Volume 26, No.2
Spring issue 2021
1. 最近の研究から/FROM LATEST RESEARCH
(公財)高輝度光科学研究センター 放射光利用研究基盤センター 産業利用・産学連携推進室 Industrial Application and Partnership Division, Center for Synchrotron Radiation Research, JASRI
- Abstract
- 有機薄膜トランジスタ(OTFT:Organic Thin-Film Transistor)は大気曝露することでデバイス特性の劣化が著しく進行することが知られている。従って大気曝露がOTFT動作時の電子状態に及ぼす効果を解明することは重要である。本研究では、OTFT作製、電気特性の評価および電圧印加硬X線光電子分光(HAXPES:Hard X-ray Photoelectron Spectroscopy)測定を大気非曝露で実施できるシステムを開発した。このシステムを用いて、大気曝露がOTFT動作中の電位分布形成に及ぼす効果を調べた。
(公財)高輝度光科学研究センター 放射光利用研究基盤センター タンパク質結晶解析推進室 Protein Crystal Analysis Division, Center for Synchrotron Radiation Research, JASRI
- Abstract
- X線結晶構造解析法は、タンパク質立体構造の解析手法として使われています。放射光ビームラインは高輝度なX線が利用でき、放射線損傷を低減するために100 K以下に凍結した結晶からの回折実験が広く利用されてきました。しかし近年、X線自由電子レーザーにより非凍結結晶からの無損傷での時分割実験が可能となり、放射光においても非凍結結晶からの構造解析の手法開発が進んでいます。我々は、SPring-8の高輝度X線を利用し、非凍結環境でタンパク質の構造多様性を解析する手法について開発を進めてきましたので、その成果を報告します。
[1]京都大学 化学研究所 Institute for Chemical Research, Kyoto University、[2]東北大学 多元物質科学研究所 Institute of Multidisciplinary Research for Advanced Materials, Tohoku University、[3]大阪大学 産業科学研究所 The Institute of Scientific and Industrial Research, Osaka University、[4]名古屋大学 大学院工学研究科 Graduate School of Engineering, Nagoya University、[5]名古屋工業大学 大学院工学研究科 Graduate School of Engineering, Nagoya Institute of Technology
- Abstract
- スピンと電荷の自由度を物質の多様な機能として活かすナノスピンデバイスの研究は、巨大磁気抵抗の発見とその磁気ヘッドへの応用に端を発し、不揮発性磁気メモリやマイクロ波発振器など多様な製品を産み出す学術基盤である。本研究計画では、磁気コンプトン解析(BL08W)、核共鳴散乱解析(BL09XU)、表面・界面X線回折(BL13XU)、オペランドナノ電子状態解析(BL25SU、BL39XU)、光電子分光(BL09XU、BL17SU、BL47XU)など多岐にわたるビームラインを活用し、先端放射光ツールを駆使して構造・電荷・スピンへの包括的な解析アプローチを行った。本研究課題で得られた、個別の研究では実現しえない情報の共有やノウハウの蓄積によるシナジー効果の創出は、「放射光による物質デザイン・ナノデバイス創成」という新分野と位置づけられ、サステナブル社会の実現に必要な新規高性能機能性材料およびデバイスの開発に資するものである。
東京大学 定量生命科学研究所 Institute for Quantitative Biosciences, The University of Tokyo
- Abstract
- イオンポンプ蛋白質の作動機構を原子構造に基づいて完全に理解することを目標に長期利用課題を遂行している。筋小胞体Ca2+ポンプに関しては、今や変異体の構造決定を行える段階にある。そこで、Ca2+イオン通路の細胞質側ゲートであるアミノ酸残基Glu309をGlnに置換した変異体のE2(Ca2+非存在下でCa2+に対し低親和性)状態の構造を決定した。この構造は、予想に反し、天然蛋白質とは著しく異なっていた。すなわち、Ca2+ポンプは酸素と窒素を区別する能力を持つことが示され、E2→E1(Ca2+に対し高親和性)遷移のメカニズムが明らかになるという予想外の進展をもたらした。
[1]仁荷大学 機械工学科 Department of Mechanical Engineering, Inha University、[2](国)産業技術総合研究所 省エネルギー研究部門 Research Institute for Energy Conservation, National Institute of Advanced Industrial Science and Technology、[3]神戸大学 大学院海事科学研究科 Graduate School of Maritime Sciences, Kobe University、[4]マツダ(株) MBD革新部 MBD Innovation Dept., Mazda Motor Corporation
- Abstract
- 本研究グループは、エンジン数値解析の高度化による低炭素・グリーン社会の早期実現に貢献することを目指し、これまで未知の領域であったノズル近傍流動の可視化を可能とするX線位相コントラスト画像装置をSPring-8のBL40XUに構築し、超高速燃料噴霧基部の微粒化過程とダイナミクス構造を解析してきた。しかし、ノズル出口および近傍流動の現象解明とモデル化に重要な物理因子の中、まだ計測・解析できていないものも多く存在しており、その代表的な例として、ノズル内部キャビテーション・液体体積分率、ノズル内部の流れおよび乱流構造、ノズル内部流特性によるノズル出口流動の不安定性を上げられる。本長期利用課題では、ノズル内部流とノズル出口の初期流動に関わる上述の物理因子を解析できる新たな計測技法を構築し、その結果を用いてノズル内部と出口の流動特性を相関させることを研究の主な狙いとしている。本研究報告では、2年間で行った長期利用課題の成果をまとめて紹介する。
東京大学 大学院理学系研究科 Graduate School of Science, The University of Tokyo
- Abstract
- ひたすら発展を続けてきた人類は、ここにきて地球環境・資源・食糧などの観点から、人間平等という原則を堅持しながら持続可能な社会を実現するという困難な課題に直面している。環境資源科学・地球科学において、試料中の元素から先端X線分光法により得られる原子分子レベルの分子地球化学的情報は、環境中での物質移行・元素サイクルを解明する上で最も基盤的な情報となる。この情報を各元素の化学的性質に基づいて系統的に解釈することは、ここで着目する試料についてだけでなく、様々な環境における元素の挙動の物理化学的予測につながるため、先端X線分光法で分子地球化学的情報を得ることの波及効果は極めて大きい。ここでは、高エネルギー領域でのマイクロ/ナノXRF-XAFS-XRD法、高エネルギー分解能を持つ波長分散型検出法や超伝導転移端検出器(TES)の応用、X線マイクロCTと分光法の複合利用などの先端X線分光法を発展させ、様々な研究対象に応用して得た持続可能な社会の確立に関わる大気化学、資源化学、環境化学(サステナブル科学)に関する研究成果を紹介する。
東京大学 大学院工学系研究科 School of Engineering, The University of Tokyo
- Abstract
- 我々のグループでは、金属イオン(M)と有機分子(L)の間における配位結合の形成に基づく、配位駆動自己集合によるナノ空間のデザインと機能創出を追求してきた。1990年、留め金状の金属錯体と棒状有機配位子の混合により、正方形型の大環状分子がひとりでに組み上がることを初めて報告して以来、様々な構造や性質の内部空間をもったケージ分子を開拓している。とりわけMnL2n型球状錯体の登場以後、その構成分子数の多さや内部空隙の巨大さから構造決定の要である単結晶X線構造解析に困難が伴い、放射光X線の利用が研究遂行に不可欠な要素となっている。近年も、自然界のタンパク質に匹敵するほどのサイズをもつ種々の中空錯体群の構造解析を構造生物学ビームラインの利用を通して進めており、機能創出に向けた取り組みと併せて報告する。
2. ビームライン/BEAMLINES
[1](公財)高輝度光科学研究センター 放射光利用研究基盤センター 産業利用・産学連携推進室 Industrial Application and Partnership Division, Center for Synchrotron Radiation Research, JASRI、[2](公財)高輝度光科学研究センター 情報処理推進室 Information-technology Promotion Division, JASRI
- Abstract
- XAFS標準試料データベースは、SPring-8 BL14B2にて測定した標準試料のXAFSスペクトルデータを測定条件、試料情報と共に系統的に整理して提供するデータベースである。XAFS標準試料データベース上のデータは一般公開されており、SPring-8所内外のパソコンのブラウザからダウンロードできる。データベースに登録されたXAFSスペクトルを活用することでXAFS測定やデータ解析の効率化が期待できる。現在までにXAFS標準試料データベースには、34元素、667試料のXAFSスペクトルデータを収録している(2021年3月26日現在)。XAFS標準試料データベースは、様々な実験データを実験条件などのメタデータを含めて管理蓄積できるSPring-8実験データ転送システムBENTENを利用している。
(公財)高輝度光科学研究センター 放射光利用研究基盤センター 分光推進室 Spectroscopy Division, Center for Synchrotron Radiation Research, JASRI
- Abstract
- 近年、機械学習の技術が急速に発展しており、その技術をサイエンス分野に適用する動きが活発化している。我々はこの技術を用いて、放射光計測データの解析法の高度化を精力的に行ってきた。本稿では、我々の成果である、1.ベイズ統合による異種計測X線分光のハミルトニアンパラメータ推定とその精度推定、2.ベイズ推定を用いた磁気コンプトン散乱測定における測定終了条件設定、の2例を紹介し、今後の展望を述べる。
3. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT
(公財)高輝度光科学研究センター 放射光利用研究基盤センター 散乱・イメージング推進室 Scattering and Imaging Division, Center for Synchrotron Radiation Research, JASRI
SPring-8ユーザー協同体(SPRUC)行事幹事/筑波大学 数理物質系 エネルギー物質科学研究センター Faculty of Pure and Applied Sciences, University of Tsukuba
(公財)高輝度光科学研究センター XFEL利用研究推進室 XFEL Utilization Division, JASRI
4. SPring-8/SACLA通信/SPring-8/SACLA COMMUNICATIONS
SPring-8利用研究課題審査委員会 委員長/関西学院大学 工学部 School of Engineering, Kwansei Gakuin University
SPring-8利用研究課題審査委員会 生命科学分科会主査/大阪大学 大学院薬学研究科 Graduate School of Pharmaceutical Sciences, Osaka University
SPring-8利用研究課題審査委員会 散乱・回折分科会主査/(一財)総合科学研究機構 中性子科学センター Neutron Science and Technology Center, CROSS
SPring-8利用研究課題審査委員会 XAFS・蛍光分析分科会主査/(株)日産アーク 解析プラットフォーム開発部 Analysis Platform Department, NISSAN ARC LTD.
SPring-8利用研究課題審査委員会 分光分科会主査/東京大学 物性研究所 Institute for Solid State Physics, University of Tokyo
SPring-8利用研究課題審査委員会 産業利用分科会主査/(公財)科学技術交流財団 あいちシンクロトロン光センター Aichi Synchrotron Radiation Center, Aichi Science and Technology Foundation
SPring-8利用研究課題審査委員会 人文・社会科学分科会主査/山陽学園大学/林原美術館 Sanyo Gakuen University / Hayashibara Museum of Art
SPring-8利用研究課題審査委員会 先進技術産業応用分科会主査/高エネルギー加速器研究機構 High Energy Accelerator Research Organization
SPring-8利用研究課題審査委員会 長期利用分科会主査/高エネルギー加速器研究機構 High Energy Accelerator Research Organization
SACLA利用研究課題審査委員会 委員長/大阪大学 蛋白質研究所 Institute for Protein Research, Osaka University
(公財)高輝度光科学研究センター 情報処理推進室 Information-technology Promotion Division, JASRI
5. 談話室・ユーザー便り/USER LOUNGE・LETTERS FROM USERS
SPring-8ユーザー協同体(SPRUC)会長/広島大学 大学院先進理工系科学研究科 Graduate School of Advanced Science and Engineering, Hiroshima University