Volume 16, No.1
February issue 2011
1.最近の研究から/FROM LATEST RESEARCH
江崎グリコ(株) 健康科学研究所 Institute of Health Sciences, Ezaki Glico Co., Ltd.
- Abstract
- 歯の表面を覆うエナメル質はカルシウムを含む化合物であるハイドロキシアパタイト(HAp)結晶が規則正しく並んだ構造を形成し、丈夫な性質を維持している。しかし、食後に発生する酸でエナメル質表層下のHApは容易に溶け出し(脱灰)、初期むし歯(初期う蝕)を形成する。一方、リン酸化オリゴ糖カルシウムとそれを配合したガムは水溶性のカルシウムを唾液に供給する。これまでの研究から、リン酸化オリゴ糖カルシウム存在下では効率よくカルシウムの回復(再石灰化)が進むことがわかっていたが、回復したカルシウムがHAp結晶構造を正しく構成できるかどうかの詳細は不明確であった。われわれはSPring-8 BL40XUのマイクロX線を用いた回折法により、非破壊的にエナメル質表層の局所的な結晶量と配向性を調べる方法を確立した。そして実際に初期むし歯の再石灰化が起こった部分で、元の歯と同じ配向をもったHAp結晶が増加し、健全な状態に戻ったことを確認した。
[1]大阪大学大学院 工学研究科 Graduate School of Engineering, Osaka University、[2]大阪産業大学 工学部 School of Engineering, Osaka Sangyo University、[3](財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門 Research & Utilization Division, JASRI
- Abstract
- Cu、Ni、Fe合金は工学的に重要であるにも関わらず、比較的高い融点のため凝固・結晶成長、特にデンドライト成長のその場観察はなされてこなかった。本長期課題では、高融点金属材料の凝固・結晶成長その場観察のX線イメージング手法を開発し、凝固現象の解明に寄与できる実証データを得ることを目指した。空間分解能が数ミクロン、時間分解能(露光時間)が62.5 msの条件で、凝固過程の観察が可能になり、鉄鋼材料ではデンドライト形状の特徴、凝固過程における相変態などが明らかになった。
2.ビームライン/BEAMLINES
大阪大学 核物理研究センター Research Center for Nuclear Physics, Osaka University
- Abstract
- SPring-8の8 GeV蓄積電子ビームにレーザー光を正面衝突させて得られるレーザー電子光ビームのための新しいビームライン(LEPS2)の建設が始まった。従来のLEPSの10倍のビーム強度と大型検出器を備えたLEPS2でのハドロン物理研究に全国の原子核物理学研究者の期待が集まっている。本稿ではLEPS2ビームラインの特徴と新たに導入された様々な技術的な工夫、LEPS2で展開されるハドロン物理研究の概要を紹介する。
3.研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT
[1](独)科学技術振興機構/慶應義塾大学大学院 理工学研究科 JST/Graduate School of Science and Technology, Keio University、[2]東京工業大学大学院 理工学研究科 Graduate School of Science, Tokyo Institute of Technology、[3](独)物質・材料研究機構 半導体材料センター Advanced Electronic Materials Center, NIMS
[1](財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門 Research & Utilization Division, JASRI、[2](独)理化学研究所 播磨研究所 X線自由電子レーザー計画推進本部 XFEL Project Head Office, RIKEN、[3](財)高輝度光科学研究センター 加速器部門 Accelerator Division, JASRI
- Abstract
- 今年で供用開始13年目となるSPring-8では、今後数十年にわたって放射光科学の発展に資するために、2019年を目処に施設の大規模なアップグレードを計画しています。2007年4月にSPring-8高度化計画検討委員会にて議論が開始され、2008年10月にはワーキンググループが発足、それから約2年を掛けて次期計画の基本方針や具体的な方策が検討されてきました。このたび、2010年12月4日に行われた第2回SPring-8次期計画2019シンポジウムでは、これまで議論されてきた次期計画の基本的な枠組・目標、および具体的な実現方法が紹介されました。本稿では、この会議の概要を報告します。