Volume 19(2014)
1. 最近の研究から/FROM LATEST RESEARCH
[1]NASA Johnson Space Center, [2]Research & Utilization Division, JASRI, [3]School of Science, The University of Tokyo, [4]Graduate School of Life Science, University of Hyogo, [5]Protein Crystal Analysis Division, JASRI, [6]Waseda Institute for Advanced Study
[1]岩手大学 工学部 Faculty of Engineering, Iwate University、[2](公財)高輝度光科学研究センター 産業利用推進室 Industrial Application Division, JASRI
- Abstract
- 有機電子デバイスの性能向上のために、有機半導体層の結晶性の向上が必要である。我々は、SPring-8のBL19B2に設置されているHuber社製多軸ゴニオメーターに搭載可能な有機薄膜作製用小型軽量真空蒸着装置を独自に開発し、ペンタセンやオリゴチオフェンなど代表的な有機半導体について、薄膜の形成過程を2次元すれすれ入射X線回折(Two dimensional grazing incidence X-ray diffraction:2D-GIXD)によって観察してきた。本報告では、我々の開発した装置の紹介と、有機半導体薄膜の形成過程のリアルタイム2D-GIXD観察結果、多結晶薄膜の2次元X線回折のデータから結晶構造解析さらに、2元蒸着によるpn有機半導体混合膜の形成過程の構造評価の結果を紹介する。
[1](独)理化学研究所 創発物性科学研究センター/JSTさきがけ Center for Emergent Matter Science, RIKEN、[2]広島大学大学院 工学研究科 Graduate School of Engineering, Hiroshima University、[3](独)理化学研究所 創発物性科学研究センター Center for Emergent Matter Science, RIKEN、[4](公財)高輝度光科学研究センター 産業利用推進室 Industrial Application Division, JASRI
- Abstract
- 有機薄膜太陽電池の高効率化に向けて半導体ポリマーを開発する上で、キャリア輸送性を決定する結晶・配向構造を制御することは、最も重要なポイントの1つである。我々は、チオフェンとチアゾロチアゾールを主鎖に有する半導体ポリマーにおいて、側鎖のアルキル基の長さと形状の組み合わせを変えることで、ポリマーの配向を制御できることを見出した。さらに、これらのポリマーを用いた太陽電池を作製したところ、特に活性層が厚いときに、顕著に配向性の影響が現れることが分かった。
[1]東海大学 工学部/大学院工学研究科/大学院総合理工学研究科 Department of Applied Biochemistry, Tokai University (Corresponding author) 、[2]東海大学 工学部 School of Engineering, Tokai University、[3](公財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門 Research & Utilization Division, JASRI
- Abstract
- Neuronal circuits are responsible for brain functions including verbal ability, reasoning, emotion, and decision-making. Neurons constitute neuronal circuits by building a three-dimensional network in brain tissue. The functional mechanisms of the human brain can therefore be revealed by unveiling the three-dimensional structure of human brain tissue. Here, we report on three-dimensional analysis of neuronal circuits of the human brain by synchrotron-radiation X-ray microtomography.
[1](公財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門 Research & Utilization Division, JASRI、[2]兵庫県立大学大学院 物質理学研究科 Graduate School of Material Science, University of Hyogo
- Abstract
- X線磁気コンプトン散乱強度がスピンモーメントに依存するという特徴を利用して、スピン磁気モーメントのみの磁気ヒステリシス直接測定法を確立した。通常の全磁化曲線を参照することにより軌道モーメントのみのヒステリシス曲線の取得も可能である。測定例として、SmAl2のスピン・軌道別の磁気ヒステリシス曲線、温度依存スピン磁化曲線を取得した。従来の磁気コンプトン散乱において必要であった反転した磁場下での散乱強度の差分ではなく、各点の散乱強度から直接スピン磁気モーメント値を取得しているため、初磁化曲線や、交換磁気異方性などにより磁気ヒステリシスが非対称となる磁化過程も測定が可能となった[1][1] M. Itou, A. Koizumi and Y. Sakurai: Appl. Phys. Lett. 102 (2013) 082403.。
京都大学大学院 人間・環境学研究科 Graduate School of Human and Environmental Studies, Kyoto University
- Abstract
- 結晶構造・電子構造変化をリアルタイムで観測可能な「時間分解X線吸収分光法」「時間分解X線回折法」をリチウムイオン電池動作環境で適用させ、高速充放電時における電極材料の相変化挙動解明を試みた。SPring-8の高輝度放射光は、充放電反応中の構造情報を連続的に取得することを可能にした。高速充放電可能な正極材料であるLiFePO4は、充放電反応中には熱力学的に安定な二つの相の間で反応することが知られている。高速充放電中の結晶構造を「時間分解X線回折法」により解析した結果、安定な二相に加え、中間の格子定数を有する中間相LixFePO4相が生成していることを初めて発見した。LixFePO4相の出現量は反応速度に比例し、定常状態では消滅することから、準安定な相であることが判明した。準安定なLixFePO4相は、高速反応時に生成し、二相の歪みを緩和することで、LiFePO4の高速充放電特性を発現していると考えられる。
[1]Department of Chemistry, University of Michigan, [2]Physics Department, University of Houston, [3]Research & Utilization Division, JASRI, [4]Department of Chemical and Biomolecular Engineering, University of Tennessee
- Abstract
- Water under nano-confinement is known to exhibit different properties from that of bulk water. Recent neutron scattering investigations showed that the proton momentum distribution is qualitatively different from that of the bulk water for water confined on a scale of 20 Å. Since the confining potential for the protons is due to the electrons, the electronic ground state of nano-confined water should also be anomalous. X-ray Compton scattering, which probes the ground state of a system, was utilized to understand the ground state configuration of the valence electrons of a particular nano-confined water system, Nafion, a proton exchange membrane (PEM) used in fuel cells. The results showed, for the first time, that the electrons are in a different quantum state from that of bulk water. This difference cannot be explained by empirical models based on weakly interacting molecules. The separation of elements of biological cells is about 20 Å, therefore we would expect the functioning of the cells to be determined by the properties of this nano-confined state.
京都大学 大学院工学研究科 Department of Materials, Science & Engineering, Kyoto University
- Abstract
- 「プラズモニック近接場光」を記録再生光源、「ナノドット相変化材料」をメモリ層とする次世代の高速・高密度光記録を目指して、相変化材料Ge10Sb90のナノドットアレイを作製し、そのレーザ誘起結晶化過程を観測した。ビームラインBL40XUのポンププローブ法による時分割X線回折(XRD)と反射率変化測定の結果、直径・高さ50 nmのGe10Sb90アモルファスナノドットは、300ピコ秒の近赤外レーザ照射に誘起されて結晶化し反射率増大を示すことが確認され、また、励起→結晶化の遅延時間は層構成の工夫により15~20 nsまで短縮された。これらの結果は、相変化ナノドットが、高密度・高速次世代光記録に適用可能なポテンシャルを有することを示す。
[1]Department of Chemistry, University of California - Davis, [2]Physical Biosciences Division, Lawrence Berkeley Laboratory, [3]Department of Biochemistry, Virginia Polytechnic Institute, [4]Max-Planck-Institut für Chemische Energiekonversion, [5]Department of Chemical Engineering, Stanford University, [6]School of Chemistry, University of East Anglia, [7]Research & Utilization Division, JASRI
2. ビームライン/BEAMLINES
Multi-mode X-ray Fluorescence Spectrometer and Forensic Science at BL05SS
[1]広島大学大学院 工学研究院 Graduate School of Engineering, Hiroshima University、[2](公財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門 Research & Utilization Division, JASRI、[3]高知大学 教育学部 Faculty of Education, Kochi University
- Abstract
- 加速器診断ビームラインであるBL05SSの実験ハッチに蛍光X線分析装置を設置し、その立ち上げと法科学利用に向けた基礎的な検討を進めてきた。アンジュレータからの6 keVから36 keV程度までの放射光をSi(111)2結晶モノクロメーターで分光した励起光を用い、MgからIまでのK殻励起による蛍光X線分析を行うことができる。オートサンプラーを用いた自動測定や蛍光X線によるイメージング測定などに対応しており、非集光のビームを用いる測定については2014Bから共用を始めた。蛍光X線分析の非破壊性を生かして、微物の異同識別への利用を想定しており、ガラス微物、単繊維への応用に向けた基礎検討が進められている。
(公財)高輝度光科学研究センター XFEL利用研究推進室 XFEL Utilization Division, JASRI
- Abstract
- X線自由電子レーザーは、フェムト秒のパルス幅を持つX線領域の超高輝度レーザー光源である。X線自由電子レーザー施設SACLAは2012年の供用開始以来、物理、化学、生物の様々な分野で利用研究の開拓が進められている。本稿ではSACLAにおけるX線吸収分光法の現状について紹介し、X線自由電子レーザーの短パルス性を活かした超高速ダイナミクスの研究への応用について述べる。
[1](公財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門 Research & Utilization Division, JASRI、[2](公財)高輝度光科学研究センター 光源・光学系部門 Light Source and Optics Division, JASRI
- Abstract
- BL25SUは、ツインヘリカルアンジュレーターを光源とする共用の円偏光軟X線ビームラインである。これまで固体物性分野を中心に成果を挙げてきた。今回、文部科学省・元素戦略プロジェクト(研究拠点形成型)<磁性材料研究拠点>において、軟X線ナノビームによる磁気解析が必須の利用とされたことをはじめ、より先端的な利用研究ニーズに応えるため、ナノビーム、および、マイクロビームの利用基盤を整備したので紹介する。改造後のビームラインは、ビーム径φ100 nm以下の集光ビームを利用するナノビームブランチと、ビーム径数μ~数100 μmを利用するマイクロビームブランチで構成される。各ブランチの利用は、前置鏡の切り替えによる排他選択方式となる。マイクロビームブランチは、光電子分光実験に対応するために旧ビームラインの分光特性(高いエネルギー分解能:E / ΔE > 10,000、エネルギー範囲、フラックス)を維持する。また、ナノビームブランチでは、明るいナノビームの利用を目的として、フラックスを重視した光学設計とした。2014B期以降は、従来の実験装置について総合的なパフォーマンスを向上させた形で継続するほか、パートナーユーザー(PU)等と協同で新設装置の開発を進めていく。
(独)理化学研究所 放射光科学総合研究センター XFEL研究開発部門 XFEL Research and Development Division, RIKEN
- Abstract
- XFELは波長可変性と横方向のコヒーレンスに加え、フェムト秒の短パルス性、100 GWレベルの高ピークパワーを兼ね備えており、超高速現象や反応過程を動的に精度よく観察するには最適なX線光源である。2色XFELでは、シケインを挟んでアンジュレータを2つのセクションに分割し、各セクションで異なる波長でレーザーを発振させ、2つのX線パルスを生成する。各セクションのK値を調整することで2波長とも可変であり、2パルス間の時間差はシケインで電子ビームを遅延させることにより高精度で調整することができる。同じ電子ビームから2つのパルスを生成するため、2パルス間の時間ジッターはほとんどなく、X線ポンプX線プローブ実験など2色XFELを用いた新しい実験手法の開拓が期待される。
(公財)高輝度光科学研究センター XFEL利用研究推進室 XFEL Utilization Division, JASRI
- Abstract
- X線自由電子レーザーは、大強度のフェムト秒X線レーザーパルスを発生できる新しい高輝度光源である。X線自由電子レーザー施設SACLAでは、供用開始から約2年間、物理、化学、生物、材料科学など様々な分野で利用研究の開拓が進められてきた。本稿では、SACLAにおけるコヒーレント回折イメージング解析とシリアルフェムト秒結晶構造解析の現状を紹介する。併せて、これらのSACLA利用実験のデータ収集および解析の共通基盤システムの現状を紹介する。
3. SACLA通信/SACLA COMMUNICATIONS
(独)理化学研究所 放射光科学総合研究センター XFEL 研究開発部門/先端光源開発研究部門 回折限界光源設計検討グループ XFEL Research and Development Division / Diffraction Limited Synchrotron Radiation Design Group, Innovative Light Sources Division, RIKEN SPring-8 Center
- Abstract
- 前回の記事[1][1] 田中均:SPring-8利用者情報 18 No.3 (2013) 223-225.では供用開始初年度(2013年3月まで)のSACLAの運転状況を紹介した。今回はSACLAのレーザー運転の現状を2013年4月から2014年7月までに実施されたレーザー性能の高度化に焦点を当てて報告する。
(公財)高輝度光科学研究センター 制御・情報部門 Controls and Computing Division, JASRI
SPring-8夏の学校実行委員会 委員長 SPring-8 Summer School Executive Committee, Chair
(独)理化学研究所 放射光科学総合研究センター ビームライン基盤研究部 Beamline Infrastructure Group, RIKEN SPring-8 Center
- Abstract
- X線非線形光学の研究の一環として、SACLAにてクリプトンの内殻2重イオン化とゲルマニウムでの2光子吸収の観測に成功した。これらの研究で得た経験と実際にSACLAを利用した体験について報告する。特に、集光システムを使った実験と光子計数のやり方について詳しく述べる。
(公財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門 Research & Utilization Division, JASRI
(公財)高輝度光科学研究センター 制御・情報部門 Controls and Computing Division, JASRI
SPring-8萌芽的研究アワード審査委員会 委員長 Chair of The SPring-8 Budding Researchers Award Committee
4. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT
[1](公財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門 Research & Utilization Division, JASRI、[2](公財)高輝度光科学研究センター タンパク質結晶解析推進室 Protein Crystal Analysis Division, JASRI
(公財)高輝度光科学研究センター 産業利用推進室 Industrial Application Division, JASRI
SPring-8ユーザー協同体(SPRUC)担当幹事/大阪府立大学大学院 理学系研究科 Graduate School of Science, Osaka Prefecture University
[1](公財)高輝度光科学研究センター 加速器部門 Accelerator Division, JASRI、[2](公財)高輝度光科学研究センター 光源・光学系部門 Light Source and Optics Division, JASRI、[3](公財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門 Research & Utilization Division, JASRI
- Abstract
- 2013年5月8日より、蓄積リングのユーザー運転用オプティクスが変更され、供給されるエックス線の輝度とフラックス密度が向上した。電子ビームの自然エミッタンス(=位相空間拡がり)は、以前の3.5 nm・rad(ナノ・メートル・ラジアン)から2.4 nm・radに低減され、標準的なビームラインで25 ~ 30%程度の輝度とフラックス密度の向上が確認されている。ここでは加速器運転と放射光利用の両方の観点から2.4 nm・radの低エミッタンス運転について紹介する。
(公財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門(SPring-8コンファレンス2014実行委員長) Research & Utilization Division, JASRI
[1]SPRUC拡大研究会・SPring-8利用ワークショップ 実行委員長/大阪大学 蛋白質研究所 Institute for Protein Research, Osaka University、[2]SPRUC拡大研究会・SPring-8利用ワークショップ 実行副委員長/(公財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門 Research & Utilization Division, JASRI
5. SPring-8通信/SPring-8 COMMUNICATIONS
(公財)高輝度光科学研究センター 制御・情報部門 Controls and Computing Division, JASRI
- Abstract
- 次世代SPring-8制御フレームワークMADOCA II(Message And Database Oriented Control Architecture II)の開発を行い、2014A期のユーザー運転から加速器・ビームライン制御系を、MADOCAからMADOCA IIに更新した。長年に渡るMADOCAによる制御系の運用、拡張を行っていく中で、新たに要望として出てきた可変長データの取り扱いや、Windowsのサポート等の機能をMADOCA IIに盛り込んでおり、LabVIEWにも対応した。今後は、実験制御・データ収集系への導入も進めていく。
SPring-8ユーザー協同体(SPRUC) 会長/九州大学 先導物質化学研究所 Institute for Materials Chemistry and Engineering, Kyushu University
SPring-8ユーザー協同体(SPRUC)庶務幹事/(独)理化学研究所 放射光科学総合研究センター RIKEN SPring-8 Center, RIKEN
6. 談話室・ユーザー便り/USER LOUNGE・LETTERS FROM SPring-8 USERS
[1](公財)高輝度光科学研究センター 常務理事 Managing Executive Director of JASRI、[2](公財)高輝度光科学研究センター 産業利用推進室 Industrial Application Division, JASRI