Volume 20(2015)
1. 最近の研究から/FROM LATEST RESEARCH
[1]国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所 Institute of Space and Astronautical Science, Japan Aerospace Exploration Agency、[2]東京大学大学院 新領域創成科学研究科 Department of Advanced Material Science, The University of Tokyo
- Abstract
- 軽くて硬いという特徴を持つホウ素(B)は、採掘が容易なことから古くから人類に用いられてきた。ホウ素の性質について、これまでさまざまな研究が行われてきたが、ホウ素の溶融状態については、2,000℃を超える高い融点を持つことと、ホウ素の融体を保持する容器が存在しないことが障害となり、その性質はよく分かっていない。ホウ素融体の価電子の挙動を調べるために、容器を用いずに融体を保持する「静電浮遊溶解装置」をBL08Wへ設置し、ホウ素融体のコンプトン散乱測定を行った。第一原理計算を用いた解析の結果、ホウ素融体中の価電子の大半が共有結合的な性質を持つことが判明した。
[1]高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所 Institute of Materials Structure Science, High Energy Accelerator Research Organization、[2]Center for Free-Electron Laser Science, Deutsches Elektronen-Synchrotron
- Abstract
- X線自由電子レーザーSACLAのフェムト秒超短パルス性を最大限に活かすことにより、時間分解X線溶液散乱の手法を用いて、フェムト秒からピコ秒、ナノ秒オーダーに渡る幅広い時間領域で、溶液中で進行する化学反応中の分子構造のスナップショットを直接観測した。今後、基礎物理・化学分野での超高速時間分解測定に留まらず、光触媒反応の機構解明や人工光合成反応の高効率化など、様々な実時間計測のための研究手段として利用需要が大きく拡大してゆくであろう。
東京大学大学院 工学系研究科 Graduate School of Engineering, The University of Tokyo
- Abstract
- X線自由電子レーザー(XFEL)施設SACLAでは、4枚の集光ミラーを用いた2段集光システムにより、XFELの50 nm集光が可能である。世界で初めて、1020 W/cm2の高強度光子場を達成し、X線非線光学現象の観測に貢献している。本稿では、SPring-8 BL29XUでの集光ミラーの開発も含めながら、SACLAにおけるXFEL集光システムについて紹介する。
国立研究開発法人理化学研究所 放射光科学総合研究センター SACLA利用技術開拓グループ SACLA Science Research Group, RIKEN SPring-8 Center
- Abstract
- X線自由電子レーザーを用いた連続フェムト秒結晶構造解析は、これまで課題だったタンパク質試料の放射線損傷の問題を回避することができ、またナノメートル~マイクロメートルサイズのタンパク質微小結晶からの構造決定を可能にする。しかしながら、これまでタンパク質結晶を連続的にX線レーザーの照射ポイントに供給するには液状の試料を速い流速で吐出するため(液体ジェット法)、結果として大量の試料が必要であった。我々はX線自由電子レーザー施設SACLAを用い、タンパク質結晶を高粘度物質のグリースに混ぜることで低速で試料を押し出すサンプル供給法「グリースマトリックス法」の開発に成功した。本手法では、必要な試料が1 mg以下と従来の液体ジェット法の1/10~1/100程度であり、試料タンパク質が少量でも結晶構造を決定することができる。
[1]北海道大学 電子科学研究所 Research Institute for Electronic Science, Hokkaido University、[2](公財)高輝度光科学研究センター XFEL 利用研究推進室 XFEL Utilization Division, JASRI、[3]台湾中央研究院 物理研究所 Institute of Physics, Academia Sinica
- Abstract
- SACLAが発生する極めて短い発光時間のコヒーレントX線を利用して、生きた細胞を、放射線損傷なく、ナノイメージングすることに成功した。実験ではパルス状コヒーレントX線溶液散乱(PCXSS)法と名付けた独自構築したコヒーレントX線イメージング手法を用いた。PCXSS法では、溶液試料を独自開発したマイクロ液体封入アレイ(MLEA)チップ中に、環境を制御して保持する。SACLAを用いた生きた細胞のPCXSS測定により、高密度のDNAの存在を示唆する内部構造などが定量的にイメージングされた。PCXSS法は生物試料のみならず、溶液中で機能する物質材料のナノレベル観察にも極めて有効である。
Center for Structural Biology, School of Medicine and School of Life Sciences, Tsinghua University
- Abstract
Sugar transporters mediate sugar transport across biological membranes and have crucial roles in plants, worms and animals. They are essential for the maintenance of animal blood glucose level, plant nectar production and pollen development. Genes encoding sugar transporters have been identified, functionally expressed and studied in the past decades. At present, three classes of eukaryotic sugar transporters have been characterized, including the glucose transporters (GLUTs), sodium-glucose symporters (SGLTs), and bidirectional sugar transporter SWEETs. In humans, understanding of sugar transport has therapeutic importance. For example, GLUTs in human being can transport glucose across the plasma membrane, maintain blood glucose level and supply energy for cell survival and growth. In plants, these transporters are important for crop yield and pathogen invasion. SWEETs represent a novel sugar transport family that was first identified in plants. They contain seven transmembrane segments (TMs) and selectively transport monosaccharides such as glucose and fructose or disaccharides such as sucrose across plasma or intracellular membranes. Homologues of SWEETs were recently identified in bacteria. Each bacterial SWEET monomer consists of three TMs, similar to one three-helix bundle in the eukaryotic SWEETs. Therefore, they were named SemiSWEETs. Here we report the crystal structure of a SemiSWEET.
電気通信大学 レーザー新世代研究センター Institute for Laser Science, University of Electro-Communications
- Abstract
- X線自由電子レーザー(XFEL)施設SACLAによって、X線領域で初めて観測された吸収飽和現象について述べる。これは、SACLAの性能を最大限活かして得られた新しいX線レーザー科学としての成果である。また、そこに至る研究を述べることで、XFELへの期待がどのように確信に変わっていったかを紹介する。
東京大学大学院 工学系研究科 Graduate School of Engineering, The University of Tokyo
- Abstract
- 我々のグループは、有機配位子と金属イオンの自己組織化を活用した独自技術により、様々な構造や機能を有する球状金属錯体を合成してきた。これらの球状錯体分子の研究において、SPring-8を用いた単結晶X線構造解析は、分子の3次元構造を実験的に決定する唯一の現実的な手法であり、他の分光学的な解析手法では実現できない、明確な分子構造に基づく分子機能の評価、さらには分子設計へのフィードバックができる極めて効果的な研究手法である。先長期利用課題[1][1] 課題番号:2011B0039~2013A0039 (BL38B1), 2011B0042~2014A0042 (BL41XU)では、タンパク質分子を丸ごとカプセル化した球状錯体の合成を始めとする多くの成果を報告することに成功した。
ダイハツ工業株式会社 開発部 Research and Development Division, Daihatsu Motor Co., Ltd.
- Abstract
- 地球温暖化を抑制するために低炭素社会の実現が望まれている。二酸化炭素排出量の20%に相当する運輸部門においては、電気自動車(EV)や燃料電池車(FCV)などの普及により、二酸化炭素の排出を電力や燃料生産側に集中させることが有効な手段だと考えられる。ここでは我々が現在取り組んでいるFCV開発『CAFEプロジェクト』と、SPring-8のシンクロトロン放射光を活用した技術開発について紹介する。核となる技術は、貴金属を全く使わない電極触媒、新規アニオン交換膜、液体燃料・水加ヒドラジン(N2H4·H2O)から直接発電、の3つである。特に脱貴金属触媒の開発に対してはSPring-8のシンクロトロン放射光を用いたin-situ XAFSによる触媒の活性状態での微細結晶構造解析や、HAXPESを用いた触媒の化学状態解析を駆使して開発を加速してきた。この燃料電池は、貴金属を使わないことから低価格・省資源であり、液体燃料を用いるため扱いやすく、二酸化炭素を排出しない上にコンパクトで高出力であり、広く普及することが期待されている。特に水加ヒドラジンはポリエチレン容器で広く保管・流通しており、インフラの無い過疎地区でも使いやすい燃料電池車として、さらには生活電源や災害時の緊急発電用として一日も早く実現し、SPring-8の産業利用成果であるこの燃料電池が、人々の暮らしを支える技術として育っていくことを願う。
東京工業大学 地球生命研究所 Earth-Life Science Institute, Tokyo Institute of Technology
- Abstract
- 本研究では、地球マントルの代表的な物質であるパイロライトに対し、レーザー加熱式ダイヤモンドアンビルセルを用いた高圧高温実験を行い、大気圧室温下に急冷させた回収試料中の溶融痕跡をX線マイクロトモグラフィー法を用いて撮像することにより、マントル最下部圧力(136 GPa)までの融け始めの温度(ソリダス温度)を決定することに成功した。地球のマントル最下部は全球的には融けていないことから、マントルのソリダス温度はマントル最下部、さらにはその下に存在する地球外核の温度構造に上限を与える。地球外核は液体であることから、鉄合金として融点を大きく下げる効果を持つ水素が外核に大量に存在している可能性が示唆される。
大阪大学 基礎工学研究科附属極限科学センター Center for Science and Technology under Extreme Conditions, Graduate School of Engineering Science, Osaka University
- Abstract
- 超伝導を示す元素の超高圧・極低温の極限条件下における構造を明らかにすることを目的とした。これは2010~2013年度にかけて実施した研究(以下、NEXT研究)(日本学術振興会(JSPS)最先端・次世代研究開発支援プロジェクト:全元素の超伝導化)の実施に伴ったものである。物質の基本となる元素において、その究極の姿(超伝導性・結晶構造)を探求することにより、超伝導をはじめとした現象の普遍性や未知の可能性を見出し、物質科学の新しい魅力によって将来の科学技術の発展につなげることを目指した。
名古屋大学大学院 工学研究科 Graduate School of Engineering, Nagoya University
大阪府立大学大学院 理学系研究科 Graduate School of Science, Osaka Prefecture University
東京工業大学 地球生命研究所 Earth-Life Science Institute, Tokyo Institute of Technology
[1]名古屋大学 現象解析研究センター Center for Experimental Studies, Nagoya University、[2]名古屋大学大学院 理学研究科 Graduate School of Science, Nagoya University
2. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT
[1](公財)高輝度光科学研究センター 光源・光学系部門 Light Source and Optics Division, JASRI、[2](公財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門 Research & Utilization Division, JASRI、[3](公財)高輝度光科学研究センター タンパク質結晶解析推進室 Protein Crystal Analysis Division, JASRI、[4](公財)高輝度光科学研究センター XFEL利用研究推進室 XFEL Utilization Division, JASRI、[5]国立研究開発法人理化学研究所 放射光科学総合研究センター XFEL研究開発部門 XFEL Research and Development Division, RIKEN SPring-8 Center
(公財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門 Research & Utilization Division, JASRI
(公財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門 Research & Utilization Division, JASRI
(公財)高輝度光科学研究センター 産業利用推進室 Industrial Application Division, JASRI
(公財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門 Research & Utilization Division, JASRI
(公財)高輝度光科学研究センター 産業利用推進室 Industrial Application Division, JASRI
SPring-8ユーザー協同体(SPRUC)行事幹事/九州大学大学院 総合理工学研究院 Faculty of Engineering Sciences, Kyusyu University
(公財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門 Research & Utilization Division, JASRI
- Abstract
- 「ナノビーム回折・散乱計測基盤の開発」が平成26年度高度化研究開発案件として採択され、(独)理化学研究所(現在:国立研究開発法人理化学研究所)の予算でBL13XUに恒温実験ハッチ(第4実験ハッチ)を増設し、これまで第3実験ハッチで超高真空表面X線回折装置と併設されていた高分解能マイクロ回折装置を第4実験ハッチに移設した。また、高分解能マイクロ回折装置は改造を実施し、より安定的に100 nm程度のビームを利用できるようになった。本報告では、増設した第4実験ハッチと高分解能マイクロ回折装置の改造について概要を説明するとともに、最近の高分解能マイクロ回折装置の利用成果例についても報告する。
[1]国立研究開発法人理化学研究所 放射光科学総合研究センター ビームライン基盤研究部 Advanced Photon Technology Division, RIKEN SPring-8 Center、[2](公財)高輝度光科学研究センター 産業利用推進室 Industrial Application Division, JASRI、[3]国立研究開発法人理化学研究所 放射光科学総合研究センター XFEL 研究開発部門 XFEL Research and Development Division, RIKEN SPring-8 Center、[4](公財)高輝度光科学研究センター 制御・情報部門 Controls and Computing Division, JASRI
(公財)高輝度光科学研究センター 光源・光学系部門 Light Source and Optics Division, JASRI
SPring-8ユーザー協同体(SPRUC)研究会組織検討作業部会責任者/大阪大学 蛋白質研究所 Institute for Protein Research, Osaka University
東京大学 物性研究所 The Institute for Solid State Physics, The University of Tokyo
(公財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門 Research & Utilization Division, JASRI
(公財)高輝度光科学研究センター 制御・情報部門 Controls and Computing Division, JASRI
(公財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門(SPring-8/SACLA コンファレンス2014 実行委員長) Research & Utilization Division, JASRI
SPring-8萌芽的研究アワード審査委員会 委員長 Chair of The SPring-8 Budding Researchers Award Committee
3. SPring-8/SACLA通信/SPring-8/SACLA COMMUNICATIONS
SPring-8夏の学校実行委員会 委員長 SPring-8 Summer School Executive Committee, Chair
SPring-8利用研究課題審査委員会 委員長/高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所 Institute of Materials Structure Science, High Energy Accelerator Research Organization
SPring-8利用研究課題審査委員会 生命科学分科会主査/大阪大学 蛋白質研究所 Institute for Protein Research, Osaka University
SPring-8利用研究課題審査委員会 散乱・回折分科会主査/広島大学大学院 理学研究科 Graduate School of Science, Hiroshima University
SPring-8利用研究課題審査委員会 XAFS・蛍光分析分科会主査/北海道大学 触媒化学研究センター Catalysis Research Center, Hokkaido University
SPring-8利用研究課題審査委員会 分光分科会主査/広島大学大学院 理学研究科 Graduate School of Science, Hiroshima University
SPring-8利用研究課題審査委員会 産業利用分科会主査/(公財)佐賀県地域産業支援センター 九州シンクロトロン光研究センター Saga Prefectural Regional Industry Support Center, Kyushu Synchrotron Light Research Center
SPring-8利用研究課題審査委員会 スマートイノベーション分科会主査/大阪大学 大型教育研究プロジェクト支援室 Support Office for Large-Scale Education and Research Projects, Osaka University
SPring-8利用研究課題審査委員会 長期利用分科会主査/東京大学大学院 新領域創成科学研究科 Graduate School of Frontier Sciences, The University of Tokyo
SACLA利用研究課題審査委員会 委員長/東京大学大学院 新領域創成科学研究科 Graduate School of Frontier Sciences, The University of Tokyo
4. 告知板/ANNOUNCEMENTS
SPring-8ユーザー協同体(SPRUC)庶務幹事/東京大学 物性研究所 The Institute for Solid State Physics, The University of Tokyo