、本測定の目的に最適化し、高繰り返し・高シングルパルス強度を得られるX線チョッパーを新規に開発した。本チョッパーはこれまでSPring-8で開発されたX線チョッパー[8]に比べ、最大サイズ(□400 µm)のX線をチョッピングすることが可能であり、最も高強度のシングルパルスX線を得ることができる。本チョッパーはSPring-8 H-mode(11/29-filling + 1 bunch)時に蓄積リング3周、もしくは12周に1回のシングルパルスX線を切り出すように設計され、試験運転による調整の結果、5桁以上の純度でのシングルバンチの切り出しで動作させることに成功した。このシングルパルス切り出し性能は多くの時間分解測定に対しては十分な性能を持っていると考えている。本チョッパーの活用により、時間分解測定のS/N比の格段の向上が期待される。これにより、デバイス素子の動作メカニズムの解明が進展し、得られた成果が新規デバイス素子の開発に活用されることが期待される。なお、本高度化は、インハウス課題2012B1987および2013A1901において行われた。


参考文献

[1] T. Irifune, et al., Nature 421 (2003) 806.

[2] N. Ishimatsu, et al., J. Synchrotron Rad. 19 (2012) 768.

[3] N. Kawamura, et al., J. Phys.: Conf. Ser. 568 (2014) 042015.

[4] H. Hayashi, et al., J. Electro. Spectrosc. Relat. Phenom. 136 (2004) 191.

[5] SPring-8・SACLA年報, 2012年度, pp.81-82.

[6] M. Suzuki, et al., J. Phys.: Conf. Ser. 430 (2013) 012017.

[7] M. Suzuki, et al., 58th Annual Conference on Magnetism and Magnetic Materials (MMM), Denver, Nov. 2013.

[8] SPring-8 Research Frontiers 2013, pp.129-130.



ⒸJASRI


(Received: August 30, 2014; Early edition: November 28, 2014; Accepted: January 16, 2015; Published: February 10, 2015)